湯灌(ゆかん)とは何か知っていますか?
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、誰かが亡くなったときには、考えなければいけないことです。
いざというとき正しい判断ができるよう、湯灌の意味や手順、費用相場などについて確認しておきましょう。
湯灌の意味は?
湯灌(ゆかん)とは、亡くなった人を入浴させ、体を洗って清める、納棺前に行う儀式のことです。
髪や体をお湯で洗った後、死装束を着せ、髭や顔をそり、死に化粧を施します。
戦前までは、親族がたらいにお湯をはって故人の体を拭き清めることを湯灌と呼んでおり、どの家庭でも行われていました。
現在では専門の業者が行うことがほとんどですが、親族が行う場合もあります。
湯灌は絶対に行わなければいけないというものではありません。
湯灌を行わないことも増えており、亡くなった人の体をアルコールで拭いて清める「清拭(せいしき)」と呼ばれる儀式が行われることも多くなっています。
病院で亡くなると、病院で体を洗浄したり、身なりを整えるエンゼルケアと呼ばれる死後処置をしてもらえるので、湯灌なしでも故人の体をきれいに保てるのです。
ぬるま湯によって遺体の腐敗が進行しやすくなってしまうことや、みんなの前で故人の裸をさらしたくないという理由で湯灌を行わないこともあります。
湯灌を行う理由はいくつかあります。
- 最後の癒しわたしたちは1日の終わりにお風呂に入っその日の汚れを洗い流し、疲れを癒します。
そうすることで気持ち良く眠りにつくことができますよね。
湯灌は、生前のこのような習慣を故人に反映させた儀式なのです。
人生を終えた故人を入浴させ、最後の癒しを与えます。
「お風呂が好きだったから」という理由で行われることもあります。 - 衛生上の理由人は亡くなったときから、徐々に体が腐敗し始めます。
放っておくと体液や血が漏れ出てきたり、皮膚の変色が起こったり、ガスによる臭いが発生したりします。
漏れた体液や血をきれいに洗い流し、夏はドライアイスで腐敗の進行を遅らせることで故人の体を衛生的に保ちます。 - 宗教上の理由湯灌によって現世での苦しみや痛みを洗い流し、来世生まれ変われるようにという願いが込められています。
また、湯灌の後に身なりを整えることで少しでも生前の姿に近づけ、故人の尊厳を守るという目的もあります。
湯灌を行う時期について特に決まりはありませんが、納棺前に行うのが一般的です。
入浴だけで終わりではなく、入浴後の着替えや化粧、納棺までが一連の流れとなっていることもあり、全部で1時間から1時間半前後かかります。
湯灌は、主に葬祭会館や自宅で行われます。
葬祭会館であれば湯灌専用の設備が整った部屋がある場合もあります。
専用の部屋がなくても、移動式の浴槽を持ち込んで行うことができます。
自宅でもある程度のスペースがあれば、移動式の浴槽を用いて湯灌を行うことができます。
自宅で湯灌を行う場合は、少しでも長く故人といっしょに過ごしたいという遺族の要望で、納棺前でなくても早い段階で行うことがあるようです。
費用は?
湯灌の費用は葬儀社や地域によって異なりますが、葬儀プランに含まれておらず、オプションとなることがほとんどです。
プランの費用とは別にお金がかかります。
湯灌の種類などによっても金額は変わりますが、簡易浴槽を自宅に持ち込む湯灌の場合は6万円から20万円前後が相場です。
体を拭いて清める清拭の場合は3万円から6万円前後が相場です。
決して安いとはいえない金額ですが、遺族の最後にきれいにしてあげたいという思いを叶え、故人らしい姿で送り出すことができます。
葬儀社によっては葬儀プランに湯灌が組み込まれていることもあります。
湯灌のみ、着替えと化粧のみなど組み合わせを選べることもあるので、いろいろな葬儀社を調べてみるといいかもしれません。
手順は?
湯灌の手順は葬儀社や遺族の希望によって変わることもありますが、おおよその流れを紹介します。
1.浴槽の準備葬儀式場で行うときは湯灌の設備がある場所へ移動し、自宅で行うときは専用の浴槽を持ってスタッフが訪問し準備します。
2.遺体のマッサージ体の硬直をとくために全身にマッサージを行い、顔の表情も整えます。
遺体の硬直の状況によって、関節を動かすためストレッチを行うこともあります。
3.遺体の移動浴槽まで移動する際は、タオルをかけて肌が見えないようにします。
4.口上これから湯灌を行うことを口頭で説明します。
5.お清め故人の足から胸にむかってお湯をかけ清めます。
これに遺族が参加する場合もあります。
お湯の温度は通常のお風呂よりややぬるめの、36℃~40℃前後に設定されています。
湯灌のときの温度調節には「逆さ水」と呼ばれる湯灌独自の作法があります。
普通お風呂の温度調節をするときはお湯に水を足しますよね。
湯灌のときは逆で、水にお湯を足して適温にするのです。
通常のお風呂と逆の方法で温度調節が行われることから、逆さ水と呼ばれています。
不幸なことが起こったときはいろいろなことを通常とは反対にすることが由来になり、逆さ水が行われているといわれています。
6.洗髪、顔のお手入れ体を洗った後は髪をシャンプーやリンスで洗い、ドライヤーで使って乾かし髪を整えます。顔を濡れた布などで拭き、髭や顔をそります。 顔を拭くのは遺族が行うこともあります。
7.身支度鼻・口・耳・肛門などに綿を詰め、新しい着物に着替えさせます。
死後長時間たつと体の硬直により着替えさせるのが難しくなるので、できるだけ湯灌やエンゼルケアのあとに着替えさせましょう。
着物は左前にし、ひもは縦結びにするのが一般的です。
宗教により異なることもあるので、確認しておきましょう。
女性には化粧をさせ、手足の爪を切ったり、まぶたが開いている場合は閉じさせます。
仏教の場合は、胸の上で両手を組ませます。
シーツを新しいものに交換し、故人の顔を白い布で覆います。
顔を白い布で覆うのは必ずやらなければいけないことではなく、遺族の意向で行わないこともあります。
湯灌のあとの身支度のときは、故人が生前愛用していたものを使用することもできます。
お気に入りだった洋服や着物を着せたり、故人が使っていた化粧品で化粧をさせることも可能です。
8.後片付け湯灌が終了したことを遺族に告げ、片付けをします。
湯灌で使用した水は、業者が湯灌を行った場合は業者が全て処理してくれます。
自宅で自分たちで行った場合は、洗面所などではなく床下や日陰に水を流しましょう。
逆さ水と同じように、通常と反対の方法をとります。
それによって現実と混同することなく、故人の死を受け入れていけると考えられているからです。
湯灌師とは?
湯灌師とは、文字通り湯灌を行う人のことです。
納棺の前に故人の体をきれいにし、送り出す準備をします。
お湯で洗ったり拭いたりして体を清め、故人の遺言や遺族の要望で生前気に入っていた服を着せたり、死化粧を施したりします。
湯灌師の資格というものはなく、葬儀会社に勤めているスタッフや湯灌専門の業者が湯灌を行います。
一般的には男女2人1組のスタッフで行います。
男性スタッフが髪を洗って髭や顔の産毛をそり、女性スタッフが体を洗います。
マナーは?
湯灌の立ち合いは普段着で大丈夫です。
喪服を着用するのは通夜のときからです。
多くの場合湯灌→納棺→通夜といういう流れになりますが、通夜の前に着替える時間がないのであれば、湯灌の前や納棺の前など時間があるときに喪服に着替えておきましょう。
湯灌に立ち会うのは基本的に遺族・親族のみです。
昔は地域住民が立ち会うこともありましたが、現在は専門の業者が仕切り、それに遺族・親族が立ち会うという形が多くなっています。
もし親族以外の人が湯灌の立ち合いを希望した場合は、断っても問題ありません。
基本的に立ち合いは親族だけということになっているので、断ったからといって失礼にあたることはありません。
辛くてどうしても見ていられないという方や、忙しくて湯灌の開始時刻に間に合わないという方もいるでしょう。
湯灌の立ち合いは強制ではありませんし、部屋の出入りは自由なので、途中参加や途中退出も問題ありません。
湯灌中の行動について特に決まりはなく、ところどころ見に行く方もいるようです。
湯灌は1時間から1時間半くらいかかるので、無理のないように立ち会いをしましょう。
子どもを立ち会わせるかどうか悩む方も多いと思います。
興味を示しているようであれば、参加させてみましょう。
ただし、湯灌のみの立ち合いがおすすめです。
鼻や口にピンセットを使って綿をつめる場面などは、あえて見せたり記憶に残す必要はないでしょう。
元気な生前の姿を覚えていれば、心に大きな衝撃を受けてしまうかもしれません。
生前お世話になったからといって子どもに立ち合いを強要したり、怖がっているのに無理に立ち合いをさせることは避けましょう。
まとめ
湯灌とは何か、費用や手順を紹介しました。
湯灌は故人を送り出すための準備をする、重要な儀式です。
葬儀会社はたくさんあるので、内容や費用などについてしっかり下調べをすることが大切です。
故人との別れは悲しいものですが、遺族にとっても納得のいくものになるよう送り出しましょう。