目上の人と行動するとき、誰でも戸惑うことがありますよね。
宴会の席や、乗り物に乗ったときなどに目上の人をどこに案内すればよいのか、自分はどこに着席したらよいのか、考えてしまうことがあると思います。
一口に席に案内するといっても、洋室の場合、和室の場合、バスに乗るとき、タクシーに乗るときなどさまざまな状況があります。
あらかじめどこに案内するかわかっていれば、気を使わずに済み心も軽くなるはずです。
どんな集まりであっても、席に案内するのは最初の一歩です。
ここでつまずいてしまったら、気分がよくありませんし、自分のエネルギーは、もっと別のことに使うべきです。
今回は、目上の人を席に案内するときに知っておくと便利な「上座」の意味や内容について、解説します。
「上座」の意味!「上座」は部屋のどこになる?
上座の意味は、目上の人が座る席です。
その部屋で最もよい場所に作る席で、最も年長の人、身分の高い人、お客様に座っていただきます。
上座の対義語は下座で、若輩の人、またはお客様をもてなす人が座る席を意味します。
和室洋室を問わず上座であることの共通点は、出入り口から最も離れた席であるということです。
反対に下座は出入り口に一番近い席です。
これはおもてなしをすることを考えると、理にかなっています。
おもてなしをする人は、お茶や料理を出すなどの雑用をこなさなくてはならないので、出入り口に近い方が動きやすいのです。
冷房や暖房で快適な室温にしていても、出入りに伴い、出入り口の付近は室温も変わってしまいます。
目上の人やお客様には、室温が安定していて、落ち着いて過ごせる席に座っていただくのも、おもてなしの一つです。
出入り口からの距離のほかにも、上座になる条件がいくつかあります。
和室の場合は床の間の近く、または仏壇の近くが上座です。
洋室の場合、ソファがある場合はソファが上座、ソファに一人掛けと二人掛けがあるなら、二人掛けの方が上座です。
お茶や料理を出すとき、または会議などで資料を配布する場合も、上座の人から配ります。
最後に部屋を出ていくときも、上座の人が先です。
料理などを出し終えると、気が緩んでしまいがちですが、上座に座っていただいた人に、最後まで失礼がないように気を付けましょう。
それではなぜ床の間や仏壇の近くが上座になるのでしょうか。
床の間に仏壇のそば、上座になるには理由がある!
床の間は、日本家屋の座敷に作られた、掛け軸や花を飾るための空間です。
元々身分の高い人を客として迎えるときに、床の間を飾り、もてなしたそうです。
だから現代でも、もし床の間があるなら、お客様にはその近くに座っていただきましょう。
そのときには絵画や書、生花などで床の間を飾るのを忘れないようにしてください。
床の間の飾りはおもてなしの心の表れですから、精一杯の飾りをお客様にお見せしてください。
飾ってあるものから、話の糸口が見つかるかもしれませんよ。
仏壇はそもそも家の中で一番の上座に置くものです。
だから仏壇が部屋にあるときは、仏壇のそばが上座です。
お客様には、仏様に準じる席に座っていただきましょう。
ソファに座っていただくのは、広々として掛け心地のよい方に座り、くつろいでいただこうという思いやりだと思われます。
また洋室で暖炉がある場合、暖炉から離れるほど席の格も下がるそうです。
これも少しでもお客様に暖かく快適に過ごして欲しいという、思いやりでしょう。
自分よりも年長の人や、お客様に少しでもくつろいでいただきたい、という気持ちがあれば上座の場所はとても納得できるものではないでしょうか。
上座はここ、という決まりにとらわれるよりも、部屋の中に快適な場所があるなら、迷わずそこを上座にして、お客様に座っていただきましょう。
たとえば我が家の窓からは絶景が見える、という場合は窓がよく見える場所が最適です。
そのときは、ここからですと一番庭がキレイに見えますので、などと理由をはっきりと伝えてください。
意図もわからないまま、下座に案内されたと感じたら、お客様(特に目上の人)は気分を害してしまうかもしれません。
乗り物の中にも上座はある!安全と体調にも配慮が必要!
乗り物も基本は部屋の中と同じで、出入り口から遠い席が上座となります。
どの席も出入り口から近い、乗用車やタクシーでは後部座席、運転手の後ろの席が上座です。
これは安全面からも、お客様に乗っていただくのに最適な席でしょう。
ただしこれは日本独自の習慣だそうです。
国際的には一番の上座は助手席の後ろです。
外国からのお客様を案内するときは、注意してください。
ちなみに乗用車の一番の下座は、運転席です。
おもてなしする人は、運転まで積極的にこなさなくてはならないとは、中々厳しいですね。
乗り物では、その人の好みや体調によって座りたい席も変わります。
乗り物酔いをする人は、後部座席よりも助手席がよい場合がありますし、列車や飛行機などは、トイレに行く都合から通路側がよい場合もあります。
景色が見える方がよいに違いないと決めつけずに、本人に希望を聞くことも大切です。
意外!上座と下座ができた由来とは?
上座と下座の習慣は、古くからありました。
昔から左は上座で、右は下座と考えられていました。
お内裏様とお雛様を並べるときが、よい例ですが、左側が上座というのは、安全管理の意味もありました。
人間は左に心臓があり、利き手は右のことが多いです。
誰かの隣に座るとき、右に座ってしまうと相手が自分の心臓を攻撃しやすくなります。
目上の人を左に座らせるのは、少しでもリスクを回避する方法だったのです。
武士が登場して、刀を体の左側にさすようになり、席に着くときは左側に刀を置くようになりました。
左側を攻撃するのは、余計むずかしくなったのです。
江戸時代に信頼できる人が集まるときは、出入り口の影響を受けずにくつろげる奥の席を上座としましたが、さまざまな人が集まる場所(つまり安全性が今ひとつ不確かである場所)では、左側が上座でした。
ときと場合によって上座は使い分けられていたのです。
明治に入って、誰も武器を持ち歩かなくなったために、部屋の奥が上座として定着したのです。
上座と下座は、実はとても緊迫した由来を持っていたのです。
便利なだけじゃない!下座に座ると、人は成長する?
上座下座は日本独自の作法ですが、外国でもお客様を招いたら、よい席に座ってもらうと考えています。
この思いは万国共通のようです。
大体座席を決めるときに、色々と思い悩むより、年齢や役職の順番で、自動的に座席を割り振ることができる、上座という考え方はとても便利です。
例えば会社で宴会をするとき、店の人とのやり取りを上役にやってもらいたい人はいないでしょう。
もしそんなことがあれば、若輩の社員たちは落ち着かない気持ちになり、かえって居心地が悪くなってしまうはずです。
目上の人には先に上座に座っていただいて、自分たちで雑用を引き受けたほうがよほど気持ちがよいに違いありません。
上座や下座にこだわらずに席を決めるとすると、今度はこの人とあの人は顔見知りだからとか、仲良くないからだとか、別のことを気にする羽目に陥ることがあります。
挙句の果てにこの席次は失礼だ、などとお叱りを受けることもあるのです。
最初から上座と下座を踏まえて席を決めておけば、おもてなしをする側の人は、きちんとしきたり通りにやりました、と胸を張っていられます。
それなのに上座下座については、概ね評判がよくありません。
面倒くさい、意味がない、くだらないなどの評価を受けているようですが、文句をいう前に、目上の人には上座をお勧めしてください。
大切にされて嫌な気分になる人はいないでしょうし、集まりでも会議でもその後がスムーズに進むこと間違いなしです。
また、下座に座って雑用をこなすことは、人生の修行になるように思います。
お坊さんの修行の一つに、下座行(この場合はげざぎょうと読みます)というのがあります。
高慢な気持ちをなくすために、あえて自分を一段低い位置において、人がやりたがらない作業に励むのが下座行です。
どんなに低く見られても、心を動かさずに淡々と作業ができるようになるまで修行は続くそうです。
下座に座って雑用をこなすことは、まさしく下座行だと感じられます。
人生の先輩方のために、敬意を持って雑用に甘んじることは、決してその人にとって無駄にはならないでしょう。
他人のために心をくだいた経験がある人は、きっと素晴らしい人生の先輩になれるはずです。
まとめ
今回は上座の意味と、上座とはどんなものなのかについて解説しました。
面倒だと嫌われることも多い上座ですが、 席次を決める手間が省け、みなが丸くおさまり、上手く利用するなら、こんなに便利な考え方はありません。
今よりもずっと日本人が緊張感を持って暮らしていた頃から、現代まで引き継がれている、上座についての考えをこれから先も引き継いていきたいものですね。
昔ながらの事について、面倒だと思っていても、まずは実践してみてください。
きっと昔の人の知恵に感心することが見つかるでしょう。