死装束というものをご存じでしょうか?
よく、着物の着方を間違っていて「それじゃ死人の着方だよ!」と注意される人もいます。
着物の着方を間違えると、それだけで恥ずかしいですが、なぜ死者と同じだと言われてしまうのでしょうか?反対の着方ではダメなのでしょうか?
ここでは、知っておきたい死装束の意味や、着せ方について詳しくご紹介します。
死装束とは?
故人に着せる衣装のことをいいます。
死装束というのは日本での呼び名です。
死者に服を着せることは世界中で当たり前に行われていて、各地で呼び名も着せる服も異なります。
また、時代や歴史、宗教や文化などでも死装束のスタイルは異なります。
遺体に布を巻くだけの地域や宗派も存在しますが、それは死装束とはまた異なるものと考えられています。
死装束は、かつて切腹する際の衣装を指す名前でもありました。
白色を基調としていたため、白装束とも呼ばれていました。
しかし、白装束には赤ちゃんのお包みや花嫁衣裳など、めでたい出来事に使う白いの衣装を指す意味もあり、死装束=白装束ではないので、その解釈には注意が必要です。
日本では、臨終が告げられた故人を納棺するまでに死装束が施されます。
遺体の死後硬直が始まるまでに着替えさせなくてはならないためです。
死装束の衣装は仏式の巡礼者や修行僧の衣装が元となっています。
仏式の葬儀では、死者が浄土への旅に出るという考えや、死者は善光寺巡りをするという考えがあり、その考えの下に用意されたものです。
浄土真宗では、人が亡くなるとすぐに極楽浄土へ導かれ成仏をするとされ、死出の旅には出ないとされています。
そのため、浄土真宗では死装束を施しません。
死装束の読み方は?
死装束は「しにしょうぞく」と読みます。
死に装束と表わすこともありますし、単に経帷子(きょうかたびら)と呼ばれることもあります。
昔は故人の親族が死装束をあつらえ準備をしていましたが、現在では葬儀社が用意してくれることが増えました。
また、近年では、故人のために仕立てた死装束ではなく、故人愛用の洋服や浴衣を着せ、死装束は棺内に入れたり遺体に掛けるだけというスタイルを取ることが増えてきました。
仏式の死装束で身に付けるものは?
浄土真宗を除く我が国の仏教徒が身に付ける死装束は、以下のものが一般的です。
・経帷子(きょうかたびら)、帯白地の帷子(裏のない着物)に経文や真言などを記したもので、昔は親族の女性が手作りをしていました。
現在は、葬儀社が用意をした白地の経帷子を使用するケースが多いものです。
経帷子を着用させる時は左前になるようにします。
左→右の順で着物を合わせます。
・宝冠(ほうかん)額に付ける三角形の布のことです。
四半(しはん)や紙宝(しほう)、烏帽子などとも呼ばれます。
これを身に付ける理由は、故人の滅罪を願う説、近親者の魔除け説、閻魔大王にお会いする際の正装説など諸説あります。
由来に関しても、大日如来の五智の宝冠を模したもの、山伏の宝冠など諸説あります。
・頭陀袋(ずだぶくろ)と六文銭頭陀袋は白色のものを使います。
元々は修行僧の托鉢に使用するものでした。
紐が付いているため、首から下げて中に六文銭を入れます。
六文銭は三途の川の渡し賃として持たせるようにしていますが、紙に印刷をしたものを使用しています。
・木の杖、手甲(てっこう)、脚袢(きゃはん)、草履、編み笠、数珠、白足袋手甲、脚袢、草履は、左右逆もしくは裏返しにして着用させます。
手には数珠を持たせます。
死装束は右前?左前?
死装束は左前で着せるのが基本です。
着物の合わせ方は、間違えて覚えている人が多いため、注意が必要です。
この右前、左前の「前」とは、実は先に重ねるという意味があります。
着た時に見えている方の名称ではないため、気を付けなくてはなりません。
そのため、右→左の順で重ねるのが右前、左→右の順で重ねるのが左前になります。
日本では、奈良時代の頃までは着物の合わせを自由にしていました、しかし、ある時朝廷から「中国に倣い、着物の衿合わせは右→左の順にする」と、合わせ方を統一せよとのお達しが出たのです。
このお達しを衣服令(えぶくりょう)といいます。
そこから、着物や浴衣の合わせは右前が基本となりました。
生きているうちは、男女ともに右前で着るようにしましょう。
普段の着物を右前にしたことで、右利きの多い日本人は、懐に仕舞った物が出し入れしやすくなるという利点が生まれました。
そのため、「懐に右手を入れやすいように着る」と覚えておくと良いでしょう。
なぜ死装束は左前なの?
では、なぜ死装束は左前で着せなくてはならないのでしょうか?
日本では、葬儀や死者に関わることは、普段の逆さま、反対にするという風習が根付いています。
例えば、逆さ水、逆さ屏風、逆さ布団などもそうです。
そのため、着物の合わせも普段とは反対の左前になったのです。
また、中国の貴族は着物を左前に着ていたといわれています。
庶民は位の高い人の真似をしてはならないという理由から、着物を右前で着ていました。
しかし、亡くなった時には身分の階級関係なく、貴族と同じ左前で着させてあげようという考えがあり、死装束が左前になったのだともいわれています。
お釈迦様の入滅際に、左前の着方をしていたという話もあります。
尚、左前という言葉には、家運が傾いて破産に追い込まれるという意味があり、縁起が良くない言葉としても有名です。
死装束は帯の結び方も異なる
死装束を着せる場合は、帯の結び方にも注意が必要です。
死装束の帯の結び方はかた結びと縦結びが基本です。
着物の紐を縛る場合に、かた結びをし、蝶結びが縦向きになるように結びます。
結んだ根元の紐と、結んだ輪が垂直になるようにします。
通常の結び方での蝶結びは、解いて何度も結び直すことが可能です。
何度あっても困らない御祝い事では蝶結びを用います。
しかし、葬儀は何度も起こることを望まれないものです。
そのため、解けにくいかた結びをし、通常はしない縦結びをするのです。
普段の生活で、意図せずに縦結びをしてしまう人がいますが、意味を知ると縁起が良くないものだと感じるかも知れません。
そのため、縦結びを直すように指摘をする人も多いのです。
経帷子の作り方
仏教の死装束である経帷子は、独自の作り方があります。
糸にはわざと結び目を付けない、玉留めをしない、引っ張り合いながら縫う、1人だけでは作らない、返し針はしない、しつけを付けない、などさまざまな風習があります。
今でも、できるだけこれらの決まりは守られて作られています。
経帷子を早めに用意すると長生きできるというジンクスもありますので、元気なうちに自分のサイズで用意する人もいます。
神道やキリスト教に死装束はあるの?
キリスト教では、特定の死装束というものは使用されません。
納棺される際の服装は自由で、死化粧を施し、聖書やロザリオ・十字架を持たせたりします。
神道でも、故人のために特別仕立てる死装束はありません。
しかし神道では、神主のような白い衣装は用意されることがあります。
これは、白の小袖(こそで)もしくは狩衣(かりぎぬ)で、着せるとまるで神職のような格好になります。
手には笏(しゃく)を持ち、足には白足袋を履かせます。
自分の好きな着物を身に付けて逝く
死装束の代わりに、生前自分が愛用していた着物などを着せてもらうという人も増えています。
自分に似合う色柄の着物や、真新しい寝間着、愛用していた洋服を着せて見送ってもらいたいという のは、特に美意識の高い女性に多い傾向にあります。
近年では、自分の思い通りの葬儀を叶えてくれる葬儀社も増え、故人の残したエンディングノートに沿う形で進めることができます。
どうしてもこの服で・・・という希望があれば、遺族に分かるように書き記しておくと良いでしょう。
さまざまな死装束
世界の国々では、死装束というものを改めて故人のために用意している所は少ないものです。
しかし、実にさまざまな服を着せて見送っているのも事実です。
例えば、アメリカの軍人の場合、その軍服を着せることがあります。
また、制服のある職業の場合は、その制服を着せることがあります。
ヒンズー教の場合は、故人の国籍の伝統的衣装を着せるのが一般的です。
中には、ウェディングドレスやドレスを着て見送られる人も居ます。
基本的には本人や遺族が希望する服を着せられるのです。
これからは日本でも、風習やしきたりにはこだわらず、自由な死装束での見送りが増えるかもしれません。
まとめ
死装束は、仏教での葬儀の際に故人に身に付けさせる独自の着物のことを指します。
仏教では基本的に死装束を着るのですが、それは故人が冥土の旅に出ると信じられているからです。
そのため、死後すぐに極楽浄土へ召されると考える浄土真宗では、死装束は着せていません。
死装束の着せ方は、通常とは逆にするのが基本です。
これは、逆さ事(さかさごと)という考え方で、あの世はこの世の反対だから反対の合わせ方で着せて、裏返しのものを履かせるのです。
洋服ではボタン合わせが男女で逆になっていますが、着物や死装束は男女共通の着方です。
間違いのないように覚えておくと安心です。