日本人にとって馴染み深い魚、鰤(ぶり)。
スーパーでも並び、食卓でも日常的に見かける魚ですね。
よく知っていると思いきや、実は鰤には秘密がたくさんあることをご存知でしょうか?
今回は鰤と日本人との深い関係性や出生魚としての実態など、あまり知られていない鰤の一面について紹介してまいります。
鰤は出世魚!地域ごとに読み方の違いも!?
鰤は出生魚であるということは広く知られていることと思います。
成長するにつれ名前が変わっていくことから、人が出世することになぞらえてそうよばれています。
また、このことから縁起物としても有名ですね。
鰤の名前が変化することは全国的なことですが、実は地域差があることをご存知でしたか?
特徴的な名前に変化していくので、中々面白いと思いますよ。
分け方の種類も地域差があることが分かります。
●関東地域での出世の仕方
モジャコ(稚魚)→ワカシ(35cm以下)→イナダ(35~60cm)→ワラサ(60~80cm)→鰤(80cm以上)
●関西地域での出世の仕方
モジャコ(稚魚)→ワカナ(20cm以下)→ツバス、ヤズ(20~40cm)→ハマチ(40~60cm)→メジロ(60~80cm)→鰤(80cm以上)
●北陸地方での出世の仕方
ツバス(稚魚)→コズクラ(20~30cm)→ハマチ(30~40cm)→フクラギ(40~60cm)→ガンド(60~70cm)→鰤(70cm以上)
●四国での出世の仕方
モジャコ(稚魚)→ツバス(20~40cm)→ハマチ(40~60cm)→メジロ(60~70cm)→オオイオ(70~80cm)→鰤(80cm以上)
●九州での出世の仕方
ヤズ(稚魚)→ハマチ(20~40cm)→メジロ(40~60cm)→鰤(60cm以上)
比べてみると、同じよび方でも地域によって大きさが異なっていることがみえてきますね。
お住まいの地域と他の地域での鰤の考え方は違っているので、旅行に行った際など生鮮売り場を除いてみると面白いかもしれませんよ。
また現在では養殖も盛んな鰤。
地域差の他、天然物と区別するために養殖ものは鰤ではなくハマチとよぶことがあるそうです。
鰤は今では天然ものか否かでも違いがある、ややこしい出世をしているんですね。
いつでも食べれそう…いつが一番旬なの?
地域差はありますが、出世の中で聞いたことのある名前はいくつか出てきましたよね。
ハマチやメジロなんかはスーパーでも目にしたことがあるのではないでしょうか。
成長する過程でも美味しくいただけそうな鰤ですが、ではいつが一番の旬といえるのでしょう。
●鰤が美味しいのはやっぱり冬!
鰤を食べるなら、やはり「寒ブリ」とよばれるシーズンでしょう。
鰤は稚魚の頃から北海道近辺に向かっていき、成長して11月頃に日本海側から南下してきます。
11月頃~1月にかけて獲れる鰤を寒ブリとよび、この時期は一番栄養を蓄えていて、脂がのり身がしまっていてとても美味しいのです。
おせち料理に鰤が入ることもありますが、出世魚という縁起物であるうえに最高のお味が楽しめる、一石二鳥の一品になっているんですね。
●鰤になる前の美味しさは異なる!?
もちろん成長ごとに名前がつくくらいですから、鰤は出世していく中でもそれぞれ美味しく食べられるお魚です。
脂がない分焼いたりするのには不向きですが、若い内には逆に淡白でぷりっとした食感があり、お刺身として楽しむことができます。
徐々に脂のリが良くなっていく魚ですから、「鰤が嫌い」と思われていた方でも、出世中の段階でより好みに近いお味があるかもしれませんね。
縁起を担ぐだけじゃない!実は栄養も満点!
美味しくて縁起を担いでくれるうえに、鰤はさらに栄養面でも我々に嬉しい効果をもたらしてくれるんです。
「脂がのっているのに健康に良いの?」と疑問をもたれるかもしれませんが、こちらを読んだら罪悪感なくたくさん食べられちゃいますよ。
●鰤の脂は健康に良い!?
不飽和脂肪酸についてご存知でしょうか。
脂質に含まれるのですが、コレステロールや中性脂肪を調整をしてくれる働きがあります。
この不飽和脂肪酸の一種、DHA(ドコサヘキサエン)とEPA(エイコサペンタエン酸)が、鰤には豊富に含まれているのです。
DHAは記憶力向上やアルツハイマー病予防にも効果的とされていて、EPAは血中の善玉コレステロールを増やし、脳卒中・動脈硬化など、コレステロールが原因の病気を予防してくれます。
鰤の脂は逆に健康に良いともいえますね。
●その他摂りたい栄養がたくさん!
不飽和脂肪酸の他にも、鰤には我々にとって嬉しい栄養素がたくさん含まれています。
例えば二日酔いにも効果的とされているナイアシン、貧血や肝機能をUPさせるタウリン、骨粗しょう症予防効果があるビタミンDなどなど。
お酒を呑む機会が増える冬にもぴったりな栄養も豊富です。
健康にも良く美味しいなんて、まさに鰤は万能薬ならぬ万能魚といっていいでしょう。
もちろん食べ過ぎは何でもよくありませんから、いくら栄養豊富で美味しくとも鰤ばかり食べないように気をつけてくださいね。
お歳暮に贈る習慣がある地域が!?
日本各地にはお歳暮に鰤を丸々一尾贈る習慣があります。
読んて字のごとく「鰤歳暮」といわれる風習で、これは出世魚ならではの役割を担ったものになります。
石川県や富山県では、両親が娘の嫁ぎ先に「出生しますように」という願いを込めて鰤をお歳暮にするようです。
贈られた嫁ぎ先のお家では、鰤が届いてからそれを三枚おろしにし、半身をお嫁さんの実家にお返しすることが礼儀とされています。
ここにも鰤がからんでいて、「嫁ぶり(鰤)がいい」というところからきているとのことです。
北九州でも同じようにお歳暮に鰤を贈るそうですが、こちらは少しやり方が違っていて、半身をお返しするようなことはないみたいです。
また嫁ぎ先の娘に対してだけでなく、婚姻関係がある家どうしで贈るので、「嫁ぶり、婿ぶり(鰤)がいい」という意味が込められているんですよ。
もしご結婚した方のご実家から鰤が贈られてきたら驚かれると思いますが、縁起を担いだ習慣であるのでご安心くださいね。
またお返しする際は通常の贈り物で問題ありませんよ。
現在も残っている習慣のようで、鰤と日本人との関係の深さがうかがえますね。
●鰤を一尾もらった際、保存はどうすれば?
昔であれば塩漬けにしたりご近所さんにお裾分けしたりもできたでしょう。
しかし今ではそういった方法で消化していくのが難しかったりしますね。
一尾丸々鰤をもらった際は、冷凍保存がお勧めですよ。
通常冷蔵庫では2~3日ほどしかもちませんが、冷凍保存すると3週間ほど日持ちします。
冷凍する際は切り身にし、水気を切ってラップで個包装にし、密封パックに入れておくと良いでしょう。
冷凍の際にタレに漬けた状態にしておくと、冷凍中に味が染みてより美味しく食べられます。
調理の際は自然解凍や氷水解凍で解凍するようにしてくださいね。
その他鰤が関係するところは日本各地に!
鰤歳暮以外にも、実は日本各地に鰤にまつわるものが存在します。
特に富山県や長野県には関係深い食材であったことがうかがえますよ。
●鰤街道
江戸時代から第二次世界大戦までの間、富山県と長野県とを結ぶ「鰤街道」とよばれる道が大活躍していました。
富山県で獲れた鰤を塩漬けにし、4日かけて飛騨高山まで、さらにそこから8日かけて松本まで運ばれていきました。
冬の時期に運ばれるので、人の足で山道を行くしかなく、歩荷(ぽっか、ぼっか)という鰤専門の運搬業者が鰤街道を歩いて運んでいたそうです。
流石出生魚だけあって、運ぶ際も名前が変わっていたそうです。
富山から飛騨高山までは「越中鰤」、飛騨高山から松本までは「飛騨鰤」とよばれていました。
鰤が届けられた飛騨高山や松本では、鰤を食べて年越しをする習慣があるそうです。
年越しに欠かせない、大切な食材だったのですね。
●鰤のお祭り
何と鰤にはお祭りがあり、富山県の加茂神社ではお正月に「鰤分けの神事」が執り行われます。
塩漬け加工がされた鰤が奉納され、それを神前で切り分け氏子さんたちに振る舞うというものです。
その年の無病息災を願って、焼いて食べるのだそうですよ。
神事として用いられるほど鰤は大切にされていたことが分かりますね。
また、栄養満点の鰤は確かに病気知らずでいるために欠かせない食材であり、理にかなっているともいえます。
鰤を食べると健康でいられると分かった先人の知恵からくる行事なのかもしれませんね。
まとめ
日本人にとって馴染み深い魚である鰤ですが、意外に知らない側面がたくさんあったのではないでしょうか。
昔から人々に愛されてきた食材であり、また味だけでなく栄養的にも優れた魚であることが分かりましたね。
地方によって出世の名前が違ったり、さまざまな習慣が残っていたりといったことも鰤が日本人と深い関係を持つ魚であることの証であるといえるでしょう。
次に鰤をいただく機会がありましたら、ぜひ周りの方にも鰤の凄さを伝えてみてくださいね。