たくさんの折り鶴を、ヤナギのように糸でつなげた千羽鶴。お見舞いや被災地への応援などのために、作ったことのある人も多いのではないでしょうか。
日本人には馴染みの深い千羽鶴ですが、詳しく知っているという方は少ないように見受けられます。そこで意味や歴史、作り方から処分方法まで、千羽鶴にまつわる基本的な知識をお伝えしますね。
千羽鶴の意味
そもそも千羽鶴には、どのような意味があるのでしょう。なぜ、あんなにもたくさんの鶴を折るのでしょうか。
なぜ鶴なのか
鶴は古来より、縁起の良い鳥とされてきました。「鶴は千年亀は万年」ということわざもあるように、長寿の象徴となっていますよね。これは中国の影響です。
ここでいう鶴とは、赤い頭が特徴的な「丹頂鶴(タンチョウ)」のこと。丹頂鶴の寿命はおよそ20~30年、飼育下では50年と言われています。昔の人の寿命は今とは違い、かなり短かったことを考えると、鶴が長寿のシンボルになった理由がわかりますね。
さらに鶴の声は遠くまで届くことから、鶴は天上界に通じる存在とされています。さらに鶴のつがいは仲が良いことから、夫婦円満のシンボルにもなっていますよ。
ぴったり千羽でないとダメ?
このように、めでたい鶴が千羽そろうことを吉としたのが千羽鶴です。さて、ここで「千羽」とは、何を意味するのかが問題です。ちょうど千羽と捉えることもできますし、千にはたくさんという意味があるので、必ずしも千羽ではないと考えることもできます。この点、どちらが正しいということはありませんので、あまり気にする必要はなさそうです。
千羽鶴の歴史
千羽鶴は、どうやって誕生したのでしょう。はっきりとした起源はわかりませんが、おそらく江戸時代ではないかと考えられています。
誕生
折り紙というと、子どもの遊びというイメージが強いと思います。ところが平安・鎌倉時代の折り紙は、公家や武家といった上流階級の人々が手紙を折りたたんだり、物を包んだりするときに使うものでした。当初は子どもどころか、庶民には手の届かないものだったのですね。
ところが江戸時代、特に元禄(1700年頃)の頃になると、庶民の間でも和紙の折り紙が普及します。舟や折り鶴などの形を作って楽しむ、遊びとしての折り紙が生まれたのです。千羽鶴が誕生したのは、この頃と考えられています。
千人針の影響
さらに千羽鶴は、戦時中の「千人針」の影響を受けているようです。千人針とは、出征する兵隊さんのために作られたお守りのこと。千人の女性たちが、布に赤糸で一針ずつ縫って作ったものです。これを身につけておけば、弾丸よけになるとされていました。
当然、千人針にはそういった効果はありません。しかし、戦えない女性たちが、せめてできることをしようという思いが伝わってきますね。この風習が、戦後の病気回復を願う千羽鶴へとつながったと言われているのです。
平和の象徴になった理由
千羽鶴は長寿や病気回復だけでなく、平和のシンボルでもあります。これには広島で被爆した、とある少女のエピソードに由来します。
広島への原爆投下
1945年8月6日、広島に世界で初めて原子爆弾が落とされました。当時2歳の佐々木貞子さんも被爆した一人です。原爆投下により、多くの死者が出たことは言うまでもありません。しかし貞子さんに外傷はなく、その後すくすくと成長していきました。ところが10年後、貞子さんは突然白血病の診断を受けるのです。
自分のために折り続けた少女
ある日、入院していた貞子さんたちのもとへ、名古屋の高校生たちから千羽鶴が届けられました。それ以降、多くの入院患者が折り鶴を作り始めます。貞子さんもその一人で、自分の病気回復を願い、一生懸命折ったといいます。
やがて千羽鶴を作れるほど数が多くなり、糸でつないで病室の天井に吊るしました。その後も折り鶴を作り続けましたが、入院から8カ月後、貞子さんは亡くなりました(享年12歳)。
原爆の子の像
貞子さんの死をきっかけとして、広島の平和記念公園に建てられたのが「原爆の子の像」です。像には今でも、たくさんの千羽鶴が捧げられています。そして世界中の人々にも、千羽鶴は平和や希望の象徴として知られるようになったのです。
作り方や注意点
千羽鶴の作り方や、贈る際に注意しておきたい点などをご紹介します。
作り方
千羽鶴に決まった作り方はありませんが、
- 20~100羽ずつ、折り鶴を膨らませる穴に糸(絹糸・テグスなど)を通してまとめる。
- 一番下の鶴にボタンや小さく切ったストローなどを結び、綴じた糸が抜けないようにする。
- これらを上で1つにまとめる(吊るしやすいよう、大きな輪を作ってもOK)
といった手順で作ることが多いようです。使用する折り紙の大きさにも規定はありませんが、市販の「千羽鶴用おりがみ」には、7.5cm角のものが多いようです。
鶴の首は折る?
千羽鶴の首を折るのは縁起が悪いということがありますが、そんなことはありません。むしろ首を折らなければ、鶴の頭ができません。抵抗のある方は「首を折る」というマイナスのイメージではなく、「頭を作る」というプラスのイメージを持つといいかもしれません。
避けるべき色
千羽鶴を作るとき、「黒」は使ってはいけないと言う人もいますが、実際はそのような決まりはありません。ただし、入院している人に白と黒の千羽鶴を贈るなどは、もってのほかですね。
もらって迷惑と感じる人も
千羽鶴をもらって、迷惑と思う人もいます。千羽鶴は役に立たないと考える人や、気持ちはありがたいけれど保管する場所がない……など、事情は様々です。贈る前に、まずは相手の立場になって考えてみてくださいね。
千羽鶴の保管・処分方法
千羽鶴の保管方法や、悩ましい処分の方法についてご紹介していきます。
保管方法のアイデア
千羽鶴は、どのように保存したらよいのでしょう。せっかくもらったのですから、きれいに飾っておきたいですよね。そのまま吊るしておくのも一つの手ですが、長期間そのままにしておくと、ホコリがかぶってしまうこともあります。
解決策として、クリアケースや瓶などに入れてみてはいかがでしょう。入れるだけでも構いませんが、グラデーションを意識して入れれば、おしゃれなインテリアになります。また額縁にセンス良く配置すれば、もうそれはアートです。
処分方法
千羽鶴を処分する場合、さすがにゴミ箱に捨てるのはためらわれますよね。作ってくれた方の気持ちを粗末にしてしまいそうで、どうしていいか困ってしまいます。そんなときは、神社やお寺などで「お焚き上げ」をしてもらってはいかがでしょう。
お焚き上げとは、古くなったお札やお守りなどを焼いてもらうことです。千羽鶴も焼いてもらうことができるので、まずはお近くの神社やお寺に連絡してみてください。焚き上げ料がかかる場合がありますので、あらかじめご留意くださいね。
まとめ
縁起が良いとされる鶴は、長寿や夫婦円満の象徴にもなっています。そんな鶴が、多くそろうことを吉としたのが千羽鶴です。江戸時代に誕生したとみられ、その後千人針の影響も受けたと考えられています。また千羽鶴は広島への原爆投下をきっかけに、平和の象徴にもなりました。
千羽鶴には、決まった作り方はありません。様々なルールがあるとも思われがちですが、特に気にしなくて良さそうです。最も考える必要があるのは、贈られる側の気持ちです。千羽鶴はもらっても迷惑、と思う人もいるのが現実。まずは相手の立場に立って、考えてみるのが大切かもしれません。
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