お子さんが少し大きくなってきて、そろそろ習い事を始めさせてみようかな?と考えている方もいらっしゃると思います。
実は、日本では古来より「6歳の6月6日に稽古を始めると上達しやすい」と言われてきたんです。
今でも6月6日を「おけいこの日」として捉える風習は残っており、各団体によって正式に記念日として定められているものもあります。
なぜ6月6日が「おけいこの日」なのか、6歳に手習いを始めるといい理由は何なのか、こちらで詳しく説明していきます。
「おけいこの日」のならわしは現代にも息づいている
冒頭でも触れたとおり、古来より「芸事の稽古は、6歳の6月6日に開始するといい」と言われてきました。
そのため、歌舞伎、狂言、能といった伝統芸能では今でも「初稽古」を6月6日に始めるならわしが残っています。
また、6月6日は以下のような「〇〇の日」にも定められています。
- 楽器の日(1970年に全国楽器協会が制定)
- 邦楽の日(1985年に東京邦楽器商組合[東京邦楽器商工業協同組合の前身]が制定)
- いけばなの日
近畿のいけばな協会では6月6日を「生け花文化について考え、発信する日」として、各地域で行事などを開催して生け花の普及を進めています。
また、全国楽器協会でも、楽器店・音楽教室で、楽器と触れ合ういろいろなイベントを開催するなどしています。
一方、「邦楽」はあまり稽古と関係ないのでは?と思われるかもしれませんね。
実は、昔から行儀の基礎を習うために琴や三味線を始める子どもが多かったため、それが長じて6月6日を「邦楽の日」としたという経緯があるのです。
今でもこのような風習が残っていることを知ると、なぜ6歳の6月6日が習い事を始めるのに適しているのか理由が気になるところ。次の項から詳しく解説します。
なぜ6歳が稽古始めにいい?由来は世阿弥の「風姿花伝」にあった
まずは、なぜ「6歳」が稽古始めにいいとされているのか理由を見ていきましょう。
その由来は、室町時代に能を大成させた「世阿弥(ぜあみ)」が記した「風姿花伝(ふうしかでん)」という能の理論書にあります。
世阿弥は、この著書のなかで「数えで7歳、つまり6歳の年に習い事を始めるのが最もいい」と説明しているのです。
続いて世阿弥は
「この頃の稽古は、子どもがやりたいようにやらせるといい。そのなかで、どんな子でも生まれ持った美点が見えてくる。
あまり細かく教えたり注意したりすると、やる気を失い能そのものが止まってしまう。
基本動作だけをやらせて、それ以上のことができる場合でもあえて教えないほうがいい。
いきなり大舞台には立たせず、その子にふさわしい場面で得意な役をやらせるのがいい。」
ということも語っています。
風姿花伝は能の理論書ではありますが、現代の子どもの習い事、教育にも役立つ素晴らしい考え方ですよね。
おけいこの日をきっかけに、子どもにとってどのような習い事や教え方がいいのか改めて考えてみるのもいいでしょう。
「おけいこの日」が6月6日になった2つの理由
6歳が稽古始めにいいとされる理由は世阿弥の書だとわかりましたが、では「6月6日」はどこから来たのでしょうか?
6月6日が定着したのは風姿花伝が書かれたもっと後になってからのことで、由来としては以下の2つの説が考えられています。
- 歌舞伎の台詞「6歳の6月6日の…」から定着した説
- 数を数えるときの指の形から由来している説
一般的に可能性が高いと考えられているのが、歌舞伎の台詞から由来している説です。
能の文化を広めたのは中世の武家社会ですが、江戸時代になると歌舞伎の世界にも世阿弥の考えが浸透するようになってきました。
そんななかで歌舞伎の劇中でも「6歳の6月6日の…」という語呂のいい台詞回しが頻繁に登場するようになり、一般にも定着したと考えられています。
そして、もうひとつが「数を指折り数えたときの指の形」から来ている説です。
1、2、3、4、5、6…と親指から順番に折りながら数を数えていくと、6のときに小指が立ちますよね。
「小指が立つ」ことが転じて、「子が立つ」「子が自立する」と考えられるので、6月6日が縁起がいいと言われるようになったそうです。
どちらの説も語呂合わせやゲン担ぎのようなものですが、昔からの風習やならわしにはこのような由来のものが多く残っています。
これも日本の伝統だと考えると、6月6日に習い事を始めると縁起がよさような気がしてきますよね。
稽古には「古を考える=過去や先人から学ぶ」という意味がある
もともと、「稽古」の「稽」という漢字には「考える」という意味があり、「稽古」は「古(いにしえ)を考える」ことを指します。
つまり、稽古には「昔のことを古い書物などを読んで調べ、学び、今なすべきことは何なのかを正しく知る」という意味が込められているのです。
また、「照今(しょうこん)」=今に照らす、という意味の言葉と合わせた「稽古照今」という四字熟語も存在します。
この四字熟語は「過去の出来事や先人に学んで、今の世に照らし合わせて指針を見出すこと」を指します。
つまり、「昔のことを学び、現在に活かす」ことの大切さを表した言葉なんですね。
古来より日本人は、楽器、演舞、武術などあらゆる分野において「稽古」を単なる練習の積み重ねとは考えていませんでした。
古い書物や先人から、道理や礼儀、作法などを学び、理想的な形へと近づくことを含めて「稽古」だと捉えていたのです。
「練習によってスキルだけを身に着けるのでは本物の一流にはなれない、伝統を重んじ人間的な成長を遂げてこそ芸事が習得できる。」
この考えは現代では忘れられがちですが、「過去や先人から学ぶ」という日本人ならではの謙虚な姿勢を今の私たちも大切にして、次世代へ伝えていきたいですね。
これこそが、現代の私たちの「稽古照今」だと言えるかもしれません。
おけいこの日をきっかけに「稽古」を始めよう!
今回は、おけいこの日が6月6日になった由来や、6歳に習い事を始めるといい理由などを解説してきました。
6歳が稽古始めにいいとされる理由は、室町時代に世阿弥が記した能の理論書「風姿花伝」から来ていることがわかりました。
また、6月6日がおけいこの日になった由来も、歌舞伎の台詞や指の形といった古来から言い伝えられてきたものです。
こうしておけいこの日について紐解いてみると、先人の考えや伝統など、現代の子育てや教育にも役立つ日本人の精神に触れることができましたね。
ぜひおけいこの日をきっかけに、古来から残る「稽古」の考えを大切にした、お子さんのすこやかな成長に役立つ習い事を始めてみてはいかがでしょうか?