観光旅行をしたことがある方なら、お寺や神社で、5つの屋根が重なった五重塔を見かけたことがあるでしょう。
五重塔は高い建物ですが、物見やぐらとして建てられたわけではありません。実は、とある人物の遺骨を祀るために建てられた納骨堂のような役割を持っています。
この記事では、五重塔が建てられた理由や構造、そして全国の有名な五重塔などを紹介します。
五重塔とは
五重塔とは、層塔(奇数層の屋根を持った塔)という仏塔のうち、五重層のものを指します。
塔の造りは、1つ1つに仏教的な宇宙観(地水火風空)が表されています。基礎が「地」を表し、塔身は「水」、笠は「火」、請花は「風」、宝珠は「空」に対応しています。
仏塔の起源は、仏舎利(釈迦の遺骨)を祀るために建てられた「ストゥーバ」と呼ばれる塔です。
五重塔の構造
五重塔は、独立した層を1層ずつ積み重ねた構造になっています。下の層から上の層に向かうにつれて、塔身が短くなります。
塔の中央には、2~3本の材木をつなぎ合わせた心柱が設置されています。心柱の基礎は、地中礎石・地上礎石・宙ぶらりん型の3種類があります。必ずしも、心柱が接地しているわけではありません。
日本の木造の五重塔は、二重目以上の構造は、軒を支えるための木が複雑に組まれています。そのため、一般の参加者は、上の層へ登れないことが普通です。
五重塔が地震で倒れない理由
五重塔に見られる耐震構造「柔構造」は、その優れた耐震力が注目されています。日本では、スカイツリーを建築する際に、五十塔の耐震構造を取り入れています。
五重塔が耐震性に優れているとする根拠は、五重塔が地震によって倒壊した事例が無いからです。ただし、五重塔が仏舎利を祀るために建てられたことを考慮すると、はじめから耐震性の高さを意図して設計していたわけではないようです。
五重塔が耐震性に優れている理由には、いくつかの説が唱えられています。
心柱振動吸収説
五重塔の中心を貫いている心柱は、礎石ないし地面から離れている場合もあります。
たとえば、法隆寺の心柱は礎石から離れています。これは、もともとあった心柱が腐食したために消失したと考えられています。しかし、倒壊は見られません。
すなわち、地震が起きた際に、接地していない心柱が振動することで、地震の力を吸収するという説です。
ただし、心柱が接地していない構造は、江戸時代以降に採用されたものです。それ以前の五十塔については、この説は当てはまりません。
閂(かんぬき)説
閂説は、五重塔の心柱が「扉を開けなくする閂」のように、地震による揺れを抑制する役割を持つという説です。
つまり、地震によって心柱が触れた際に、心柱の周囲にある様々な部材と接触することで、揺れが抑制されます。
ただし、心柱と部材の衝突が破損の原因にもなるため、きわめて高度な設計が必要とされます。
有名な五重塔が建てられている観光名所
最後に、日本で有名な五重塔が建てられている観光名所を紹介します。
最勝院
最勝院は、青森県の弘前市銅屋町にある真言宗のお寺です。境内にある五重塔は、日本最北端に位置する国の重要文化財に認定されています。
最勝院は、津軽藩3代藩主の津軽信義が計画して、1656年(明暦2年)に着工しました。
寺伝によると、最勝院の五重塔は、藩祖である津軽為信が津軽統一する過程で戦死した敵味方を供養するために建てられたと言われています。
羽黒山五重塔
羽黒山五重塔は、山形県鶴岡市の羽黒山に建っています。東北地方では最古の塔と言われており、1966年(昭和41年)に国宝に指定されました。五重塔の近くには、樹齢1000年を超える巨大な杉の木「爺杉」が植わっています。
五重塔は、平将門によって創建されたと伝えられています。現在の塔は、約600年前に再建されたようです。
日光東照宮
日光東照宮は、栃木県日光市にある神社です。江戸幕府の初代将軍である徳川家康を神格化した東照大権現を祀っています。1908年(明治41年)には、国の重要文化財に指定されました。
日光東照宮の五重塔は、1815年(文化12年)の落雷によって焼失してしまいました。そのため、818年(文政元年)に再建されたようです。塔の高さは約35メートルであり、日本全国にある五重塔の中では、6番目の高さと言われています。
日光東照宮の五重塔は、初層から最上層まで、一貫して屋根の面積が均一であることが特徴です。多くの五重塔は、初層から上層にいくにつれて、屋根の面積が狭くなることが一般的です。
池上本門寺
池上本門寺は、東京都の大田区池上にあります。日蓮宗の大本山です。
徳川二代将軍である徳川秀忠の乳母(岡部局)の発願により、1607年(慶長12年)に完成しました。関東に現存している幕末以前の五重塔としては、最古のものです。
妙宣寺
妙宣寺は、新潟県の佐渡郡真野町にある日蓮宗のお寺です。
妙宣寺の五重塔は、江戸時代後期、宮大工の茂三右ェ門親子が二代に渡って完成させたと言われています。1986年(昭和61年)に、国の重要文化財に指定されました。
妙成寺
妙成寺は、石川県の羽咋市滝谷町にある日蓮宗のお寺です。
妙成寺の五重塔は、1615年(元和元年)、加賀藩の3代藩主である前田利常の命によって着工しました。
教王護国寺
教王護国寺は、京都府の京都市南区にあるお寺です。真言宗の根本道場とされています。
教王護国寺の五重塔は、高さが約55メートルであり、五重塔としては日本一の高さを誇ります。
法隆寺
法隆寺は、奈良県の生駒郡斑鳩町にあるお寺です。聖徳宗の総本山とされています。現存する最古の木造建築物としても有名です。
法隆寺の五重塔は、670年(天智9年)に焼失しました。そのため、現存する五重塔は、その後に再建されたものと考えられます。
備中国分寺
備中国分寺は、岡山県の総社市にあるお寺です。創建後にいったん廃れましたが、江戸時代の中頃に再建されました。
備中国分寺の五重塔は、3層まではケヤキ材、4~5層までは松材が主体と使われています。初層には、大日如来を中心に五智如来が安置されています。
明王院
明王院は、広島県の福山市にある真言宗のお寺です。
明王院の五重塔は、全国の五重塔の中では、5番目に古いと言われています。また、国宝に認定されています。
厳島神社
厳島神社は、広島県の甘日市にある神社です。
厳島神社の五重塔は、室町時代の後期に建てられたと言われています。国の重要文化財として指定されています。現在に至るまでに何度か改修されていますが、創建当初の姿を留めている数少ない建物です。
瑠璃光寺
瑠璃光寺は、山口県の山口市香山町にある曹洞宗のお寺です。
瑠璃光寺の五重塔は、応永の乱で命を落とした大内義弘の菩提を弔うために建造が計画され、1422年(嘉吉2年)に完成しました。日本全国に現存する五重塔の中では、10番目に古いとされています。また、塔の姿が美しいことから、日本三名塔の1つに数えられています。
まとめ
五重塔は、奇数層の屋根を持った仏塔のうち、五重層の屋根のものを指します。
五重塔の造りには仏教的な世界観が表れており、基礎が「地」、塔身は「水」、笠は「火」、請花は「風」、宝珠は「空」に対応しています。
五重塔が耐震性に優れている理由は、塔の中心を貫いている心柱にあると考えられています。今のところ、心柱振動吸収説と閂説がありますが、いずれにせよ、心柱が可動なことに秘訣があるようです。東京のスカイツリーの構造には、五重塔の心柱の要素が取り入れられています。
有名な五重塔は、日本各地に点在しています。あなたが観光旅行する際に、五重塔が建てられている寺社があるようでしたら、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。