仏教系の宗教について調べると、四菩薩という言葉を目にする機会があるでしょう。
四菩薩について調べた際に、多くの方が戸惑うことは、宗教・宗派によって、四菩薩の内容が異なることではないでしょうか。
この記事では、宗教・宗派ごとに、四菩薩として扱われている菩薩について紹介します。
四菩薩とは?
四菩薩とは、文字通り、4尊1組の菩薩たちのことです。
四菩薩は、あくまでも4尊1組としての呼称なので、どの菩薩のことを指しているかについては、宗教や宗派によって異なります。
密教における四菩薩
密教の胎蔵曼荼羅では、曼荼羅の中央に位置する「中台八葉院」に表される四体の菩薩が四菩薩です。
密教の四菩薩は、普賢菩薩・文殊菩薩・観音菩薩・弥勒菩薩です。
普賢菩薩
普賢菩薩の梵名であるサマンタバドラは、「普く賢い者」という意味があります。どこにでも現れ、理知と慈悲をもってして人々の救う者であることを示しています。
普賢菩薩は、女性が成仏できることを説く法華経に登場します。それなので、女性の信仰も集めました。
密教では、普賢菩薩は、菩提心(悟りを求める仏道の心)の象徴とされています。そのため、似たような性格を持つ金剛薩埵(大日如来の教えを受けた菩薩)と同一視されます。
文殊菩薩
文殊菩薩は、華厳経では、善財童子(仏教の童子の一人)を仏法求道の旅へ誘う存在として描かれています。そのことから、文殊菩薩の徳性は、悟りに至るための智慧とされています。
なお、文殊菩薩が智慧の象徴であることから、一般的な智恵の象徴ともなりました。これにより、「三人寄れば文殊の智恵」ということわざが生まれました。
文殊菩薩は、獅子の背の上に乗った蓮華座に、結跏趺坐した姿として描かれます。右手には智慧を象徴する剣を持ち、左手には経典の乗った青蓮華を持っています。
密教では、文殊菩薩は、清浄な精神を表す童子形とされています。髻(頭上に髪を束ねた部分)の数は、像によって1・5・6・8の4種類があります。1は増益、5は敬愛、6は調伏、8は息災の修法(密教における加持祈祷の実践)の本尊とされます。
観音菩薩
観音菩薩は、観音経などに基づいて、広く信仰の対象とされています。また、般若信教の冒頭に登場する菩薩でもあり、智慧の象徴としても扱われています。
観音菩薩は、衆生の苦悩に応じて33種類の姿に変身するとされており、現世利益を叶えてくれる菩薩としても有名です。
弥勒菩薩
弥勒菩薩の梵名であるマイトレーヤは、「慈から生まれた者」という意です。すべての人々を慈悲の心をもってして救済するという誓願を抱いています。
弥勒菩薩は、あと1回の人生で成仏できる位に達しています。現在は、兜率天(欲界の第四番目の世界)という浄土の内院に住んでいます。
弥勒菩薩は、釈尊が入滅した後に、この世に現れる将来仏とされています。現れる時期は、釈尊の入滅から56億7000万年後です。
天台宗における四菩薩
天台宗系では、阿弥陀如来(大乗仏教の如来)のそばに控える金剛法菩薩・金剛利菩薩・金剛因菩薩・金剛語菩薩を四菩薩としています。
密教の金剛界曼荼羅では。阿弥陀如来の東南北西に、四菩薩が配置されています。
金剛法菩薩
金剛法菩薩は、観音菩薩が密教化された存在です。観音菩薩は、正しい教えを説法することで凡夫を救済することから、金剛法菩薩とも称されています。
金剛法菩薩は、手に蓮華を持っています。蓮華は、清らかな菩提心を象徴しています。
金剛利菩薩
金剛利菩薩は、般若金剛菩薩とも言います。胎蔵界曼荼羅でいうところの文殊菩薩に該当します。
金剛利菩薩は、剣を持っています。この剣は、仏の智慧が衆生の苦を断ち切ることを象徴しています。
金剛因菩薩
金剛因菩薩は、金剛なる菩薩の因を備えた菩薩という意味です。
金剛因菩薩は、法輪を持っています。法輪は、元来は古代インにおける武器の一種でした。仏教においては、魔を退治して、煩悩を調伏する武器として扱われています。
金剛語菩薩
金剛語菩薩は、手に如来舌(舌の中に三鈷杵がある)を持っています。如来は、如来の秘密語(衆生の隠された意図を持つ如来の微妙な言葉)を象徴しています。
華厳経における四菩薩
華厳経では、会座(教えを聞くために人々が集まった場)に来た法慧菩薩・功徳林菩薩・金剛幢菩薩・金剛蔵菩薩を四菩薩としています。
法慧菩薩
華厳経の会座にて、十住を説き明かした菩薩です。
十住は、菩薩が修行して得られる52階位のうち、第11から第20までの位です。
功徳林菩薩
華厳経の会座にて、十行を説き明かした菩薩です。
十行は、菩薩が修行して得られる52階位のうち、第21から第30までの位です。
金剛幢菩薩
華厳経の会座にて、十回向を説き明かした菩薩です。
十回向は、菩薩が修行して得られる52階位のうち、第31から第40までの位です。
金剛蔵菩薩
華厳経の会座にて、十地を説き明かした菩薩です。
十地は、菩薩が修行して得られる52階位のうち、第41から第50までの位です。
日蓮宗・法華宗における四菩薩
日蓮宗・法華宗では、法華経に登場する無辺行菩薩・上行菩薩・浄行菩薩・安立行菩薩を四菩薩としています。
法華経の従地涌出品第十五によると、釈迦如来が説法していたところ、急に大地が割れて、そこから無数の菩薩が湧き出てきました。それらの菩薩の筆頭は、無辺行菩薩・上行菩薩・浄行菩薩・安立行菩薩です。
無辺行菩薩
無辺行菩薩は、「仏の教えは限りないものであったとしても、必ず学びつくそう」という願いを持っています。
上行菩薩
上行菩薩は、「仏の道は無上であっても、仏道を修めて、必ず悟りに達しよう」ということを願いをもっています。
日蓮宗・法華宗の開祖である日蓮は、自分が上行菩薩の生まれ変わりであると自覚しました。
浄行菩薩
浄行菩薩は、流れる水が垢や穢れを洗い清めるように、衆生の煩悩を清めるという徳性を持っています。「煩悩の数は無数であっても、必ずすべての煩悩を断ち切ってみせる」という願いを持っています。
安立行菩薩
安立行菩薩は、「衆生の数は無数であっても、必ず一切の衆生を救ってみせる」という願いを持っています。
まとめ
仏教用語である四菩薩は、特定の菩薩を4尊1組とした呼び方です。
密教における四菩薩は、普賢菩薩・文殊菩薩・観音菩薩・弥勒菩薩です。
天台宗における四菩薩は、金剛法菩薩・金剛利菩薩・金剛因菩薩・金剛語菩薩です。
華厳経における四菩薩は、法慧菩薩・功徳林菩薩・金剛幢菩薩・金剛蔵菩薩です。
日蓮宗・法華宗における四菩薩は、無辺行菩薩・上行菩薩・浄行菩薩・安立行菩薩です。
どの菩薩が選ばれているかについては、宗教・宗派によって異なります。その点に注意して、混同しないようにしましょう。