事八日という行事があります。名前を聞いただけでは、どんな行事か想像もつきませんが、この行事で昔の人たちは、1年の無事を願い、生活のリズムを作ってきました。
事八日はそれぞれの地域で、違う面を持っている珍しい行事でもあります。今の私たちにも、きっと役に立ちますから、ぜひこの機会によく知っておきましょう。
事八日とは?意味と由来!事始めと事納めとは
事八日とは12月8日と2月8日のことで、事は何かをすること、行事や祭事、斎事(いわいごと・神様をまつることを意味する)を意味しています。
いつから行われていたかは、定かではありませんが、平安時代から行われていたという説があります。
事八日には、いろいろな内容があり、12月と2月をそれぞれ事始めと事納めとしている地域があります。これから農業が始まる2月を事始め、12月を事納めとすることが多いのですが、12月8日は年越しの神事が始まるので事始め、2月8日は正月行事の終わりの事納めとしている場合もあります。
2月の事始めを農業が始まり、人の営みが始まるため、人の事始め、12月の事始めは神様のための神事を始めることから、神様の事始めと呼ぶこともありました。12月か2月のどちらか1度だけ事八日を行う地域もあるので、地域によっていろいろな面を持っていることがわかりますね。
ところで12月13日は、正月事始めとして知られています。どちらが本当の事始めなのかと疑問を感じる人もいるでしょう。
事始めにはいろいろある?
江戸時代に12月13日が大吉日だったことから、江戸城のお煤納め(大掃除)になりました。これが庶民にも広がって、12月13日が正月事始めとして定着しました。正月準備(すす払いや門松の準備など)のための事始めなので正月事始めと呼んで、神様の事始めとは区別をしているわけです。
京都・祇園でも事始めが行われます。芸妓さん、舞妓さんが鏡餅を持って、12月13日に主家へのあいさつ回りをして、1年の感謝を伝えます。これは冬の風物詩にもなっていて、毎年ニュース番組などで紹介されています。これにならって、茶道でも同じ頃に事始めが行われます。
事始めがたくさんあるため、混乱しそうですが、どんな世界でも区切りをつけることを大切にしていることがわかって、興味深いですね。それに神様の事始め、12月8日はやはり特別な存在だということがわかります。
事八日に家に来るのは一つ目小僧?
事八日とは、事始めと事納めの役割があるだけではありません。妖怪や悪い神様が家にやって来るという地域があります。
家に悪いものが来て、悪さをされてはたまりませんね。それを避けるために、昔の人たちはさまざまな行事を行いました。
事八日に家に来る妖怪の中で有名なのは、一つ目小僧(または大眼・だいまなことも)です。
神奈川県や静岡県では、ザル、ふるい、カゴなど、とにかく目の多いものを遠くからでも目立つような、出入り口の上などに高く掲げました。一つ目小僧はたくさんの目に驚いて、逃げ出したそうです。このとき外に履物を出しておくと、一つ目小僧に判を押されるそうです。判を押されると悪い病気にかかるため、履物はしっかりしまっておかなくてはいけません。
長野県の松本市では、それぞれの地区で、わらで馬を作って疫病神を追い出す、巨人が履くような大きなぞうりを作って、疫病神をだます(疫病神は大きなぞうりを見て、巨人がいると思うようです)など、いろいろな方法で疫病神を村から追い出しています。これらの事八日の行事は県の無形民俗文化財になっています。
事八日には農作業をしてはいけない、山に入ってはいけないなどといわれていました。これは物忌みといって、家にやって来る悪いものを避けるためですが、畑や山で働く人たちの貴重な休日になり、これから始まる作業に対して英気を養ったと思われます。
針供養をする日でもある、事八日!由来は江戸時代?
もう1つ、事八日の行事として有名なのが、針供養です。この行事もそれぞれ、12月8日と2月8日に行う地域があります。
折れたり、古くなった針を供養するために、針を集めて豆腐やコンニャクなどの軟らかいものに刺して、近くの寺社に奉納し、裁縫の上達を願います。たくさんの布を刺してきた針を、最後くらいは軟らかい豆腐やコンニャクに刺して、休ませてあげようという考えがあったようです。
針供養は、まつられている少彦名命が裁縫を初めて人間に伝えたことから、江戸時代に和歌山の淡嶋神社で始まった行事です。今では日本全国で行われる針供養ですが、主に淡嶋神社と淡島神をまつるお堂がある神社で行われています。
ちなみに和歌山の淡嶋神社は、婦人病を治してくれるご利益があり、女性にやさしい神社として有名です。また、人形供養も行っているため、境内にはたくさんの人形が並んでいるのが印象的です。
針供養の日も、1日針仕事を休むようにいわれますが、これはやはり物忌みであると同時に、女性の貴重な休日だったのでしょう。
現在では、家庭で針仕事を行う機会が減ったため、針供養を行うことは減りましたが、和裁や洋裁を学ぶ学校や関係企業などでは変わらずに行われているようです。
事八日を自宅で楽しむために!お事汁を食べてみよう!
昔から事八日に必ず食べるのがお事汁です。これは里芋、大根、人参、ごぼう、小豆、コンニャクの6種類の具を入れたみそ汁のことで、無病息災を願って食べるものです。冬に旬を迎える根菜類をたっぷりと使ったお事汁は、栄養が豊富で体も温まるので、事八日に食べれば、確かに体によさそうです。
【お事汁 レシピ】で検索すると、ネットで作り方を知ることができます。6種類の具材のほかに、季節の野菜があれば、追加で入れてもよいそうです。蓮根などを入れてもおいしそうですね。
お事汁に入っている小豆は、ちょっと変わり種のように感じられますが、昔の人にとって小豆は魔除けの力がある食べ物でした。
このお事汁がかぼちゃと小豆の煮物、いとこ煮の由来であるという説もあります。いとこ煮も冬至に食べるとカゼを引かない、病気にならないというご利益がある料理なので、小豆の力は絶大だったのかもしれませんね。
けんちん汁なら、よく食べるという人が多いかもしれませんね。けんちん汁も冬至や節分など、季節の行事によく食べられていますが、たまにはそれをお事汁に変えてみると、気分が変わりますね。
事八日の行事を家で行うのは難しくても、お事汁なら私たちも気楽に取り入れることができます。事八日のことを話しながら、家族で味わってみてください。
また、先程事八日にはいろいろと悪いものが家を訪れると書きましたが、実は私たちにご利益のあるよい神様もいらっしゃると伝えられています。恵比寿様や大黒様、薬師如来に田の神、山の神がいらっしゃることがあるそうです。
神様には赤飯や餅、団子などをお供えして、歓迎の気持ちを表します。家に神棚があれば(なくても目線より高い場所に)、お供えをすると、自宅で事八日を体験できます。
一家団欒のきっかけに!事八日が役に立つ!
ところでなぜ事八日は、現代の私たちの役に立つのでしょうか。
事始めと事納めは、1年の始まりと終わりという区切りをつけてくれます。事始めには、さあこれからやるぞ、という新しい気持ちになり、事納めには何ごとも無事に終わったという感謝の気持を持つことができます。慌ただしい毎日が流れていく現代こそ、私たちには事八日が必要です。
家に来る悪いものを避けるための行事には、1年を無事に過ごせますように、という気持ちがこもっています。
今は何でも人間の思い通りになるようでいて、実はそうではありません。妖怪や悪神を恐れる、昔の人たちのような謙虚な心を思い出して、事八日には早く家に帰って、一家団欒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
最後に針供養ですが、昔の人たちは針のような小さなものにも感謝をささげていました。働き続けた針を最後は豆腐やコンニャクのような軟らかいものに指していたわる優しい気持ちを私たちは今でも持っているでしょうか。最近は針を使わない人も多いかもしれませんが、針供養をする気持ちは忘れないようにしたいですね。
まとめ
今回は事八日の意味や由来のほか、自宅で楽しむ方法についてもお知らせしました。
残念ながら、戦後は廃れてきている事八日ですが、自宅でお事汁を楽しんだり、一つ目小僧について話をしてみましょう。
特に子どもがいる家庭では、1年の区切りをつけ、人間以外の目に見えないもののことを考えるよい機会になるでしょう。みんなでお事汁を味わえば、きっと元気に冬を乗り切れるはずですよ。事八日で1年を過ごすためのエンジンをかけましょう。