座礼という言葉を聞いたことがある人はいるでしょうか。
これは座ってするお辞儀のことですが、そもそも普通の生活をしているとお辞儀をする機会が余りありません。
だから社会人になってから、研修で初めてお辞儀をすることになり、その難しさに気が付く人がほとんどです。
お辞儀には、座礼だけでなく立ってする立礼もあります。
研修などで学ぶのは、この立礼が多いので、柔道や剣道などを習っていない人は、座礼について学ぶ機会は余りありません。
気後れせずに座礼ができるようになれば、どんな席に招かれても堂々としていられます。
今回は、立礼よりもさらに改まった印象がある座礼の仕方について、姿勢から手のつき方まで、詳しく解説します。
座礼をするときに、まず必要なこととは?
人や上座(目上の人やお客様が座る席)に向かってするものです。
だから柔道や剣道などでは、先生に向かって座礼をします。
座礼とは、ただ座ってお辞儀をするだけでなく、相手への敬意を表す方法であると心に留めておきましょう。
座礼をするには、まず正座をする必要があります。
正座の状態から、上半身をかがめて行くのが座礼であり、上半身をどれくらいの角度で傾けるかによって普通のお辞儀なのか、最敬礼なのかが変わってきます。
正座をするためには、膝を床に付けて膝立ちといわれる体勢です。
そのとき足の指を立てておきます。
床からかかとが浮いている状態になっているはずですから、そのかかとにお尻を乗せます。
その後足の指を後ろに伸ばして、床に付ければ正座の完成です。
どうしてもかかとが離れてしまうという人もいるでしょうが、気にしなくても大丈夫です。
その方がかえって足がしびれにくくなるというメリットがあります。
座礼にも種類がある!手のつき方も違う?
正座の状態から、両手を前に付いて、上半身が太ももにくっつくまで傾けていくことを最敬礼といいます。
上半身を傾けていくと、自然に手が前に出てきます。
座礼の形だけ覚えて行おうとすると、よくあることですが、手を先についてから、後から上半身を傾ける人がいます。
これは余りよい印象を与えないようです。
相手への敬意の念で自然に頭が下がるとともに、出てきた手を前につくというのが心がこもっていてよいのではないでしょうか。
実際の手のつき方ですが、自分の膝の前に、両手の間に三角形が入るようなつもりで、手のひらを下にして手をそろえます。
最敬礼はかがむ角度が大きいので、肘まで床に付けます。
指はそろえて、人差し指どうしを触れさせるとキレイな三形になるので、この三角形の中に自分の顔を入れるつもりで、上半身を傾かせていきます。
脇は締めて、腕の広がりを防ぎましょう。
最敬礼であっても額を床に付けることはありません。
額を床に付けるのは、土下座であり、これは最敬礼とは別物です。
最敬礼をするときは、全部で10秒ほどかけて、元の正座の体勢に戻るつもりで、ゆったりと行いましょう。
最敬礼を素早く行うと、どうしてもピョコピョコした落ち着かない様子にみえます。
この様子が米つきバッタのようだと怒られた人が、かつてはよくいたようです。
普通礼は最敬礼ほど、深いお辞儀ではありません。
太ももと上半身がくっつくこともないでしょう。
顔は床から30cmほど離れている状態です。
手のつき方は、最敬礼のときと同じですが、最敬礼ほど深く上半身を傾けないので、肘は床から離れています。
普通礼は、三息で行います。
息を吸いながら上半身を傾けていき、はきながら静止して、もう一度吸いながら上半身を起こします。
実際にやってみると、かなりゆったりとしているのがわかります。
浅礼は会釈のようなもので、実生活で使う機会が一番多いお辞儀です。
正座の状態から、上半身を30度ほど傾けるのが浅礼です。
手は床に置かず、自分の膝に添えます。
女性は手をそろえますが、男性は両手を離したままです。
女性が座礼をするとき、よく三つ指をつくといわれます。
これは正式なお辞儀の省略形として、行われることもありましたが、余り行儀がよいことではありませんでした。
深くお辞儀をしているときには、手のひらが床についている状態です。
その状態で相手の顔を見るのはなかなか難しいというので、指先を軽く床に付けた状態で深いお辞儀をすることを三つ指をつく、と表現したそうです。
深いお辞儀をしているときは、手のひらが床に付いているのが、自然な状態ですから、三つ指をついていると相手に違和感が生まれてしまいます。
目上の人に対して、またおわびでお辞儀をする場合、やらない方が無難なのはいうまでもありません。
どんな座礼をするときも、大切なのはコレ!
どのお辞儀についても、共通して大切なことは、姿勢と視線です。
背中にきちんと力が入っていないと、首だけが上下してしまいキレイな座礼になりません。
これは立礼でも同じことです。
普段腹筋は意識しても、背筋は無防備な人が多いものです。
ぜひ、座礼をするときには、背筋に力を入れることを意識してみてください。
見違えるほど美しい座礼ができるようになるはずです。
座礼をして、元の正座の体勢に戻ったとき、相手の目を見るのは失礼にあたります。
私たちはよく会話をするときに、相手の目を見るようにと注意されましたが、実際に自分の目をじっと見つめられたら、どう感じるでしょうか。
多分かなり気まずくなるのではないでしょうか。
相手を全く見ないわけにはいかないので、顔全体を眺めるつもりでいるとよいでしょう。
つまり自然なふるまいをしていればよいのです。
自分の視線の先が気になるときは、相当緊張しているものです。
先程の三息で普通礼をすることを思い出してください。
三息でのお辞儀は、動作をゆったりとさせる効果のほかに、人と対面するときの緊張感を和らげる効果があるようです。
深い呼吸をすれば、落ち着きを取り戻すはずです。
礼儀作法も変化するから、あまり囚われ過ぎないで!
座礼の仕方についていろいろと解説してきましたが、座礼の基本である正座が正式な作法として世間に定着したのは、明治に入ってからのことです。
江戸時代では、正座は庶民が高貴な人の前に出たときなど、限られた場面での座り方でした。
明治に入って新政府が、国民に共通の教育をしなくてはならなくなったときに、標準語などと一緒に正座が正式な作法として取り入れられたのです。
また庶民の家でも畳が使われるようになったことで、足が痛くなることがなくなり、正座が広まる一員となりました。
正座が正式な作法になる前は、あぐらも安座という名前で、作法に則った座り方として知られていました。
千利休もあぐらでお茶を点てたといいます。
礼儀作法というのは、ときと場合、そしてその場所によっていくらでも変わるものです。
例えば外国には、日本と全く違う作法が存在します。
だからもし自分の座礼と、ほかの人の座礼が違ったとしてもどちらが悪いと非難されるべきものではありません。
ほかの人の仕方を受け入れる心を持っていたいものですね。
座礼棚は新しい作法の象徴になる?座礼もアップデートされる?
かつては正式な座り方として認められていたのに、今では行儀が悪いといわれてしまうあぐら(安座)ですが、このあぐらでお茶のお点前を楽しもうと、2007年に裏千家の家元が座礼棚を発案したそうです。
座礼棚、客卓、低反発素材のクッションがセットになっています。
ある程度の年齢をこえると、膝の痛みを訴える人は多く、茶道を楽しみたくても諦めてしまう人もいます。
足の状態に応じてお茶が楽しめるなら、一度諦めた人もまた茶道に戻ってくるかもしれませんね。
この座礼棚には、伝統を壊すと非難する声もあったようですが、正座ができないから、作法がわからないからといって茶道が廃れてしまうよりも、座礼棚があることで、茶道をはじめてみようかな、と思う人が増える方がずっとよいのではないでしょうか。
ちなみに裏千家では、明治時代に椅子に座ってお点前を楽しめる立礼棚を発案しました。
これは京都博覧会に訪れた外国人にも、お茶を楽しんで欲しいという気持ちから発案されたものです。
椅子に座ってのお点前は、現在でも立礼式として普及しています。
あぐらでのお茶席もそのうち新しい作法の1つとして、普及するのではないでしょうか。
座礼棚は、足が悪い人や正座が不得手な人も受け入れて、一緒にお茶を楽しもうという目的を持っています。
みなを受け入れようという座礼棚は、新しい作法の象徴になるかもしれません。
まとめ
今回は座礼の仕方や、何に気をつければよいかを解説しました。
形だけではない、心のこもった座礼をするためには、何回も実践することが大切です。
数をこなしていく内に、ひとつひとつの動作に心を込める余裕が出てくることでしょう。
座礼にも作法があると思うと、難しく考えてしまいますね。
しかし作法が重要な茶道も、座礼棚の登場で挑戦しやすくなっています。
座礼棚の存在は、作法の本当の目的を私たちに教えてくれます。
互いに受け入れ合うことで、より一層人間は親しく付き合えるようになるでしょう。
作法とはそのための道具としてあるのです。
座礼の仕方もその道具の一つに過ぎません。
どうか、難しく考えずに、座礼を実践してみてください。