日本に生まれ育つと、どこかで正座をするという習慣を習うことが多いでしょう。
または葬儀や会食時に、長時間正座をする場面に出くわして、その大変さを知ることもあるかもしれません。
知らぬ間に日本人のマナーであると思われている正座。
これまで正座の意味について考えたことのない方も多いかもしれませんが、一体日本ではいつから正座をするようになったのでしょうか。
またなぜ正座と呼ばれるようになったのか。
それらの疑問を、日本の歴史を参考にしながら考えていきましょう。
正座は最近できた文化だった
日本で生まれ育つと幼い時より「きちんと正座をしなさい」と、ご両親からしつけを受ける場合も多いでしょう。
特に和室での葬儀などの時や食事をする場では、正座をするのがマナーだと思われていますよね。
この正座のマナーは、一体いつから始まったのでしょうか。
実は正座という文化が始まったのは、およそ100年前だとされています。
意外にも、正座は最近できた座り方であるのです。
歴史ドラマなどを見ると武士たちが正座をしている姿を良く見かけますが、実は戦国時代には現代の正座は普及されていませんでした。
というのもこの時代まではまだ日本のあちこちで戦いが多く、平穏に暮らしていたという時代でありません。
そのため動きにくく、すぐに刀を抜くことが難しい正座は、通常では用いられない座り方なのです。
確かに正座をしたまま敵に襲われることがあったら、すぐに対応できずに倒されてしまいますよね。
また長時間の星座が可能な畳がある家も、武家屋敷などの家柄の良い方だけ。
商売人や農家は土間で暮らすことが多かったので、正座をすると足が痛み、冷えて動きも鈍くなるため正座をする人はほとんどいなかったのだそう。
江戸時代までの人々は大体、アグラか立膝をするのが通常で、そのまますぐに動きだせる楽な方法を編み出していたのです。
これは伝統的な茶道の作法でも見られます。
一見正座をしてお茶をたてる様に思われがちですが、実は成り立ちが古ければ古いほど立膝などの姿勢で行われていたとか。
またこの当時の日本人に、脚気が流行したことも原因としてあげられます。
脚気とはビタミンB1が不足することで足の末梢神経がダメージを受け、浮腫んだり慢性的に足がしびれる病。
現在では栄養状態が良くなったことで脚気になる方の割合は大分減っているとされていますが、江戸時代の日本人にとって正座をすることは非常に難しい問題でした。
なぜ正座というの?
それではなぜ正座と呼ぶのでしょうか。
正座の漢字を見ると「正しい座り方」と書かれていますね。
日本人にとって正座という言葉ができたのは1880年前後という説が有力で、この時にはどの座り方が正座と言われていたのかは定かではありません。
それまでは「かしこまる」と言われていた様です。
今の正座としての座り方が「正座」として認識される様になったのは1940年頃。
「修身」という明治23年から日本が敗戦を迎えるまで使われていた、現在の「道徳」の様な教科書の中に掲載されたのが始まりと言われています。
この修身は戦後、軍国教育の名残としてGHQにより廃止されましたが、実はこの正座という座り方ができたのは海外を意識したためであったという話があるのです。
日本は鎖国を止めたことで開国し、貿易などのビジネスで外国人とであう場も増えてきました。
からだも大きく知らない言語を話す外国人たちを見て、いかに対等に堂々と交渉をするかは日本人において重要なポイントだったのかもしれません。
そんな時にあたかも日本人のマナーとして、「正座」の正当性が教科書に書かれたということなのです。
だんだんとこの教えは日本人に広まり、「日本人は昔から正座をしていた」という誤解をする人々が続出したのだとか。
実際に現代の人々も、正座の意味を深く考えずに「日本人の当たり前のマナー」としている人も多いのではないでしょうか。
本来の正座を意味する日本の座り方は、いつでも戦える立膝やアグラだったということを覚えておきましょう。
正座はもともと仏教がはじまり?
正座とはもともと「跪座(きざ)」と呼ばれ、ひざまずいて座る事を指しました。
跪座は仏教がインドから伝来したことにより、日本に浸透した文化だと言えます。
現在の日本でもお寺などの法要を執り行う時は、畳が敷いてある場所では正座をすることがほとんど。
これは長跪合掌と呼ぶ、お祈りの仕方からきています。
長跪合掌は胸の少し高い位置で手を合わせ、膝をついて祈ること。
インドでは昔から右手は仏の手、左手は不浄の手とされてきました。
その手を仏様の前で合わせ合掌することにより「手を出さない」、つまり暴力的な行為や乱暴をいっさい行いませんという敵意のなさの表現をしてきたのだそう。
また右手と左手を合わせることで、仏と人間の一体化を表しているとも言います。
インドに関わらず仏教信者が国民の大半を占めているタイでも、人とあいさつをする時に手を合わせる事が多いことは有名ですね。
これは相手に尊敬の念を表現しているという意味合いがあります。
タイに行った際に合掌のあいさつを返さないと、マナー違反の場合もあるので注意しましょう。
このことからも、合掌をするということがどれだけ仏教において重要視されているかがわかります。
また正座はイスラム教の礼拝時のマナーとしても知られています。
古代のエジプト、ギリシア、唐時代前後の中国にも、現在の正座の座り方を良しとされていたという話もあり、この正座スタイルは日本人が開発したオリジナルであるということではないようです。
正座をするとしびれるのはどうして?
法事や長いあいだ座らなければいけない畳敷きの場所での正座で、急に足がしびれてしまった経験は誰にでもありますよね。
すぐさま立たなければいけない場面で、正座による足のしびれは本当に嫌なもの。
では、なぜ正座をすると足がしびれるのでしょうか。
これは伸ばした膝にお尻を乗せることで、膝裏や足首に負担がかかり血流が悪くなるからなのです。
膝裏にある総俳骨神経や足首の中心にある足背動脈を圧迫してしまうからで、そのことが足のしびれを起こしてしまう原因となっています。
実はこのしびれは、このままだと体が良くない状態になるよという警告だとか。
しびれが続きそれ以上からだの血流状態が悪化しないように、脳が伝達をしているということなのでしょう。
正座によるしびれは正座椅子と座り方で解消
正座によるしびれをその場で解消できるとしたら、こんなにうれしいことはありませんね。
「正座で足がしびれたらおでこに唾を付けると治る」などという、おばあちゃんの知恵袋の様なジンクスが日本には昔から数多く存在します。
ただ近年医学が発展し、正座による足のしびれのメカニズムも理解されてきました。
それらによると座り方が大きく関係しているとか。
この座り方には諸説あるのですが、先ほどの血流の圧迫を踏まえてご説明します。
正座をする時にただ足を伸ばして、そこにお尻を乗せるという座り方だと神経を圧迫しやすくなってしまいます。
そこで座る時は左右のかかとどうしをぴったりくっつけて、膝が離れない様にしてそこにお尻を垂直におろします。
この時に重心はやや前にかけ、後ろにドシンとならない様にしましょう。
こちらの座り方をすると自然に上半身は真っすぐの状態になるため膝裏への負担が少なく、きれいな姿勢を作り出すことが可能です。
また他にも足の親指どうしを重ね、足首まわりに少し空間を作るという方法も。
これだと足首の血管を圧迫せず、しびれを回避することも可能です。
足のしびれ予防に「ツボ」を押すというやり方を説いている方もおります。
足の甲の親指と人差し指の骨が交差する場所を「大衝」と呼ぶのですが、しびれそうだなと感じたらすぐにこのツボを5秒ほど押してみましょう。
それ以外に足ツボに詳しい方ならおなじみの、膝のお皿の外側のくぼみにある「足三里」もしびれに効くとか。
同じく膝裏の真ん中にある「委中」も効果があると言われています。
いずれにしても正座をすることにより、足の血管が圧迫され血流が滞るということがしびれの原因の様ですね。
正しい座り方やツボなど、あらゆる対処法を試してみることで、自分に合う方法を見つけるのが良いかもしれません。
実は座り方やツボを学ぶよりも、合理的に快適な正座をしたいという方に朗報があります。
最近、正座椅子という便利な椅子が発売されていることをご存じでしょうか。
正面から見るとあたかも正座をしている様に見える小型の椅子で、膝とお尻の間に挟んで座り両足を脇にくっつけます。
膝に痛みのある方や、ご高齢の方などはこちらの利用がおすすめ。
軽く持ち運べるので、長時間正座が必要な場合などは重宝するのです。
さまざまな対処法がありますが、便利な世の中になったことにより作られた正座椅子を使ってみるのはいかがでしょうか。
まとめ
こちらでは正座についての歴史や、しびれの原因についてご説明してきました。
意外にも日本の歴史の中でまだ日が浅い正座ですが、今となっては日本人らしさとして世界に認識されるまでになっています。
ぜひ正しい座り方を学び、より美しい所作として日本の新しい伝統にしていけることを願います。
思いやりや所作などを重んじる日本だからこそ、正座というものが文化としてもとてもしっくりきますよね。