会社で宴会や会議があると、席順が問題になることがあります。
はっきりいうと誰が一番上座に座るかで揉めることがあるのです。
どうも上座というのは日本独特の風習であるにもかかわらず、落ち着いて上座に座っていられない人も多いようです。
上座の対義語はもちろん下座ですが、下座のきちんとした意味を知っている人はどれくらいいるでしょうか。
上座がその場で最も地位の高い人が座る場所だから、下座は最も地位が低い人が座るということになります。
会社でいうなら、入社したばかりの新人が座るのが下座ということになります。
でも、本当に地位の上下だけで上座と下座が決定するのでしょうか。
どうもそうではないように思われます。
今回は下座の本当の意味について解説します。
上座から知ろう!下座とはどんな席?
もう知っている人も多いでしょうが、1つの部屋の中で上座になる席は、入り口から一番遠い席です。
床の間があるなら、床の間の前に背中を向けて座る席ですし、仏壇があるなら、仏壇の側の席です。
また庭がキレイに眺められる席も上座になります。
上座というのは出入り口の騒がしさが伝わらず、落ち着ける席ということになります。
下座はその反対で、出入り口に一番近い席になります。
武士が活躍した時代には、出入り口の近くは安全が保証できない場所でもありました。
いつ誰が侵入してくるかも知れないので身分の高い人は出入り口から一番遠い席に座ってもらったのです。
また、自分はある程度庭から離れていないと、キレイに庭を眺めることはできませんから、庭がキレイに眺められる席というのは、侵入者にすぐ気が付いて逃げられる安全な席でした。
ちなみに仏壇というのは、もともと家の中で一番の上座にあるものでした。
だから仏壇の側というのは、その部屋の中の上座になるわけです。
上座に座る人に対して、下座に座る人は、いざというとき侵入から身分の高い人を守る役割を果たせる人だったわけです。
そして現在、宴会などが行われる際の下座というのは、配膳の手伝いをしたり、注文を取ったりしやすい席ということができます。
立ち働くことが苦にならず、気働きがきく人の座る席が下座ということになります。
これはある程度社会経験を積んだ人に最適な席で、新入社員が座るには気が重い席ともいえます。
また、上座というのは出入り口から離れているために、一度入ってしまうと出るのが大変です。
自由に移動して、多くの人と話したい場合には上座は向かない席です。
また女性の場合は、トイレに行きにくい席だともいえます。
上座と比べて下座は、働く人の席ですが、それだけ自由な席です。
上座と下座は今の時代、身分や地位だけで決めるわけではないということが、わかって頂けたのではないでしょうか。
歌舞伎にも絶対に必要だった?下座があるから上座がある?
下座と書いて、しもざではなく「げざ」と読む場合があります。
これは歌舞伎用語で、歌舞伎の演出効果を高めるための音楽を演奏する場所のことです。
この場所が舞台下手(向かって左)にあったため、下座と呼ばれ、演奏される音楽は下座音楽と呼ばれました。
最初は音楽を演奏する人も舞台に出ていましたが、よりよい演出のために舞台から退き、下座ができたといわれています。
歌舞伎の舞台のために、下座は無くてはならないものです。
これは下座(しもざ)にも通じるものがあります。
宴会も会議も上座に座る人たちだけでは、進みません。
進んでいくのは、下座の人たちの働きがあるからです。
下座があるから上座が存在できるので、切り離して考えることはできません。
名前に上と下が入っているので、つい比べたくなりますが、身分や地位の違いで片付けてはいけないことがわかりますね。
年長の人を敬う気持ちを表そう!誰かを大切にするとき、下座に座るわけとは
今の時代でも、上座と下座に気を付けたい場合があります。
もしも自分がある程度の年齢を越えていて、上座に通されたなら、周りに気を遣わせないように、ゆったりと座る気持ちが大切です。
上座なんて自分には似合わないし、座ってしまうと動けなくてつまらないと思う人がいるかも知れませんが、年長の人に気を遣っている若い人の気持ちを汲んであげましょう。
逆に若い人にとって、誰かに上座に座ってもらうのは、年長の人を敬う気持ちを形にしてみせるチャンスです。
上座、下座の風習は特に若い人たちには、人気がないようですが、自分より年長の人を敬うことはやはり大切ではないでしょうか。
確かに年を取っているから、偉いということは決してありません。
でも、自分より年長の人は自分が経験したことのない時間を経験しています。
そこから得たものが年長の人には必ずあるはずです。
自分は経験したことがないことについて、実感のこもった経験談を聞けるのは、やはり年長の人たちからです。
そのときは素直に耳に入ってこないかも知れませんが、後になってから納得できることというのはあるものです。
年長の人たちの話を、時代に合わない、うるさいなどといって切り捨ててしまうのは、何とももったいない話です。
誰かが上座に座り、下座に座った人はその場で精一杯の気遣いを見せることでたくさんのことが年長の人たちから、若い人へと受け継がれていくのではないでしょうか。
昔から私たちは、誰かを大切にするときは「下にも置かない」と表現してきました。
これは誰かを丁寧に扱うとき、丁重にもてなしをするときを表現した言葉で、「下座に座らせない」ことを意味しているそうです。
私たちは誰かを丁寧に扱いたいと思うとき、自分が下座に座ろうと思うのかも知れませんね。
下座に座る心が大切!下座は精神の修行になる?
下座に座ることは人間の精神にも影響を与えます。
本来人間は自分が一番大切という、傲慢な心を持っています。
そのままでは、他人から何かを学ぶのは難しいでしょう。
そこで自分を一段人よりも低い位置に置くことで、傲慢な心を無くすのです。
人が嫌がる仕事、人が顧みない仕事を黙々とこなすことも下座の精神にかなった修行といえます。
これを「下座行(この場合はげざぎょうと読みます)」と呼んで実践している人たちもいるほどです。
宴会場や会議場に上座、下座があることに何の意味も見出だせないときは、少し自分の心 の中を覗いてみたほうがよいかも知れません。
下座に座ることで学べるチャンスがあるのに、それを拒んでしまうなら、自分の心の中に拒む何かがあるのかも知れません。
心の中の何かが傲慢さでないことを祈るばかりです。
あなたとコミュニケーションを取りたい!仲良くしたい気持ちが上座と下座の原点!
個人の自宅にお客様を招くとき、お客様には上座に座ってもらいます。
今は和室が少なくなり、床の間や仏壇がある家もあまりありません。
フローリングで椅子に座る洋風の生活になりました。
西洋には日本の上座、下座に当たるような言葉はありませんが、暖炉がある部屋の場合、炎から離れる程、席の格は下がるということです。
またソファにも上座があります。
一人がけのソファよりも3人がけのソファのほうが上座になります。
これはゆったり座って寛いで欲しいというお客様への心遣いです。
国は違っても、お客様によい席に座って寛いで欲しいという思いは共通のようです。
お客様を迎えて、自分が下座に座るとき、風習だからそうしないといけない、と考えてする人はあまりいないのではないでしょうか。
お客様に寛いで欲しい、そして自分と一緒に楽しく過ごして欲しいと思うからそうするのです。
自分が下座に座るということは、くだらないしきたりではありません。
上座と下座は、この人と楽しく付き合いたい、話をしたいと思うからできたものだと思われてならないのです。
まとめ
今回は下座について解説しました。
下座に座るということの本当の意味について説明しましたから、機会があったら、嫌がらずに座ってみてください。
きっと何か得るものがありますよ。
宴会や会議で精神の修行ができると思えば、何だかお得な気分になりますね。
その上、年長の人の体験談から得るものがあるなら、それは自分にとってかなりの得になります。
下座に座ることがきっかけになって、人生が豊かになるかも知れません。
上座と下座は確かに昔からあるしきたりですが、あまり難しく考えないでください。
自分なら、この部屋のどこが落ち着けるだろう、と考えれば自然と上座の位置はわかってくるものです。
ぜひ年長の方には「この席なら、一番落ち着けますよ。」「一番暖かい(涼しい)ですよ」という心のこもった一言とともに席に案内してあげてくださいいね。