『酉の市』というと飾りが豪華で一目みただけでは熊手とは分からないような飾り熊手が売られるので有名ですが、酉の市の由来についてはあまり知らない方も多いのではないでしょうか。どうして酉というのか、飾りのたくさんついた熊手が売られるのかまた、熊手の購入に決まりがあるのかについてもご紹介していきます。
由来を紹介『酉の市』
『酉の市』というと賑やかな年の瀬や大きな飾り物のイメージがある方も多いかもしれませんが、酉の市の由来や飾り熊手との関係は知らないことが多いですね。酉の市は、神社やお寺の名前に鳥が付く関東地方を中心とした社寺で行われる行事の一つです。鷲神社(浅草)、大鷲神社(足立区花畑)、花園神社(新宿)、大國魂神社(東京都府中市)、鷲宮神社(埼玉県久喜市)、酉の寺という別名を持つ長國寺などが有名ですね。鳥といっても鳥そのものの字ではなく鷲と書いて鳥と読んだりするので、浅草の鷲神社はおおとりじんじゃ、大鷲神社もおおとりじんじゃと読みます。一方で埼玉県久喜市の鷲宮神社はわしみやじんじゃと読みますます。こうした社寺で11月の酉の日に行われる行事で、神社では例大祭として行われています。鷲という字を『わし』とは読まずに『とり』と読むなんて知らないと読めないですね。
鷲神社は、日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀る神社で、東国平定の際に戦勝を祈願したことから武運長久、開運、商売繁盛の神として信仰されています。
関東地方では、鷲神社の本社は、埼玉県久喜市の鷲宮神社で、12月に大酉祭が行われていますが、大鷲神社で行われた収穫祭が現在盛んにおこなわれている酉の市の発祥といわれています。(関西では大阪府堺市の大鳥神社を総本社としています)埼玉県の鷲宮神社が戦勝を祈願したのに対して東京の大鷲神社と鷲神社は、戦勝を祝して日本武尊がお参りしたと伝えられている点が違いです。
埼玉県の鷲宮神社なんて初めて聞いたという方も多いと思いますが、実はこの神社は最近別の事で有名になった神社でもあります。アニメのラキスタの聖地と言われ、例大祭では、ラキスタの御神輿が担がれたこともあるのです。古い歴史のある神社がアニメという新しいもの、しかも架空のお話しの聖地巡礼の対象となるなんてなんだか不思議ですが、新しいものと歴史あるものが一緒に一つのことを作り上げていくのは、酉の市の熊手に通じるような気がしますね。
酉の市は、鷲神社と酉の寺長國寺も有名ですが、現在では、特に浅草の鷲神社、新宿の花園神社、府中市の大國魂神社が有名です。それぞれの神社では神楽が奉納されますが、神社により時間や演目が異なります。すべて同じ神楽を奉納することもあれば時間により演目が違うこともあります。例えば、鷲神社や目黒の大鳥神社はすべて同じ演目の神楽を奉納します。練間大鳥神社は時間により奉納される神楽が違います。例大祭に参加する1つの見どころに神楽がありますので、どんな演目でいつ行われるかは予め確認してから足を運ぶといいですね。
これに対して、名古屋の稲園山七寺などで行われているえびす講、恵比寿祭りとは、神無月に出雲大社に行かない留守の神様とされた恵比寿神を祀って五穀豊穣、商売繁盛を祈願するもので、行われる時期が近いことと縁起熊手があるため混同されることが多いのですが、お祀りしている神様も違い別のものと考えるのが一般的です。
酉の市の時期
11月の酉の日に行うのが酉の市です。これは神社にお祀りしている日本武尊が亡くなったといわれる日に由来します。一方、長國寺では、鷲妙見大菩薩が現れた11月の酉の日に由来しています。
関東三大酉の市を含めて関東では、11月の酉の日に行われているところも多くありますが、12月に行われるところもあります。酉の市からお正月や新年に向けた準備をし始めることが多いため、酉の市が行われると年末が近づいたと感じるのですね。また、酉の市の酉は、十干十二支を当てて定める日付け法のうち酉が付く日のことで、12日に1度巡ってきます。12支は年だけでなく日にも割り振られていて、月によっては同じ支が3回巡ってくることもあります。
1回目を『1の酉』、2回目を『2の酉』、3回巡ってきた場合は、『3の酉』と言います。11月に酉の日が2回であれば2回、3回あれば3回例大祭としての酉の市を行います。夜遅くまで露店がにぎわい、縁起物の熊手を売っています。神社ではお守りとしての熊手もあります。酉の市を行う回数は暦で決まり6日までに酉の日が入る確率は50%なので、3の酉が行われるのも隔年。3の酉では『火の用心』と書かれた熊手が販売されるのも特徴です。
三の酉は火事が多いってどういうこと
三の酉は火事が多いと言われていますが実際には、三の酉の火事が多いという統計はありません。なぜ火事が多いと言われるようになったのか、実ははっきりと分かってはいないのです。
東京消防庁のホームページに3の酉と火事に関する記述がありますが、吉原の大火などの記録に残るような大火事が3の酉に起こったということはない、と書かれています。ちなみに吉原の大火は、明治44年4月9日でこの年は3の酉ではありませんでした。
火事が多いといわれる由来の1つとして、吉原のすぐ近くにある大鷲神社で酉の市を行う際に、吉原の遊郭の門を開けて行き来がしやすいようにしていたことから、酉の市の参拝後に吉原に行く男性が多かったといわれています。これを嫌った女性たちが3の酉は火事が多いからと、酉の市にかかりきりになる男衆を牽制したことが由来とも伝えられています。女性の知恵による火事が多い説というのは何とも面白いですね。
またこの他には関東地方では、木枯らしが吹いたり、関東の空っ風といわれる風の強い日が多くなることから、火の用心を促すために火事が多い説ができたともいわれています。
熊手の由緒
熊手は、農業に使う道具で、酉の市がもともと農具や農作物を販売する市であったことと関係します。熊手は広がったクマの手のような部分で落ち葉などをかき集めるのに使われる道具ですが、これが『お金や客をかき集める』縁起物となり、商売繁盛や開運を記念して縁起の良い宝船や米俵千両箱、大黒様、鶴や亀など思いつく縁起の良いものが飾り付けられた熊手がお守りとして渡されるようになり、それが露店でも販売されているのです。例大祭を行う神社では小さな竹熊手に稲穂や札、扇をつけた『熊手守り』が用意され、福を掃き込む、かきこむから『かっこめ』と呼ばれています。
露店では、運も金銀もかき集められる縁起の良い道具として縁起熊手と呼ばれる縁起の良い物がたくさん飾られた大小さまざまな熊手が販売されています。その他の由来としては、熊手は鷲が獲物をつかむ爪にも似ていることから『幸福や運を鷲掴みにする力がある』とも考えられているのです。
そしてこの縁起熊手ですが、お守りと同じように毎年買い替えるのが基本で、毎年少しずつ運をアップさせるために、熊手のサイズも大きくするのが良いといわれています。その為小さいサイズの熊手から買うのがポイントです。購入した熊手は高く持ち上げて帰宅し玄関や神棚、仏壇など家の中の高いところに飾ってくださいね。だんだんと大きいサイズの熊手を買うのが良いとされてはいますが、飾るスペースの問題もあるかと思いますので、あくまでも考え方を参考にするとよいですね。また、飾りの種類もたくさんあるうえ、同じおかめでも顔が違うので、お気に入りの飾りのついた熊手を見つけるのも楽しみの一つです。なお、露店の熊手と神社の札所で扱う熊手守りは別のものです。
酉の市といえば 縁起物
元々は農業祭であった酉の市。収穫物を供えたり販売したりしていました。現在でも縁起物といわれる八頭(やつがしら)という里芋が名物として販売されています。この里芋は、頭(とう)のいもと呼ばれていて『出世頭』という意味や、子芋をたくさんつけることから『多産』『豊作』を連想させ、『子孫繁栄』の縁起物として扱われています。
黄金餅は食べると大金持ちになるといわれた粟餅の別名といわれるお餅です。色が黄色く小判型に作ったため、小判に似たお餅で食べるとお金持ちになれる縁起の良い食べ物として販売されていました。
江戸時代の後期になると切山椒というお餅が縁起物として有名になりました。食べると風邪をひかないという酉の市の名物の1つです。その他に山椒には独特の香りとたくさん実をつけることから魔除けの意味もあります。短冊形をした赤、青、白、黄色などの色とりどりのお餅で、山椒を入れて作られているために食べるとすうっとするのが特徴のお正月用のお菓子です。
切山椒は、夏目漱石も食べていたという記録も残っていて、今もお正月のお菓子として和菓子屋さんで販売されています。和菓子屋さんでは、季節ごとの和菓子が用意されるため、時期が過ぎると、余程の定番商品でない限り翌年までお目にかかれません。購入する場合は確認が必要です。
山椒はピリリとするので、お菓子に使われるのはあまり多くはありませんが、縁起を担ぐお菓子として、お茶事の新年の和菓子として使われています。切山椒は新年の季語にもなっています。
まとめ
- 『酉の市』は11月の酉の日に鷲、鳥に由来する神社やお寺で行われる例大祭です。
- 神社とお寺それぞれ由来が異なります。
- 神社は日本武尊を祀り、酉の日にちなんで例大祭を行っています。
- 酉の市では、商売繁盛や開運を祈念する縁起熊手が有名です。
11月の酉の日に行われる酉の市は、酉の日の数に合わせて行われているため年により開催回数が異なります。縁起熊手の意味やサイズの考え方など独特なものがありますので、各地で開かれる酉の市を楽しむ参考にしてください。