今よりも少し前の時代、上品な女性は夫の帰りを三つ指ついて出迎えたといわれています。
年配の人にはなじみがある「三つ指ついて」という言葉ですが、実際にどんな意味なのかあらためて考えてみると、ハッキリとはわからない人が多いでしょう。
でも、三つ指ついて行うのはどんなあいさつなのかを考えると、日本の昔から伝わるあいさつ、お辞儀について理解が深まります。
今回は三つ指ついて、という言葉を解説します。
三つ指ついて行うあいさつの意味や、使い方を説明します。
お辞儀の方法についても説明しますから、きっと役に立ちますよ。
三つ指をついた理由!より深いコミュニケーションのため?
今、お辞儀は立って行うことが多くなっていますが、日本人は畳の部屋で座る生活をしてきましたから、正式なお辞儀は座ったままで行っていました。これを座礼といいます。
座礼では正座をして、お辞儀をします。
自分でも座ったままでお辞儀をしてみるとわかりますが、相手に敬意を表して深く頭を下げると、そのままではバランスが取れなくなっていきます。
そこで自然とバランスを取るために、自分の膝の前に手をつく、という動作をします。
手のひら全体を床につけるのが正式な手のつき方です。
両手の指先で三角形を作るように手をついて、その三角形に鼻を入れるような気持ちで上半身を傾けていくと、正しいお辞儀ができます。
このようなお辞儀をしていると、自分は下ばかり向いていることになり、あいさつをしている相手の表情はよくわかりません。
お殿様と家来であるなら別ですが、現在ではお辞儀をしてあいさつをするのは相手とコミュニケーションをとりたいからですから、下ばかり向いていないで、相手の顔を見たくなるはずです。
先ほどの手のひらを床につけた姿勢から顔だけを持ち上げると、自然と手のひらが床から離れ、指先だけが床につきます。どうやら三つ指ついて、といわれるあいさつは、相手の顔を見るためのお辞儀のことらしいとわかってきます。
三つ指ついての意味!三つ指って何指のこと?
三つ指ついてとは、辞書によれば親指、人差し指、中指を床につける丁寧なあいさつを意味しています。
この3本の指だけを床につけて座礼をするのは、不自然でやりにくいと感じる人が多いでしょう。これは手のひら全体が床につくほど時間をかけない、軽いあいさつだったと考えられます。
実際に茶道では軽いお辞儀をするときに、指先を床につけることがあるそうです。
このとき床につくのは、人差し指、中指、薬指だそうですが、こちらの方が三つ指をつく状態としては自然ですね。
女性が夫の帰りを三つ指ついて出迎えたのは、家庭の中なので正式なお辞儀をするほどではないけれど、夫への敬意を表すためにちょうどよいあいさつだったからでしょう。
正式ではないから、あいさつするときに三つ指はつくべきではないという意見もあります。
でも、正式ではなくても普通の人々が取り入れやすいあいさつだから、今でも残っているわけです。家の中では少し気楽にあいさつをすることがあっても、よいのではないでしょうか。
家庭の中でも丁寧なあいさつを心がけることには、大きなメリットがあるのです。
三つ指ついての使い方!こんなメリットがあった!
今でも畳とふすまのある和室がある家は珍しくありません。
でも、ふすまは今やすっかり立って開け閉めするものになっています。
実は部屋の中にお客様がいらっしゃる場合に、ふすまを立って開けるのではお客様を見下ろすことになってしまいます。
ふすまは座って両手を使って開けますが、お客様がいらっしゃるときに自然に座ってふすまを開けられるようになるためには、普段から和室での立ち居振る舞いに慣れておくことが必要です。
そうでなければ和室でお客様をお迎えするときに、立ったままお辞儀をする人が出て来る怖れがあります。
三つ指ついてあいさつをする習慣があれば、和室での立ち居振る舞いに慣れて、自信が持てるようになるはずです。
三つ指ついて行うあいさつは正式なものではないと、自分でもわかっていることは必要ですが、普段からこのような立ち居振る舞いに慣れている人は、場面に応じて必要なお辞儀を使い分けることができるはずです。
辞書によれば、三つ指ついてという言葉は女性に使われることが多かったようです。
家の中では何かと忙しくしていた昔の女性が、それでもお辞儀をしてお客様や家族を迎えたかったために広まったのが、三つ指ついてあいさつをすることだったのだと想像できます。
確かに正式な座礼は堅苦しい雰囲気があるため、普段の生活ではなかなか行う機会がありませんが、三つ指をついて行うあいさつなら、普段の生活に取り入れることができます。
まず実行してみるのが、「三つ指ついて」の正しい使い方かもしれませんね。
実行してみると普段の生活の中でも丁寧にふるまい、あいさつをすることの大切さがわかりますよ。
三つ指ついてあいさつ!使い分けが大切!ふさわしい場面とは?
それでは正式な座礼を使うのはどんな場面でしょうか。まずは頭を深く下げる必要がある場面を思い出しましょう。
心からおわび、またはお礼をするときには、頭を深く下げる必要があるし、自分でも自然にそうしてしまうはずです。そして頭を下げながら相手とおしゃべりしたいという気持ちにはならないでしょう。
このような場面では、手のひら全体を床につける正式な座礼をしましょう。
座礼のときに、手を先についてから頭を下げる人がいますが、まずは頭を下げます。
相手への敬意や感謝、申し訳無さで頭が自然に下がってくるのが座礼の第1段階です。
あくまでも手は、自然に下がってきた頭とのバランスを取るためにつきます。
頭を下げるときには、背中の力を使います。頭を支えている首と背中を真っすぐにしたまま、前に傾けていきましょう。こうすると美しい姿勢のまま頭を下げることができます。
頭、首、背中の上半身を傾けていくと、ふとももに置いていた手が前にすべり、最終的には床につくのだと考えてください。
反対に三つ指をつく場合は、相手の顔を見ながらコミュニケーションを取ることが大切です。
三つ指をつきながら、顔は下を向いたままというのでは、自分もやりにくいし、お辞儀としても不自然になってしまいます。
もう何度もあって気心が知れた相手を出迎えるときなど、正式な座礼で深々とお辞儀をするのも水臭い場合には、あなたとおしゃべりするのが待ちきれません、という気持ちを前面に押し出すように三つ指ついてお出迎えをしましょう。
親しい気持ちが相手にも伝わって、より親しい間柄になれるはずです。
それでも三つ指をつくことによって、必要最低限のけじめをつけることができます。
三つ指ついてあいさつすることは、大人のお付き合いを親しみやすくする一方、なれ合いをおさえるとても便利なあいさつの方法なのです。
礼儀やマナーは時代とともに変化する!三つ指ついて行うあいさつも!
礼儀やマナーは時代とともに変化します。
茶道の世界でも明治になって外国からのお客様にお茶を差し上げるときに、椅子に腰掛けたままいただける立礼式が考案されました。
最初はあくまでも正座ができない外国のお客様のためのものでしたが、今は正座が苦しくなったお年寄りや足の悪い人がお茶を楽しむために、立礼式を支持することが多くなっています。
茶道のマナーには、正座が絶対に必要ではなくなりました。
礼儀やマナーは人が気持ちよく生活するためのものなので、人を置いてきぼりにはできません。人の生活が変化すれば、変化をするのが当然です。
三つ指ついて行うあいさつも、今は正式ではないといわれていますが、これからは自宅でお客様を迎えるときの正式なマナーになることもあるでしょう。
礼儀やマナーは正しいのか、間違っているのかにこだわりたくなりますが、正しいというだけではマナーの意味がありません。人と人が気持ちよくお付き合いをしていくためには、人に丁寧に接する気持ち、仲よくしたいと願う気持ちが必要で、これがマナーの源です。
三つ指ついてあいさつすることが正式ではなくても、人と気持ちのよいお付き合いができれば、それだけで人生は楽しくなり、人生の悩みの半分以上はなくなってしまうはずです。
まとめ
今回は三つ指ついて、という言葉について解説しました。
三つ指ついて行うあいさつの意味や使い方、三つ指は何指のことなのか、まで説明しました。
家庭の中でも三つ指ついて、丁寧にあいさつをすることが増えれば、自分の態度が変わってくるはずです。
自分の態度が変わってくると人生も変わってきます。
ぜひ三つ指ついてあいさつすることを試してみましょう。
もちろん使い方を間違えないように、正式な座礼の仕方も少しは、頭の片隅に置いておいてくださいね。