丑の刻参り。それは、色恋沙汰の妬みや憎しみの念を晴らすべく、草木も眠る丑三つ時に、神社の神木や鳥居に藁人形を打ちつける呪術です。
古めかしい呪いの方法ですが、妖怪や神々に対する信仰が薄れた現代でもなお、丑の刻参りは実行されているようです。
この記事では、丑の刻参りの意味や由来、具体的なやり方、犯罪性の有無、そして現場を目撃してしまった際の対処法などを紹介します。
丑の刻参りの意味とは
丑の刻参りとは、藁人形を用いた呪術の一種です。
藁人形に呪殺したい対象の一部(髪の毛や爪など)や関連物(写真や名刺など)、あるいは呪い紙(名前と年齢を記した紙切れ)を仕込み、その藁人形に釘を打ちつけることで、呪いとして害を為すことが目的です。
呪術の種類としては、類感呪術(類似した同士は、互いに影響しあうという考えに基づく)に該当します。
丑の刻参りのやり方には型があり、衣装・道具・場所・時間帯などが定められています。
丑の刻参りが始まった由来
一般的に知られている丑の刻参りの型は、「宇治の橋姫」に由来しています。
「平家物語」の読み物として編纂された異本である剣の巻では、橋姫は、もともと公卿の娘として登場します。
ある日、娘は、とある女性に強烈な嫉妬と憎しみの情を覚えます。具体的な理由は省略されていますが、恐らく意中の男性を取られてしまったのでしょう。
娘は神社に参拝して、呪詛の神として知られていた明神に「大明神よ、私を鬼にしてください。あの女を取り殺してやりたいのです」と7日間も祈りを捧げます。すると、明神は哀れに感じて「本当に鬼になりたいのなら、装いを変えて、宇治川に浸かって21日間を過ごしなさい」と告げます。
娘は都に帰ると、言われた通りに装いを変えます。紙を5本に分けて角のように見立て、顔や体を真っ赤に塗り、3本足の鉄輪を逆さまに被り、鉄輪の足に松明をかざし、両端に火を灯した松明をくわえます。
娘は異様な恰好で宇治川に浸かり、21日間を過ごします。ついには、生きながらに鬼と化しました。この鬼こそ、橋姫です。
橋姫は、憎んでいた女性を殺し、その女性の縁者も殺し、しまいには誰彼構わず殺すようになりました。
この「宇治の橋姫」を元にして、陰陽道の呪術の要素などが取り入れられていきます。江戸時代には、今のような丑の刻参りの型が出来ていたそうです。
「宇治の橋姫」に藁人形は登場しませんが、人型の何かを呪殺対象に見立てる方法は、古くから存在していました。
8世紀の木製の人形代(ひとがたしろ)の中には、鉄釘が胸に打ち込まれた物も出土しています。島根県松江市のタテチョウ遺跡から出土した木札には、女性らしき姿が描かれており、3本の木釘が打たれていました。
丑の刻参りによって起きる呪いの効果
丑の刻参りの呪いは、類感呪術を基本としています。
藁人形の特定の部位に釘を打ちつけることで、呪殺対象の同じ部位に害を及ぼせると仮定しています。たとえば、藁人形の胸に釘を打ちつければ、呪殺対象の胸にも何かしらの害が起きると考えられています。
しかし、藁人形を使った呪いの効果については、科学的な根拠は一切ありません。
丑の刻参りは犯罪に該当するのか
藁人形に釘を打ちこむことで、相手を呪殺しようとすること自体は、罪に問われません。呪術の効果を科学的に実証できないので、不能犯として扱われます。
ただし、丑の刻参りは、住居侵入罪と器物損壊罪に該当します。
住居侵入罪(または不法侵入)とは、正当な理由もなく他人の住居に侵入した際に成立する犯罪です。丑の刻参りは神社でおこなわれるものですが、神社は私有地である場合が多いです。真夜中に呪殺目的で侵入した場合は、管理者が警察に通報すると、住居侵入罪が成立します。
器物損壊罪とは、他人の所有物を損壊させる親告罪です。丑の刻参りの場合は、管理者に断りなく、神社の神木または鳥居に藁人形を打ちつけます。その際、打った釘が藁人形を貫通して、背面にある神木または鳥居を傷つけます。管理者が警察に通報した場合は、器物損壊罪が成立します。
また、呪殺対象に対して、事前・事後にかかわらず「お前を呪ってやる!」と告げた場合は、脅迫罪に該当します。丑の刻参りは、生命や身体に対する傷害を目的とした行為であるため、脅迫罪の条件に該当するからです。
丑の刻参りに関する逮捕事例
丑の刻参りに関して、実際に逮捕された事例が存在します。
たとえば、1954年、秋田県秋田市に住んでいる女性が逮捕されました。男性に対して「お前を丑の刻参りで呪い殺す」という旨の脅迫をおこなったので、脅迫罪となりました。
似た事例としては、2017年、東京都江戸川区に住んでいる男性が逮捕されました。この男性は、紙に「クソがきどもここからとびおりてみんな死ね」と書いて人形(枯れた松の葉を束ねた物)に貼りつけ、その人形を自宅の近くにある歩道橋に吊るしました。間接的な脅迫ですが、これも脅迫罪となりました。
丑の刻参りに必要な道具と服装
丑の刻参りをおこなうためには、いくつかの道具が必要です。また、決められた格好に着替えます。道具も恰好も、人間時代の橋姫の参拝姿が元になっています。
【必要な道具】
- 白装束
- 白粉
- 五徳(または鉄輪)
- 蝋燭(3本以上)
- 櫛
- 護り刀
- 一本歯の下駄(あるいは高下駄)
- 藁人形
- 呪殺対象の一部(髪の毛や爪など)または呪い紙(名前と年齢を書いた紙)あるいは関連物(写真や名刺など)
- 五寸釘
- 木槌または金槌
- 鏡
【服装】
- 頭に逆さまの五徳(あるいは鉄輪)を被り、五徳の脚に蝋燭を立てて、火をつける。髪の毛は、グシャグシャに乱しておく。
- 顔全体に白粉を塗る。お歯黒にして、赤い口紅を塗り、櫛を咥える。
- 白装束を着て、護り刀を身につける。
- 首から胸の前に、魔除けのための鏡をぶら下げる。
- 一本下駄(あるいは高下駄)を履く。
【藁人形の作り方】
- 20~30cmの紐を10本ほど用意する。
- 藁を集めて、直径1.5~2cmの藁束を作る。大雑把で構わない。
- 藁束の端から2cmほど離れた位置を紐で固く縛る。
- 縛り目から10cmほど離れた位置を紐で固く縛る。その縛り目から2cmほど離れた位置をハサミで切って、1本の藁束を作る。
- 藁束の両端の縛り目の間に、さらに2つの縛り目を作る。4つの縛り目が等間隔に並ぶようにすること。この藁束が両腕になる。
- バラの状態の藁を集めて、再び直径1.5~2cmの藁束を作る。
- 藁束の端から約2cmの位置を縛り、そこから2cmほど離れた位置も縛る。
- 藁束の真ん中から分けて、最初に作った両腕の藁束を挟みこむ。
- 両腕の藁束を挟んだ位置のすぐ下を縛ることで、腕が動かないように固定する。(腰の作成)
- 腰の結び目から2cmほど離れた位置を縛る。(股間の作成)
- 藁束を真ん中から分けて、両足を作っていく。股間に当たる結び目から約4cmの位置を縛る。反対側の足も、同じように縛る。(膝の作成)
- 膝の結び目から4cmほど離れた位置を縛る。反対側の足も、同じように縛る。(足首の作成)
- 足首の結び目から1cmほど離れた位置にハサミを入れて、余分な藁束を切り捨てる。反対側の足も、同じように余分な藁束を切り捨てる。
- 全体の結び目の位置を微調整したら、完成。
丑の刻参りのやり方と手順
丑の刻参りは、正確には丑三つ時におこないます。丑三つ時は、午前2時~午前2時30分を意味します。
場所は、神社でおこないます。傾向としては、恋愛関係や満願成就の御利益がある神社が選ばれやすいようです。
まずは、自宅で冷水を頭から被ったり、神社内の清めの水を使ったりして、体を清めます。次に、丑の刻参り用の恰好に着替えて、藁人形などの道具を持ちます。
神社の神木または鳥居の前に到着したら、自分が北東を向くように位置を調整します。北東は鬼門であるため、魔の力を借りやすいと考えられるからです。
位置が決まったら、藁人形を取り出して、五寸釘を何度も打ちつけます。この際、大声で呪殺対象の名前や罵言を叫びます。
釘打ちが終わったら、藁人形はその場に残していきます。次の日にやって来たら、再び釘打ちをおこないます。これを7日間に渡っておこないます。
丑の刻参りは、誰にも姿を見られてはいけません。もしも現場を見られた場合は、自身に呪いが跳ね返ってくると言われています。
もしも丑の刻参りを最後までやり遂げたら、トゲのある枝で火を起こして、藁人形を燃やします。藁人形が燃え尽きたら、その灰を容器に詰めて持ち去ります。その後、手で灰をすくって、道路の十字路にまきます。一般人に灰を踏みつけさせることで、丑の刻参りは完了します(蝋燭の火で燃やして、灰は神社にまくという説もあります)。
丑の刻参りは完遂が難しい呪術であり、呪いが跳ね返ってくる危険性もあります。危険性を考慮するなら、いわゆる呪術代行サービスを頼るのも1つの手かもしれません。
丑の刻参りの現場に出くわしてしまった場合の対処法
もしも、他人が丑の刻参りしている現場を撃してしまった場合は、なるべく音を立てないように注意しつつ、その場から迅速に逃げ去りましょう。悪戯心から石を投げたり、声をかけたりしてはいけません。
丑の刻参りを他人に見られた者は、目撃者を抹殺しなければ、自身に呪いが跳ね返ってくると言われています。もともと誰かを呪殺することを試みている人物ですから、正気ではありません。自身が呪い殺されないためにも、必死の覚悟で目撃者を殺しにかかるでしょう。
まとめ
丑の刻参りは、「宇治の橋姫」に陰陽道の呪術を加えた呪殺方法です。丑三つ時に神社に訪れ、7日間に渡って藁人形に五寸釘を打ちつけます。
類感呪術を基本としており、呪殺対象者の一部を含んだ藁人形を傷つけることで、対象に害を及ぼすことを目的にしています。
もしも丑の刻参りの現場を他人に見られた場合は、呪いが自身に跳ね返ってくると言われています。呪い返しを防ぐためには、目撃者を抹殺する必要があるとも言われています。
あなたが真夜中の神社で丑の刻参りの現場に出くわしてしまった場合は、物音を出さないように注意しながら、迅速に逃げ去りましょう。