故人の枕元に置く仏式の枕飾りの1つに、一本花があります。文字通り、花瓶に一本の花だけを挿したものです。
一本花もまた、葬儀に欠かすことの出来ない品物です。そこには、故人の魂を供養するためであったり、昔の葬法に関する事情が秘められていたりします。
この記事では、枕飾りとして一本花を飾る意味や由来、一本花に適した花の種類などを紹介します。
一本花を枕飾りとして供える意味とは
一本花とは、故人のために用意する仏式の枕飾りの1つです。花瓶に1本の花だけを挿して、故人の枕元に供えます。
一本だけの花を挿す理由には、いくつかの説があります。たとえば「花が故人の魂の依り代となるので、2本以上あると不都合」という説です。その他にも、「このような不幸は1度きりで充分」という意味を込めている説もあります。
一本花を枕飾りとして供えるようになった由来
故人に一本花を供えることは、釈迦の入滅に由来すると言われています。
釈迦の弟子である大迦葉(だいかしょう)は、1本の花を持ってやって来た僧侶(バラモン階級の出身)から、釈迦が入滅したことを知らせてもらいました。
この出来事から、一本花と入滅に関連性を見出すようになり、故人の枕元に供えるようになったようです。
一本花に適した花の種類
一本花に適した花は、樒(しきみ)もしくは菊です。
樒
一本花には、樒が使われることが多いです。その理由は、樒には「強い香り」と「強い毒性」があり、古くから葬儀で多用されてきたことが関係しています。
樒の強い香りは、遺体の死臭を消すために利用されてきました。枕飾りとしてだけでなく、納棺の際には遺体の下に敷くこともあります。また、樒の乾燥粉末は、線香や抹香の原料としても使われています。
樒の強い毒性は、遺体を土葬する際に役立っていました。昔は土葬が主流であり、動物に墓荒らしされることも珍しくありませんでした。そこで、毒性のある樒を供えることで、動物から遺体を守ろうとしたわけです。
ちなみに、樒の花言葉の1つは「猛毒」です。遺体を守るための花としては適していると言えます。
菊
樒についで、菊も一本花として使われることが多いです。
一本花に菊を使う理由には、さまざまな説があります。
- 菊の花の香りが線香に似ている。
- 皇室の紋章にも使われており、格式が高い。
- 非公式ながら国花とされており、格式が高い。
- 白菊を神式の献花に使用していた。
菊の花には、いくつかの色がありますが、全般の花言葉としては「高貴」「高潔」「高尚」という意味があります。故人の葬儀を厳かに執りおこないたい場合には適していると言えます。
一本花は誰が用意するのか
一本花は枕飾りの1つなので、基本的には遺族の方が用意します。
ただし、葬儀社が枕飾り一式を用意してくれることも多いので、その場合は葬儀社に任せるといいでしょう。
一本花に適した花はどこで買えるのか
遺族の側で枕飾りを用意する場合は、一本花に適した花を買ってくる必要があります。
菊は花屋で買いやすいですが、樒を取り扱っていない花屋は多いでしょう。
樒については、直売所や仏具店で購入する手もあります。しかし、手軽さと確実性を優先するならば、通販サイトを利用した方がいいでしょう。
一本花はいつからいつまで飾っておくのか
一本花は枕飾りなので、故人の臨終から通夜の祭壇を設置するまで飾っておきます。
神式の場合は2本の榊(さかき)を供える
ここまで、仏式の枕飾りとしての一本花について紹介して来ました。
混同されがちですが、仏式と神式では、枕飾りとして供える植物の種類や数が異なります。
神式の場合は、榊を供えます。2つの花瓶(榊立て)を用意して、それぞれに榊を1本ずつ挿します。花瓶は、神棚に供えるような山形の物を使います。
榊を供える理由
神棚にも見られるように、神式では、榊が重要な植物として扱われています。
常緑樹である榊は、年間を通して青々と茂っています。生い茂る葉は、生命力の象徴です。日本の神話の中では、榊を神聖な神木(神の依り代)として重視していたことが記載されています。また、榊は「神と人間の境界」にある木ともされてきました。
神道では「亡くなった方は氏神となり、家を守ってくれる」と考えられています。つまり、これから故人が氏神になるからこそ、枕飾りに榊を供えるわけです。
まとめ
枕飾りの一本花には、故人の魂の依り代であったり、「このような不幸は1度きりで充分」という意味が込められていたりします。
一本花を供えるようになった由来は、「大迦葉が1本の花を持ってやって来た僧侶から釈迦の入滅を知らされた」という説が挙げられます。
一本花として使う花の種類は、主に樒と菊です。風習を重んじるなら樒、格式を重んじるなら菊を選ぶといいでしょう。葬儀社に枕飾り一式を用意してもらえない場合は、通販サイトを利用して樒または菊を入手するといいでしょう。
一本花もまた、故人の魂の供養に欠かせないものです。故人にとって適切な花を選ぶことで、魂の安らかな成仏を願いましょう。