『雪待月』という言葉を聞いたことがありますか?なんて読んだらいいのでしょうか。これは、旧暦11月の異名の1つで『ゆきまちつき』と読みます。11月の異名として一般的に知られているのは『霜月』ですが、他にも異名があったなんて驚きですよね。11月が雪を待つ月というのは、なんだか少し早いような気もしますが、このような異名が付けられた由来や、他の異名についてもご紹介します。
雪待月は何て読むの?
『雪待月』という言葉を知っていますか。聞きなれない言葉ですが、『ゆきまちづき』、『ゆきまつつき』とよみ、旧暦11月の異名の一つです。雪を待つ月というと、今すぐに雪が降ってきそうなそんな寒さを感じる月の名称ですが、実際には11月は少しずつ冬に向かっていく時期ですね。この季節感のズレは、暦の違いからくるところが大きいのです。
旧暦というのは、明治の初めまで日本で使っていた太陽太陰暦のことで、1年が354日でした。太陽太陰暦は、月が地球の周りを1周する期間の29.53日を1か月としながら、季節とのずれを調整するために太陽暦を取り入れて4年に1回閏月を入れて季節と月のズレを調整する暦です。
一方現在の暦は、地球が太陽を一回りする周期を1年とする太陽暦を採用していて、1年は365日のため、月と季節感のズレはありません。ただ、天体としての月の動きとは無関係な暦なので、月の影響を受ける潮の満ち引きや動物・植物の変化には対応をしていません。さらに、旧暦から新暦に移行する際に、旧暦の明治5年12月3日が新暦の明治6年1月1日となったため、新暦では約1か月旧暦の季節を先取りすることになってしまいました。その影響で、旧暦の行事を1か月遅れの日程で行ったり、行事によっては旧暦で換算して行ったりしているのです。
雪待月の由来は?
旧暦11月は、冬支度を済ませて雪が降るのを待つ気候の月という意味で『雪待月』と呼ばれていました。新暦の季節感からするとピンと来ないこともあるかと思いますが、旧暦を新暦に換算すると1か月程度ずれます。12月ごろの気候を考えると冬支度も済んでいるころですね。
日本では旧暦の季節感のズレを修正するものとして24節気が使われていました。24節気というのは、地球から見た太陽の通り道である太陽黄道を15度ずつ24分割して1つの節気に割り当てたものです。それぞれの節気は約15日間で、立春、立夏、立秋、立冬など季節の特徴を表す名称がつけられています。
11月は24節気の霜降から立冬、小雪に当たります。霜降(そうこう)は晩秋になり、場所によっては早朝に霜が降りはじめるころで、立冬はまだ紅葉が見られる時期ですが、木枯らしも吹きはじめ少しずつ冬へと向かっていく時期です。小雪(しょうせつ)は雪が降るとしてもそんなに多くはないため小雪となったようで、冷え込みが厳しくなっていきます。
24節気は、旧暦の季節感のズレを補うものとして使われていましたが、元々中国で使われていたものなので、日本の気候とのズレがあるといわれています。こうしたズレはあるものの雪待月と24節気の3つの節気の季節感は概ねあっているように見えますね。
11月の異名
旧暦11月の異名といえば霜月と習ってきたのに、雪待月も11月の異名といわれるとなんだか違和感を覚えますね。実は、旧暦で使用していたのは、和風月明です。11月に当たる和風月明が霜月なのです。その他に月の異名があり、雪待月はその1つだったというわけ。そうなると気になるのが他にも月の異名があるのかということですが、もちろんたくさんあります。それぞれの由来はまちまちですが、季節や行事を表すもの、冬至に関係するものなどたくさんの月の異名をご紹介します。同じように月を表す言葉でも、なんだか心豊かになるような表現ですね。
- 仲冬(ちゅうとう):旧暦では冬は10月から12月で、11月はその真ん中なので冬の真ん中という意味で仲冬
- 神帰月、神来月(かみきづき、しんきづき):10月に出雲大社に出かけていた神様が戻ってくるという意味で神帰月
- 神楽月(かぐらづき):収穫を感謝する新嘗祭、翌年の豊作を願うお祭りが各地で行われ、神楽を行うことが多かったことから神楽月
- 雪見月(ゆきみづき):降っている雪を見る月
- 霜降月:霜が降りはじめる月
- 建子月(けんしつき):北斗七星の取っ手に当たる部分を建と言い、これが北を向いていてその方角を指す言葉として子、あわせて建子月
- 子月(ねづき):旧暦11月が冬至を含む月で、1年が新しく始まる1番目の月ということで12支の最初の月で子月
- 復月(ふくげつ):冬至を境にして昼の長さが長くなり、幸が訪れる、一陽来復といい、これを略したのが陽復で、復月
- 黄鐘(こうしょう):中国の音階の1番目の音で音律の基本の音
- 露隠の葉月(つゆごもりのはづき):寒くなって、露が凍って霜になって葉には見えなくなってしまうので、露隠の葉月
- 竜潜月(りゅうせんげつ):時の変化を竜になぞらえて捉え、始まりは潜龍、冬至が始まりなので竜潜月
その他にも由来がわかなない異名として、達月(たつげつ)、正冬(しょうとう)、霜天(そうてん)、新陽(しんよう)、章月(しょうげつ)、鴨月(おうげつ)(ちょふげつ)、天正月(てんしょうげつ)などがあります。
11月のお祭りといえば
11月といえば七五三と全国的には、唐津くんち(11月2日~4日)や伏見稲荷大社の火焚祭(11月8日)、七五三(11月15日)と勤労感謝の日の由来となっている新嘗祭が有名です。この他にも各地で五穀豊穣をお祝いするお祭りが行われますね。11月はの自然の特徴としては、紅葉狩りをしたり、空には鰯雲を見ることが多くなったり、木枯らし1号といわれる風がふき冬の到来を感じ冬支度を進める一方で、小春日和という温かい日があったりと変化に富んだ時期でもあります。ここでは、七五三と五穀豊穣を感謝するお祭りについてご紹介します。
七五三とは
七五三は子供の成長を祝って神社やお寺などにお参りする関東を中心とした年中行事でしたが、これが全国的に広まったものといわれています。5代将軍徳川綱吉(館林城主)の長男の健康を祝って始めたのが最初とする説が有力です。11月15日は、鬼宿日(鬼が出歩かない日)でお吉日とされていたことと、収穫を神に感謝する月で、その月の満月である15日に氏神身に収穫と子供の成長の感謝を合わせて行っていました。
この他にそもそも関東地方では、3歳は主に女の子が髪置きの儀としてそれまで髪をそっていたのを終了する儀として行い(男の子も行うことがある)、5歳は、袴儀として男の子が袴を着用し始める儀として行い、7歳は帯解きの儀として女の子が大人と同じ帯を結び始める儀として行っていました。3歳、5歳7歳を子供の厄年ととらえ無事の成長をお祝いするのが七五三の起源とする説もありますが、現在では子供の健やかな成長を祈願して行われることが多いですね。
五穀豊穣を感謝するお祭り
神社ではお祭りしている神様のご紳徳をたたえ、五穀豊穣などをお祈りするものとして例大祭が行われますが行われる日は、お祀りしている神様に関係深い日や神社の創祀された日が選ばれています。この例大祭は、2月の祈年祭、11月の新嘗祭と並んだ3大祭の一つです。11月に行われる例大祭として国の重要無形民俗文化財にも指定されている唐津神社の唐津くんちが有名ですね。五穀柎お嬢に感謝するお祭りとしては伏見稲荷の火焚祭も有名です。新嘗祭は、その年の豊作を感謝するお祭りで全国の神社で行われるのは11月23日です。
その他には、神無月に出雲大社に行かない留守の神様とされた恵比寿神を祀って五穀豊穣商売繁盛を祈願するのがえびす講で10月から11月に行われる行事の一つです。
11月の食材
収穫を感謝するお祭りが各地で行われる時期ですが、この時期においしくなる旬の食材といえば、しめじ、白菜、小松菜、長芋、かぶやカボチャですね。かぶは春にも出回りますが秋のかぶは甘みが増すといわれています。この時期の郷土食をいくつかご紹介します。
- 北海道のちゃんちゃん焼き:漁から上がった漁師さんが大きな鉄板に獲れたての鮭にキャベツやもやしなどの野菜をたっぷりのせて味噌とバターで蒸し焼きにする豪快な料理です。
- 福島県のざくざく:大根やニンジン、ゴボウなどの根菜にキノコやこんにゃくをざく切りにして煮込んだ醤油仕立てのお汁。お祭りなどでふるまわれます。
- 山梨県のほうとう:かぼちゃ、白菜、ニンジン、サトイモなどの野菜とこんにゃくとお肉を入れて煮込んだみそ仕立ての平打ちの面の入った料理。面を入れて煮込んでいるため全体にとろみがあり体が温まります。
- 熊本県つぼん汁:根菜類とシイタケ、こんにゃく、鶏肉、焼き豆腐やかまぼこを入れて秋祭の時に作られていた醤油仕立ての料理で、昔は壺に入れられていたため、つぼん汁といわれていました。
この時期は冬に向けて体が温まる料理が多いのが特徴ですね。
まとめ
- 『雪待月』は『ゆきまちつき』と読み、旧暦11月の異名の1つ。
- 11月の異名は、雪待月の他に雪見月、仲冬、神帰月、神楽月などたくさんありました。
- 11月には七五三の他五穀豊穣を感謝するお祭りや新嘗祭などのお祭りが各地の神社で行われています。
この時期に旬を迎える食材を利用した体の温まる郷土料理を楽しむのも冬支度をする雪待月らしい過ごし方ですね。