春一番をご存知でしょうか?春を連れて来る、春を知らせるなど明るくて良いイメージがありますが、実際はどんなものなのでしょうか?世間のイメージ通りなのでしょうか。ここでは、春一番とは一体何なのか、その意味や注意すべきことなどを中心にご紹介します。
春一番ってどんなもの?意味は?
春一番という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。春に関係するものということは、その名前から想像が付きますが、一体どんなものをいうのでしょうか?
春一番とは、日本の暦で春と呼ばれる季節に吹く特定の風をいいます。日本で吹く風には、春一番をはじめ、様々な名称があります。では、なぜこの名前が付いたのでしょうか?意味はあるのでしょうか?
春一番の語源は、諸説考えられます。中でも安政6年(1859年)の2月13日(現在の3月17日頃)に長崎県壱岐市の漁師が漁をしている最中、強風に煽られ船が転覆し、53名もの死者を出しました。この春の強風のことを漁師仲間達が「春一」や「春一番」と呼び注意していたことに由来するとした説が有力とされています。一方、この強風は長崎では元々「春一」と呼ばれていて、この事件をきっかけに広くその名が広まったという説もあります。いずれにしても、この春に起こった強風による転覆事件が語源となっており、今でも漁港近くの公園には「春一番の塔」が建てられています。
春一番という言葉が初めて新聞紙面に載ったのは、1963年2月15日で、朝日新聞の朝刊に「春の突風」という記事の中で紹介されました。そのため、2月15日が春一番の名付けの日とされています。
春一番はいつ頃吹く風をいうの?季節を告げる風って本当?
では、春に吹く強風である春一番は、具体的にいつ頃吹く風をいうのでしょうか?
春という名称が付いているため、季節を告げる風という印象ですが、まさにその通りで、暦の上で春である立春(2月4日頃)から春分(3月21日頃)までに吹く特定の南風を春一番といいます。
春一番と呼ばれる風になるには、様々な気象条件が重なり合っています。
特殊な気圧配置から起こる春一番の後には、寒の戻りがあり、春にむかって一歩進んだと思いきや、また冬へ逆戻りということが起こります。冬から春に変わるのは、亀の歩みのようにノロノロとゆっくりなのです。
季節の変わり目は、寒暖の差が激しくなりますので体調には充分注意しましょう。
春一番には条件があった!?
前述の様に、春一番はただ春に吹く風ではなく、特定の気象条件が重なり合っています。
この条件は、気象庁が定めていて、条件に合わなければ「該当なし」としてその年は観測されなかったという結果になってしまいます。
では、春一番の具体的な条件をみていきましょう。
- 立春から春分の間の期間である
- 日本海側に低気圧がある
- 南からの風である
- 風速がおよそ8メートル以上
- 気温が上昇すること
このように、春を告げる春一番の風は案外ハードルの高い条件が揃う必要があるのです。
冬は西高東低の気圧配置といわれるように、乾燥した冷たい空気を持つシベリア寒気団と呼ばれる高気圧が西に、低気圧が太平洋側の東に配置されています。春が近づくとこれが少しずつ崩れ、シベリア寒気団も勢力を弱めつつ中国大陸の北西方向へ移動していきます。そうすると、次第に東シナ海側にある低気圧が、日本海上を南西から西方面へ移動していきます。この時、太平洋高気圧が日本海低気圧に向かって吹くのが春一番です。
海と陸地の境目までは暖かい風が吹いているのに、陸上では冷たい空気が広くガードしていてなかなか南風が踏み込めないという面白い現象が起きている場合もあり、毎年「春一番はいつ吹いてくるのか?」と注目されています。
尚、同じような条件で何度も吹く場合、「春二番」「春三番」などと呼ぶこともあります。
春一番が吹く地域と吹かない地域があるって本当?
春一番は日本の春に観測される強風ですが、日本全国で必ず観測されるとは限りません。春一番が吹かない地域もあるのです。春一番は日本全国にある各気象台から観測・発表されているのですが、北海道、東北、沖縄では観測されていません。毎年全ての気象台で観測される訳では無く、一部の気象台でしか観測されない年も多いものです。そのため、基本的には「〇〇地方の春一番」と発表されています。一番直近で全気象台で観測されたのは2018年です。
関東地方では、1951年から春一番の観測が開始されましたが、その中でも最も早く春一番が吹いたのは1988年2月5日で、最も遅いのは1972年3月20日です。
尚、全国的には春一番と呼ばれていますが、北陸地方の能登半島付近では古くから春の最初に吹く暖かい南風のことを「ぼんぼろ風」と呼んでいます。
暖かさを運ぶ南風・・・だけではない危険な風の場合も?
春一番は春の暖かい風という穏やかなイメージですが、その印象とは真逆の非常に強い風で、それにより様々な事故や被害が起こっています。語源となった長崎の事件でも突風に煽られて漁船が転覆していますし、海難事故が起こりやすい危険な時期といわれています。また、暖かい風が強く吹くことで、雪山の雪が溶け、雪崩や融雪洪水なども引き起こす可能性があります。富士山などでも且つてはこの時期に雪崩による死者・行方不明者を出した事故がありました。その他にも、低気圧から延びた寒冷前線が大きな竜巻を起こし、電車脱線の事故を起こしたりもしました。日本海側の地域では、フェーン現象が起こりやすいことも知られています。フェーン現象により、2月なのに気温が25度を超える暖かさとなる場所もあります。フェーン現象は乾燥した強い風なので、時として大火を引き起こします。日本では、1952年に鳥取大火と呼ばれる火事がその代表といわれています。
これらのことから、春一番は「危険を知らせる南風」という認識もあります。
春一番では、杉などの花粉も酷く舞います。春一番が吹いた当日よりも、翌日の方が飛散量が多いため注意が必要です。花粉は一気に舞う事は無く、気温の暖かさで開き、強い風で更に舞います。そのため、春一番の暖かい風で開き、弱まった風でも舞いやすくなるのです。この他に、大気汚染物質であるPM2.5も舞いやすくなります。この時期は眼鏡やマスクでしっかりガードしましょう。
春一番に関する雑学はあるの?
春一番には様々な雑学があります。
例えば、前述のように春一番は日本全国どこでも吹くわけでは無く、主に関東地方・関西地方・九州地方の3地方で見られます。他の地域では全く観測されないという訳ではありませんが、地形の関係でなかなか観測されないのです。特に沖縄地方では、風速8メートル以上の暖かい風が日常的に吹いている為、春一番との見分けがつきません。東北から北の地方では、春の気候になるのが遅く、春分の日までに暖かい風が吹かない場合がほとんどです。
また、春一番という言葉は、昭和のアイドルグループが歌で唄ったことで多くの国民が知りました。耳馴染みの良い曲調と歌詞で、自然と国民の生活に馴染んでいったのです。
因みに、冬の初めに吹く冷たい北風は「木枯らし一号」と呼びます。
まとめ
春一番は、昔起きた長崎沖での漁船転覆事件から広まった春先に吹く強い南風をいいます。長崎では昔から春先の強風を「春一(はるいち)」などと呼んでおり、そこから春一番の名が付いたとされています。
春一番と呼ばれる風になるためには、幾つかの条件に合致する必要があり、条件に満たない場合、その年は「観測無し」とされます。日本では主に関東・関西・九州などで観測され、それ以外の地域では稀に観測される場所、観測されない場所とがあります。春を告げる暖かい南風という穏やかなイメージがありますが、実は吹き荒れる強風で、災害を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。また、春一番で少し暖かくなっても、その翌日はまた寒の戻りで寒くなることもあり、寒暖差にも注意しなくてはなりません。でも、春一番が吹けば、春はもうすぐそこまで近付いています。