やすらい花をご存知でしょうか?「花の名前なの?」と思う人が居るかも知れませんが、日本で古くから伝わる伝統的なお祭りです。京都で毎年行われているのですが、他の地域の人にはあまり馴染みがなく「全く知らない」という人もいるでしょう。では、一体どんなお祭りで、何をするのでしょうか?ここでは、やすらい花についてを詳しくご紹介します。
やすらい花とは一体何?由来や歴史は?
やすらい花とは、別名を「夜須礼(やすらい)」「鎮花祭」とも呼ばれる「やすらい祭り」のことをいいます。
平安時代の後期に、災害や疫病が蔓延し京の人々は非常に悩んでいました。当時は「天変地異は怨霊が原因である」と考えられており、怨霊を鎮めるために各地で御霊会・御霊祭が開かれていました。このやすらい花もその一種であり、陰暦の三月である桜の花が散り始める時期に疫病が流行ったため、花の霊を鎮めて無病息災祈願をしたのが由来です。桜の花が散り、花の精が陽気好きの疫病神を起こしたため、疫病が流行ると考えられていたのです。
鎌倉時代の後期にできた「百練抄」には、夜須礼についての記載が残されています。当時の祭りの様子は、「都名所図会」(安永9年)というものに記されています。
このように、歴史のあるやすらい花ですが、一体どこで行われているのでしょうか?
やすらい祭りは京都の神社でおこなわれる!
やすらい祭りは、京都の神社で行われています。主に今宮神社(紫野今宮町)、川上大神宮(西賀茂南川上町)、玄武神社(紫野雲林院町)、上賀茂(上賀茂岡本町)の4つの保存会で伝承されています。やすらい踊りやお囃子などは、それぞれの保存会で多少違いがありますが、どれも趣のある素敵なものです。
1987年(昭和62年)には、4つの保存会が揃って国の「重要無形民俗文化財」に指定されました。また、「京都三大奇祭」のひとつであるともいわれています。由来を知る限りでは、非常にシリアスな祭りであると想像できますが、なぜ奇祭と言われるのでしょうか?
実は、奇祭といわれる所以は、その見た目にありました。やすらい祭りでは練り衆と呼ばれる20数名の行列が町を練り歩きます。練り衆を先導する音頭取りや、笛や太鼓などで音を奏でるお囃子、舞いを踊る者がいますが、舞いを踊る者は鬼の姿をしているのです。子供は子鬼に扮して踊ります。赤と黒の斬バラ髪を振り乱し、赤い打掛を羽織り、白い袴を履き、太鼓や摺り鉦を鳴らしながら踊る姿は圧巻です。
コロナ禍こそ!!疫病退散!健康を願うお祭り
やすらい花では、次のように言い伝えられています。
【やすらい祭りの日が晴れれば、その年に京都で行われる祭事は全て晴れ、雨が降れば全て雨になる】
【桜や椿などの花で飾られた傘に入ると、疫病から守られ、その年は健康に過ごせる】
【赤ちゃんは初めてのやすらい祭りで花傘に入ると、一生健やかに過ごせる】
このように、やすらい花には、その年の健康などを占う側面も見られます。そのため、この祭りの主役は地域住民であり、この祭りの成功で人々の願いが叶うと信じられてきたのです。祭り当日には、氏子の家々から住民が出て来て「もう花傘にはいれた?」「今日は〇〇さんが踊るみたいよ」などの会話が繰り広げられ、氏子に幸せを届け、更には地域住民同士を繋ぐ役割もあります。流行の疫病に罹った時、近隣住民の理解や協力があると非常に心強いものです。やすらい花がそのコミュニケーションの架け橋になるのかも知れません。
花傘に入ると健康になれる?どんな流れで行われるの?
前述の様に、やすらい花では花傘に入ると良いというキーワードが聞かれます。では、一体どのタイミングで花傘に入れるのでしょうか?やすらい祭りの流れを見てみましょう。尚、この流れは今宮神社の祭りを参考にしております。
まず、練り衆の行列は正午頃に光念寺を出発し、街を練り歩きます。街中には事前に御神酒を納めた氏子の家がありますので、軒先に貼られた札を目印に、門前で舞いを踊ります。踊りは、子鬼の挨拶から始まり、太鼓や摺り鉦を持った大鬼が踊り始めます。街中を2時間程掛けて歩き、今宮神社に戻り花傘の中の疫神を鎮め、やすらい踊りを奉納します。
この道中、花傘は練り衆の中心にあります。赤い傘は非常に目立ちますのですぐに分かります。花傘には氏子だけでなく、一般観光客も入ることができます。傘には暖簾の様なものが付いているため、入るのを躊躇ってしまいますが、年に一度のチャンスなので是非地元住民と共に入ってみましょう。花傘に入った人は皆笑顔になって出てきます。混み合っていることもありますが、行列に付いて歩くこともできますので、チャンスはたくさんあります。遠慮せずに入ることをおススメします。
今宮神社での鎮め儀式が終わると、練り衆の行列は再び光念寺を目指します。
踊りを見るには?今年も無観客で行われるの?
やすらい花で踊りを見るには、やはり街中をおススメします。今宮神社でも見ることはできますが、観客が多く思い通りの場所で見られるとは限らないからです。また、写真などをゆっくり撮りたいという場合には、今宮神社から光念寺へ戻る後半をおススメします。光念寺に帰り着く頃には、観客の姿はかなり減りますので、ベストな位置でゆっくり撮影ができます。
誰もが楽しみにしているやすらい花ですが、このコロナ禍でお祭りを中止せざるを得なかったり、開催しても無観客で行われることが増えています。やすらい祭りも2020年には新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、関係者で神事のみを行いました。
やすらい花は、毎年4月2週目の日曜日頃(上賀茂のみ5月)に行われており、その時の感染状況などで開催内容が変わります。そのため、感染者数が減少しない限りは、2021年も巡行は中止で神事のみを関係者だけで行うことになり兼ねません。情報は随時更新されますので、ホームページなどで確認をしましょう。
やすらい花と共に楽しみたい京都名物はコレ!!
やすらい花を観るために今宮神社へ訪れる際には、その土地の名物を堪能してみてはいかがでしょうか?中でも、今宮神社のあぶり餅は有名です。あぶり餅とは、一口サイズの餅を竹串で刺し、きな粉をまぶした後に炭火で焼き色を付け、特製の白味噌ダレをつけて食べるものです。これは、京都でも今宮神社の境内のみで提供している物で「一和」と「かざりや」という二店舗のみで扱われています。あぶり餅を売るお店は、日本最古の和菓子屋とも言われるほど昔から続いています。一人前は13本で売られていて、多いような気がしてしまいますが、一口大なので二人前以上注文する人も大勢います。京都市内はおろか、通販でのお取り寄せもできませんので、現地に行かないと味わえない代物です。訪れる機会がある場合には、是非食べてみて下さい。
まとめ
流行りの疫病を鎮めるために行われ始めたやすらい花は、現代のコロナ禍においても注目されるべきイベントです。
京都の地で1000年もの間、地域住民に支えられ行われてきた歴史のあるやすらい花は、今でも人々に愛され、疫病を鎮め一年を元気で健康に過ごせるよう祈られています。お囃子や踊りを舞う者も、年長者から指導を受けた地域の子供が代々受け継いでいます。コロナ禍では、町内の巡行が中止され神社関係者のみでの開催とされていますが、一日でも早く普段の生活を取り戻し、またやすらい花の花傘に入ることができるよう祈らずにはいられません。