拍子木の音を聞くと、冬の夜を連想する人も居るのではないでしょうか?夜回りなどで火の用心を促すために拍子木を叩くことは、日本の広い地域で行われています。では、拍子木は何故2回叩かれるのでしょうか?ここでは、拍子木はどんなもので、どんな場面で使うのか?拍子木を2回叩く理由などを中心にご紹介します。
拍子木ってどんなもの?
拍子木は、その名の通り拍子を取るために用いられている木という意味があります。日本の固い木材を両手に持ち、打ち合わせることで音を出すものです。
素材は紫檀、黒檀、花梨、樫などを用いられることが多く、これらの木材を棒状に切った物を二本打ち合わせることで音を鳴らします。二本の木は、一本の長めの紐で繋がれ、使わない時には首に掛けておきます。中には紐で結ばない「蒲鉾型拍子木」というものも存在します。
拍子木はどんな場面で使われているの?
拍子木が使われる場面は意外と多いものです。
- 音楽・・・打楽器として使われることが多く、祭りのお囃子や雅楽などで登場します。
- 相撲・・・拍子木は呼び出しの際に使用されます。拍子木を打ち鳴らし、力士名を呼びます。相撲での拍子木は、桜の木で作られたものを用いています。
- 舞台・・・歌舞伎の開始の合図として打ち鳴らされたり、役者の足音などの効果音として使われたりします。歌舞伎の効果音では、床に置かれたツケ板と呼ばれる板に拍子木を打ち付けて音を鳴らします。シラカシから作られた拍子木が用いられています。
- 紙芝居・・・昭和30年代頃まで人気があった街角紙芝居では、拍子木の音で集客していました。自転車で町内を駆け巡り、拍子木を鳴らしながら子供達へ合図をしていました。
- 格闘技・・・プロボクシングでラウンドが終了する10秒前の合図として拍子木が使われています。拍子木で合図をするのは日本だけで、海外では機械など別の音で知らせています。ボクシング以外では、K-1などでも使われています。
- 夜警・夜回り・・・消防団や警防団、町内会などで夜回りをする際に拍子木を鳴らします。火の用心を促す言葉と共にカチカチと2回打ち鳴らします。
- 宗教・行事・・・祭礼などで山車を引く際に、合図として使用されます。鳴らし方で、進め・止まれ・曲がれなどが決まっており、進行役が持ちます。また、宗派によっては読経の中で拍子木が使用されることがあります。特に、天理教では拍子木を頻繁に用いています。
このように、拍子木は広く親しまれています。
火の用心では拍子木を何故2回叩くの?
夜回りでは、火の用心の言葉と共に拍子木を2回叩きます。では、何故2回叩くのでしょうか?
そもそも、夜回りは、江戸時代に幕府から夜警のお触れが出たことから始まったとされています。木造建築で防火対策も未熟な江戸時代には、何度となく大火に見舞われ、多くの被害を生みました。そんな状況を打破するために、8代将軍の徳川吉宗の時代に町火消を発足し、火災防止のための活動も行うようになりました。
掛け声は、徳川家康の家臣、本多重次が妻に宛てた日本一短いと有名な手紙「一筆申す 火の用心(火事には気を付けよ)、お仙痩さすな(仙千代は5人兄弟で只一人の男の子で跡取りだ大切にせよ)、馬肥やせ(武士にとって大事な馬の世話を忘れるな)」を採用していました。
現在は「火の用心、マッチ一本火事のもと」などより分かりやすい掛け声で浸透しています。
拍子木の音は、良い響きで人々の注目を集めやすいために用いられることになったそうです。2回叩くのは、ハッキリとした理由は分かりませんが、神社の二礼二拍手一礼に倣っている説、中国から伝承した陰陽思想に関係している説、神に捧げる柏手が2回である説などがあります。
回数に意味はあるの?陰と陽を表わすって本当?
前述の様に、拍子木を2回打ち鳴らすのは、陰と陽を表わしているといわれています。
2回ワンセットにすることで、神様へのお参りなどと同様に、陰陽を一対にしているのです。こうして2回鳴らすことで、神様にも見守って貰うという意味があるのかも知れません。リズム的にも、「火の用心~カチ」ではシンプル過ぎですし、逆にカチカチカチと3回打つと何だか長く、煩い気もします。
また、江戸のしきたりや風習が色濃く残る地域では、夜回りの際に「カン、カン、カンカン」というリズムで打つのが習わしです。これは、江戸時代の火消団が町民に火事を知らせるのに使っていたリズムです。今でも、火事は怖いものである。火事を起こさない。という火消団の想いが強く残っているのですね。
夜回りは冬の優しい効果音
夜回りは主に冬に行われます。冬は日が短く、ストーブや炬燵など暖房器具を使う時間が増えますし、空気が乾燥し燃えやすく、一度火が付いたら広まりやすいため、1年で最も火事が多発する時期なのです。夜回りは、そんな季節に用心を促す優しい文化です。
近年では、毎晩回ることは少なく、年末年始など人員に余裕がある時期に地区行事として行われることも多く、警察の指導の元、こども会や青年会などが実施することもあります。
夜回りは、火の用心だけを促すわけでは無く、不審者を見付け、空き巣などの犯罪を未然に防ぐ目的もあります。そのため、「戸締り用心、火の用心」という掛け声を用いている地域もあります。
また、高齢化社会が進んだ現代では、老人の夜間徘徊を防ぐのにも効果的です。
音がうるさいとクレームが相次いでいるって本当?
夜回りは、近隣住民に用心を促し、共に守ろうという優しいものです。でも、近頃ではそんな夜回りの音が煩いというクレームが相次いでいます。
夜回りをする際には、「火の用心」などの掛け声と拍子木を打ち鳴らしますが、近年では就業形態が多様化した背景から、睡眠時間なども各家庭で異なるため、煩いと感じる人も増えたのかも知れません。また、せっかく寝かしつけた子供が起きてしまうというクレームもあります。確かに、21時過ぎなど遅い時間に回ると迷惑を感じる人が増えるのかも知れません。
そのため、冬は18時にはもう暗いため、その頃から回り始め、回り終わったら皆でおにぎりや豚汁、うどんなどの軽食を摂り解散というスケジュールを組む地域や、二年参りなどで夜遅くまで起きている人が多い大晦日だけ行うという地域などクレームにならない日時を選ぶことが増えました。江戸時代から続く地域の助け合いを守るため、大切な工夫なのですね。
拍子木にまつわるその他のアレコレ!!
日本に昔から伝わる拍子木には、数々の逸話があります。
江戸時代、姿が見えずとも拍子木の音がどこからともなくする事を「送り拍子木」という妖怪の仕業と考えられていました。
夜回りをする人の後を拍子木の音が追う、夜回りの無いはずの雨の日に、拍子木の音が聞こえるなど、不可解な現象が起きた時は、この妖怪が原因であるといわれています。
また、料理に使う野菜の切り方にも、拍子木切りというものが存在します。短冊切りのように薄く切るのではなく、長さ4~5センチ程度、厚さ1センチ程度で切ります。
まとめ
拍子木は夜回りをはじめ、様々な場面で使われています。拍子木は2本の木を打ち合わせ音を出し、注目を集めたり、効果音として用いられたりします。夜回りでは、火の用心の掛け声と共にカンカンと2回打つのが一般的で、これは神に祈る際の柏手と同様、陰陽一対の意味を持つといわれています。近年では、夜回りの音が煩いとクレームになるケースが多く、日時を限定して回る地域も増えました。夜回りは冬の夜に安全を願って行われる大切な行事なので、上手に後世に伝えていけたら良いですね。