『寒蝉鳴』という言葉を聞いたことがありますか?一文字ずつは読めるけれど三字合わせると一体なんて読んだらいいのか、よくわかりませんよね。これは、秋の72候の1つです。『ひぐらしなく』と読みます。蝉といえば夏の風物詩ですが、ひぐらしが鳴くのは秋?なのでしょうか。どんな時期や情景を指すのか、何とも不思議ですね。蝉と寒蝉と何とも意味深なひぐらしについてご紹介します。
寒蝉鳴は何て読むの?
『寒蝉鳴』という言葉を知っていますか。聞きなれない言葉ですが、これは『ひぐらしなく』と読み、72候という日本に古くからある暦の第38番目の候に当たります。半分を過ぎていますので、秋の候に入ります。
『寒蝉鳴』は、『ひぐらしが鳴きはじめるころ』という意味で、24節気の立秋の次候です。72候というと聞きなれない方が多いかもしれませんが、24節気は、カレンダーにも、暦の上で春になる立春や、同じように夏になる立夏、立秋、立冬と書かれているし、ニュースでも紹介されるのでなんとなく聞き覚えのある言葉ですよね。夏至や冬至も同じく、24節気の1つです。そして72候では、その時期の特徴となる自然現象を当てています。
『寒蝉鳴く』は、24節気『立秋』の次項で、初候は『涼風至』で『すずかぜいたる』、次候は『寒蝉鳴』で『ひぐらしなく』、末候が『蒙霧升降』で『ふかききりまとう』です。
24節気や72候は、明治の初め(明治6年、1873年)まで使っていた『天保暦』と呼ばれる太陽太陰暦、いわゆる旧暦の季節感のズレを修正するために使用されてきました。72候は江戸時代に中国から伝わったものを日本の気候に合わせて改良したものが使用されています。そのため中国のものとは違う点があり、まさに38候の『寒蝉鳴』は、日本独自のもので、中国のでは38候は『白露降』です。
なぜ旧暦は季節感がずれてしまうかというと、旧暦は太陽と月の動きをもとに作られていて、月の満ち欠けにより1か月の日数が29日と30日となり、1年が354日だったためです。暦と季節感がずれてしまいました。このずれを修正するために24節気を使っていました。
どんな時期?立秋との関係は?
『寒蝉鳴』は、一体どんな時期なのでしょうか。72候の38番目で8月12日~16日頃です。この頃になるとひぐらしというセミが鳴きはじめることが、『寒蝉鳴』の由来です。
旧暦の1年は、立春、つまり春から始まっていますので、この時期はちょうど1年の半分が終わり秋に入る時期、立秋にあたります。
立秋は夏至と秋分のちょうど中間の日をさすので、これは、太陽と地球の入り関係で決まるため年により日にちがずれることがあります。
立秋は、夏が極まり秋の気配が立ち始める日とされており、秋の気配がするから立秋になったといわれていますが、これは、中国内陸部の大陸性気候の場合には気温が下がりはじめるので当てはまりますが、日本では、まだ猛暑が続いていることが多い時期ですし、夏のレジャーを楽しんでいる時期でもあります。ただ、気を付けて観察すると少しずつ朝晩が涼しくなったり、秋の気配を感じさせる風が吹いたり、入道雲から巻雲のような秋の雲を見ることができたりするのがこの頃の特徴ですね。
また、立秋の翌日から『残暑』と言い、暑中見舞いから残暑見舞いに切り替え、時候の挨拶も『残暑』に変わります。
そしてこの時期の特徴である朝晩の涼しさに関係するのが、『寒蝉(ひぐらし)』です。ヒグラシがどんな特徴のある蝉なのか、本当にこのころから鳴きはじめるのかなど、『寒蝉』について紹介します。
どうして『寒蝉』?寒蝉って何のこと
『寒蝉」は、ヒグラシという蝉のことと一般的には言われていますが、これをツクツクボウシという説もあります。ヒグラシを漢字で書くと蜩となり、『寒蝉』ではありません。それなのにどうして38番目の候は『ヒグラシがなく頃』と付けられたのでしょうか。それは、『寒蝉』が、秋に鳴くセミという意味でとらえられているからです。
秋をヒントに考えると、ヒグラシとツクツクボウシはどちらも秋の季語になっています。一般にセミというと夏の暑いさなかに鳴いているイメージがありますが、ヒグラシとツクツクボウシはいつごろに鳴きはじめるのでしょうか。ヒグラシはほかのセミよりも早い6月下旬から9月中旬まで鳴いています。一方でツクツクボウシは7月下旬から9月に鳴きます。蝉の中でもかなり遅くに出てきます。成虫になり鳴く時期だけを考えると秋のセミは、ツクツクボウシでいいように思えますね。
次に鳴く時間についてみていきましょう。あまりセミがいつ鳴くのかということは意識をしたことがないと思いますが、なんと、セミは種類によって鳴く時間が異なるのです。セミはいったいいつ鳴くのかというと、活発に活動をする時間に鳴くのです。つまりこの活動時間がセミによってこと違うのですね。
ツクツクボウシは主に午後の暑いさなかに鳴きます。ヒグラシはどうかというと朝晩の涼しい時間に鳴くのです。そうなんですね。ヒグラシは涼しい時間に鳴くため、6月から鳴いていてもこの時期に暑さが和らいできたこの時期はヒグラシの鳴き声も最盛期を迎えるため、今まで以上に朝晩にヒグラシの鳴き声が聞こえ季節の移り変わりを感じるのですね。
ヒグラシは、日が暮れることに鳴くからヒグラシと名前が付けられたともいわれていますし、「カナカナカナ~」や「キキキキキ~」となくので『カナカナ虫』とも呼ばれてれています。
セミにより時期がある?
夏になるとミンミンやジージーなど、セミの鳴き声が止まることなく聞こえてきますね。蝉の名前をいくつか挙げることができるくらい人と関わりが深いのがセミですね。実はセミは1600も種類があるといわれていて、日本でも30種程度が生息しています。セミといえば鳴き声が大きいくて、夏の暑さを更に熱く感じさせると感じる人も多いようですが、鳴くのはオスだけで、メスへの求愛のためにおなかを膨らませて鳴くといわれています。そして面白いのがオスは、ほかのオスが鳴くのを近くで邪魔して鳴くこともあるというのです。
一言でセミといっても鳴き方や出てくる時期が違うのでいかに代表的なセミの出てくる時期と鳴き声、鳴く時間帯を紹介します。
- ハルゼミ(4月下旬~6月) ギーギー 昼間
- ヒメハルゼミ(6月下旬~8月下旬) ギーオギーオ 夕方
- アブラゼミ(7月下旬~9月)ジリジリジリ 午後~日没後
- ニイニイゼミ(6月下旬~8月)ニイニイ 1日中
- ヒグラシ(6月下旬~9月) カナカナ 朝夕の涼しい時間に鳴く
- ミンミンゼミ(7月中旬~8月)ミーンミーン 午前中
- クマゼミ(7月下旬~8月)ワシャワシャ 早朝から午前中
- ツクツクボウシ(7月下旬~9月)ツクツクボーシ 午後~日没後
- エゾゼミ(7月中旬~9月中旬) ジージー 午前中
立秋の風物詩といえば、やはり俳句? 食べ物には何がある?
ヒグラシが秋の季語になっていますが、セミを詠んだ有名な句もたくさんあります。
例えば、松尾芭蕉の『閑かさや岩にしみ入る蝉の声』は、ニイニイゼミを詠んだ句だといわれています。
ヒグラシを詠った句もたくさんあります。小林一茶の『日ぐらしや急に明るき湖の方』や、高浜虚子の『人の世の悲し悲しと蜩が』と、ヒグラシが光に反応して鳴きはじめる特徴を詠ったものや、澄んだ鈴を振るようなもの哀しい鳴き声を詠んだものが多くあります。
さて、なんといってもこの時期の行事といえばお盆ですね。地域差はあるものの8月13日~17日頃で、『寒蝉鳴』の期間とほぼ重なります。お盆は、先祖の霊が帰ってくるためにみんなでお迎えしてもてなす行事とされていますが、お盆を行うようになったのは、江戸時代からといわれています。お盆の終わりには霊を贈るために山の送り火や海の送り火としての精霊流しを行う風習があるところもあります。山の送り火では、京都の五山の送り火や、奈良の高円山大文字送り火が有名です。海の送り火としては灯籠流しを行う地方もあり、長崎や熊本の精霊流しがあります。
そしてこの時期の旬の食材には、桃があります。お盆のお供え物に桃を用意することもあるのではないでしょうか。桃はカリウムや果糖が多く含まれているので疲労回復に効果があるといわれています。夏の疲れを桃で吹き飛ばしてみてはいかがですか。
まとめ
- ・寒蝉鳴は、『ひぐらしなく』と読み、秋の気配が感じられる季節という意味。
- ・寒蝉鳴は、72候の第38番目で24節気の立秋の次候。
- ・時期は例年8月12日~16日頃。
- ・立秋の翌日から残暑見舞いに変わりました。
- ・ヒグラシは、この時期に鳴きはじめるのではありませんが、朝晩が涼しくなりヒグラシが活発に鳴き始める時期にあたります。
- ・セミはオスのみが鳴き、セミの種類により鳴く時間帯が異なる。
寒蝉鳴は、まだ暑さが厳しい時期ですが、朝晩に涼しい風が吹いたり、秋らしい空になったりと少しずつ季節が移っていくことを感じられる時期にあたります。ヒグラシの鳴き声に耳を傾けてみるのもいいかもしれませんね。