「餞別」はお別れシーズンにはつきものですが、「餞別」と一口に言っても金額の相場や餞別品の選び方などは贈るシチュエーションや相手との関係性によって異なります。
ここでは、餞別を贈るときの基本的なマナーや重要なポイントを、シチュエーション別にご紹介します。
餞別って何?
餞別の由来や「おはなむけ」との違い
餞別とは、普段お世話になっている方が遠くへ旅立つ際に、これまでの感謝の気持ちや今後の生活を応援する気持ちを込めて金品を贈ることを指します。
餞別の「餞」という字は「はなむけ」とも読みますが、旅に出る者が乗る馬の鼻を行く先に向けて見送ったという昔の習慣「うまのはなむけ」から「餞別」という言葉が誕生したとされています。
現在でも、目上の方が遠くへ旅立つ際に個人的に贈り物をする場合は「餞別」ではなく「おはなむけ」として贈るのがマナーとされています。
餞別やおはなむけの由来となる「うまのはなむけ」ですが、昔は旅の道中であらゆる苦難に遭遇することが当たり前だったので、金銭的援助や旅の安全を祈る意味合いが強くありました。
現在の「餞別」や「おはなむけ」は、金銭的援助や旅の安全祈願はもちろんですが、お世話になったことへの感謝の気持ちや今後の生活を応援する気持ちを伝える目的の方がより強くあります。
餞別を贈るシチュエーションは?
餞別を贈るシチュエーションの例としては、転任や転勤、退職、旅行や転居、留学などが挙げられます。ただし、贈る相手との関係性やシチュエーションごとに餞別品の選び方や金額の相場、餞別に添える言葉の書き方などが異なるので注意が必要です。
餞別の相場や餞別品の選び方
餞別の金額相場は?
餞別の金額の相場は1万円以内とされています。特にお世話になった方へ贈る場合は1万円から2万円が相場です。餞別は基本的にお返しを想定して渡すものではないため、高額すぎると相手に気を遣わせてしまう可能性があるので注意が必要です。
部署や職場全体で餞別を贈る場合は、人数によって相場が異なるため職場の慣習に従いましょう。この際もあまり高額にならないように注意しましょう。
ただし、餞別の相場は相手の方との関係性やシチュエーションなどによって変化するので、上記はあくまでも参考程度として認識しておく必要があります。
ケース別の金額相場は?
転勤・異動
同僚へ贈る場合は3千円から5千円、部下へ贈る場合は5千円から1万円程度が相場です。また、取引先の方へ贈る場合は2万円程度が相場とされています。
退職
定年退職する方へ贈る場合は3千円から5千円が相場です。普通退職する方へ贈る場合は5百円から3千円程度が相場とされています。
引っ越し
同僚や知人に贈る場合は5千円から1万円、家族や親戚に贈る場合は3万円から5万円が相場です。
修学旅行・海外旅行・留学
5千円から1万円程度が相場です。特にお世話になった方へ贈る場合は1万円から2万円程度が相場とされています。
人気の餞別ギフトは?
転勤・異動
部下へ贈る場合、万年筆やペン類、ハンカチなどが人気です。ただし万年筆やペン類は「もっと精進するように」という意味があるので、相手との関係性を考えて贈りましょう。
上司へ贈る場合、石けんなどの消耗品やハンカチ、ネクタイなどが人気です。営業職であれば名刺入れなど、職種に合わせたギフトも喜ばれます。
退職
タオルやエプロン、キッチン用品といった実用品が人気です。
定年退職の場合は、スカーフなどの衣類やおそろいの財布など奥さまと一緒に使用できるギフトを選ぶとよいです。
留学・海外赴任
日本料理に使う調味料、インスタントみそ汁、和食器やお箸などが人気です。海外では手に入りにくいものを贈ると喜ばれます。
餞別にふさわしくないギフトは?
かさばるもの
持ち帰りに困るような大きすぎるギフトやかさばるものは迷惑になってしまうことがあるので注意が必要です。引っ越し当日などは特に迷惑になるので気をつけましょう。
変わったデザインのインテリアや雑貨
相手の方の趣味であれば問題ないですが、変わったデザインのものは相手の好みではなかったり置き場所に困ってしまう可能性が高いので避けるのが無難です。
賞味期限の短い食べ物
特に引っ越しや転勤、留学などは準備が忙しく、移動先でも落ち着くまでに時間がかかる可能性が高いので、賞味期限の短い食べものは避けましょう。
目上の方に贈らないほうがよいもの
現金や商品券
現金や商品券は「自分で気に入ったものを買いなさい」という見下すようなメッセージとして受け取られてしまう可能性があるので、目上の方へ贈ることは不適切だとされています。
履き物やマット
スリッパ・靴下・靴などといった履き物やマットなどは「踏みつける」行為を連想させるので目上の方へ贈ることは失礼だとされています。
時計やかばん
時計やかばんなど仕事に関係するものは、働くことを促すように受け取られてしまう可能性があるので避けるのが無難です。同じような理由で、筆記用具も勉強することを促すように捉えられてしまう可能性があるのでなるべく避けましょう。
ベルト
ベルトは「からだや気持ちを引き締める」ことを連想させるので目上の方へ贈ることは失礼だとされています。特に、贈る相手が肥満体形であったり遅刻やミスが多い方であれば、より嫌みとして受け取られる可能性が高くなるので注意しましょう。
上記以外でも、贈った相手が不快になる可能性があるものは選択しないようにするのが無難です。
「無難だと思って選んだものが実はタブーとされているものだった」ということがないように、目上の方への贈り物は特に慎重に選ぶ必要があります。
のし袋について
水引きや表書きについて
水引き
紅白で蝶結びの水引がついたのし袋を使用します。
のし袋を用意できなかった場合は白い封筒で代用することも可能ですが、推奨はされていません。
表書き
相手が部下や同僚の場合の表書きは「御餞別」や「御礼」です。
定年退職する方へは「祝定年御退職」、新築に引っ越す方へは「新築祝い」など贈るシチュエーションに合わせた表書きをすると、より丁寧な印象を持たれます。
目上の方へ贈る場合の表書きは「御贐」もしくは「おはなむけ」です。「御餞別」は基本的に立場が上の者が下の者に向けて使用する言葉なので、目上の方へ贈る場合は使用しないようにしましょう。
宛名や差出人について
餞別を贈る際、基本的に宛名は必要ありません。のし袋の表書きの下に記入するのは差出人の名前で、氏名もしくは姓のみを記入します。部署や職場全体で贈る場合は、表書きの下に「○○(部署名)一同」と記入します。同じ会社内であれば、社名の記入は省略されることが多いです。差出人のリストや各々が出した金額などは別紙に記載して渡しましょう。
グループ単位で餞別を贈る場合は、3人程度までがよいとされています。差出人の名前は表書きの下にフルネームで記入します。役職が高い人や勤続年数の長い人から順に右側から記入しましょう。
餞別に添えるメッセージを書くときのポイント
餞別に添えるメッセージは、これまでの感謝や今後の生活を応援する気持ちを込めて書くのが基本です。大切なのは「まっすぐに」思いを伝えることです。面と向かって伝えるのは恥ずかしいことでもメッセージなら伝えやすくなるはずです。
誰にでも通ずるような決まり文句を並べるのではなく、2人だけのエピソードなどを盛り込むことで、相手の心に響くメッセージにしましょう。
引っ越しの場合
これまでの感謝の気持ちを伝え、遠くへ行ってしまうことを悲しく思う気持ちとともに、新しい場所での生活を応援する言葉を添えましょう。
留学の場合
留学中は孤独を感じて寂しくなったり、新しい環境で不安になったりすることがあります。そんなときに元気が出るようなエピソードや前向きな言葉をメッセージに盛り込みましょう。
異動・転勤・退職の場合
上司へ贈る場合、指摘してもらったことやそれによって成長したことなど「上司のおかげで」という気持ちが伝わるエピソードを書くと、より感謝の気持ちが伝わります。
部下へ贈る場合、これまでの仕事の成果や努力をねぎらう言葉をエピソードとともに伝え、貴重な戦力がいなくなってしまうことを惜しみつつ、新たな場所での活躍を期待する旨を伝えましょう。
寄せ書きを書くときのポイント
転勤や異動・退職する方へ向けて職場全体でメッセージを贈る場合、「寄せ書き」を利用することがあります。
寄せ書きとは、まとまった人数で色紙などの紙にメッセージを書き込むことや、書き込んだ色紙自体を表します。全員のメッセージが一つにまとまっているので、渡された方にとっては一生の宝物となるでしょう。
もちろん、特にお世話になった方であれば寄せ書きとは別に個人で手紙を贈るのもよいです。
一文に思いを込める
寄せ書きでは、記入できる文量が少ない分ひとつひとつの言葉に濃密な思いを込めましょう。喜ばせるためにウソを書く必要はありませんが、いつもより大胆に思いを伝えてみましょう。相手の方と自分だけのエピソードや、二人だけが知っている思い出の言葉などを書けばより印象に残るメッセージとなります。
寄せ書きはたくさんの人が書くので、受け手が見たときにどれが誰のメッセージかすぐわかるように、メッセージのあとに各々の氏名を記入しましょう。
媒体を工夫する
寄せ書きの媒体を贈る方の好みに合わせて変化させるのもひとつのアイディアです。
キャラクターが好きな方であればぬいぐるみ、洋服が好きな方であればTシャツなど工夫を凝らすことでより特別感のある寄せ書きになります。
餞別のお返しについて
餞別のお返しは必要?
餞別のお返しは、基本的に必要ないとされています。餞別は遠くへ旅立つ人へ贈るものなので、お返しを想定して渡すものではないというのが大きな理由です。落ち着いた頃にお礼状を出し、感謝の気持ちや近況を伝えましょう。
ただし、職場の慣習で返礼することが決められている場合はそれに従う必要があります。これまでに退職した方がどのように返礼をしていたか事前に確認しておきましょう。
どうしてもお返ししたい場合は?
また、特にお世話になった方などにどうしてもお返しをしたい場合は、周囲に関係者がいない状況で渡すようにしましょう。新しい環境に落ち着いてからお返しを贈る場合は、会社宛てではなく相手の自宅に直接届くように手配しましょう。
餞別のお返しの相場はいくら?
餞別のお返しを用意する場合、相場はいただいた餞別の半分から3分の1程度がよいとされています。いただいたものより高額なものをお返ししてしまうとかえって失礼になってしまう場合があるので注意が必要です。お返しで定番の品としてはお茶やコーヒー、お菓子の詰め合わせなど相手の方が気軽に受け取れるようなものが挙げられます。現金を贈ることはいただいた餞別を返す意味合いに取られてしまうことがあり、タブーとされているため気をつけましょう。
まとめ
今回は餞別の基本的なマナーから金額の相場、餞別品の選び方やのし袋の書き方など、さまざまな項目についてご紹介しました。
餞別は大切なしきたりなので気をつけるべきことが多くありますが、各項目のポイントをしっかりと押さえることで、これまでお世話になった方への感謝の気持ちを最大限に伝えつつ新たな生活を応援しましょう。