『秋鮭』を知っていますか?秋になる『秋鮭』を見かけることも多くなりますが、そもそも鮭は1年中店頭にあるのに、特に『秋』鮭という理由があるのか、不思議ですね。紅鮭や銀鮭とは違うのでしょうか。
良く食べる鮭ですが、種類やおいしさの特徴は意外と知らないこともありますね。ここでは、秋鮭の特徴の他、意外と知らない鮭とサーモンの違い、種類、獲れる場所と時期、おいしい食べ方についてご紹介します。
秋鮭は特別な鮭?
島国日本は、世界的に見ても魚の消費量がとても多い国です。最近は、消費量が少なくなっていますが、それでも1年間の1人当たり消費量は40kgを超えています。そして日本人が多く食べる魚の上位は鮭、マグロ、ブリで、鮭はこれにランクインしているのです。そんな私たちの食卓に欠かせない鮭は、1年中いつでもありますが、秋になると『秋鮭』という言葉を目にするようになります。
日本の川に唯一上ってくる鮭が白鮭(しろさけ)で、『秋鮭』は秋に獲れる白鮭のことを指し、養殖の鮭や遠洋漁業が発達する前は、日本で獲れる唯一の鮭でした。
何故『秋鮭』というかというと、鮭の母川回帰性に関係ありです。鮭は、川で生まれ海に出ていき、また生まれ育った川に戻って産卵する母川回帰性のある魚ということは有名ですね。白鮭が川に戻ってくる時期は秋です。鮭の産卵シーズンは9月~11月のため、この時期に北海道や東北などの沿岸に戻ってきた鮭を『秋鮭』『秋味』と呼んでいます。鮭は川の水を飲むと味が変化してしまうので、販売されている鮭は、川に戻る前に捕獲されたものです。
秋鮭の特徴は、脂が少ないことと産卵を控えておなかに卵があること、鮭独特の味わいがあることです。
知っているようで意外と知らない鮭の種類
鮭には、白鮭、紅鮭、銀鮭、キングサーモン、アトランティック・サーモン、トラウトサーモンがあります。ただ日本の川に遡上するのは白鮭だけ。他の鮭は一部日本の漁船がロシア海域で水揚げする紅鮭もありますが大部分は、ロシアやアラスカで水揚げされたものかノルウェーやチリで養殖された鮭です。
サーモンとして流通しているものでも鮭とマスがあり、切り身を見ただけでは見分けがつかないことも。鮭とマスはどちらもサケ目サケ科に分類されている魚ですが見た目はずいぶん違う魚です。また、鮭はよく赤身の魚に間違われますが、実は白身の魚で実が赤いのは、エビやカニなどの殻に含まれる色素によって身が赤くなります。
トラウト(マス)は、淡水魚ですが、味が濃いのが特徴で、これを品種改良して、海港付近で養殖しているのがトラウトサーモンなのです。
日本のスーパーや魚屋さんの店頭で見かける鮭の種類と特徴を紹介します。
種類 |
とれる場所 |
特徴 |
白鮭(とき鮭) |
日本 |
春から夏に獲れる天然の鮭 若い鮭で脂がのっている |
白鮭(秋鮭) |
日本(北海道から東北沿岸) |
9月~11月に獲れる産卵期の天然の鮭 脂分は多くない |
紅鮭 |
ロシア、アラスカ |
5月~7月に獲れる天然の鮭 沿岸どり:脂少な目 天然沖どり:脂のりが良い。 |
銀鮭 |
チリ 日本(三陸) |
チリ産は11月~1月、国産は4~6月に獲れる養殖の鮭 脂のりが良く、身がやわらかい 焼き鮭がメイン |
キングサーモン(マスノスケ) |
カナダ、アラスカ、ロシア |
脂肪分が多く身が厚い サイズが大きい |
アトランティック・サーモン |
ノルウェー |
養殖が多い 脂のりが良い フライ、ムニエル用 |
トラウトサーモン |
ノルウェー、チリ |
ニジマスを海水で養殖 焼き鮭、すしネタ、スモークサーモン用 |
産地と時期により味は変わる
鮭の種類による特徴は一覧表のとおりですが、獲る場所や時期により鮭の味が変わるといわれています。
時期
鮭は、川で生まれ海で育ち、そして最後に生まれた川に産卵のために戻ってくる母川回帰性の魚です。そして川で数回に分けて産卵をした後は命が絶えてしまいます。当然のことながら産卵直前の鮭は、卵に栄養が行ってしまうことと、淡水を飲むことで鮭の味が変わります。また淡水、海水、淡水と生活場所が変わるたびに鮭の身体の色も変化していきます。川にいるときにあったバーのようなマークが消え銀色の身体になり(スモーク化)海洋で生活し、再び川に戻る産卵期になると体がピンク色になったり褐色が出てきたり背にこぶのようなでっぱりができたり、鼻の先端が曲がるなどの変化が起こります。
鮭は冷たい海水域を移動しながら生活をします。海を回遊中の鮭は、体全体に栄養がいくために脂がのっていておいしいといわれています。秋鮭の場合は、産卵のために海に戻ってきたところを捕獲しますが、捕獲時期が遅くなると卵に栄養がいってしまうため早めの時期の鮭の方がおいしいのです。
産地
白鮭は、オホーツク海に出た後、北太平洋で春まで過ごし、その後ベーリング海とアラスカ湾を回遊すると考えられています。紅鮭は、ベーリング海と北太平洋、アラスカ湾を回遊、アトランティック・サーモンの回遊先は、北極圏に近い北大西洋です。
紅鮭の養殖はなく、全て天然の鮭のため、獲れる場所により味の評価が違います。
- 北海道産:日本船が漁獲した鮭で、船上で塩処理をして凍結するのでおいしいと評判
- ロシア産:産卵期を迎えて戻ってきたところを獲る定置網と回遊中の若い鮭をとる沖獲流し網があり、沖獲りの方が、脂のりが良い
- アメリカ・ブリストル湾:漁獲量は一番多いが脂は少なめ
- アメリカ・ローカル:ブリストル湾外で獲れる鮭で、産卵期の鮭と同程度の味
お正月準備。新巻鮭と筋子
新巻鮭(あらまきさけ)は、獲れたての鮭の内臓を取り除いて薄塩に漬け込んで、保存性を高めたもの。身は切り身にし、卵は筋子として漬け込んだり、いくらにしたりして食べます。鮭は、『災いをさける(避ける)』と考えられていること、鮭の卵であるいくらの量の多さから『子孫繁栄』を象徴すると考えられ、縁起の良い食べ物とされています。そのため、関東以北ではお歳暮として贈り、お正月に食べることが多いものです。
新巻鮭は、主に秋鮭を加工します。最近は他の種類の鮭も使われるようになりましたが、メインはやはり秋鮭です。新巻鮭は、平安時代の『延喜式(えんぎしき)』に海産物の税として新巻鮭が載っていることから、平安時代より前から作られていたと考えられていますが、庶民に広まったのは、江戸時代からです。
なぜ新巻というのかは、塩漬けにした鮭を荒縄で巻いたから『荒巻き』とか、塩を粗く蒔いたので『粗蒔き』、藁で巻いたから『藁巻き』が『あらまき』になったや、塩漬けにした鮭を新しい藁で巻いたから『新巻』など諸説ありますが、いずれにしても江戸時代後期から『新巻』が使われるようになったといわれています。
秋鮭の栄養とおいしい食べ方
鮭の中でも秋鮭や紅鮭などの天然の鮭は、高たんぱく・低脂肪でとてもヘルシーな食べ物です。特に秋鮭は、低カロリーなのも嬉しいですね。秋鮭は養殖の鮭に比べると脂肪割合が10%以下なので脂身が少なめに感じることもあるかもしれませんが、うまみのある鮭です。脂分が多いのはカマの近くで、しっぽの近くは脂分が少なめと部位により違いがあります。また、生は身がやわらかいので、野菜と一緒に炒めたり、片栗粉をつけてムニエルにしたりするのがおすすめです。銀鮭に慣れていると脂分が少なく感じるかもしれません。
そしてさらに嬉しいことに、秋鮭のたんぱく質は、とても消化・吸収が良いこと。また、秋鮭の卵のいくら・筋子には青魚に多く含まれるといわれる必須脂肪酸DHAやEPAが青魚より多い割合で含まれています。これが高血圧や生活習慣病の予防に良いといわれる食材のゆえんです。
秋鮭の特徴を生かした郷土料理もご紹介します。
- ちゃんちゃん焼き(北海道):炒めた野菜の上にバターで焼き色をつけた鮭をのせて、味噌、酒、みりん、砂糖、醤油の合わせ調味料で味付けして蒸し焼きにした漁師さんの鉄板焼き料理
- はらこ飯(宮城県):出し、酒、砂糖、醤油で鮭を煮て、そのだし汁で炊いたご飯に鮭と醤油漬けにしたいくらをのせ、白ごまをふった料理
- 石狩鍋(北海道):軽く茹でた鮭の切り身とあら、キャベツ、ジャガイモなどの野菜とこんにゃくをみそ仕立てのスープで煮た鍋に食べる直前にいくらを加えた料理
秋鮭は、和洋中どんな料理にも使える幅の広い食材です。ホイルを使って、ちゃんちゃん焼き風や、包み焼にしたり、昆布蒸し、野菜と炒めたり、ムニエルにしたり、グラタンにしたりなどなど。味付けも味噌、醤油、酢などの和風のものだけでなく、バター、チーズ、牛乳、マヨネーズ、カレーなどとも相性が良いので料理の幅が広がりますね。その他にも秋鮭を使ったメニューはたくさんあります。
まとめ
食卓に欠かせない鮭ですが、鮭の種類や特徴などは知らないことも多いものですね。
- 秋鮭は、秋に産卵のために戻ってきた産卵期にある白鮭のこと
- 白鮭は唯一日本の川に遡上する天然の鮭
- 鮭は獲れる時期や場所により、味が違う
秋鮭の特徴を知ると調理法にも幅が出ますね。ヘルシーな食材の秋鮭でいろいろな調理の仕方をぜひ楽しんでください。