夏ならではの楽しいレジャーといえば、登山や海水浴ですね。
山開きや海開きが行われると、いよいよレジャーが楽しめる時期が始まります。
この山開きと海開きは、レジャーシーズンの始まりを告げるだけでなく、きちんと意味があります。
山や海は楽しい場所ですが、命にかかわる事故が起きる場所でもあります。
なぜ山開きや海開きが行われるのかを理解して、自然の中でのレジャーを安全に楽しめるようになりましょう。
今回は山開き・海開きについて解説します。
山開きの由来と意味・山には神様がいた?
地図を見ればわかりますが、日本には多くの山があります。
その数は地図に載っているだけでも1万6千以上だということです。
山は美しく、人々の心を捉えてきましたが、噴火などの災害も多く、かつては一般の人が勝手に山に入ることはできませんでした。
一方で、山には水源もあり、生活で使う木材も山から得ていました。
人々は「山には神様が降りてくる」と信じ、信仰の対象としていました。
寺院の名前に〇〇山、と付くのは山を信仰の対象としていたことの名残なのです。
最初は山頂にある御神体を拝むために、修行僧や山伏などしか山に入れませんでしたが、季節のよい安全な時期を選んで一般の人も山に入れるようになりました。
しかし登山はレジャーではなく、あくまでも信仰のためでした。
一般の人たちが山に入れる時期を知らせたのが、山開きです。
現在でも多くの山で登山客の安全を願って、安全祈願の神事が行われます。
山開きの一番大きな意味は、山にかかわる人たちの安全を願うことなのです。
山開きは年中行事?毎年あれを食べてお祝いします
現在でも有名なのは、7月1日、富士山の山開きです(富士山は登山ルートによって山開きが違います)。
富士山本宮浅間大社では山開きに合わせ、7月10日に登山者の無事を祈願する開山祭というお祭りが行われます。
安全祈願の式典の後は、ミス富士山コンテストなどさまざまなイベントも行われます。
中でも珍しいのは手筒花火の奉納です。
男たちが抱える手筒花火からは、滝のように火花が流れ落ちて、それはそれは豪快な眺めです。
お祭りをするだけではなく、山開きに向けて、たくさんの関係者の手で登山道が整備され、トイレが使えるようになり、山小屋が開設されます。
山開きには、登山者の安全と快適さが守られているという意味もあるのです。
それは多くの人たちの努力の結果です。
山登りを楽しむなら、ぜひそれを忘れないでくださいね。
実は、山開きは一般の家庭でも行われているのです。
山梨県の富士吉田市では、山開きの日には家庭や学校給食でじゃがいもとひじきの煮物を食べて、祝うそうです。
なぜじゃがいもとひじきなのかというと、山のものと海のものを一緒に食べたからとも、じゃがいもくらいしか畑で作れなかったから、ともいわれています。
このように人々は山開きを祝うことで山に親しみを持ち、登山者の安全を祈願しました。
山開きは山によって時期が違います。
5月から7月にかけて行われる山が多いですが、中には3月に山開きを行う山もあります。
山開きのときに行われるお祭りの趣向はさまざまです。
例えば6月初めに行われる鳥取県の大山では、毎年人々が松明を持って参加する炎の河が有名です。
この行事は1300年の歴史があり、2000人の人たちが松明を持って作る行列はまさに見事としかいいようがありません。
多くの山に囲まれている日本では、今でも、山開きの行事が各地に根付いているのです。
海開きの由来と意味・始まりは湘南だった?
海開きは、山開きよりも歴史が浅いと言われていますが、始まりはいつ頃なのでしょう。
日本で海水浴が行われるのは、明治になってからです。
陸軍の軍医だった松本順は、海外ではすでに行われていた海水浴の健康効果に注目しており、日本でも行うべきだと考えていました。
そして海水浴に適した場所として、彼が見つけたのが神奈川県の大磯でした。
近隣にも海水浴場が次々に誕生して、大磯一帯は日本での海水浴場発祥の地として発展していきます。
今も若者で賑わう湘南地域に、こんな歴史があったとは、驚きですね。
昭和4年には湘南の片瀬海岸に海水浴場組合が誕生しています。
海開きはこの時代から行われるようになったと思われます。
そして海水浴のシーズンが始まることを、山開きにならって、「海開き」と呼ぶようになったといわれています。
これが海開きの由来です。
今も昔も海の事故が命にかかわることに変わりはないので、海開きの初日には、神主による安全祈願のための神事が行われます。
毎年海水浴場では、海開きから2か月近く(本州の場合)、海の家や飲食店が営業されます。
また駐車場や更衣室、シャワーなどを設置して、訪れる人たちが快適な海水浴ができるようにしています。
神頼みをするだけでなく、実際に監視員やライフセーバーが配置され、サメやクラゲに対する対策も取られていますから、安心して泳げますね。
山開きと同じく海開きにも、安全祈願をするとともに、海水浴客の安全と快適さが保証されているという意味があるのです。
山開きに負けない?楽しい海開き!
海開き式典の後は和太鼓の演奏や獅子舞、宝探しなどのイベントで大人も子どもも楽しむ海水浴場が多いようです。
山開きのような本格的なお祭りではありませんが、海開きには家庭的な温かな雰囲気があるように思えます。
子どもがいる家庭なら、ぜひ出かけたくなりますね。
海開きも山開き同様、時期に開きがあります。
沖縄では3月から4月に行われることもありますが、本州では、多くの海水浴場で7月1日に海開きが行われます。
8月の末まで営業している海水浴場が多いですが、実際に海水浴に出かけるなら、8月の半ば、お盆より前がお勧めです。
昔から海の近くでは、お盆が過ぎたら海に入るなといわれていました。
これはただの迷信ではなく、土用波という普段とは違った大きな波が発生したり、離岸流という流れのために浜に戻れなくなったりすることがわかっています。
昔の人はいい伝えを利用して、みなの安全を守ろうとしたのです。
遠浅で安全に見える海でも、時期がずれるだけで危険が増します。
サーファーたちは、海開きには関係なく1年中海に入っていますが、一般の人たちは海開きから海じまいまでの時期に海水浴場を利用した方が、安全で快適に海を楽しめます。
日本人にとって、海開きは山開きに劣らない大切な行事なのです。
山開き・海開きだけではない!歴史ある川開きとは
山開き、海開きは聞いたことがあっても、川開きはどうでしょうか。
川開きは歴史のある言葉で、江戸時代から使われています。
その年、初めて川で夕涼みをする日を川開きといい、東京両国の隅田川が名所として有名でした。
当時は旧暦5月28日が川開きで、8月28日まで夕涼みを楽しめるようになりました。
川開きはシーズン解禁の意味があるだけでなく、水死した人の供養と川での事故防止のための水神祭も兼ねていました。
1733年には暴れん坊将軍として有名な徳川吉宗により、花火が打ち上げられるようになりましたが、この花火を見物するために、たくさんの人が押し寄せ、川は屋形船で賑わったということです。
交通事情から一時は廃止されましたが、1978年に隅田川花火大会として復活しました。
華やかな夏の風物詩が、実は死者の供養のためだったとは意外ですね。
地方によっては、川開きは川施餓鬼といい、灯篭流しを行って水死した人たちを供養します。
宮城県石巻市で毎年7月の終わり頃に行われる石巻川開き祭りでは、川施餓鬼供養祭として北上川に灯籠を流します。
打ち上げられる花火には、供養花火という名前がついています。
夏のお祭りの後は、なぜか寂しい気持ちになりますが、由来を知ってみると、それも当然かもしれません。
まとめ
山開き、海開きそして川開きまで、その由来と意味、行われる時期について解説してきました。
どれも楽しい夏を象徴する行事であるとともに、人々の安全を祈願する厳かな神事でもあります。
ともすれば、安全祈願は形だけのものになってしまいがちです。
私たちは眼の前に広がる楽しい世界の方に、気を取られるからです。
しかし、どんなに世の中が進んで、新しい技術ができても、山、海、川など自然の中では毎年悲しい事故が起こっています。
山開き(海開き、川開き)のときには、自然の前では人間はまるでかなわないのだということをよく自覚しましょう。
人間は何もかもをコントロールできるわけではないことをわかった上で、謙虚な気持ちで神様に少しだけ自然の中で楽しませてください、とお願いするのです。
特に小さな子どもたちに、このようなことを教えておくことは、後々のために大切です。
自然を侮らない子どもは、自然と仲良くできるようになることでしょう。
山開き、海開き、川開きを通じて、みなさんが毎年、楽しい夏が過ごせるように願ってやみません。