飛魚という魚がいます。誰でも1度くらいは名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
胸ビレを大きく羽のように広げて、海の上を滑空することがまるで飛んでいるように見えることから、飛魚の名前が付きました。
ではこの飛魚が食べられることはご存知ですか?
飛魚は海の上を飛んでいる珍しい魚だからみなに知られているわけではなく、日本では色々なところで飛魚を食べています。
実は私たちも知らないうちに飛魚を口にしているかも知れません。
今回は飛魚について解説します。飛魚についてもっとよく知ることで、食卓に新しい味を取り入れてみましょう。
どんな地域で、どんな食べ方をしているのか、旬の季節はいつなのかなど、飛魚について様々な情報をお届けしますから、きっと飛魚に親しみが持てて、食べてみたくなりますよ。
飛魚は1種類じゃない?読み方は?
飛魚の読み方は「とびうお」です。飛魚は世界では50種類、日本近海でも30種類ほど存在しています。
ダツ目トビウオ科に属する魚をすべて飛魚と呼んでおり、飛魚のほかに𩹉(魚編に飛ぶ)と書く場合もあります。
九州や日本海側では飛魚をアゴという名前で呼んでいます。
飛魚は細長い魚です。一番大きな種類でも30cmから40cm程度なので、見たときにサンマを連想するかも知れません。
そのためスーパーなどではわざわざ胸ビレを広げて陳列してあるほどですが、その体をぶつ切りにすると断面が逆三角形になるそうですから、やはりサンマとは違います。
海の浅いところで生活する魚は鳥などに襲われないように、背中側は青くなっているのが普通です。
上から見ると海の中では保護色になり、鳥などの天敵に襲われるのを防ぐためです。
中でも飛魚の背中の青さは藍色と表現する人もいるほど、美しいといわれています。
また飛魚の下を泳ぐ大きな魚の目もごまかすために、腹皮は白くなっています。
でも最大の特徴は、滑空するために胸ビレが発達して大きいことです。
飛魚の胸ビレは滑空時にグライダーの羽のような役割をします。
飛魚には腹ビレも発達している種類があり、まるで羽が4枚あるように見えるそうです。
胸ビレを使った滑空は時速50km以上(水面滑走なら時速35km)ですから、かなりのスピードです。
滑空は高さ5m程に達することがあり、100m程の距離を進むことができます。
滑空はマグロやシイラなどの大型の魚から逃げるために行われますが、勢い余って自分から漁船に飛び込んでしまう飛魚もいるそうです。
飛魚は季語になる!旬の季節と違うの?
飛魚の旬は初夏から夏にかけてです。季語として使われる飛魚も夏を表します。
季語として使われるときは、飛魚、アゴのほかにつばめ魚などとも呼ばれます。
海上を飛ぶ様子がツバメのように見えたのでしょうか。
マンジュウダイ科に属するツバメウオという魚もいますが、こちらは飛魚とはまったく違う種類の魚ですから、間違えないようにご注意ください。
よく知られている旬の季節は初夏から夏にかけてですが、地域によって飛魚の旬は季節が違います。
理由は飛魚が回遊魚だからです。暖流に乗って南海から日本付近に北上して来た飛魚は、産卵を終えると秋にはまた南下して行きます。
そのため春先には東京の八丈島で水揚げされた飛魚が関東に出荷されますし、長崎や宮崎では秋の魚として知られています。
ほかにも沖縄では飛魚は春げ告魚と呼ばれ、丹後や若狭地方では夏告げ魚と呼ばれています。
アゴだけでなく、関西ではトビ、三重ではウズ、石川ではツバクロ、紀州ではフルセンなどその地域だけに通用する呼び名もたくさんあり、季節や地域を問わずに飛魚が愛されていることがわかります。
飛魚は食べられることで、人間の栄養になりましたが、それだけではありません。
季語として使われる意外にも、第2次世界大戦後の水泳界で次々と世界記録を打ち立てた古橋広之進はフジヤマのトビウオと称され、敗戦で苦しい思いをしていた日本人の希望になりました。
ここから現在の競泳日本代表の愛称はトビウオジャパンとなっています。
種子島、屋久島、鹿児島航路に就航している高速船の名前は「トッピー」といいますが、これは種子島や屋久島で飛魚のことをトッピーといっていることから付けられた名前です。
居酒屋の名前にも飛魚はしばしば見かけられます。
これは私たちが飛魚と聞くだけで、威勢よく泳ぐ姿と大海原を連想して海の恵みを感じるからに違いありません。
私たちは体の栄養とともに、心の栄養も飛魚にもらっているのかも知れません。
飛魚の食べ方!寿司ネタにもなっている?
飛魚は小骨の多いところが玉に瑕ですが、運動量が多いため(何しろ海の上を飛ぶくらいです)脂肪分が少なく淡白な味は塩焼きにしてもさっぱりと食べられますし、反対にフライなどの油物にするのも美味しく食べる方法です。
脂肪分が少ないということは、加熱した後に時間が経つと身が固くなるということです。塩焼きなどは冷めないうちに食べましょう。
フライなどの油を使った料理にすると冷めても美味しく食べられます。
新鮮な飛魚は刺し身やたたきとして食べても美味しいそうですが、八丈島では干物にも加工されます。
あの匂いで有名なくさやの干物は飛魚を加工したものです。
飛魚は干物に最適な魚です。飛魚は脂肪分が少なくタンパク質が多いために、脂肪が酸化する心配が少なく、干している間に熟成が進み、とても美味しくなるのが理由です。
くさやはちょっと勇気が要るという人も、飛魚の開きなら大丈夫です。
手軽に食べられる干物から、飛魚に親しんでみませんか。
イクラよりも小さな粒で子どもにも食べやすいトビッコは飛魚の卵です。
飛魚は食べたことがないという人でも、寿司ネタとしてもよく見かけるトビッコならなじみがありますね。
飛魚で出汁を取る?手軽に取り入れて、食生活が変わる!
飛魚をアゴと呼ぶ地域では、鮮魚として食べるよりも、練り物や出汁の材料として利用されています。
鳥取県や兵庫県では、「あごちくわ」が作られ、特産品になっています。
九州や東北など、日本海側の地域ではあご干しが作られて、味噌汁などの出汁を取るときに利用されています。
博多ではお正月のお雑煮の出汁はアゴで取ります。アゴがなければお正月が来ないといわれているのです。
「あごだし」を商品名にした粉末だしやめんつゆは九州の人たちにおなじみの商品です。
近頃マスコミに取り上げられることも多い「五島うどん」は、あごだしを使って食べるうどんとして有名ですね。
最近はネットショップであごだしを取るための、焼あご(干しあごを火であぶったもの)が購入できるようになりました。
出汁を取る煮干しを焼きあごに変えるだけで、食生活が変わるかも知れませんよ。
手軽に使える粉末タイプや出汁パックも販売されていますから、これを利用するのも、飛魚に親しむためのよい方法になりますね。
食べたくなる!飛魚の栄養は現代人に嬉しい!
細身な飛魚ですが、栄養は豊富です。何回も紹介している通り、運動量が多い魚なので、高タンパク低脂肪です。
どうしても脂質を多く摂りすぎる現代人が食べるのには、ピッタリの魚ですね。
特に飛魚に多く含まれている栄養素はビタミンEとナイアシンです。
ビタミンEには活性酸素を抑える働きがあるので、体内の脂質の酸化を防いで生活習慣病を予防する効果があります。
ナイアシンはビタミンB群の仲間で、エネルギー作りや皮膚・粘膜の炎症を防ぐ働きがあります。
また二日酔いの予防によい栄養素ですから、お酒のおつまみとしては最適な魚だといえます。
このほか飛魚には、ビタミンB6、ビタミンB12なども含まれていますし、マグネシウムや銅などのミネラル分も含まれていますから、栄養的には文句の付けようがありません。
近頃は日本人の魚離れをいわれることが多くなりましたが、今でも日本ではその季節にしか食べられない魚がたくさんあります。これは肉と比べると大変な違いです。1年中同じものが食べられないことは不便なようですが、その季節だけの魚を大切に味わうことは食生活の楽しみになります。
今年もまた飛魚が食べられてよかった、と思えることはかけがえのない幸せになるのではないでしょうか。
飛魚を始め魚には豊富な栄養が含まれていますが、あれこれ難しいことを考えなくても、海の上を飛ぶエネルギッシュな飛魚の栄養をいただくと考えるとそれだけで元気になれそうな気がしてきますね。
まとめ
今回は飛魚について解説しました。飛魚の別名や旬の季節、栄養について詳しくお知らせしましたから、飛魚を食べたくなった人もいるでしょう。
飛魚になじみがなかった人も、あごだしを取り入れることなら気軽にできます。
あごだしからも飛魚の栄養が摂れますから、嬉しいですね。
すでにあごだしはかつお節や昆布、煮干しとしいたけに次ぐ第3の出汁として人気を呼んでいます。
食べるだけでなく、俳句の季語や水泳選手の形容詞としても使われてきた飛魚は、実は私たち日本人の身近な魚だったことがわかりました。この関係を忘れることなく、これからもっと飛魚を食卓に取り入れたいですね。