よく聞く言葉に「五月晴れ」がありますが、5月の晴れ渡った青空を思い浮かべる人も多いでしょう。
5月は大陸から高気圧が流れてくるため、日本では晴れの日が続きます。
ゴールデンウィークもありますから、五月晴れを歓迎したいと思っている人もいるかも知れませんね。
でも昔は、五月晴れは5月の天気を表す言葉ではありませんでした。事情があって今では5月の青空を意味することも多くなりましたが、やはり言葉を使う以上は本来の意味を知っておきたいですね。
今回は五月晴れの本当の意味や、いつの季節の天気なのかについて解説します。
五月晴れは俳句の季語でもありますが、今まで思っていたのとは別の意味があるかも知れませんよ。
「五月晴れ」は読み方で意味が違う?五月晴れの本当の季節とは
昔、梅雨という言葉がなかった時代に、梅雨のことを「五月雨(さみだれ)」と呼んでいました。
当時使われていた旧暦の5月は梅雨の季節でした。
五月雨の季節のつかの間の晴れを意味していたのが「五月晴れ」という言葉だったのです。
旧暦の5月をさつきと呼んでいたので、この場合読み方は「さつきばれ」になります。
現在でも梅雨の間に晴れると、気温が夏のように上がり、湿度も高くなるので過ごしにくい日になることがあります。
現在の5月の晴れ渡った日とは、かなり違うことがわかりますね。
明治に入って新暦が採用されたことで、勘違いをする人が増えたのでしょう。
いつしか五月晴れは5月の晴れた天気を意味することが増えて来ました。そこで最近では読み方を「ごがつばれ」とすることで、堂々と5月のお天気を意味する言葉として使う場合が出てきました(ただし定着はしていないようです)。
五月晴れを5月の晴れた天気の意味で使う人がいても、今はそれを非常識だとはいえない時代になっているのかも知れません。
確かに言葉本来の意味は大切にしなければなりませんが、今梅雨の間に晴れたときに、五月晴れと表現することにはかなり無理があります。意味も通じにくくなることでしょう。
そんなときには「梅雨晴れ」を使うとよいでしょう。
梅雨晴れには梅雨が明けて晴れるという意味のほかに、梅雨の間のつかの間の晴れという意味があります。
梅雨晴れも季語になりますから、季節感も十分ですね。
使う季節に要注意!季語としての「五月晴れ」!
現在はかなり五月晴れの意味が変わってきましたが、俳句で使われる場合は本来の意味のままで、陰暦の5月、現在の6月頃を表す季語になっています。たくさんの俳人が五月晴れを使って句を詠んでいますが、正岡子規の大変わかりやすい句を紹介します。
「うれしさや 小草影もつ 五月晴れ」
五月晴れには、小さな草の影ができているのも嬉しく感じる、というような意味です。
梅雨の間に表れた久しぶりの晴れた天気に対する嬉しさが、小さな草(多分雑草)の小さな影にまで目を止めさせたわけです。
もし毎日晴れ続きだったら、この句のような嬉しさを感じることはできないでしょう。
五月晴れが梅雨の晴れ間でなければ、この句は成立しません。
五月晴れと同じく、「五月空」という夏の季語があります。
五月晴れからの連想で、なんとなく晴れた空を想像してしまいますが、これは旧暦の5月のどんよりと曇りがちな梅雨空を意味しています。
また「五月川」という季語もありますが、これは梅雨により増水した川を意味しています。
昔の人たちにとっては、五月(さつき)と梅雨は切っても切れない関係だったことがわかります。
どちらにしても現在の5月のイメージとは違う言葉なので、惑わされないように注意したいですね。
「五月晴れ」を使ってもよい?迷ったら「清々しい」を使ってみて!
新暦となった明治から現在まで、俳句を愛好している人は数多く存在しています。
自分の周りにもそんな人がいるかも知れませんから、俳句に親しんでいそうな目上の人たちに対しては、五月晴れの使い方に注意した方がよいでしょう。
梅雨の晴れ間のことを五月晴れと表現するなら、現在の5月の晴れた日をどのように目上の人に伝えればよいのでしょうか。
実は5月の晴れた天気を表現するための最適な言葉はありません。
快晴や晴天は季節を問わずに使える言葉ですから、5月の雰囲気を伝えるのには完全ではありません。
「心地よい天気」でもよいのですが、季節感が欲しい人にとっては物足りない言葉かも知れません。
ぴったりな言葉がないため、五月晴れを使うのもやむを得ないと感じてしまいます。
そんな困ったときにおすすめしたいのは「清々しい(すがすがしい)天気」です。うららかな天気という言い方もできますが、「うららか」は春の季語になります。初夏の天気を表すのには、少しズレを感じるかも知れません。
清々しいは初夏を形容するのに使われる言葉なので季節感は満点です。現在の5月の晴れた天気を表すのには最適な形容詞です。
初夏の天気を表すのに使いたくなるのが「爽やか」という言葉ですが、これはもともと秋の天気を表すための言葉でした。
現在はどの季節に使っても間違いではありませんが、俳句を嗜む人の中には、初夏に爽やかという言葉を使うことに違和感を覚える人もいます。この言葉を使うのは避けた方が無難でしょう。
「五月晴れ」だけじゃない!誤解しやすい「小春日和」とは
五月晴れのように意味を誤解しやすい言葉に「小春日和」があります。
字を見ると、春先の暖かな日のような気がしますが、これは晩秋から初冬にかけての穏やかに晴れた暖かな日のことを意味しています。
小春は旧暦10月(現在の10月下旬から12月上旬)の別の呼び名です。これを知っていれば、意味を誤解することはないでしょう。
小春日和のほかにも「小春空」や「小春日」のように使われ、すべて冬の季語になります。
今では小春日和もその意味が揺らいでいます。春という字が使われているため、全体の41.7%の人たちが春先の暖かな日だと思っています。
使っている暦が変わってしまったのですから、それも仕方のないことです。
今は小春という月はなく、春といえば季節の春だと思ってしまいますが、新しい言葉の意味が生まれても、私たちは古くからの意味を忘れないようにしたいものですね。
新しく言葉の意味が生まれるとき、乱れだと受け取ってしまう人がいます。
そんな人が新しい意味で言葉を使う人に対して、正しく日本語が使えないと非難することもありますが、本当はどちらが悪いわけでもありません。
そんなときに新しい意味と古くからの意味の両方を知っていれば、橋渡し役になれるかも知れません。
それに五月晴れや小春日和といった言葉について考えることは、季節について考えることにつながります。
日本にはせっかく四季があるのですから、季節と仲良くしていくことが、快適に生活するためには大切になるのです。
季節と仲良くし、季節を大切にしている人は、神経の細やかな人として、周りからも一目置かれる存在になれることでしょう。
「五月晴れ」が危ない?五月晴れを絶滅させないために!
現在は気象庁で5月の晴れを「さつき晴れ」、梅雨の晴れ間を「梅雨の合間の晴れ」と呼んでいます。
わざわざ平仮名で「さつき」と表記することで、かつての五月晴れとは区別していると考えられます。
辞書でも五月晴れには、古くからの梅雨の晴れ間のほかに、5月の晴れた天気という意味が新しく加わりました。
この新しい意味を認めようとするあまり、反って五月晴れという言葉が使い難くなってしまったようです。
本当は梅雨の合間の晴れを表している五月晴れを、あえて新しい意味で使って、物を知らない人だと思われたくないという気持ちになる人もいることでしょう。
気象庁でも、せっかくさつき晴れという新しい表記をしたのに、天気予報では積極的に使っていないようです。
これも視聴者から間違っているというクレームが入ることを危惧しているためかも知れません。
5月の晴れた天気を表現するのにピッタリだったことから生き残ってきた五月晴れが、このままでは廃れてしまいかねません。
日本語のお天気を表す言葉の豊富さは、世界に誇れるものです。本来の意味に固執するあまり、五月晴れや小春日和といった素敵な言葉がなくなってしまうのでは本末転倒です。
五月晴れがずっと日本で使われるためには、私たちがためらっていてはいけません。
五月晴れが2つの意味を持っていることを面倒に思わず、新しい意味ができるほど人々に親しまれてきたのだと考えてみてください。
まとめ
今回は五月晴れについて解説しました。
五月晴れの本来の意味は梅雨の晴れ間のことでしたが、現在は5月の晴れた天気という新しい意味も市民権を得ています。
ただし季語として使う場合は、本来の意味のままです。俳句を詠むときや目上の人などに使うときには注意が必要です。
注意するべきことを知っていれば、新しい意味で五月晴れを使っても構わないはずです。
美しい日本語を残していくためには、本来の意味だけにこだわり過ぎず、おおらかな気持ちで言葉を使うことも必要です。
五月晴れがどちらの意味で使われても、受け止めるだけの広い心を持ちましょう。
なにしろ私たち人間は生きていますから、使う言葉も生きて変化していくのは当然のことなのです。私たちは言葉に新しい意味が生まれることを、愉しめる人間になりたいですね。