日本人は「南風」という言葉が好きだと思いませんか? 列車の名前に付けてみたり、有名な漫画では、ヒロインの実家の喫茶店の名前になっていたりしますよね。確かに「南風」とは素敵な響きです。
とはいえ、南風とはいったいどんな風なのでしょう。なんとなくイメージは持っていても、きちんと説明できる人は多くないようです。そこで南風が吹く仕組みや季語などを押さえて、ワンランク上の大人を目指してみませんか?
南風とはどんな風のこと?
日本には一年を通じて、様々な風が吹きますよね。「春一番」や「やませ」、「木枯らし」などは有名です。それでは南風とは、いったいどのような風のことをいうのでしょう。
普通に「南風」というと…
南風とは、主に南から吹いてくる風のことをいいます。必ずしも真南というわけではなく、南西だったり、南東だったりする場合もあります。
後ほど詳しく紹介しますが、「南風」といっても種類はかなり豊富です。吹く季節も様々なので、一言でまとめるのは難しくあります……。とはいっても、南風(みなみかぜ)は夏に南から吹く風のことを指すのが一般的。南風は“夏の季節風”とも呼ばれています。
夏に南風が吹く理由
それでは、なぜ夏になると南風が吹くのでしょう。簡単に説明していきますので、まずは日本を中心とした世界地図を思い浮かべてください。
日本列島は、ユーラシア大陸と太平洋に挟まれていますね。さて、土は水よりも暖まりやすく冷えやすい性質を持ってるので、夏は太平洋よりもユーラシア大陸のほうが気温は高くなります。つまりユーラシア大陸の空気は、太平洋の空気よりも暖かいというわけです。
次に、空気の流れに着目してみましょう。暖かい空気は冷たい空気よりも軽い、という性質があります。軽い空気は上へのぼっていくので、暖かいユーラシア大陸の空気も上へのぼっていくことになりますね。一方、その空いたスペースに移動してくるのが、太平洋の空気です。
風とは空気の流れのことですから、夏の日本列島へは、南から空気(=風)が流れ込んでくることになります。これが夏の南風です。
南風が吹いたときの天候
それでは南風が吹くと、どのような天気になるのでしょう。結論からお伝えすると、季節や地域によっても異なります。一概には言えないということですね。
夏に南風が吹くと晴れ
そこでまずは、季節に着目してみましょう。「夏に南風が吹くと晴れる」という言い伝えが全国にありますが、本当なのでしょうか。
季節が夏になると、日本列島は広く太平洋高気圧に覆われます。高気圧とは空気が濃い領域のことです。空気は薄い領域を求めて逃げて行きますが、これが南風です。高気圧は中心から右回りで風が吹き出すので、日本列島へは南風が吹き込むのです。
逃げた空気を補うため、上空の空気が下へと移動する現象が起こります。すなわち雲ができにくくなるため(雲は水蒸気が上空で冷やされることで発生)、高気圧だと天気が良くなるのです。よって夏に南風が吹くと晴れる、という言い伝えは本当のようです。
太平洋側は雨が降りやすい
次はざっくりと、太平洋側と日本海側の地域に分けて考えてみましょう。南風が吹くと、太平洋側の地域には太平洋からの湿った空気が流れ込みます。太平洋側は、雨が降りやすいということですね。
一方、日本海側の地域はどうでしょう。日本側は、太平洋側とは高い山々で隔てられています。湿った空気は山にぶつかり、雨を降らせます。日本海側に南風が届く頃には、空気は乾いているのです。日本海側には、雨はあまり降らないということですね。
南風の種類はこんなにも多かった
さて、南風には多くの種類があることを少しご紹介しましたね。結構な数なので、季節ごとにまとめました。
春に吹く南風
春に吹く南風の中で最も有名なのは、春一番でしょう。春一番は立春(2月4日頃)を過ぎて初めて吹く、強い南風のことです。他にも春に吹く南風には、下記のようなものがあります。
- ぽやぽやみなみ:初春に吹く南風《茨城県》
- 桜まじ:桜が咲く頃に吹く、暖かい南風。「三月桜まじ」「日和南風(ひよりまじ)」とも《瀬戸内海》
- おぼせ:4月頃、日和のときに吹く南風《伊勢・伊豆・淡路など》
お住まいの地域でなければ、なかなか耳慣れないものばかりですね。桜まじの「まじ」とは南風を意味する語です。桜まじは、古くは行楽の目安にもなっていたそうですよ。
夏に吹く南風
下記をご覧いただくとわかる通り、やはり夏に吹く南風は多いです。
- 沖南風(おきはえ):5月頃から吹く、南西の風《南九州》
- 茅花流し(つばなながし):茅花(つばな)の穂綿がほぐれる頃に吹く南風
- ながし:5月頃に吹く南風《九州》
- 筍(たけのこ)流し:タケノコが生える頃に吹く南風
- しゅたらべー:梅雨入り前に吹く、湿気の強い南風《喜界島》
- カーチーバイ・カーチベー(夏至南風):夏至(沖縄では梅雨明け)の頃に吹く強い南~南西風《沖縄》
- ながしはえ:梅雨どきに吹く南風。「ながし」は長雨という意味《九州》
- 青嵐(あおあらし):青葉の頃(5~7月)に吹く南風
- 黒南風(くろはえ):梅雨のはじめ頃に吹く南風。黒い雨雲の下を吹くことから
- 荒南風・新南風(あらばえ):梅雨の真っ只中に吹く南風
- 白南風(しろはえ):梅雨が明ける頃に吹く南風
「○○はえ」という名前の風が多いですね。沖縄では南の方角を「はえ」といいます。そこで主に西日本では、南風を「はえ」や「はい」と呼ぶことがあります。
秋に吹く南風
陰暦の7月に吹く南風のことを「送南風(おくりまじ)」や「後れ南風(おくれまじ)」といいます。盂蘭盆(うらぼん)の時期を過ぎてから吹くので、精霊を見送ってから吹く風という意味があります。
俳句の季語としての南風
全体的に理科の知識が多めになってしまったので、最後に国語(俳句)の知識を取り入れることにしましょう。俳句には、季語を用いるのが原則でしたね。
南風
夏の季節風である「南風」も、季語の一つです。南風とかいて「みなみかぜ」「なんぷう」「みなみ」「はえ」と読みます。冬に吹く乾いた北風(きたかぜ・ほくふう)に対し、湿った暑苦しい風のことを意味します。
また先ほどご紹介した風の中では、以下のものが季語として使われていますよ。
【春】春一番・桜まじ
【夏】茅花流し・ながし・筍ながし・青嵐・黒南風・白南風・荒南風(新南風)
【秋】送南風
東風
風の季語といえば、他にも東風(こち)が有名です。一般的に東風とは、春に吹く東風のことです。しかし南風と同様、さらに細かい種類(下記はすべて季語)がありますので、参考までに挙げておきます。
- 初東風(はつごち):新年最初に吹く東風
- 土用東風:夏の土用に吹く東風
- 盆東風:盂蘭盆の頃に吹く東風
- 星の入東風(ほしのいりごち):陰暦の10月頃に吹く東風
- 節東風(せちごち):陰暦の12月頃に吹く東風
たかが風と思きや、こんなにもたくさんの種類があるのですね。日本人は季節ごとに風を感じ、その移り変わりを大切にしてきたことがわかります。
まとめ
南風というと、一般的には夏に南から吹く風のことをいいます。夏になると太平洋からユーラシア大陸へと空気が移動するため、日本列島には南風(夏の季節風)が吹きます。南風が吹いたときの天気は、季節や地域によってまちまちです。夏の南風は晴れるという言い伝えもある一方、南風が吹くと太平洋側では雨が降りやすいとも言われています。
さらに南風にはさまざまな種類があり、季語として使われるものも多くあります。昔の人は風の中にも違いを見出し、生活に役立てたり、季節の移り変わりを感じたりしてきました。ぜひ風の知識を増やして、季節の移り変わりを楽しんでみてくださいね!