一見トンボに似ているけれど、飛び方がおかしい虫を見たことはないでしょうか。元気がないのか知らないけれど、なんだかフラフラ飛んでるなぁ……なんて思ったかもしれませんが、おそらくウスバカゲロウという違う虫です! 今回の記事では、ウスバカゲロウとアリジゴクの生態や飼育方法などについてご紹介していきます。
ウスバカゲロウとは?
ウスバカゲロウとは、脈翅目(みゃくしもく)ウスバカゲロウ科に属する昆虫の総称です。日本・台湾・中国・朝鮮半島に分布し、日本には17種類のウスバカゲロウが生息しています。飛び方や外見から、少し弱々しい印象を与える昆虫です。
名前の由来
ウスバカゲロウという名前、少し変だと思いませんか? よりによってバカが入っているなんて……。いえいえ、ウスバカゲロウは決してバカではありません! 漢字では薄羽蜉蝣と書きます。分けるとしたら「ウスバ」「カゲロウ」です。決して「薄馬鹿下郎」ではないのです。
「カゲロウ」という昆虫をご存じの方もいるかもしれません。勘のいい方は、ウスバカゲロウはカゲロウの仲間だと“気が付く”でしょう。弱々しく見える姿がよく似ています。そうです、ウスバカゲロウの名前はカゲロウに由来しているのです。
カゲロウとの違い
が、実はウスバカゲロウとカゲロウは、まったく違う種類です! ウスバカゲロウはウスバカゲロウ科に属し、完全変態(幼虫→さなぎ→成虫)をする昆虫です。
一方、カゲロウはカゲロウ目に属し、不完全変態(幼虫→成虫)をする昆虫です。ウスバカゲロウはさなぎになりますが、カゲロウはさなぎになりません。両者はまったく違う虫なのですね。
ウスバカゲロウの生態
ウスバカゲロウ(成虫)の生態について、簡単に見ていくことにしましょう。
成虫の体のつくりと飛び方
ウスバカゲロウ(成虫)はやわらかく、細長い体(体長およそ35mm)をしています。全体的には黒や暗褐色、部分的には黄色をしています。特に肢(あし)は、黄色の部分が目立ちます。透明で細長い翅(はね)を持ち、網状に広がる翅脈(しみゃく/翅の補強・体液が流れるための脈)があります。
トンボのようにも見えるので、ウスバカゲロウのことを「極楽トンボ」や「神様トンボ」と呼ぶ地域もありますが、トンボより頭が小さく、触角も短くて太い(こん棒状)という違いがあります。何よりも違うのが、飛び方です。トンボはすばしこく飛びますが、ウスバカゲロウはひらひらと舞うように飛びます。
成虫の生活
ウスバカゲロウ(成虫)は、6月から10月にかけて見ることができます。夜行性で、人家近くの林などに生息しています。夏の夜、灯火を目がけて飛ぶウスバカゲロウの姿を見たことがあるかもしれません。
成虫のウスバカゲロウは、小さいガなどを捕まえて食べています。弱々しく見えますが、意外と肉食なのですね! 成虫としての寿命はおよそ1カ月(幼虫については後述)で、交尾後のメスは土や砂の中に卵を産み付けていきます。
アリジゴクとは?
アリジゴクという虫をご存じでしょうか。砂の中などにすり鉢状の巣をつくり、アリなどの獲物が落ちてくるのを待ち構えている虫です。
ウスバカゲロウの幼虫
アリジゴクの巣穴に迷い込んだ虫は、二度と出てこられないと言われています。まさに“地獄”の名にふさわしいですね。驚くかもしれませんが、アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫です。かたや地獄、かたや極楽(成虫の体のつくりと飛び方参照)とは……同じ昆虫なのに、成長段階でギャップがありすぎです。
とはいえ、すべてのアリジゴクが砂の中に巣穴をつくるわけではありません。岩や石、苔(こけ)の上などで暮らす種類もいます。地表にすり鉢形の巣穴をつくるのは、
- ウスバカゲロウ
- コウスバカゲロウ
- クロコウスバカゲロウ
- ハマベウスバカゲロウ
- ミナミウスバカゲロウ
の5種類に限られます。数は少ないものの、一番有名ですので、以下では当該種類について紹介していきます。
アリジゴクの体のつくり
アリジゴクの体長は、およそ1cmです。頭部には大きなアゴを持ち、腹部は袋のように膨らんでいます。体中には感覚毛という体毛が生えており、わずかな振動でも獲物が来たことを察知できます。
アリジゴクの食事の仕方は独特です。獲物を捕らえると、アゴをつきたてて消化液を注入します。消化液の働きにより、獲物の体液を分解するのです。分解された獲物の体液は、再びアゴを通じて吸います。アゴはストローのような働きをしているのですね。
アリジゴクの生活と成長
もう少し詳しく、アリジゴクの巣穴での生活を見てみることにしましょう。
獲物の捕まえ方
アリジゴクの巣穴は、雨の当たらない場所につくられます。乾燥していて、細かい土や砂の中に巣穴をつくる、というのが獲物を捕まえるポイントです。巣穴に獲物が足を踏み入れると、斜面の土がさらさらと崩れ、奥へと飲み込まれる仕組みになっています。
アリジゴクは、ただ獲物が落ちてくるのを待っているだけではありません。獲物の気配を感じると、大きなアゴを使って土を投げかけます。ただでさえ巣穴の斜面は崩れやすくできていますから、土までかけられてしまうと、獲物は身動きが取れなくなるのです。恐ろしいことを考えますね!
ちなみに捕らわれて体液を吸われた獲物の死骸は、またしてもアゴを使って巣穴の外に捨てられます。
アリジゴクからウスバカゲロウへ
アリジゴク(幼虫)の期間は、2~4年と幅があります。獲物のとれ具合に左右されるからです。アリジゴクは巣穴の中で、脱皮を繰り返すことで成長していきます。
上記で、ウスバカゲロウは完全変態をする昆虫と紹介しました。というわけで、成熟したアリジゴクはさなぎになります。土の中で糸を吐いてつくった直径1cmほどの繭(まゆ)の中で、さなぎの期間を過ごすのです。
2週間ほど経過すると脱皮し、羽化するために必要な枝や石などを探します。しっかりと体を支えられる場所を見つけると、縮んでいた翅を伸ばし、成虫になります。アリジゴクとは似ても似つかない、弱々しいウスバカゲロウの誕生です!
アリジゴクを飼うには?
怖いけれど、興味が湧いてきたという方もいるでしょう。実はアリジゴク、意外と簡単に飼育できます。
採集方法
飼育するには、アリジゴクの巣穴を見つけることから始めましょう。雨の当たらない、軒下や木の下などにいることが多いと言われています。巣穴の大きさは2cmから5cmほどです。見つけたらスコップなどで巣穴ごと土を掘り、目の細かい「ふるい」にかけます。
プラケースなどの飼育容器(紙コップでもOK)を用意しておき、巣穴の周辺にあった土(もちろん乾燥したもの)を入れます。深さ10cmほどの土を敷き詰めたら、アリジゴクを入れましょう。あとは勝手に巣穴を作ってくれるはずです。
飼育方法
飼育方法は基本的に、エサやりだけです。アリやダンゴムシなどの生きている虫を捕まえてきて、飼育容器の中に入れます。アリジゴクが獲物を捕らえる姿(アリジゴク自体は砂の中にいます)を観察しましょう! エサをやる頻度は、3日に1日ほどで足ります。もちろん毎日与えても大丈夫ですよ。
成虫になったら
5・6月頃「巣穴が小さくなったかな」と思ったら、もしかしてさなぎになっているかもしれません。きちんと羽化ができるよう、巣穴のそばに土に小枝や割りばしなどを刺しておいてください。
羽化に成功し、ウスバカゲロウになったら飼育は終了です。逃がしてあげましょう。ウスバカゲロウの飼育は非常に難しく、2・3日程度で死んでしまうと言われています。せっかく成虫としての寿命が1カ月あるのですから、天寿を全うさせてあげましょう。
まとめ
ウスバカゲロウについて、ご理解いただけたでしょうか。ひらひらと舞うように飛び、美しい透明な翅を持つウスバカゲロウですが、幼虫期はまさに地獄のような巣穴をつくるアリジゴクでした。弱々しく見えても、たくましく生きてきた昆虫です。夏の夜にウスバカゲロウを見かけたら、少しだけ尊敬のまなざしを向けてあげてくださいね!