農耕がさかんであった日本では昔から、日差しと雨が作物を育てるものとして、とても大事なものとされてきました。
雨は鬱陶しく嫌な気分になってしまう時もありますが、場合によっては季節感を感じる美しいものですよね。
しかも季節ごとに違う表情を見せる雨は、淋しさもあり、恵みの雨だと喜ばれることもありと、雨を感じる人によってどの様にも映ります。
そんな雨に、実は種類があることをご存知でしょうか?
しかもその雨ごとに、ニックネームのような名前も付いているというから驚きですね。
こちらではそんな雨の呼び名である、木の芽お越しというものについてご紹介していきます。
春に降る雨の違いとは?
古代より雨は恵みの水として貴重なものでした。
それもそのはず、大地に雨が降らないと干上がってしまい、作物はおろか水道がなかった時代の人々の喉を潤すことすらできなかったのです。
まさに。命の雨だったわけですね。
そんな雨ですが、日本には8つの時期で名前が分かれていると考えられています。
春・菜種梅雨・夏のはじめ・梅雨・秋雨・秋・冬というものがそれに当たります。
ですがこれだけだと7種類なので、他に雨季を入れて8種類にするのです。
そんな雨ですが、実は名前によりそれぞれ雨の質や降り方が違うことをご存知でしょうか。
例えば春雨と春の雨を見ていきます。
漢字としては全く同じように見えますが、春雨は「しとしと降る雨」であるのに対し、春の雨は「風をともなった春の嵐」とも表現されることがあります。
春雨の場合は傘がなくても平気で、時間が経つとじとっと濡れてくる雨。
ですがどこか春のにおいを感じ、暖かさを感じることができるイメージではないでしょうか。
一方で春の嵐は気候が暖かくなってはいますが、風が強くせっかく咲いた花たちが散ってしまうイメージ。
そんな風に考えると、雨の違いがわかるかもしれません。
またそれ以外に「木の芽おこし」という雨の名前があります。
木の芽おこしは文字通り、木の芽をおこす雨という意味で、植物たちが静かに降る雨に目覚めるという由来があるのです。
それ以外に桜を散らしてしまう雨のことを「桜流しの雨」とも呼びます。
桜流しという名前がなんとも春を思わせる、日本らしい美しい言葉ですよね。
木の芽お越しの雨とはどんな雨?
きびしい寒さが終わりに近づく頃、植物たちは春に向けて段々とその命を芽吹こうとします。
春に芽がでるのは誰でも知っている事実ではありますが、実は冬から植物たちはその準備を始めているのです。
そして暖かくなるにつれ、段々とその芽が大きくなってくるのですが、それには雨が必要ですよね。
芽が出る時期のことを、木の芽時と書き、このめどきと読みます。
小さく小さく出した植物の芽。
それを芽ぐむなどとも言うのですが、まさにこの小さな芽は春のきざしを教えてくれるのでしょう。
この小さな芽は、繰り返す雨により少しずつ成鳥していきます。
この雨のことを木の芽お越しの雨と呼び、すぐに来るだろう春を予感させていくのです。
またこの、木の芽お越しの雨と同じ意味で使う言葉以外に、催花雨(さいかう)・養花雨(ようかう)などと呼び、情緒を表現することがあります。
催花雨というのは芽を育てる雨というよりは、梅や早咲きの桜を開花させるための雨のことをいい、しとしとと降り植物を成長させる雨のことを表します。
ザーザーと降る雨ではなく、少しだけ曇った暖かな日に静かに降る雨は、日本の四季を思わせる独特の風景ですよね。
そこに桃や桜といった命を感じさせる不思議な木々を鮮やかに映し出します。
日本は熱帯地方の様にスコールという雨はないのですが、時折り激しく降る雨がありますよね。
ですがこれらの雨や春雨などの静寂漂う雨もまた、田園風景が多かった古来の日本から親しまれている雨なのでしょう。
日本に降る雨の呼び名とは?
春雨や木の芽お越しなど、春に降る雨の話をご説明してきました。
実は日本人はもともと抒情的なところがあり、どんな風景であっても詩的な世界観を大事にする風潮がありますよね。
雨と聞くと、足元が濡れて嫌なもの、というイメージももちろんありますが、例えば雨の風景に桜があったり、海辺で
あったり、はたまた山々であったりとする場合は「何と美しい雨だろう」「何と儚い雨だろう」と感じることもあるかもしれません。
そんな雨ですが、それぞれ呼び名があることをご存知でしょうか?
こちらでは春の雨以外に、日本人に親しまれている雨の呼び名をご紹介しましょう。
梅雨の時期
- 走り雨
- 梅雨の走り
- 迎え梅雨
- 男梅雨
- 女梅雨
- 戻り梅雨
- 返り梅雨
- 空梅雨
- 枯れ梅雨
などと呼びます。
走り雨や梅雨の走り、迎え梅雨は、どんよりしてスッキリしない天気で梅雨入り付近の天候を指します。
また梅雨そのものの呼び方にも色々あり、五月雨や卯の花腐しなどともいうことも。
男梅雨や女梅雨は言い方が変わっていて初めて聞く方もいるかもしれませんが、それぞれ特徴が違います。
男梅雨は梅雨の割に晴れ間が多く、たまにザーっと激しい雨が降ることを言います。
一方で女梅雨は、ずっと静かで弱い雨が長く続く梅雨を指します。
空梅雨や枯れ梅雨は文字通り、梅雨なのに雨があまり降らないこと。
このように同じ梅雨だけでも言い方が何種類もあり、日本人はその雨の様子をわけてしっかり区別をつけてきたことがわかりますね。
初夏の雨の呼び名には新緑の美しさが表現されている!
春先の雨や梅雨の雨にそれぞれ名前があることはお伝えしました。
ではその他の雨にも、名前が付いているのでしょうか?
実は初夏から冬にかけての雨にも名前があり、人々はその雨を季語として使うこともあります。
現在では俳句を詠むなどということは一般社会で少なくなっており、特に携帯やパソコンというコミュニケーションツールが当然となっていることもあるため、日常生活で季語を気にすることはそうそうないかもしれません。
ですが目上の方や恩師などに手紙を書く必要性がある時に、季語を知っておくとスムーズな書き出しができるはず。
そこでこちらでは初夏以降の季語ともなる、雨の呼び名を書き出してみましょう。
初夏編
- 翠雨(すいう)
- 青葉雨
- 緑雨 新緑の青葉を濡らす雨のこと
- 瑞雨
- 甘雨
- 穀雨 夏に茂ってくる新緑をしとしとと濡らす雨
- 催涙雨 七夕に因んでつけられた雨の名で、織姫と彦星の会えない淋しさを表現している雨のこと。
昔物語とはいえ、とても美しい名前の雨ですね。
秋から冬の雨には寂しさが表現されている!
秋から冬にも雨が降る事はあります。
夏が過ぎて秋がくる頃、風景は急に寂しくなります。
今までは緑眩しかった森林も段々と紅葉し、そして冬が近づくと葉が落ちてきますよね。
その寂しそうな様は、哀愁たっぷりです。
秋は紅葉した美しさがあるため、観光地でも見物客が多く賑わいを見せます。
ですが冬はその寂しさに段々と人々の姿が消えてくるのです。
そんな時に降る雨は、とても寂しく冷たい印象があります。
その季節が変化していく時に降る雨のことを、やはり情緒を重んじる日本人は素晴らしい言葉で名付けています。
秋の雨
- 秋入梅(あきついり) 秋の梅雨とも考えれらた長い長い雨のことで、段々と冬に向かう寂しい季節を表現しています。
- 秋湿り
秋霖 名前からして少し難しい印象を受けますが、長く続く秋雨前線のことを指しています。
秋雨はまさに、しとしとと長く続く雨のことを指しますよね。
そんな雨を秋霖などと呼ぶのですが、漢字を見るだけでどれだけ秋雨のことを美しく表現したのかがわかりますね。
冬の雨
・冬雨 文字通り冬に降る雨のことで、凍雨や寒雨とも呼びます。
字を見るとわかりますが、とにかく冬の季節に降る雨は凍てつく寒さであることがわかります。
冬の雨は風景も寂しく、とても季語になりにくいですよね。
ですがそれをこんなに的確な漢字で表現する、日本人の季節感はさすがです。
・氷雨
氷雨とは秋が終わるあたりの頃から冬が始まる雨のことで、いわゆる冬の最初の雨のことを指します。
氷の雨と書くだけあり、極寒の雨と考えそうですが、意外にも俳句では夏の季語であることが有名です。
またやはり氷のつぶが雨のように降る、という意味もあり冬の寒さの雨を俳句以外では表現します。
まとめ
こちらでは木の芽お越しという、春の芽吹きの雨をご説明すると共に、日本人は一年を通して降る雨の事をいかに抒情的にとらえているかをお話ししました。
古来の日本でも歌を詠むことで相手に気持ちを伝えることはありましたが、その名残が現在でもこのように雨に名前を付けるなどとして残されているのかもしれません。
最近は手紙を書く機会も段々と減りつつあり、季語を意識することは減ってきていますよね。
ですがせっかくなのでこの覚えた雨の名を使い、あまり会うことができない恩師や大切な方に素敵な手紙を書いてみてはいかがでしょうか?