春になると道端で見かける、小さな黄色い花を咲かせる傍喰(かたばみ)という植物。普段はそこまで足を止めて観察することもないかもしれませんが、実はあの傍喰(かたばみ)には知られざる凄い秘密が隠されています。現代では雑草として目に止まることが少ない傍喰ですが、戦国時代にはその特性から武士の家紋として愛されてきたのです。
それ以外に西洋でも、キリスト教にまつわる神聖な植物として扱われているという事実も。こちらではそんな傍喰について、名前や漢字の由来、またどうして家紋として愛されてきたのかなどについてご説明していきます。
よく目にする傍喰(かたばみ)はクローバーと似てる?
歴史博物館などで、一度は目にしたことがある家紋。家紋は結婚式の紋付き袴や、お子様だと七五三の羽織にいれようと準備する方も多いのではないでしょうか。その中でも傍喰(かたばみ)の家紋を、ご存知だという方も多いはず。
そもそも傍喰(かたばみ)とは、どんな植物なのでしょうか。傍喰は世界のあちこちで目にすることができる植物でありますが、正確な原産地はアフリカ、またはアメリカなどとされています。春の暖かい時期から、寒くなるまでの冬頃までが傍喰の開花時期とされており、比較的シーズンの長い植物であると言えるでしょう。
日本で生活をしていると、小径や路上脇などにひっそり小さな黄色い花を咲かせている植物を目にしたことはありませんか?それが傍喰です。大体茎は15cmほどになりますが、花の大きさ自体は全長が8mmほどと小さめ。その可愛らしい姿は、思わず座り込んでじっと見入ってしまうほどです。
稀に傍喰の葉を見て、クローバーだと勘違いする方もいるかもしれません。実は傍喰の葉は3枚であり、しかも1枚の葉がハート形をしているのが特徴です。パッと見ただけではクローバーなのか、傍喰なのかわからないという方もいるはず。
この2つの違いについては、葉の形が決定的に違います。傍喰の葉は「ハート」の形をしているのに対し、クローバーはトランプの「クラブ」の形であると認識してください。
クローバーはイメージ的にもハートの形をしているように思うかもしれませんが、そんなことはありません。また日本でクローバーというと白つめ草のことを指すことが多いのですが、当然花の色も傍喰とは違いますね。もしも傍喰かクローバーか悩んだら、葉の形や花の色に注目すると良いでしょう。
かたばみには漢字がいくつもあるのはなぜ?名前の由来は?
傍喰と書いて「かたばみ」と読みますが、実はこの他にもかたばみを指す漢字があることをご存知でしょうか。かたばみには傍喰という字の他、片喰などとも表現します。実はこの傍喰の葉は夜になるとその小さい葉を閉じると言われており、そのため葉が「片方喰われている」などといわれたことから片喰・傍喰と書かれたというのが通説です。
また酢漿草などと表記されることもありますが、これは傍喰の葉や茎にシュウ酸塩が含まれていて噛むと酸味を感じることが原因とされています。羊に食べさせてしまうと腎臓病を起こしてしまうなどという話もあるようなので、人も食用として口に含まない方が良さそうですね。
ただ虫刺されなどには効果があるようで、すり潰して使うことには問題がないようです。この民間方法は日本でも昔から、伝承として残されているという話もあります。
傍喰はその特性から、どんどん陣地を広げていく雑草の1つです。そのため庭で見かけた時に最初は可愛らしいと思っていても、日が経つにつれ芝生や庭が傍喰で覆いつくされてしまうということも。
うなると芝生などに全く日光が当たらなくなってしまい、植物の生育状況が良くなくなってしまいます。もしも傍喰が育ってきたと感じたら、ある程度のところで除草するのも大事であることを覚えておきましょう。
傍喰は武士に愛された花!?家紋になった理由とは
傍喰の花は今でこそ雑草であるとしてそこまで注目されていませんが、実は戦国時代の武士にはとても愛された花だったと言います。
それは先ほどもご紹介した、傍喰という植物の特性にありました。雑草としてどんな境遇にも負けずに、どんどん自生していく傍喰。その姿を見た男性たちは、何と生命力の溢れている植物だと感じたのでしょう。天候の悪さなどをもろともしない傍喰と、当時の子孫繁栄という願いをかけて、傍喰はその家に子供をたくさんもたらし一家を幸せに導くとされていたのです。
特に武士がまだいた時代には、男児誕生は大きな意味を持っていました。そのため子孫繁栄には、家が続いていくという深い意味も込められていたのかもしれません。
鎌倉時代にはすでに傍喰には特別な思い入れがあったようで、源氏車と呼ばれる権力のある人物が乗っていた人力車のようなものの車輪にも「車紋」として、傍喰のマークが入れられていたという話もあるほど。傍喰が時代を超えて生育してきたことが、このような歴史からもわかりました。傍喰はこのような理由で武士たちに好まれてきたため、家紋として使われることになってのですね。
一口に家紋と言いましても、男家紋や女家紋というような種類が存在するなど、その種類は5千を超え1万未満はあると言われています。日本では10大家紋と呼ばれる有名な家紋が存在するのですが、その中に傍喰を使った家紋も入っています。しかも当時2番目に使われていた家紋であり、とても有名だったのです。
そこで10大家紋にはどんなものがあるのか?について、せっかくだからまとめていきましょう。
- 鷹の羽紋…江戸時代に主流となった家紋で、鷹の羽をモチーフとしています。
- 片喰紋 …植物紋として一番人気があった家紋で、子孫繁栄を願っていました。
- 木瓜紋 …種類が多く、その中には織田信長が使ったとされているものも。瓜の切り口をモチーフにした、または鳥の巣をモチーフにしたなどと諸説あります。
- 藤紋 …もともとは藤原家の家紋で、藤の花をモチーフにしています。
- 桐紋 …豊臣秀吉も使ったとされる桐の花をモチーフとしており、皇室などでも使われる由緒正しい家紋
- 蔦紋 …蔦をモチーフにした家紋で、かなり昔から使われています。
- 茗荷紋 …ミョウガはその昔、とても縁起が良い植物とされていたため家紋となりました。
- 沢瀉紋 …沢瀉紋(おもだかもん)とは、水辺に咲く白い花をモチーフにした家紋のこと。
- 橘紋 …甘橘類をモチーフにした家紋。
- 柏紋 …柏の木をモチーフにした家紋、昔から柏の木は神聖なものとされていました。
このように日本には10大家紋というものがあり、多くの武士たちが戦場の赴く際の鎧や兜などに入れていたのです。
片喰紋の種類とは?
片喰紋といっても、実は1つだけではありません。家紋はそれぞれモチーフにしたものがあり、そこからまた様々なデザイがほどこされ100種類を超えるものもあります。傍喰も実はバリエーションがたくさんある家紋の1つで、その数は120を超えるとも。
傍喰にはそのまま傍喰をモチーフにした花形の家紋の他に、花に剣をモチーフにしたものを描いた「剣片喰」、さらにその剣傍喰をまるで囲った家紋が「丸に剣片喰」という家紋になります。剣をモチーフにしている家紋だけに、武士が愛用していたのは言うまでもありません。
それ以外にも傍喰に蝶々の形を合わせた、「剣片喰飛び蝶」などというものもあります。ただ戦いを意識させるだけではなく、時として優雅な蝶々をも合わせた家紋も作られたということですね。このように傍喰は家紋として様々な種類を持ち、子孫繁栄を中心としてたくさんの希望を持たれていたということでしょう。
傍喰の花言葉は「聖なる喜びの意味」が含まれていた!?
傍喰は雑草ではありますが、花言葉も当然あります。日本での花言葉は「母の優しさ」や「喜び」、「輝く心」などとされています。
ただ傍喰自体は世界で自生されている植物なので、他の国にも花言葉があるのです。ヨーロッパなどでは特に聖なる喜びの花とも言われ、人々に親しまれています。その理由は、キリスト教に関係していました。
キリスト教では三位一体という教えがあり、傍喰のように三枚の葉が1つに生えている植物は神聖なものとして扱われています。特にコミヤマカタバミという種類の傍喰は、「ハレルヤ」という別名が付いていることで知られています。このハレルヤという言葉は、キリストを褒めたたえるために使う言葉。
傍喰は花を咲かせる時期がちょうどキリストの復活祭の時期でもあることで、よりキリストの復活に関係しているような「喜び」、聖母マリアを思わせる「母の優しさ・愛」などという花言葉が付けられたというのが有力な説なのです。
まとめ
傍喰という植物は、普段何気なく目にしている黄色い花を咲かせる雑草だと思っていた方も多いことでしょう。確かに現在は雑草であり、時として除草することも大事。ですが子孫繁栄を信じた古来の武士たちが愛した植物であるということで、家紋として使われたり、西洋ではキリスト教と重ねられ、神聖な植物であるとされている歴史があることも事実です。
今までは知らなかったことを知り、今年の春には例年とは違う眼差しで傍喰を見てみてください。これまでは気が付くことのなかった、傍喰の魅力を知ることができるかもしれません。