「菖蒲華」は、季節の移ろいを動物や植物、気象の変化で表した「七十二候」のひとつです。
今回は、梅雨の時期にあたる七十二候「菖蒲華」について、期間や由来、ハナショウブ・アヤメ・カキツバタの見分け方などを解説。
ハナショウブが楽しめるおすすめスポットもご紹介するのでぜひ参考にしてください。
菖蒲華(あやめはなさく)は6月26日から6月30日頃を指す
表題のとおり、菖蒲華は「あやめはなさく」と読みます。
動植物や気候の変化を時期ごとに表した「七十二候(しちじゅうにこう)」のひとつです。
その名のとおり「アヤメが咲き始める時期」という意味があり、6月26日から6月30日頃を指します。
この時期の旬の食材は、みょうが・カンパチ・鮎・夏みかんなどです。
七十二候は5日ごとに季節の変化を表したもの
七十二候はもともと古代中国で考え出されました。
中国には一年を24等分(半月ごと)にして季節の変化を表した「二十四節気」というものがあり、それぞれの節気をさらに3等分(5日ごと)に細分化した七十二候が作られたのです。
七十二候の名称は、気候や動植物の変化を短い文で表現したもの。
江戸時代に日本の気候に合うよう名称が改良され、現在は明治時代に改訂された「略本暦(りゃくほんれき)」の七十二候が使われています。
日本における二十四節気としては、例えば「春分」「夏至」「大寒」などが挙げられます。
それらをさらに「初候(しょこう)」「次候(じこう)」「末候(まっこう)」の3つに分けたものが七十二候というわけです。
菖蒲華は二十四節気の「夏至」のうち、次候にあたります。
菖蒲華なのに咲くのはアヤメではない!混同されがちな4つの植物
菖蒲華の意味は「アヤメが咲き始める時期」とご説明しましたが、実は実際この時期に咲き始めるのは「アヤメ」ではなく「ハナショウブ」なんです。
また、端午の節句の「菖蒲湯」に用いられる「ショウブ」とも異なります。
ハナショウブとアヤメ、そして「カキツバタ」という植物は見た目がよく似ており、昔から混同されがちでした。
呼び方も総称として「菖蒲(アヤメ)」が使われることも多く、菖蒲華の「アヤメ」も時期的にハナショウブだろうと考えられているのです。
ここでは、少しややこしいハナショウブ・カキツバタ・アヤメ・ショウブの違いを解説していきます。
菖蒲と言ったらハナショウブ!花びらの根元に黄色い模様がある
花菖蒲(ハナショウブ)は、アヤメ科アヤメ属の多年草。5月下旬から6月下旬頃が開花時期です。
野生の「野花菖蒲(ノハナショウブ)」をもとに品種改良された園芸植物で、なんと2,000種以上もの品種が存在すると言われています。
それゆえに花の種類も紅紫・紫・絞り(絞り染めのように色が入り混じっているもの)など多彩ですが、総じて花びらの根元に黄色い目の形をした模様があるのが特徴。
葉が後ほどご紹介する「ショウブ」に似ており、美しい花が咲くことから「ハナショウブ」と呼ばれるようになりました。
また「アヤメ」や「ショウブ」と呼ばれることもあり、菖蒲園(しょうぶえん)、菖蒲祭り(しょうぶまつり)など、一般的にショウブと呼ばれるものはハナショウブを指しています。
乾いた草原や畑地でも、池や沼などの湿地でも見られる植物です。
アヤメは花びらの根元に網目模様がある
一方、菖蒲(アヤメ)はアヤメ科アヤメ属の多年草で、5月上旬から中旬頃が開花時期です。
漢字にすると「菖蒲」または「文目」。
少しややこしいのですが、ショウブもアヤメも両方「菖蒲」と書くんです。
丈はハナショウブより低く、紫色のきれいな花を咲かせます。
花びらの根元に網目状の模様があり、外側の花びらには黄色も入っているのが特徴。
葉は細く葉脈がはっきりしません。
山野の草地や乾いた畑などに自生しており、水辺などの湿地に生えることはほとんどありません。
カキツバタは花びらの根元に白の細い線が入っている
花菖蒲とよく似た植物として、杜若(カキツバタ)も挙げられます。
カキツバタの開花時期は5月中旬頃。
花は青紫がほとんどですが、紫・白・絞りなどが見られることも。
丈はハナショウブとアヤメの中間くらいで、花びらの根元に白色の細いすじが入っているのが特徴です。
葉の幅は広く葉脈が見られません。
池や沼などの湿地に生えています。
ショウブはツクシのような穂状の花が咲く
菖蒲(ショウブ)は水辺で自生するサトイモ科の多年生植物です。開花時期は5月頃。
葉はハナショウブとよく似た日本刀のような細長い形状で、中央にはっきりと太い葉脈が通っています。
しかし、花は全くの別物。ツクシの穂を大きくしたような黄緑色の細長い形状をしています。
一面に小さい花がたくさんついていますが、一見するとあまり花には見えません。
端午の節句(たんごのせっく)にあたる毎年5月5日には、男子の健やかな成長を願ってショウブの根や葉を入れて沸かした「菖蒲湯」に浸かる習慣があります。
ショウブは邪気を払ってくれそうな爽やかな芳香がするのも特徴で、さまざまな効能がある薬草としても知られています。
菖蒲華に咲くのはハナショウブ!見分け方のポイントは花びら
関東地方では5月中旬頃にアヤメの遅咲きやカキツバタの最盛期が重なり、ハナショウブの早咲きが見られることもあります。
それぞれの花が重なりながら交代で咲くので、同じ花がずっと咲いているように見えてしまうんですね。
でも、菖蒲華の時期に咲くのは開花時期からしてハナショウブの花。
この時期にハナショウブと思われる植物に出会ったらまずは花びらの根元を確認してみてください。
黄色い菱形の模様が入っていればそれはハナショウブ。
菖蒲華の時期が来たんだなと実感できますよ。
ハナショウブが楽しめる都心のスポットを紹介!
より確実に美しいハナショウブの花を楽しみたいなら、花菖蒲園や菖蒲祭りに行ってみましょう。
花菖蒲園は全国に200ヵ所以上あると言われていますが、なかでも都心のおすすめスポット・イベントをご紹介します。
■明治神宮御苑(渋谷区)
明治神宮の境内にある御苑(庭園)には、明治天皇が皇后のためにお造りになられた菖蒲田が存在します。
6月になると見事なハナショウブが楽しめるスポットなので、その歴史ある風情とともにぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか。
6月中の開苑時間は8時、閉苑時間は17時(土日は18時)。
御苑維持協力金として500円が必要です。
■堀切菖蒲園(葛飾区)
葛飾区の観光名所のひとつでもある堀切菖蒲園。6月中旬から下旬にかけて見ごろを迎え、およそ200種6千株の花菖蒲が楽しめます。
通常の開園時間は9時から17時ですが、ハナショウブの開花時期には8時から18時まで延長されます。
入園料は無料です。
毎年、堀切菖蒲園と水元公園を会場にした「葛飾菖蒲まつり」も6月初旬頃から開催されています。
ぜひ訪れてみてください。
■小岩菖蒲園(江戸川区)
江戸川の河川敷に広がる、回遊式の庭園に仕立てられた小岩菖蒲園。
4,900平方メートルにもおよぶ菖蒲田では、約5万本のハナショウブが咲き乱れます。
6月上旬から中旬にかけて「小岩菖蒲まつり」も開催されますよ。
河川敷のため利用時間の制限はとくに存在せず、入園料もかかりません。
中国では蜩始鳴=蝉が鳴き始める時期を指す
七十二候はもともと古代中国で考案されたものだと冒頭でご説明しましたね。
菖蒲華は、由来である中国の宣明暦(せんみょうれき)では「蜩始鳴」にあたります。
読み方は「せみはじめてなく」で、読んで字のごとく蝉が鳴き始める時期であることを指します。
中国の暦ではありますが、日本でもこの時期にアブラゼミやニイニイゼミが鳴き始めますから、違和感はありませんよね。
ちなみに、日本の略本暦では菖蒲華の一個前の七十二候が「乃東枯(なつかれくさかるる)」、後ろが「半夏生(はんげしょうず)」です。
ともに草花に関連した七十二候なので、真ん中の菖蒲華とあわせて植物の移り変わりを感じられる日本式の名称に改良したと考えると趣が感じられます。
菖蒲華の時期にハナショウブの美しい花を楽しもう
今回は、七十二候のひとつ「菖蒲華」の時期や、ほかの花との違い、ハナショウブが楽しめるスポットなどをご紹介してきました。
「あやめはなさく」と読むにもかかわらず、実際に咲く花はハナショウブという少しややこしい七十二候でした。
昔からハナショウブ・アヤメ・カキツバタの3種は混同されやすく、名称もひとまとめにアヤメと呼ばれることも多かったようです。
「何れ菖蒲か杜若(いずれあやめかかきつばた)」ということわざからも分かるとおり、区別が難しくどの花も甲乙つけがたい美しさ。
これらの花を見分けながら、梅雨の時期、雨露に濡れる美しいハナショウブの花を楽しんでみてはいかがでしょうか。