乃東枯という言葉を聞いたことがありますか?日常生活ではなかなか見掛けない言葉ですので、読み方すら分からないという人も多いでしょう。この言葉は、初夏の一時を表わした言葉です。では、一体何のことを表わしているのでしょうか?
ここでは、乃東枯についてを詳しくご紹介します。
乃東枯とはどういう意味?乃東は植物なの?
我が国には、独自の気候や風土、動植物の動きなどに名前を付けて、72の季節を表わす表現が用いられています。
それを七十二候といい、一つの期間をおよそ5日毎に区切られています。乃東枯とは、その七十二候のひとつで、二十四節気の夏至の初候にあたります。具体的には6月21日から25日頃を指します。「乃東が枯れる頃」という意味を持ちます。
乃東(だいとう)とは、夏枯草(かごそう・なつかれくさ)や、うつぼ草の異名です。この草は、冬の冬至頃に芽を出し、夏至の頃に紫色の花が黒ずんで枯れているように見えます。夏至のこの時期にちょうど枯れていく草なので、乃東枯といわれているのです。
冬至の初候に「乃東生」というものがあり、これは「乃東が生える頃」という意味を持ちます。この2つが対になっているのです。
夏枯草は、昔から薬草、漢方として広く用いられてきました。生薬には利尿作用や消炎作用があるため、煎じて飲まれていました。膀胱炎や腎臓炎などの治療にも用いられていたのです。また、煎液を腫物や捻挫の箇所に塗って湿布の代わりとしたり、うがい薬として使うこともあります。
和名は夏枯草やうつぼ草ですが、英名は「オールヒール」といい、全てを癒すという意味があります。
夏枯草は、都会ではそう沢山は見かけないものですが、少し田舎の日当たりの良い野山や畦道ではよく見かけます。ヒメオドリコソウなどと似ているため同じものだと勘違いしている人も居るかも知れませんが、うつぼ草は紫色、ヒメオドリコソウはピンクの花を咲かせます。
乃東枯の読み方は?
乃東枯と書かれていても読み方が分からないでしょう。
乃東枯は、「なつかれくさかるる」と読みます。その他にも、「だいとうかるる」「なつくさかれる」という読み方をされることもあります。
その字を読んでみると分かるように、乃東=夏枯草・うつぼ草が枯れるという意味ですが、その姿はなかなかイメージが湧かないかも知れません。うつぼ草は6月頃に紫色の花を咲かせる植物ですが、枯れると全体的に黒く染まります。
尚、夏至の次候は「菖蒲華」、末候は「半夏生」となります。徐々に夏が深まっていく時期です。
乃東枯の使い方は?
乃東枯を日常に取り入れる場合の使い方は、やはり時候の挨拶として取り入れるのが自然です。
七十二候は、その時期をピンポイントで表す美しいものになりますので、ハガキや手紙などの文頭で時候の挨拶としての使い方をすると良いのです。
例えば、
「乃東枯、日に日に暖かくなり、夏枯草が枯れゆく季節となりました~」
「乃東枯 近所の畦道にうつぼ草の花が咲いていて、夏はすぐそこだと感じました~」
という使い方をします。
また、ブログやコラム、会報の誌面などで七十二候の言葉を用いることもあります。
乃東枯の時期は日本列島は梅雨に入り、雨模様が続き憂鬱な気分になることが多いものです。そんな憂鬱な気分を吹き飛ばすように、夏のイベントを計画してみても良いかも知れません。
乃東枯の時期に旬を迎えるもの
乃東枯の時期に旬を迎えるものは、鮎、夏みかん、アナゴ、ミョウガなどです。
鮎は6月から漁が解禁されるもので、この時期にしか手に入りません。シンプルに塩焼きなどで食べますが、鮎漁が行われる清流のほとりの店では、非常に珍しい鮎の刺身を提供しているところもあります。鮎などの川魚はアシが早いため、刺身の状態では市場に出回りません。
寄生虫の危険もありますので、素人が自分の判断で生食するのは危険が伴います。
そのため、専門店で処理をされたものを食するのが基本です。もし見かけたら一度は食べて見る価値がありそうですね。
アナゴもこの時期に旬を迎え、美味しくなります。関西では焼きアナゴ、関東では煮アナゴが一般的です。好みが分かれますが、どちらも身がふっくらと美味しいものです。
夏みかんは、日本原産の蜜柑です。冬に旬を迎える蜜柑に比べると、少々酸味が強いのが特徴です。
和菓子店などでは、夏みかんの身をくり抜き、そこへ果汁と寒天で作ったゼリーを流し込む「丸ごと夏みかんゼリー」のようなものを販売していることがあります。
期間限定商品である場合が多いため、見付けたらその時に試してみることをおススメします。
ミョウガも夏らしい食べ物です。旬のものは香りが良く、味噌汁に入れたり、薬味として使ったり、天ぷらにしても美味しいです。
ミョウガを食べると物忘れをするという言い伝えがありますが、これには科学的根拠はなく、むしろミョウガの香り成分がスッキリさせて眠気を遠ざけ、集中力をアップさせるといわれています。
夏枯草が枯れるのは実はもっと後?
乃東枯の頃に乃東は本当に枯れるのか?と疑問に思う人もいるのでは無いでしょうか。
実際に調べて見ると、夏枯草・うつぼ草が花を咲かせる時期は6月~8月といわれており、必ずこの時期に枯れるとはいえません。
乃東が咲く地域やその年の気候にもよりますが、6月の下旬であれば、多くが花盛りという時期にあたります。では、なぜ乃東枯とされたのでしょうか。
それは、七十二候の日本版である略本歴が作られた時代から、少しずつ気候がズレてきている影響からかも知れません。
満開の花を付けている夏枯草がこれから枯れゆく様を表現していると言われれば、それも風情です。また、この花を漢方薬として使用する場合は、完全に枯れてしまう前、枯れ始めに採取が必要になります。そのベストな状態を見逃さないように、少し早めに注目できるようしていたのではないか?という考え方もあります。
夏至は一番日が長い!
ご存知の通り、夏至は一年の中で一番昼が長い日です。冬至と比べると、およそ4時間も明るい時間が長くなります。
暖かい気候で、明るい時間が長いため、気分的にも浮かれやすい時期です。
とはいえ、この時期は梅雨前線の影響で雨が続き、曇りがちな日々が続きます。
雨の日は肌寒いことも多く、昼夜の寒暖差から体調を崩しやすい時期でもあります。
体調管理には十分注意しなくてはなりません。また、湿気の多いじめじめとした季節は、気分も塞ぎがちでメンタル面にも大きな影響を及ぼします。
憂鬱を感じたり、ストレスを溜め過ぎないようにしましょう。休息を取ることも大切です。
近年では、正確な天気予報が分かるようになりましたので、梅雨の晴れ間を有効活用できるように、予報を活用し、前もって計画を立てておくのも良いでしょう。
7月に入ると様々な場所でお祭りなど楽しいイベントや夏休みなど活動量が増えますので、この時期にしっかり力を蓄えておくことも大切になります。
中国の宣明歴では・・・?
乃東枯は、日本の気候や風土に合わせて中国から伝わった七十二候を改訂した略本歴のものです。
中国には略本歴の大元である宣明歴というものがあり、その中で乃東枯の時期にあたるのは「鹿角解(しかのつのおつる)」といいます。
「鹿が角を落とす頃」という意味があります。鹿は毎年角が生え替わります。
春先に古い角が落ち、繁殖期の秋に向かって再び角が生え揃うのです。角が落ちた後は、柔らかい角の芽のような物が生えてきます。
徐々に固くなり、闘いに使える立派な角となるのです。
略本歴では、冬至の次候に「麋角解」というものがありますが、この時期の鹿とは種類が異なります。冬の方は大鹿を表わすため、トナカイやヘラジカなどの大鹿のことをいうのです。
まとめ
乃東枯というのは、七十二候のひとつで、夏至の初候にあたります。6月21日から25日頃を表わしています。
乃東というのは夏枯草・うつぼ草のことで、夏枯草・うつぼ草が枯れる時期であることを示しています。
うつぼ草は昔、薬草として漢方に使われていた植物です。現在の気候では、この時期に枯れてしまうということはなく、寧ろ一番花が美しい時期です。
本当に乃東が枯れてしまう前に、その美しさを堪能するチャンスです。
また、枯れるというと寒い冬を連想させマイナスイメージに感じますが、乃東が枯れることで楽しくて明るい夏が来るという希望を感じさせる表現です。
梅雨時期の憂鬱な時期に、花を見る余裕や楽しみを持つ子持ちが大切なのかも知れませんね。