『桐始結花』という言葉を聞いたことがありますか?なんて読んだらいいのでしょうか。
これは、七十二候の1つです。『きりはじめてはなをむすぶ』と読みます。桐の花の時期を指すのでしょうか。それにしても『花結ぶ』とは何とも不思議な表現ですね。
『桐始結花』の時期と意味、どんな由来があるのか。桐がどんな植物なのか、身近な使い方も併せて紹介します。
そしてこの時期ならではの特徴を知って自然に目を向けてみるのもいいかもしれませんね。
桐始結花は何て読むの?
『桐始結花』は何て読んだらいいのでしょうか。ちょっと迷いますよね。これは、『きりはじめてはなをむすぶ』と読み72候という日本古来からある暦の第34番目の候に当たります。
72候というとあまり馴染みがないかもしれませんが、24節気は知っている方も多いですね。
24節気という言葉はあまり聞かなくても暦の上で春になる立春や、同じように夏になる立夏、立秋、立冬は聞いたことがありますよね。
これらはみんな24節気の中の1つの節気を表す言葉です。
夏至や冬至も同じく、24節気の1つです。カレンダーでも24節気入りというのがあるので、全部を順番にいえなくても聞けば知っているものが多いのが、24節気ですね。
日本が明治の初め(明治6年、1873年)まで使っていた旧暦といわれる太陽太陰暦では、1年が354日だったので、どうしても暦と季節感がずれてしまいました。
このずれを修正するために使っていたのが24節気でした。
24節気は1年を24分割していて、1つの節気が15日間ですが、72候は、1つの節気をさらに5日間ずつ初候、次候、末候の3つに分けています。
『桐始結花』は、34番目ということで初侯にあたり、次候は『土潤溽暑』で『つちうるおうてむしあつし』で土が太陽に熱しられて熱を放ち、蒸し暑い時期という意味です。
そして末候が「大雨時行」で『たいうときどきふる』で、夏の集中豪雨や夕立がある時期です。
どんな時期?大暑との関係は?
『桐始結花』は、一体どんな時期なのでしょうか。
72候は24節気の1つの節気を3つに分けていて、『桐始結花』は、34番目(7月22日か23日~27,28日頃)ということは末候が終わると一年の半分が終わりますね。
昔の暦は1年が春から始まっていますので半分が終わるということは夏が終わるということです。
『桐始結花』は、24節気でいう『大暑』の初候に当たります。
『大暑』の時期は、すごく暑いから『大暑』という名前がついたくらいの、夏真っ盛りの時期。
だいたい7月23日頃から8月6日ごろまでで、ねぶたまつり、山形花笠祭り、秋田竿灯まつりなどの有名な夏祭りが行われる時期と重なりますね。
さらに、ちょうど土用の期間とも重なっています。『桐始結花』の時期は、とても暑い時期ですので、
暑さ対策や、暑さに負けないように体を冷やす効果のある夏野菜などの食べ物を食べたり、体力をつける食べ物を食べて乗り切りたいですね。
こんなに暑さが厳しい時期なのに、『きりはじめてはなをむすぶ』というのは、なんだかあまり暑さを感じさせないというか、不思議な表現ですよね。
『はなをむすぶ』という表現がどんな情景なのか、花が咲くということを指しているのかなんともイメージがわかず、考え込んでしまいます。
実は、『はなをむすぶ』というのは、花が咲くという意味ではなく一般的には『実がなる』という意味だといわれています。
ただ、『花のつぼみができる』という意味だという説も。これは、桐という植物の特徴と関係するので、次はこんな不思議な表現をさせてしまう『桐』について紹介します。
桐はどんな植物?
『桐』というとどんなイメージがありますか?
古くは清少納言が『枕草子』で桐のことを『鳳凰が止まる木』は、やっぱり特別だから趣があるわねと書いていますね。
これは、紀元前9世紀ころの『詩経』や荘子でも、伝説の鳳凰という鳥は桐にしか止まらないし、特別な泉の水しか飲まないと紹介されているところからきています。
ところが、桐には、アオイ科のアオギリ(青桐)とキリ科の白桐と紫桐があり、日本で桐というとキリ科の桐を指し、鳳凰が止まるのはアオイ科の桐なので実は別物なのです。
さて、この桐ですが、中国が原産の落葉樹で日本では北海道南部より南の地域に植栽しています。
高さが10mと高くなりますが、他の木と比べて成長が早く、切っても切ってもすぐに芽を出して成長していくことから
『切る』が『桐』の名前の由来となったという説があるくらい成長の早い木です。
昔から女の子が生まれたら桐を植え、結婚するときにその桐を切ってタンスを作って持たせるという習慣があったのは、桐の成長の早さを表すいい事例ですね。
そしてただ成長が早いだけでなく、種からの発芽率も高いため野生化して問題を引き起こすこともあります。
成長の早さに加え、木目がとても美しいことから『木理(キリ)』が由来となったという説もあります。
特に寒い地方で育つ桐は木の密度が小さく、木目が密になるために良材といわれ、福島県の会津桐や岩手県の南部桐が有名です。
『花結ぶ』は『花が咲く』のではない?
さて、このキリ科の桐は、4月から5月頃に幹の上の方で、上向きに房状に群れて藤色の花が咲きます。
高い位置で咲き、さらに上を向いているために、気をつけて花を見ようとしないと、咲いていることにすら気がつきませんが、
ハアザミに似た筒状のとても美ししい薄紫色の花がたくさん咲いています。
そして、この花の房の形が残ったまま7月の大暑の時期に3cmくらいのレモンのような形の緑色の実ができるのです。
この実は、はじめは固く閉じていますが、冬になると二つに割れて中から白い翼をもったような種が出て広がっていきます。
桐が大暑の時期に実をつけることから、『花結ぶ』は、『実を結ぶ』や『実がなる』という意味だといわれています。
そうはいってもやはり『花結ぶ』がどうして実がなるのにつながるかやはり合点がいかない点があります。実がつくなら「実を結ぶ」とすればいいからです。
桐の実は、その年の実ができるちょうどその頃に、次の年に咲く花のつぼみをつけるのが、桐を観察するとわかります。
このつぼみは、約1年かけて雨や風にさらされながらも成長を続け翌年の4~5月に咲くというとても珍しい植物です。
つまり『花結ぶ』とは、花のつぼみを結んでいる、花のつぼみができるという意味なのです。
まさにこの時期につぼみをつける桐という植物をよく観察しているからこそつけられた、この時期の情景を表現しています。
桐の活用例 家紋、貨幣、タンスにも使われてる!
何とも不思議な経過を辿る桐ですが、この木の特徴をいかしていろいろな用途に使われています。
桐といって花はすぐに思い出せなくても葉はイメージがつく方が多いのではないでしょうか。
日本国政府や内閣総理大臣の紋は五七の桐ですね。パスポートの中は副紋となっている桐花紋が印刷されています。
広い卵型をした直径20~25cmの葉で、紋としては、菊花紋に次いで格式が高い紋とされています。豊臣秀吉は下賜された五七桐紋をアレンジして太閤紋を作って使用しました。
身近なものとしては500円硬貨にも刻印されています。
桐の用途として知られているのがタンスですが、これは桐の防湿効果と防虫効果によるものです。
桐は軽いといわれますが、比重が0.3です。これは同じ体積の中に空気がたくさん含まれているということです。
簡単な例でいうと、同じ大きさの厚みも同じ発泡スチロールの板とプラスチックの板を比べると発泡スチロールの方が軽いのですが、
それは発泡スチロールの発泡倍率が60倍(比重は0.0166)の場合は、1の原料を60倍に空気を入れて膨らませているので、
普通のプラスチックの板と比べると重さが発泡倍率分の1になり、軽いということです。空気を含んでいるということから断熱効果もあります。
さらに桐自体に、タンニンやセサミンが含まれていて、この成分を虫が嫌うことから防虫効果もあるのです。
こうした桐の木材としての特徴から、タンスの他におひつ、下駄、床材にも使われていました。
桐にはこの他にも驚くべき特徴があります。それは、木なのに燃えにくいのです。
桐の着火温度は400℃以上ととても高いので、江戸時代に火事場で桐のタンスに水をかけておけば周りが燃えてもそのまま燃え残ったこともあったそうです。
燃えにくい木というのは不思議な感じがしますが、この特徴をいかして、金庫の内側に使われることもあります。
まとめ
- 桐始結花とは、『きりはじめてはなをむすぶ』と読みます。
- 桐始結花は、72候の第34番目で24節気の大暑の初候にあたります。
- 時期は例年7月23日~27日頃です。
- 桐始発結花とは、『実をつける頃』という説が一般に多く言われていますが、『次の年に咲く花のつぼみがつく頃』と桐の木の観察を通じて「つぼみがつくこと」という説もあります。
- 桐は、切っても切っても成長する、成長の早い木。
- 桐は木の中で最も軽い。
- 特徴をいかして家紋やタンスなどに使われています。
72候の1つ桐始結花は、とても暑い時期ですが、この時期に桐は実をつけさらに来年咲く花のつぼみもつけます。自然に目を向けると、少しこの季節を楽しむことができるかもしれませんね。