「蒙霧升降」という言葉に、初めて出会った人もいるのではないでしょうか。意味はともかく、読み方すらよくわかりませんよね……。蒙霧升降とはいったい何なのか・蒙霧升降に霧が多くなる理由・霧の種類や言葉・日本国内の霧の名所までを一挙にご紹介していきます。
蒙霧升降とは?
蒙霧升降はふかききりまとうと読み、日本のとある季節(時期)を意味しています。
時期
蒙霧升降は七十二候の第三十九候に当たり(詳しくは下記)、8月17日~22日頃を指します。
蒙霧とは濃い霧(きり)のことです。蒙霧升降はまだまだ日中は暑いものの、朝夕は霧が立ちこめてひんやりする時期を意味しています。ツクツクボウシの鳴き声が聞こえ始め、夏の終わりを実感する頃ですね。
七十二候について
七十二候(しちじゅうにこう)とは何なのかを説明する前に、二十四節気(にじゅうしせっき)についてご紹介しましょう。
二十四節気とは
二十四節気とは、季節の区分のことを言います。1年の太陽の動きを24等分し、各季節に名前を与えたものです。
例えば「春分」「夏至」「立秋」「大寒」などは、すべて二十四節気です。たとえ二十四節気と意識したことはなくても、当たり前に聞いて育った“季節”を表す言葉ですね。
七十二候とは
七十二候とは二十四節気をさらに細かく分け、自然現象にちなんだ名前をつけたものです。古代中国で誕生したものですが、江戸時代に日本独自の七十二候がつくられました。
【例】例えば二十四節気の立秋は、以下の3つの「七十二候」に分けることができる。
- 立秋初候:涼風至(すずかぜいたる)/8月7日~8月11日頃
- 立秋次候:寒蝉鳴(ひぐらしなく)/8月12日~8月16日頃
- 立秋末候:蒙霧升降(ふかききりまとう)/8月17日~8月22日頃
蒙霧升降に霧が多くなる理由
なぜ、蒙霧升降には霧が多くなるのでしょうか。簡単にではありますが、霧ができる理由について見ていくことにしましょう。
そもそも霧とは?
霧とは地表付近の空気中に、水滴が浮遊する現象のことを言います。霧が発生すると、遠くがかすんで見えにくくなりますが、これは水滴が光を反射したり、吸収したりするためです。
霧とよく似たものに靄(もや)があります。気象庁では視程(肉眼で見通せる距離)が1km以上であれば靄、1km未満であれば霧と区別しています。霧が靄よりも見通しが悪いのは、より湿度が高いからです。
霧の発生メカニズム
霧が発生する仕組みはさまざまですが、一つに地表付近の空気が放射冷却されることによって発生しする霧(=放射霧)があります。放射冷却は、大気中に地表の熱が放出されて温度が下がり、気温を下げるという現象です。
大気がたくさんの水蒸気を含み、昼と夜の寒暖差が大きくなると放射霧は発生しやすくなります。蒙霧升降の時期はちょうど、
- 日中の気温が高い
- 湿度が高い
- 朝夕の気温が下がる
という気象条件がそろうため、霧が発生しやすいのです。
【参考】発生形態別による霧の種類(例)
- 蒸気霧(蒸発霧):暖かい水面(川・湖・海)から蒸発した水蒸気が、冷たい空気に冷やされて発生
- 移流霧:暖かく湿った空気が、冷たい地面・海上を移動するときに冷やされて発生
- 滑昇霧:湿った空気が山の斜面を昇るとき、断熱冷却されることによって発生
- 前線霧:前線付近で暖かい空気と冷たい空気が混ざることによって発生
さまざまな霧
霧は霧でも“さまざまな霧”があります。発生形態別のほか、発生場所や発生の時間帯などによって、呼び分けられているのです。知っていれば、より豊かな日本語表現ができるようになりますよ。
発生場所による区分
盆地にできる霧は「盆地霧」、対して都市で発生する霧は「都市霧」と呼ばれています。発生する場所が違えば、発生する原因も異なります。盆地霧は放射霧と蒸気霧が混ざったもの、都市霧は放射霧に煙が混ざったもの(スモッグ)と言われています。
発生場所で霧を区分する場合、他にも
- 川霧:川の水面近くにできる霧。蒸気霧の一種。
- 山霧:山にできる霧。滑昇霧が典型的。
- 海霧:海上にできる霧。多くは移流霧だが、蒸気霧のこともある。
- 陸霧:陸地にできる霧。多くは放射霧。
などがあります。
発生する時間帯による区分
朝にできる霧は「朝霧」、夕方にできる霧は「夕霧(せきむ)」、夜にできる霧は「夜霧」と呼ばれています。
「朝霧は晴れ(意味:朝に霧が発生すると、昼は晴れる)」ということわざがありますが、放射霧の発生条件を考えるとしっくりきます。放射霧の多くはもともと高気圧に覆われ、晴れていて風の弱い早朝に発生します。昼になると気温が上がって霧が消えるので、天気もよくなるというわけですね。
発生する季節による区分
夏にできる霧は「夏霧」、秋にできる霧は「秋霧」、特に初秋の頃にできる霧を「初秋霧」と呼びます。一方、「春霧」「冬霧」という表現はあまり多く用いられていません(俳句には見られます)。春の霧は「春霞(はるがすみ)」と呼ぶのが一般的です。
日本国内の霧の名所1
日本国内の霧の名所を紹介していきます。
摩周湖(北海道)
北海道の東部にある摩周湖(ましゅうこ)では、なんと年間100日以上も霧が発生します。6月から7月にかけては、特に多くなります。放射霧や滑昇霧といった霧を見ることができますが、一番見応えがあるのが「滝霧」です。
滝霧は移入霧の一種で、白い霧が周囲の崖(摩周湖はカルデラ湖)から湖へと、滝のように流れ込みます。夏に数回だけしか見ることができない、まさに幻の滝です。
わざわざ行っても、霧が出てなかったら意味がないような……と思ったあなた! 安心してください。摩周湖の透明度は世界2位(1位はロシア・バイカル湖)を誇ります。
吸い込まれそうなほどの、深い青に染まった神秘的な湖水は「摩周ブルー」と呼ばれています。摩周湖は霧が出ていても出ていなくても、大自然を満喫できるスポットなのです。
【所在地】北海道川上郡弟子屈町
【弟子屈町のサイト】https://www.masyuko.or.jp/introduce/mashu/
三次盆地(広島県)
広島県の北東部にある三次(みよし)盆地も、霧の名所として有名です。3つの川が流れ込む三次盆地では、秋から早春にかけて「霧の海」が現れます。運が良ければ、山々がまるで海に浮かぶ島のように見える、幻想的な景色に出会うことができますよ。
【三次市観光公式サイト】https://miyoshi-kankou.jp/?p=291
日本国内の霧の名所2
引き続き、全国的に有名な霧の名所についてご紹介していきます。
竹田城跡(兵庫県)
兵庫県朝来市にある竹田城跡は、近年「天空の城」「日本のマチュピチュ」として話題となりました。竹田城跡は山の山頂(標高353.7m)に築かれたお城です。濃い霧が発生すると、まるで雲海に浮かんでいるように見えるため、上記のような呼び方をされています。
霧が発生しやすいのは、9月から11月にかけての早朝(8時頃まで)です。竹田城跡が雲海に浮かぶ姿を見ることができるのは、立雲峡(りつうんきょう)という展望スポットです。CMと同じ光景を見たいという方は竹田城跡ではなく、立雲峡へ向かってくださいね。
【所在地】兵庫県朝来市和田山町竹田古城山169番地
【和田山町観光協会】http://wadayama.jp/takedajyoseki
金鱗湖(大分県)
国内屈指の温泉地・湯布院にある金鱗湖(きんりんこ)も、霧の名所として知られています。湖底から温泉が湧き出ているため水温が高く、寒い季節は気温との温度差が大きくなるので、霧が発生しやすくなるのです。
秋から冬の早朝、散策がてら足を運んでみてはいかがでしょうか。由布市内で霧を見るなら、由布院盆地を一望できる狭霧台(さぎりだい)もおすすめです。
【所在地】
金鱗湖:大分県由布市湯布院町川上
狭霧台:大分県由布市湯布院町川上野々草
【大分県由布市サイト】
金鱗湖:http://www.city.yufu.oita.jp/kankou/kankou/kinrinko/
狭霧台:http://www.city.yufu.oita.jp/kankou/kankou/sagiridai/
まとめ
蒙霧升降(ふかききりまとう)は七十二候で、8月17日~22日頃のことを指します。霧が発生しやすい気象条件がそろうため、日本各地にある霧の名所では幻想的な景色を楽しむことができるのです。
霧は発生場所や時刻などによって、さまざまな呼び分けがなされています。数は多いですが、知識を増やすことによって、日本の四季の移ろいをより身近に感じることができるのではないでしょうか。