温風至という言葉をご存知でしょうか?なかなか見聞きすることがない言葉ですので、馴染みがないという人が多いと思います。温風至は、本格的な夏の訪れを告げる時期を表わす美しい言葉です。ここでは、日本人なら是非知っておきたい温風至のアレコレを詳しくご紹介します。
温風至とは?読み方は?
温風至と書かれていても、一体どういう読み方をするのか、読み方が分かっても、どんな意味があるのか分からない人も多いのではないでしょうか?
そのまま読もうとすると、「おんぷういたる」になるでしょう。それも間違いではありませんが、実は「あつかぜいたる」という読み方をする方が一般的です。
温風至の字だけを見ても、温かい風が吹いてくるのではないかとイメージできます。「あつかぜ」と読みますが、熱風や暑風とは書きません。まだ、温かさを感じる程度の爽やかなもので、酷暑の最中に吹く暑い風とは違うのがポイントなのです。
温風至は、本格的な夏に入る頃を指していますので、徐々に温かい南風が吹いてくるという解釈で良いのです。
温風至は七十二候のひとつ
日本では、春夏秋冬の四季以外にも、一年を24分割した二十四節気と呼ばれる季節があります。二十四節気は、およそ15日間ほどの期間に分けられ、太陽の動き・傾きに合わせて、季節が決められています。24分割の基準となっているのが、冬至、夏至の二至(にし)、春分、秋分の二分(にぶん)で、これらを二至二分(にしにぶん)といいます。更に、立春、立夏、立秋、立冬の四立(しりゅう)を合わせて八節(はっせつ)とし、これを元に一年を24に分けています。日本には、二十四節気よりも細かく気候の変動がありますので、節分、土用、彼岸、半夏生、八十八夜などの雑節を設けています。
二十四節気をさらに分割したものを七十二候といいます。一年をおよそ5日ずつ分け、72分割しています。七十二候は、二十四節気の一節を、初候、次候、末候の3つに分け、動植物の動き、気候の動きを詳しく表現しています。
七十二候の一つである温風至は、具体的に7月7日から11日頃を指します。二十四節気の小暑(しょうしょ)の初候にあたります。小暑の次候は蓮始開(はす はじめて ひらく)で、末候は鷹乃学習(たか すなわち わざをならう)です。
温風至の意味は?
温風至の時期は7月7日から11日頃なのですが、そろそろ梅雨が明ける時期にあたります。湿り気を含む暖かな空気が多く流れ込むため、雷雲が多く作られます。雷雲の影響で、雷雨や突風が起こることも増える一方、日差しも強くなり、気温の上昇も著しいものがあります。
温風至の温風は、この頃に吹く南風を意味しており、この風は「白南風(しろはえ・しらはえ)」と呼ばれています。それと対象に、梅雨の最中に吹く風は「黒南風(くろはえ)」と呼ばれています。
これらの白黒南風は、亜熱帯地方から吹いてくる南風です。白黒どちらも湿った暖かい風なのですが、黒い雲に覆われた梅雨空の元に運ばれてきた南風は黒、梅雨が明け晴れた青空の元運ばれてきた南風は白とイメージに合わせた色で呼ばれています。
温風至の頃に吹く南風は、黒よりも白の方を意味します。これから、日照りの多い真夏に向かう明るく楽しいイメージを持つ時期です。
温風至の使い方は?どんな場面で使うべき?
温風至は、日常生活でどのような使い方をするべき言葉なのでしょうか?温風至は、夏のある一時を表わす言葉ですので、ピンポイントにその時期を表わす時候の挨拶として使うのが一番良いでしょう。時候の挨拶は、手紙やハガキ、ブログやホームページ、会報、行事の挨拶などに用いられます。
また、小暑を迎える7月7日頃から、暑中見舞いが出せるようになります。温風至は暑中見舞いなどでも時候の挨拶として使用できます。温風至の使い方は、「温風至の候、皆様におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。」という形で用います。
堅苦しくしたくない場合は、「温風至、暖かい南風が夏の気配を感じさせる季節となりました。」という具合にすると自然です。
温風至の時期に使える他の時候の挨拶は、
「梅雨が明け、いよいよ夏本番となってまいりました。」
「白南風が吹く季節となりました。」
「ゴーヤが色付き、美味しい季節となりました。」
などです。これらを文頭に入れると、日に日に夏めく季節の様子が相手に伝わります。
七十二候の使い方に悩む人もいるかも知れませんが、挨拶と合わせて気軽に使ってみると良いでしょう。
温風至の時期に旬を迎えるものは?
温風至の時期に旬を迎えるものには、一体どんなものがあるのでしょうか?
夏に美味しくなるゴーヤ、へちま、冬瓜などの沖縄野菜が旬を迎えます。沖縄野菜は少しクセがあるため、店頭で見ても手にしないという人もいるでしょう。でも、旬の沖縄野菜はクセが少なく、あく抜きなどの下処理を充分することでとても美味しくいただけます。
沖縄野菜の他にも、スイカ、メロン、とうもろこし、ナスといった食材が旬を迎えます。夏が旬の野菜や果物は、水分が多く瑞々しく、程良い甘みもあり、身体を冷やしてくれるものが多いのが特徴です。
旬の植物は、ひまわり、蓮、ハイビスカス、ラベンダー、ほおずきなどです。ラベンダーは、主に北海道で見られます。ほおずきは、浅草で「ほおずき市」と呼ばれるお祭りが行われます。
魚類では、「こち」という魚が旬を迎えます。
旬とは少し違いますが、温風至の時期には七夕を迎えます。七夕は、織姫と彦星が年に一度出会うとされるロマンチックな物語となっています。笹の葉に願いを書いた短冊を吊るし、後日それを燃やして煙として天に願いを届けるとされています。
七夕も、各地で祭りが行われます。有名なのは、仙台の七夕祭りです。大規模に執り行われていますので、興味がある人は観光ついでに立ち寄ってみても良いかも知れません。
中国の宣明歴では・・・?
中国には、日本の七十二候の元となった「宣明歴」という暦が存在します。日本でも、昔は宣明歴をそのまま使用していましたが、やはり日本独自の動植物や気候の動きがあるため、徐々に日本の風土に合わせて変更されていきました。
小暑の初候は七十二候では温風至となっていますが、中国の宣明歴でも温風至となっています。
温かい南風が吹き込んでくる時期は、さほど差が無いのかも知れません。
宣明歴の暦本を見ると、小暑の意味は「夏も盛りに近くなる。温風至(おんぷういたり)、蟋蟀居壁(しつしゅうかべにおり)、鷹始撃(たかはじめてうつ)」とあり、「温かい風が吹くと共に蟋蟀(こおろぎ)が壁に止まって鳴き、鷹が他の鳥を攻撃し始める時期」となっています。
南風には色々な呼び名がある
日本は、「風の国」とも呼ばれるほど様々な風が吹く土地です。季節風域にあるため、台風をはじめ、春夏秋冬、東西南北様々な風が吹くのです。
前述のように南風には「白南風」「黒南風」とがありますが、それ以外にも様々な呼び名や種類があります。
南風は、東日本では「みなみ」、西日本では「はえ」と呼ばれています。古くから漁師は、南風が吹くと天候が変化するとして警戒してきました。冬に吹く北風と比べると全体的に弱いのですが、熱帯低気圧を伴うと一時的に暴風雨となります。
大南風(おおみなみ)・・・太鼓の乱れ打ちのごとく激しい南風
荒南風・新南風(あらはえ)・・・梅雨の半ばに吹く強い南風
沖南風(おきはえ)・・・5月頃から吹き始める南西の風
正南風(まはえ)・・・南から吹く風
南東風(はえごち)・・・南東から吹く風
南西風(はえにし)・・・南西から吹く風
五斗食い風(ごとぐいかぜ)・六俵南風(ろっぴょうばえ)・・・南風が吹き海が荒れ、漁に出れないとされる風
今日の風はどんな風かな?と考えてみるのも、風情があって楽しめるかも知れませんね。
まとめ
温風至は、七十二候の一つで7月7日から11日頃を指します。温かい南風が吹いてくる時期という意味を持ち、いわゆる白南風が吹くと言われています。無色であるはずの風に白黒と色が付くのは、その時期の雲の色や気候、イメージが大きく関係しています。温風至は、時候の挨拶として使うことができますので、気軽に使ってみましょう。情緒豊かな表現ができる人と思われるでしょう。
温風至の時期に旬を迎えるものは、夏に美味しくなる夏野菜や沖縄野菜、ひまわりやハイビスカスなど夏に咲く花です。旬の食べ物を取り入れると長生きをするという迷信もありますし、旬のものは美味しくいただけます。積極的に食べるようにしましょう。