「蟷螂生」という言葉を知っていますか?
読み方は「とうろうしょうず」です。
蟷螂生は七十二候という季節を知るための、暦のようなものに使われている言葉です。
蟷螂は誰でもよく知っている虫の名前ですが、あまりよいイメージは持たれていないかも知れませんが、蟷螂生の意味を知ってみると、今までのイメージがガラリと変わります。
昔の人が蟷螂に注目して、ともに生活していたことに感心するはずです。
今回は、蟷螂生はどんな季節を表しているのか、どんな意味があるのかについて解説します。
蟷螂生で季節がわかる?蟷螂生の意味!正体はカマキリ!
蟷螂生は七十二候の25番目に当たります。
二十四節気の「芒種」の初候でもあり、現代の暦では6月6日頃から6月10日頃までが蟷螂生になります。
芒とはすすきとも読みますが、イネ科の植物全般を表します。
芒種はイネ科の植物の種まきをしたり、苗を植えたりする時期を表しています。
これから農作業が忙しくなりそうな時期に、蟷螂という虫が生まれるというのが蟷螂生の意味です。
蟷螂は「とうろう」とも読みますが、「カマキリ」とも読みます。カマキリは誰でも1度は見たことがある虫ですね。
蟷螂生は卵からカマキリの幼虫が孵化する時期といわれています。
日本でカマキリが見られるようになるのは8月くらいからですから、蟷螂生は時期的にはあっているようです。
前足が大きな鎌状になっていること、どんな虫でも頭から食べてしまうことから嫌われることも多いのがカマキリです。
昔の人々がなぜカマキリに注目したのか、不思議に感じられますが、殺虫剤もなかった昔に作物を食い荒らす害虫を食べてくれるカマキリは、作物を守ってくれる大切な存在でした。
そしてカマキリは田植えの時期を意味する芒種の始まりを教えてくれる存在でもありました。
カマキリの特徴!王様も敬意を払う?
カマキリという昆虫は以前、バッタやキリギリスの仲間だと考えられていましたが、今はカマキリ目に分類されています。
カマキリはほかの小動物を食べる肉食性の昆虫ですが、そのときに有利なように前脚が鎌状に変化しているのが、カマキリの名前の由来となりました。
昆虫だけでなく、ヘビやクモ、トカゲなども食べてしまうというから驚きですが、動くもの以外は餌として認識することができません。少しでも新鮮なものを食べようとしている人間のようですね。
カマキリは羽を持っていますが、飛ぶのは苦手で、羽はもっぱら威嚇のために使われます。
誰でも1度は体を大きく反らして羽を広げ、鎌を持ち上げたカマキリの姿を見たことがあるでしょう。
これは自分よりも大きな相手に対してカマキリが取る威嚇のポーズです。
たとえ相手が車でもカマキリは威嚇して立ち向かおうとします。
このことから生まれたのが「蟷螂の斧」という言葉です。
自分の力を顧みずに強いものに立ち向かっていくことを意味していますが、古代中国に由来があるそうです。
古代中国の王の車を1匹のカマキリが、鎌を振りかざして威嚇しました。
それを見た王がカマキリに敬意を払い、車を迂回させたそうです。
強いものにへつらわないカマキリの潔い姿が王の心を動かしたのかも知れませんね。
カマキリの勇気に敬意を払う姿勢は戦国時代の日本にもあり、カマキリを飾りに使った兜(かぶと)がありました。
現在では「蟷螂の斧」は自分の力を顧みないことから、無謀なことへと意味が変化してしまいました。
カマキリにとっても少し残念なことですね。
蟷螂は選ばれし者!戦い抜いて成虫になった!
どんな虫でもそうですが、カマキリは特に弱肉強食の法則に則って生きています。
同じ卵から生まれる兄弟は200匹ともいわれていますが、餌がなければ共食いをすることも多く、無事に成虫になれるのはほんの一握りです。
またこれは有名な話ですが、交尾が終わるとオスのカマキリはメスに食べられてしまいます。
すべてのオスが食べられるわけではありませんが、メスに食べられ、卵の栄養になってしまうことが多いようです。
どんな動物も出産の前には栄養が必要ですから、強い子孫を残すためには仕方のないこととはいえ、壮絶な人生といえますね。
私たちの目の前でもし威嚇してくるカマキリがいたら、それは厳しい戦いを勝ち抜き、生き残ったカマキリです。
そう考えると私たちもカマキリに対して、古代の中国の王のように敬意を払いたくなってきますね。
昔の人たちが、カマキリに対して注目し続けた理由もわかるような気がします。
蟷螂生の時期からはどんどん虫の活動も盛んになってきます。
カマキリには精一杯食事を楽しんで、ついでに農作物を害虫から守って欲しいものです。
蟷螂は季語としても大活躍!夏から冬までカバーします!
蟷螂生は俳句を作るときの季語としても使われます。季語として使うときの読み方は「とうろううまる」です。
蟷螂は秋の季語になりますが、蟷螂が生まれるのは蟷螂生の時期、6月上旬ですから、夏の季語になります。
子蟷螂も夏の季語になります。カマキリは卵から孵化したときに、すでに成虫と同じ格好をしています。
一人前に威嚇のポーズも取るそうですが、想像するだけでなんだか微笑ましいですね。
蟷螂には「蟷螂枯る(とうろうかる)」という季語もあります。
周りが枯れ草の色になったときに見られる、枯れ草と同じ色をしたカマキリを表した言葉で、冬を迎えるとともに死んでいくカマキリの運命を感じさせます。
昔の人はカマキリも草木と同じく枯れると考えたのかも知れませんが、実は同じ種類のカマキリでも緑になるものと褐色になるものがいます。
原因はハッキリとわかっていませんが、生まれた季節により、周りの状況に合わせて色が決まるのではないかと考える人もいます。周りが緑色の草なら、自分も緑のほうが目立ちませんし、逆に枯れ草が多ければ、褐色の方が目立たなくて、生存率が上がるというわけです。
ただ1度色が決まってしまえば、途中で状況に合わせて色を変えるわけではありません。
周りの草木が枯れたから、カマキリの色が緑から褐色に変わるわけでありませんが、冬とともにカマキリは死んで行きます。
虫が少なくなる冬になっても残っている褐色のカマキリを見れば、蟷螂枯るを実感できるはずです。
それにしても蟷螂だけで夏から冬までをカバーしているとは、昔の人のカマキリに対する思いが伝わってくるようです。
世界の人々が心を寄せる蟷螂!別名がたくさんあります!
カマキリに心を寄せているのは、日本や中国の人々だけではありません。
古くからギリシャではカマキリのことを「預言者」という名前で呼んでいました。
この名前がカマキリ類の学名の由来になりました。
英語の名前には「祈る預言者」という意味があります。
この名前からはカマキリに対する敬意が伝わってきますね。
日本でも獲物を待ち伏せする体勢から「拝み虫」と呼ばれており、カマキリを見たときに感じることは国を越えて同じであることを表しています。
ほかの虫を食べるにも関わらず、祈りのようなポーズを取ることで反って残酷に思われるカマキリですが、生きるためには食べる事がどうしても必要になります。カマキリは精一杯の祈りを捧げているのかも知れません。
小林一茶の俳句にも蟷螂を詠んだものがあります。
「蟷螂はむか腹立つが仕事かな」
残酷なまでに虫を食べるカマキリの所業を「むか腹立つ」と表現するだけで終わらず、むか腹立つが「仕事かな」とカマキリを許し、寄り添っています。
この句はカマキリの食事を見て、気味悪く思う人の心をよく表しているだけではありません。
人間もカマキリと同じで、ほかの生命をいただいて生きているのだから、カマキリの所業を許そうとしている一茶の心が伝わって来ます。
人間の方こそ、ほかの生命をいただく前の祈りを忘れてしまっているようです。
カマキリは人間のようにあれこれ考えませんが、だからこそカマキリの食前の祈りは尊いものです。
カマキリは季節だけではなく、人間の生きる姿勢についても教えてくれるようです。
まとめ
今回は蟷螂生とは何なのか、その意味について解説してきました。
普段あまり有り難みを感じないカマキリが蟷螂と呼ばれ、七十二候に登場することを意外に感じた人もいるでしょう。
でも、カマキリから季節だけでなく、様々なことを学んで来た昔の人には感心させられます。
私たちもそれを引き継いて、自分の人生に活かしていきたいものですね。
カマキリについても、色々とお知らせしましたから、親しみを感じるようになりましたね。
スラリとした体、するどそうな鎌をもつカマキリが、飛ぶのが苦手なのは意外でした。
蟷螂生の時期が過ぎて、カマキリを見かけるようになったら、今までとは違った見方ができるようになっているはずです。
私たちも蟷螂から何か教えてもらえるとよいですね。