梅は花を楽しむだけではありません。梅の実も人間に様々な楽しみをもたらしてくれます。
梅酒や梅干し、梅シロップなど梅の実を利用したものは、大人にも子どもにも好まれますね。
この梅が熟す季節は、そろそろ梅雨が始まりそうな6月です。
七十二候には「梅子黄」があり、私たちに季節を知らせてくれています。
今回は梅子黄の読み方や意味、季節について解説します。
うっとうしい季節として嫌われがちな梅雨ですが、梅子黄を知ることで乗り切るヒントが見つかるかも知れませんよ。
梅子黄の季節と意味!梅雨との関係!
梅子黄は七十二候の27番目、二十四節気「芒種」の末候に当たります。
芒種は田植えや種まきをする時期として知られていますが、その後に来る梅子黄は農作物には恵みの時期です。
今の暦では6月16日頃から21日頃の時期が梅子黄にあたります。
文字通り梅の実が黄色く熟してくるという意味で、読み方は「うめのみきばむ」です。
梅子とは、梅の子ども、つまり梅の実を意味しています。
日本では毎年5月から7月にかけて巡ってくる、雨の多い季節を梅雨といいます。
この期間に梅の実が熟すから、梅雨の名前が付いたといわれていますが、中国語の「黴雨(ばいう)」に同じ音の漢字を当てはめたのではないかともいわれています。
黴(かび)が生えやすい季節だから、黴雨というのはわかりやすくてよい名前ですが、比べると日本生まれの梅雨はきれいな名前ですね。
七十二候は季節を知るための暦のような役割を持っていて、日本には中国から輸入されましたが、梅子黄は日本だけの候です。同じ時期を中国では「反舌無声」といいます。これは鶯が鳴かなくなる、という意味です。
長い雨の時期と梅の実を結び付けるのは、日本独特の感性なのです。
意外に新しい!日本人にとっては大切な「梅雨」の歴史!
中国の黴雨が日本で梅雨となりましたが、これが「つゆ」と呼ばれるようになったのは江戸時代からです。
つゆはもともと水滴など、液体を意味していましたが、この意味が広がって梅雨時の湿気の多い季節を意味するようになったと考えられています。
それ以前は梅雨のような雨の季節を表す言葉はありませんでした。
梅雨の時期は旧暦の5月に当たっていたため、「五月雨(さみだれ)」と呼ばれていました。
松尾芭蕉も俳句に五月雨を使っています。
みながよく知っている「五月雨を集めて早し最上川」という句ですが、梅雨時の長雨で増水しているのだと考えると今までのイメージとはかなり違ってしまいますね。風流な句というイメージが変わり、自然の驚異を感じさせる迫力のある句だということがわかります。
梅雨という言葉が定着すると、田植えの日程を決めるために、いつから梅雨に入るのかを気にする人が増えました。
そこで日本独自の暦、雑節には梅雨の時期の始まりを示す入梅が作られました。
もちろん地域によって梅雨に入る日は違いますが、目安としての入梅を設けることは、農業を営む人々にとっては大切なことだったのでしょう。
このようにして、梅雨と日本人には切っても切れない関係が生まれたのです。
そして梅雨の由来となった梅の実もまた、日本人にとって大切なものになったのです。
梅の実は中国生まれの薬だった!梅子黄には梅を食べよう!
梅はもともと中国から輸入されたものでした。約1500年前に烏梅という薬として入ってきたのが最初だったようです。
烏梅は青梅の実を乾燥させたもので、烏のように真っ黒でした。
平安時代には既に梅干しが作られていたようで、日本最古の医学書に薬として紹介されています。
様々な病に効果があるとされていましたが、特徴的なのは口の渇きを止める効果があることです。
確かに私たちは梅干しを想像するだけで、口の中に唾液が出て一時的に渇きが治まります。今も昔も人間の反応は同じだと考えると、昔の人に親近感がわきますね。
梅干しが酸っぱい理由は、クエン酸が含まれているからですが、このクエン酸は微生物が増えるのを抑えて食中毒を予防してくれるほか、便秘解消、乗り物酔いの軽減などに効果があります。
何よりあの酸っぱさが、梅雨時の憂うつになりがちな気分を吹き飛ばしてくれそうですね。
梅雨の時期は、湿度が上がり、気温の変化が激しくなりますから、内臓の機能や自律神経の働きが低下して体調を崩すことも多くなります。また黴雨の名前の通り、黴が生えやすく食中毒の心配が出て来る頃でもあります。
梅子黄の時期が来たら、積極的に梅製品をとってクエン酸を体に補給するように心がけましょう。
昔から暑くなってくるとお弁当に梅干しが入れられましたが、あれは理にかなったことだったのです。
梅雨時に憂うつになりやすい人は、体調がよくないのかも知れません。
梅製品を摂ることで体調に気を配れば、憂うつな気分が半分くらいは解消できるかも知れません。
梅子黄をぜひ、梅雨時の体調を整えるための目安にしてください。
憂うつな梅雨どきを乗り切るために、梅で楽しもう!
梅雨時に気持ちが憂うつになる原因の1つは、1日中どんより暗いことにあります。
人間は朝目覚めて、明るい光を浴びることで活動的になります。どんよりと暗いとこの切り替えが上手く行かず、自律神経の働きが低下してしまいます。この事態を避けるためには部屋を明るくすることが大切です。
部屋の照明を点けるだけでも効果があるそうですよ。
梅雨時に気分が優れない人は、梅雨どきならではの楽しみを見つける努力をしてみましょう。
この時期に梅干しを手作りする人もたくさんいますが、その場合は黄色く熟した梅を使うと美味しく手間なくできるそうです。
完熟して自然に落ちた梅は、軸(ホシ)を取る手間が要らないし、アク抜きの手間もありません。
梅干し作りはちょっとハードルが高い、と思うなら梅酒作りから始めるとよいでしょう。
梅酒は大まかにいえば、洗った後に水気を取った青梅の実のヘタを1つずつ丁寧に取り、容器に氷砂糖と交互に入れた上からホワイトリカーを注ぐだけです。後は待つだけで(半年から1年)自家製の梅酒が出来上がります。
梅の実を活用することで、梅雨の季節が楽しいものに変わりますね。梅の実を育ててくれる恵みの雨として、梅雨に感謝したくなるかも知れませんよ。
梅雨時に憂うつになる、体調が悪くなるからといって、自分が弱いとかダメだなどと思う必要はありません。
人間も自然の中で生きている動物の1つに過ぎません。お天気の影響を受けることは、当然のことです。
持病を持った男女3000人にアンケートをとったところ、8割の人が天気に体調が左右されていると答えたそうです。
梅子黄という言葉を見かけるようになったら、梅雨時に憂うつになっても、体調が悪くなっても恥ずかしくない、と自分に言い聞かせてみてください。梅雨どきを乗り切るために助けになることでしょう。
梅子黄の時期に食べたい和菓子!和菓子とお茶で梅雨を乗り切る!
梅子黄の最中、6月16日は嘉祥の日にあたります。
平安時代に疫病退散を願って、16個の菓子や餅を神様に供えたことが嘉祥の日の始まりといわれています。
これが江戸時代には6月16日に菓子を食べる嘉祥菓子の習慣になりました。
江戸時代には将軍が城で菓子を振る舞ったそうです。500畳の大広間に2万を超える菓子が並んだといわれていますが、この習慣も明治に入って廃れてしまいました。
この嘉祥の日を昭和に入ってから復活させたのが、全国和菓子協会です。
現在6月16日は「和菓子の日」になっています。6月16日に合わせて嘉祥菓子を特別に販売する和菓子屋さんもありますから、ぜひ味わってみてください。
和菓子は見た目が美しく、楽しめますから、ゆっくりと眺めつつ濃い目の日本茶とともにいただきましょう。
日本茶、特に緑茶には熱に強いビタミンCがたくさん含まれていますし、テアニンという成分は、気持ちをストレスから守り、リラックスさせてくれますから、心身両方によい飲み物です。和菓子との組み合わせは梅雨時の気分転換に最適です。
嘉祥菓子に限らず、上生菓子にもあじさいや水芭蕉など季節を感じさせるものが登場しますし、水まんじゅうやわらび餅などは見た目にも涼やかです。これらの和菓子を楽しみにするのも、梅雨時の上手な乗り切りかたですね。
普段和菓子には縁がないと思っている人も、梅子黄には和菓子屋さんに出かけてみてください。
きっと憂うつな気分を忘れられますよ。
まとめ
今回は七十二候の27番目「梅子黄」について解説しました。
梅子黄の読み方や意味、季節などについて説明しました。
梅子黄の時期は梅雨の時期と重なりますが、梅雨の由来や日本人との関係、梅雨時を楽しく過ごすためのヒントなどを紹介しましたから、梅雨時の憂うつになりがちな日々を乗り切るための参考にしてください。
昔の人々にとっては農作業を行う上で大切だった梅子黄の時期は、現在の私たちには湿気の多い過ごしにくい梅雨どきを健康的に過ごすために大切になっています。梅子黄という言葉をぜひ覚えておいてくださいね。