腐草為蛍(ふそう ほたると なる)という言葉をご存知でしょうか?一見、蛍の種類のように感じたり、四字熟語のような印象を受けますが、実は日本のある季節の一時を示す美しい言葉なのです。では、一体どんな意味を持つ言葉なのでしょうか?
ここでは、腐草為蛍に関すること、蛍についてを詳しくご紹介します。
腐草為蛍とはどういうこと?意味は?
日本では、風土や気候、動植物の動きに合わせて1年をおよそ5日ずつ区切り、それに合わせた季節の呼び名を設けています。これが七十二候というものです。
腐草為蛍は七十二候のひとつで、二十四節気の芒種の次候にあたります。具体的には、6月11日から15日頃を指します。
腐草為蛍の意味は、「腐った草(朽ちた草)が蛍となる」というものです。字を見るとその意味が分かりますが、朽ちた草が蛍になるとされたのは何故なのでしょうか?
その答えは、蛍の別名にあります。蛍は「朽草(くちくさ)」という別名を持ちます。昔の人は、土の中でさなぎになり、羽化をして朽ち草の間から出てくる蛍の姿を見て、暑さで蒸れて腐った竹や葉のような朽ち草が蛍になるとされていたのです。蛍の生態系やその原理が解明されていなかった昔ならではの風情豊かな美しい発想なのです。
電気の発明すらされていなかった大昔は、朽ち草から蛍が産まれるということが本気で信じられていたため、権威のある人物もその文献に堂々とその事を書き連ねていました。
腐草為蛍の読み方は?
腐草為蛍とはどんな読み方をするのでしょうか?一見、四文字熟語のような、漢文のような難しい印象を受ける文字ですが、「くされたるくさ ほたるとなる」という読み方をします。 「ふそう ほたるとなる」と読むこともあります。前述の通り、「朽ち草が蛍となる」という、ファンタジックな意味を持ちます。
腐る草と書くため、読み方や意味を知らないとマイナスなイメージを持ってしまうでしょう。でも、水辺の湿っている草の中から、美しい光を放ちながら飛び立つ蛍の姿が目に浮かぶような美しい表現なのです。
尚、芒種の初候は「蟷螂生(かまきりしょうず)」、末候は「梅子黄(うめのみきばむ)」となります。
腐草為蛍の使い方は?
腐草為蛍を日常生活で用いる場合、どのような使い方をするのがベストなのでしょうか?
腐草為蛍のような七十二候の言葉は、時候の挨拶としての使い方が一般的です。
「腐草為蛍 蛍の美しい光がみられる時期になりました~」
といったように、文頭に使うと自然です。
ブログやコラム、会報誌などに使われることもあります。ホタルは各地でお祭りが開かれるほど、誰もが知る虫です。そのため、話のネタに使う事もできるのです。
ホタル鑑賞会のお知らせといったイベントにも積極的にこの言葉を使いたいものです。
「腐草為蛍の時期になりました。毎年恒例のホタル鑑賞会を行ないます」といったように、案内に使っても素敵なものです。
腐草為蛍の時期に旬を迎えるもの
腐草為蛍の時期に旬を迎えるものは、スルメイカやトマトです。
スルメイカは刺身で食べても、火を通しても非常に美味しいものです。旬の物は身が厚く、それでいて柔らかいので、大人から子供まで食べることができます。
トマトも旬を迎えます。トマトはそのまま食べても、加工しても美味しいものです。品種も様々で、フルーツの様に甘いものから、昔ながらの青臭さが残るものまであります。
旬の食べ物ではありませんが、この時期になると日本列島が梅雨入り(入梅)をします。雨の降る日が多くなり、肌寒い日も続きます。
蛍が見られるようになるため、蛍まつりなどが各地で行われます。でも、入梅をしていますので、急な雨で中止となることもあります。
ホタルは様々な表記をされる
ホタルは、蛍、火垂る、火照る、星垂るなど様々な表記で読ませています。元々はヒタレと読まれていたものを、ホタルと改めたともいわれています。どれも、光や火を連想させる美しい字を充てています。
日本には、約50種類ほどホタルの種類が生息しているといわれています。その中でも水生のホタルは、ゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種で、それ以外は陸生のものとなります。この中でも、クメジマボタルは1993年と近年に発見されていて、調査を進めれば、実はもっと種類が多く存在するのではないか?ともいわれているそうです。
関東では例年5月~6月にゲンジボタル、6月~8月頃にヘイケボタルが見られます。
胸の真ん中に黒い十字の模様があるものがゲンジボタル、黒く太い筋があるのがヘイケボタルです。ヘイケボタルはゲンジボタルに比べると小柄で、光も弱い傾向にあります。
蛍が光るのには様々な理由があり、敵への威嚇や仲間同士のコミュニケーション、求愛などです。蛍は自分自身の光を自動制御することができるといわれています。
西日本と東日本では蛍の光り方が違うって本当?
夏の風物詩である蛍ですが、実は東日本と西日本でその光り方に違いが見られます。
ホタルのオスの発光が東日本ではおよそ4秒に一回、西日本ではおよそ2秒に一回というペースなのです。東西で光るスピードに倍近くの差がありますが、その差はオスの光り方だけではありません。
ホタルのメスは、水苔に産卵をしますが、西日本のホタルは100匹以上の集団で産卵をするのに対し、東日本のホタルは個別に産卵を行います。東西ホタルの生態系や、その生息地などで差が出るのでしょうが、不思議と東日本のホタルがマイペースなように感じます。もしも機会があれば、双方のホタルを見比べてみるのも面白いかも知れませんね。
蛍は水が綺麗な場所に住む!?
腐草為蛍というと、腐った草のイメージが強く、汚い水辺を連想させるかも知れませんが、蛍は美しい水を好みます。
水生の蛍には水が重要なのです。水が綺麗で水流が穏やか、エサとなるカワニナが多く、静かな場所を好みます。
蛍は強いアルカリ性の水では生きられませんので、アルカリ性が進んでしまった川には居ないのです。
農作物への被害を考えて水質汚染の対策を行っている地域では、近年、昔のように蛍が見られるようになったともいわれています。
ホタルの光には「1分のfの揺らぎ」と呼ばれるヒーリング(癒し)効果があるといわれています。この1分のfの揺らぎは、川のせせらぎやそよ風の音のような自然の中にも存在しますし、クラッシック音楽の中にも存在します。これらを耳にしたり、目にしたりすることで、人は精神的な癒し、安らぎを得られるのです。ストレス社会の現代人は、積極的に自然の癒しを取り入れたいものです。
蛍の鑑賞は、かなり古くから行われており、その光は見る者に自然な安らぎを与えます。蛍は成虫になると、およそ1週間しか生きることができない儚い虫です。蛍鑑賞ができる時期も限られているため、チャンスは大切にしたいものです。
中国の宣明歴では・・・?
中国には、日本版七十二候と言われる略本歴の大元となる宣明歴という暦が存在します。略本歴が腐草為蛍の時期に宣明歴では、「鵙始鳴(もずはじめてなく)」となり、鵙=百舌(もず)が鳴き始める時期という意味になります。日本では、百舌は秋の季語で、秋に活動する鳥というイメージが強くあります。百舌という呼び名をしていますが、実は鳥の種類が異なるのか?同じ鳥でも気候の違いで活動する時期が異なるのか?は定かではありませんが、中国と日本では百舌の活動時期の認識に多少の差があるようです。
尚、宣明歴では芒種の初候は「蟷螂生(かまきりしょうず)」と日本と同じで、末候は「反舌無声(はんぜつこえなし)」となっています。
蛍観賞をするなら、ここがオススメ!
蛍の鑑賞は、全国各地で行われています。中でも有名なのが、
- 宮城県「東和町鱒淵」
- 栃木県の「那須フィッシュランド」
- 長野県の「ほたる童謡公園」
- 京都府の「上賀茂神社」
- 滋賀県の「天野川」
- 岡山県の「天王八幡神社」
です。
中でも、宮城県東和町では周辺の環境も相まって、蛍の光が非常に美しく見えると評判です。
また、長野県のほたる童謡公園では、一日あたり1万匹もの蛍が乱舞するといわれており、目にできる数の多さは日本随一といわれています。
まとめ
腐草為蛍とは、七十二候のひとつで、二十四節気の芒種の次候にあたります。「朽ちた草が蛍になる」という意味を持ちますが、昔の人々は、本当に腐った草が蛍に変わると信じていました。水生の蛍は、成虫になると水しか飲めないため、蛍から水草の香りがします。そのことから、朽ち草が蛍になると信じられていたという説もあります。いずれにしても、蛍に似合う幻想的でファンタジックな考え方です。
蛍の生態が解明されている現代でも、蛍の光は人々を癒し続けます。その美しい光を見逃さないように、腐草為蛍の時期には、そっと静かに水辺を散策してみるのも良いかも知れません。