初薬師という言葉をご存知でしょうか?なかなか馴染みの無い言葉というイメージを持つ人も少なくないでしょう。薬師という言葉が付くため、薬師如来や薬師寺が思い浮かびますが、実際はどういうものなのでしょうか?ここでは、そんな初薬師について、一体どんな行事なのかという点を中心に詳しくご紹介します。
薬師如来とは?
薬師如来(やくしにょらい)とは、ユーラシア大陸の中部及び東部で信仰されてきた仏教である大乗仏教の如来です。正式名称は「薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)」といいます。
薬師如来は薬壷を持っていて、病気を治す仏様といわれています。ご利益は、病気平癒、健康長寿、現世利益、安産祈願などです。特に目の病に効果をもたらすとされています。
阿弥陀如来が西方極楽浄土、薬師如来が東方浄瑠璃界の救主といわれています。(東方浄瑠璃界とはいわゆる現世のことを指します。)阿弥陀如来が人の死後に来世の平穏を司っているのに対し、薬師如来は現世での病気や苦しみを取り除き、平穏や安泰を司っているのです。
元来、如来というのは、人間が解脱して悟りを開いたことを指します。ですから、薬師如来も悟りを開いた人なのです。
如来は、菩薩として修行をしていたときに、「十二の大願」という願いを立て、それらを全て果たした後に晴れて如来となることができるとしていました。十二の大願には、「病気の災いを除いて安楽を与える」というものが幾つかあり、このことから、医薬を司る仏「医王」とも呼ばれています。
現在、薬師如来は天台宗の御本尊となっています。現世の利益を司っている如来は非常に珍しく、我が国でも数多くの薬師如来像が作られました。主に天台宗や真言宗で作られました。薬壷をもっているものとそうでないものがあり、持っていないものは一見薬師如来とは分かりません。一番古いものは、聖徳太子の時代の物で、法隆寺に納められ国宝として残っています。また、比叡山延暦寺、法隆寺、薬師寺、醍醐寺など、有名な寺で祀られています。薬師如来は、人々を助けるためなら七つの姿に変身できるとされています。それが「七仏薬師」です。薬師如来の周囲に6体の仏様が置かれている像がありますが、それは化身仏なのです。
初薬師とは一体何?初薬師の縁日を行う意味は?
毎月8日と12日は薬師如来の日とされています。その中でも、1月8日は特に盛大な法要が行われ、参拝客も多く賑わいます。この年明け1月の始めの薬師如来の日を「初薬師」と呼びます。
初薬師の日には、薬師如来を祀る寺院に出向き、参拝します。全国津々浦々に薬師様の寺院が存在しますので、自分の住居の近くで構いません。
昔は、医療の技術や薬も少なく、流行りの病などで命を落とす人が多いものでした。医療に頼れるのはお金のある貴族だけで、庶民は寺院に祈るしかなかったのです。そのため、家族や自分の健康や病の回復を願う事を大切にしていたのです。特に初薬師は効果が大きいと言われ大切にされてきました。
では、なぜ薬師の日が8日になったのでしょうか?
実は、昔から薬師如来の教えを説く薬師講が8日に行われており、そこからその日になったのではないか?といわれています。現在でも、毎月8日の縁日には法会を行う寺院も多く、その有り難い教えを聞くために数多くの人が足を運んでいます。
初薬師はいつなの?場所はどこで行われるの?
初薬師とは、前述の通り毎年1月8日です。全国の薬師を祀る寺院で初薬師を行いますが、薬師如来の総本山がある奈良県や、寺院の多い京都などでは盛大に開催されています。奈良県奈良市にある薬師寺では、初薬師の縁日で「大般若経転読法要」とが行われます。大般若経の転読は、第42代文武天皇の頃から行われていて、現在では僧侶が行なっています。経巻を傾けながら少しずつ落とし、大声で読み上げていきます。大般若経には魔にも打ち勝つ力があるとされています。
午前11時頃から転読法要が始まりますが、非常に混み合うため早めに出向くことをおススメします。薬師寺には東京別院もあり、そちらでも初薬師の法会を行っています。毎月8日に法会が行われますが、特に初薬師の日は有り難い話が聞けるということで席も早目に埋まってしまいます。薬師寺は全国から修学旅行の学生が訪れることもあり、学生でも楽しめるユニークな法会が人気です。分かりやすく有り難い話が聞けるため、老若男女に人気があるのです。
奈良の薬師寺には幾つかのパワースポットがあるため、出向く事ができた際には是非そちらにも立ち寄ってみましょう。
まず、南門から入った右手にあるお茶屋さんです。ここは風水で「天医」と呼ばれる場所にあたり、健康なパワーを得ることができます。こちらで一服してみましょう。また、大宝蔵殿も「生気」といわれ、エネルギーを貰える場所です。
関東でも、薬師を祀る寺院は多く有り、伊勢原市の日向薬師では初薬師縁日で甘酒や「薬師粥」が振る舞われます。薬師粥は、七草粥にちなみ、たっぷりの野菜やお新香が入っていて、とても美味しいと評判です。薬師粥を食べると無病息災が叶うという言い伝えもあり人気があるのです。
千葉県の沼蓮寺では、だるま薬師とも呼ばれていて、初薬師の際に様々なだるまが販売されています。紅白だるま、選挙だるま、姫だるま、合格だるまなどのだるま屋が並び人気です。
初薬師とどんど焼きの関係は?
初薬師を調べようとすると「どんど焼き」という言葉を目にします。そのため、初薬師とどんど焼きが何か関係しているのかと思いがちですが、同じ時期に行われる行事というだけで特に大きな関係は無いようです。
どんど焼きは、年末年始に年神様をお迎えするために飾られた正月飾りをお焚き上げで処分する行事です。松の内が明ける1月14日、15日頃に行われることが多いようです。
初薬師の日に合わせて火を焚き、護摩木奉納を行う寺院もあります。護摩木奉納はどんど焼きとは異なり、護摩木という木に願い事を書き入れ、お焚き上げして貰うものです。燃やすことで厄や災いを払うといわれています。
火を焚くことから、初薬師の護摩木法要とどんど焼きが同じようなものだと勘違いされていることもあるかも知れませんが、法要自体は異なります。
初薬師は俳句でよく使う!!
初薬師という言葉を見聞きしたことが無いという人も多いでしょう。でも、俳句の世界ではよく使用されるポピュラーな言葉なのです。
初薬師は新年に行われる行事なので、新年の季語として使用されています。
俳句を教えるカルチャースクールなどでは、新年最初の集まりの課題が「初薬師」ということも多いようです。
手紙やハガキを贈る際に、初薬師を使用した一句を詠んでみても粋な印象を与えます。
初薬師は健康を詠む句で多く用いられています。一年の最初に詠むことで、一年の健康を願うこともできます。
新年の季語は、その他にも、福袋、七草、初日、初詣、初夢、破魔矢、松の内、羽子板、年賀など様々なものがあります。
まとめ
初薬師とは、新年に始めて行われる薬師如来の縁日をいいます。薬師如来の日は毎月8日と12日という寺院が多いため、1月8日が新年初めての薬師如来の日=初薬師なのです。
薬師如来は現世の病気による苦しみや痛みなどを取り除くと信じられていて、古くから信仰されてきました。年明けの初薬師には更に願いを叶える効果があるとされ、一年間の健康を祈るために参拝する客が多いのです。
薬師如来を祀る様々な寺院が毎月の薬師縁日を執り行っています。埼玉県の秩父にある寺院では、7月に雨薬師という縁日を行なっています。夏祭りのような感覚で楽しめるとされ人気があります。このように、様々な土地で薬師縁日が大切にされているのです。
新年には初詣のつもりで初薬師の法要に参加し、健康に一歩近づいてみてはいかがでしょうか。