大人になると1年がとても早く過ぎて行きますが、その間、よいことばかりがある訳ではありません。
誰でもがっかりしたり、腹が立ったりとネガティブな気持ちになることがあります。
そんな気持ちのまま、1年が終わってしまうことがないように、途中で1度リセットできるとよいですが、自分ではできない、という人もいるはずです。
嫌な気持ちを手放すのは、実はとても難しいのです。
そんな人のために、昔の人はよい方法を残してくれました。
それが「夏越の大祓」です。
夏越の大祓とは何?どんなことをするの?
大祓とは、私たちの罪や過ち、穢れなどのマイナス要因を祓い清めるために神社で行われる行事です。
6月30日に日本全国で行われる大祓が「夏越の大祓」です。
年末にも大祓が行われますが、これは1年の間に自分に溜まったものを祓い清めて、新しい年を迎えるために行います。
夏越の大祓は1年の半分が終わった時点で、1度自分に溜まったものを清めて、年末の大祓までの期間を無事に過ごすために行われるのです。
夏越の大祓では、人の形をした人形(ひとがた)・形代(かたしろ)に罪や穢れを移して、古歌を唱え、境内の茅の輪を3回くぐります。
古歌で最も多いのは「水無月の 夏越の祓する人は 千歳の命 のぶというなり」というものです。
6月に夏越の大祓をする人は、寿命が千年ものびるのなら、これは頼もしいですね。
茅の輪というのは、茅がや(イネ科の植物)で作られた人がくぐれるほどの大きな輪です。
人形と茅の輪により、半年間に自分についてしまった罪や穢れを落とし、残りの半分を無事に過ごすことができるのです。
夏越の大祓で大切な、人形と茅の輪の由来について
人形(ひとがた)、または形代(かたしろ)は白い和紙を人の形に切ったものです。
神社によっていろいろな方法がありますが、人形に住所、名前、年齢などを記入して、3回息を吹きかけます。
体に悪いところがある場合は、その部分を人形でなでます。
これで私たちの罪や穢れが人形に移りますから、初穂料(1人500円くらいが多いそうです)とともに神社に納めて、お祓いを受けます。
この人形の由来は、かなり昔まで遡ることができます。
人形に罪や穢れを移して、身代わりになってもらうことは、「古事記」にも記述があるそうです。
茅の輪の由来として、こんな伝説があります。
スサノオノミコト(日本神話に登場する神様で、ヤマタノオロチを退治しました)が自分を泊めてくれた貧しけれど親切な兄に、災いを避けるために教えたのが茅の輪だといいます。
茅の輪のおかげで兄の家族は疫病にも負けませんでしたが、茅の輪を教えてもらえなかった弟(この弟は裕福なのにスサノオノミコトを泊めてあげませんでした)は家族とともに疫病で滅んでしまったのです。
人形と茅の輪の由来について知ると、「夏越の大祓」に出かけてみたくなりますね。
無事に1年の残り半分を過ごすために、人形と茅の輪で夏越の大祓をしたいものです。
知りたい!夏に大祓をするようになった意味
大祓はもともと宮中の行事として行われていましたが、応仁の乱で途絶えてしまいました。
皇室に大祓が復活するのは、明治時代になってからです。
一般庶民の間では、年末と6月の大祓が災難を取り除くための行事として定着しました。
夏越の大祓で、罪や穢れを落とせば、新たな気持ちになれることは想像できますが、昔の人にとって、夏越の大祓の意味はそれだけではありませんでした。
水を自由に使うことができない、冷房も無く、涼をとることもできない時代が日本では長く続きました。
夏というのは、暑さで体力が落ちる上に、細菌が繁殖しやすく、病気にかかりやすい季節でした。
治療法も限られていましたから、1人の病気がそれこそ村全体を滅ぼすかも知れなかったのです。
だからこの夏を無事に越せるようにという願いが、夏越の大祓には込められていたのです。
時代は進み、現代は蛇口をひねれば水が出てきますし、冷房がない建物の方が少なくなっています。
それでも、夏は熱中症や食中毒が猛威を振るう危険な季節であることに変わりはありません。
無事に夏が越せますようにという、昔の人の願いは私たちが考えるよりもずっと真剣なものだったのでしょう。
夏に大祓をするのには、こんな意味があったのです。
昔の人たちは、夏越の大祓に支えられて、無事に毎日を送りました。
私たちも、夏越の大祓を利用して罪や穢れを手放してみましょう。
自分1人ではうまくできなくても、神様の力を借りれば、大丈夫です。
1年の途中で余分なものを手放すことには、大きな意味があるはずです。
夏越の大祓には何を食べる?体の中から厄落としするために
神社に出かける他に、夏越の大祓のご利益を感じる方法があります。
それは夏越の大祓ならではのものを食べることです。
皆さんは「水無月」という和菓子をご存ですか?
ういろうの生地の上に、小豆を載せて三角に切った和菓子ですが、京都の人たちは夏越の大祓のときに、必ず水無月を食べるそうです。
水無月の由来は、宮中の人たちが暑気払いのために食べた氷にあります。
当時の人たちにとって、氷はとても高価で口にすることができなかったので、三角に切ったういろうで代用したのです。
食欲がなくなる夏に、甘いお菓子を食べて、エネルギーを補給する役割もあったのではないでしょうか。
2015年からは、新しく夏越ごはんという行事食ができました。
先程、茅の輪の由来の伝説に出てきた、貧しいけれど親切な兄はスサノオノミコトを粟飯でもてなしたといわれています。
その粟や、邪気を払う豆などが入った雑穀ご飯が夏越ごはんの基本です。
上には茅の輪をかたどった夏野菜の丸いかき揚げなどが載せられるそうです。
旬の夏野菜を使った行事食には特別感が出て、暑い夏でも家族で楽しく食べられるのではないでしょうか。
雑穀やお米の美味しさを改めて確認するよい機会にもなりそうです。
夏越ごはんは東京都内の神社78社が協力しています。
協力神社では夏越の大祓の際、参拝客に夏越ごはんのレシピと雑穀米が配布されたそうです。
外食店、スーパーなどでも夏越ごはんを扱うお店が増えています。
手軽に食べられるのも嬉しいですね。
水無月や夏越ごはんを食べることで、自宅で家族と夏越の大祓ができそうです。
何より体の中から、元気になって罪も穢れもどこかに飛んで行きそうですよね。
比べてみたい!地域によって色々ある夏越の大祓
夏越の大祓を楽しみにしていたのに、都合がつかなかった場合、年末の大祓まで待つしかないのでしょうか。
実は年末まで待たなくても大丈夫な場合があるのです。
埼玉県川越市にある川越氷川神社では、旧暦に従い毎年7月31日に夏越の大祓を行っています。
定番の茅の輪くぐりの後は、宮司さんによって神事が行われ、その後私たちの罪や穢れを移した人形を神社裏の川で流すそうです。
関東には旧暦で夏越の大祓を行う神社が多いようです。
九州の諫早神社では、夏越の大祓に参列できなくても、7月3日までは人形を受け付けてくれます。
きちんとお清め、お祓いをした上で、お焚きあげをしてくれるそうです。
茅の輪も7月3日まで設置してあるので、茅の輪くぐりもできます。
これなら6月30日に都合が悪かった人も安心ですね。
同じく九州福岡の筥崎宮では、毎年7月の最終土、日曜日が「夏越祭」です。
土曜日は22時、日曜日は21時までと、夜まで賑わうお祭りのようです。
たくさんの露店が立ち並ぶ中、夜は提灯でライトアップされます。
これはぜひ行ってみたいお祭りですね。
それに2日間あれば、どんなに忙しい人でも、どちらか1日は行けそうです。
高知県では夏越の大祓は「輪抜け様」という名前で親しまれていますし、兵庫県では「輪抜け祭り」といわれています。
どちらも関東よりも認知度が高く、露店が出て賑わうため、子どもたちも楽しみにしているようです。
地域によって、日程も雰囲気もいろいろな夏越の大祓は、それだけ人々に大切にされ、愛されてきたことがわかります。
日本人にとって、意味のある行事なのですね。
まとめ
夏越の大祓についていろいろと説明してきました。
自宅の近所の神社を選んでもでもよいし、賑やかなお祭りをやっているところを選んでもよいでしょう。
ぜひ、夏越の大祓に出かけて半年分の罪や穢れを落としてください。
確かに生きていると、病気もするし、嫌な思いをすることもあるでしょう。
しかしそれ以上に怖いのは、気が付かないうちに、自分が他人に嫌な思いをさせているかもしれないということです。
自分が気の付かないうちに、犯している罪について考えると怖くなりますが、1人で考えていると、身動きが取れなくなってしまいますから、やはり神様の力を借りるのがよいですね。
自分だけでなく、昔の人もこうして罪や穢れという大きな荷物をおろしていたんだな、と感じるので、それだけで気が楽になります。
人生を一旦リセットすることの大切さと大変さは、今も昔も変わりません。
だから、夏越の大祓は大切なのです。