蕗の薹(ふきのとう)という植物をご存知ですか?
俳句では春の季語として数えられる蕗の薹は、早春の味覚として日本では古くから親しまれている植物です。
「春の味覚と言えば」と挙げられることの多い蕗の薹ですが、実は食べ方を間違えるとお腹を壊してしまうこともあるアクの強い植物でもあります。
それでは、蕗の薹はどのように食べれば美味しくいただけるのでしょうか?
今回は、蕗の薹の採れる場所や時期、名前の由来から美味しい食べ方まで、蕗の薹について徹底解説します。
蕗の薹(ふきのとう)とはどんなもの?
蕗の薹(ふきのとう)はキク科フキ属の植物であるフキの蕾の状態を言います。
フキは「多年草」と言って、1年で枯れてしまうのではなく、何年も芽を出し、花が咲くというサイクルを繰り返す植物の中の1種です。
一般的に私達が「蕗の薹」と言われて想像する蕗の薹は、芽が出たばかりの蕾の状態なんですね。
収穫をしない場合、蕗の薹は花が咲いて、地下に潜っている茎の部分から細長く葉が生えて、花の下の茎がぐんぐん伸びていきます。
地面に潜っていた茎が30cmほど顔を出し、最終的には黄色い花が咲きます。
野生の蕗の薹は一般的に山ふきと呼ばれるフキの蕾です。
フキと言われると、細長くて柔らかい茎のようなものをイメージしますよね。
ですが、スーパーなどで並んでいるフキは一般的に食べられている「蕗の薹」の品種とは違うもので、一般に流通しているものの大半は「愛知早生ふき」という品種です。
さらに、私達が茎だと思っている細長いフキは、茎ではなく、花が枯れた後で伸びてくる葉を支えている部分です。
実はフキの茎の部分は有害な成分が強く、食べることができません。
山菜と呼ばれるほど広く食べられている蕗の薹ですが、茎と同じ成分が当然微量ですが含まれています。
そのため、アクが強く、そのままでは人体に有害な場合もあります。
その有害な成分は「フキノトキシン」と呼ばれていて、発がん性物質の1つです。
また、フキノトキシンは腎臓に負担をかける成分でもあるということが、今までの研究でわかっています。
蕗の薹を食べる時には必ずアク抜きをして、フキノトキシンを抜いてから食べるようにしてくださいね。
蕗の薹(ふきのとう)という名前の意味は?
ふきのとうを蕗の薹と漢字で書くと、なんだか使い慣れない難しい漢字になりますよね。
それでは、蕗の薹という名前にはどんな意味があるのでしょうか?
蕗の薹は文字通り、「蕗(ふき)」という植物の「薹」の部分という意味になっています。
蕗は「フキ」という植物に漢字をあてたものです。
蕗という名前には諸説あり、はっきりとしたことは現在はわかっていません。
ただ、フキは古来は「フフキ」と呼ばれていて、それが転じて「フキ」となったことは間違いないそうです。
この事実から、最も有力な「蕗」の名前の由来は、蕗の葉が大きくてよく揺れるので「葉吹き(はふき)」や「風吹き(ふふき)」と呼ばれていたとする説だと言われています。
次に、「薹」というのはキク科の植物特有の部位で、一番真ん中の花が咲く花軸のことです。
「薹」は成長すると花をつけます。
蕗の薹だと育てば黄色い花がつくんですよ。
ですが、花が咲く直前くらいまで育つと、苦味成分が強くなり、食用に適さなくなってしまいます。
なので、蕗の薹の食べごろは生えだした最初の部分なんです。
また、蕗の薹の「薹」という字を使って野菜に対して「薹が立つ」という言葉を使うことがあります。
これは「食べごろが過ぎてしまった」という意味ですが、その名の通り蕗の薹などのキク科の植物の薹が成長すると食べられなくなってしまうことが由来になっています。
立つというのは成長して伸び始めている様子から来ているんですね。
蕗の薹(ふきのとう)が取れる場所はどこ?
蕗の薹は春の味覚と言われて好んで食べられることもあって、栽培している農家も存在しますが、蕗の薹は山菜の1つなので、天然のものは野山で採集することができます。
特に山間部は蕗の地下茎が張り巡らされているので、割と様々なところで目にすることができます。
山に入れば高確率で入手できますが、初春はまだ山の上の雪が溶け切っておらず、登山に慣れている人でなければあまりおすすめはできません。
しかし、山中の他にも、雪がまだ溶けていない頃合いに川沿いの土手や、近くが山になっている原っぱなどを探すと、足元に蕗の薹が顔を出していることがあり、これは食べられます。
ただし、完全に顔を出して花が咲く部分がしっかり見えるほど葉っぱが開いているともう食べごろではないので、食べごろの蕗の薹を探すのは至難の業と言えるでしょう。
田舎だと路肩に顔を出していることもあるので、身近な植物でもあります。
蕗の薹(ふきのとう)が旬になる時期はいつ?
蕗の薹の旬は春です。
その中でもかなり早い時期が旬になっていて、ハウス栽培の蕗の薹であれば12月から2月のはじめくらいまで、天然の山に生えている蕗の薹は12月の終わりから3月いっぱいくらいの時期に採れます。
これはこの約3ヶ月ほどのいつでも採れるという意味ではなく、花が地面から顔を出すタイミングは地域によって異なるので、この期間を合算すると3ヶ月ほどのどこかで芽吹くということです。
暖かくなりやすい地域では12月くらいにはもう生えてきますし、寒い地域や標高の高い山に行けば、3月くらいでも味わうことができます。
春に育つ植物なので、桜や梅と同じく暖かくなってくる頃に顔を出すんですね。
天然物ではないハウス栽培の蕗の薹は初春の期間はスーパーに並んでいるので、気軽に楽しむことができます。
自分で採集する時の目安として、美味しいと言われている蕗の薹は、蕾が固く葉が閉じていて蕾があまり見えないくらいの本当にはじめの頃のものと言われています。
スーパーで蕗の薹を買うときにも、小ぶりなものを選ぶのが美味しい蕗の薹に出会うコツです。
食べるためにはまだ雪に隠れている頃合いのものを探さなければいけないので、素人が探すのはとても難しいんです。
蕗の薹(ふきのとう)の美味しい食べ方は?
蕗の薹の美味しい食べ方といえば、やはり天ぷらです。
蕗の薹の有毒な物質である「フキノトキシン」を抜くためにはアク抜きが不可欠なのですが、天ぷらにする場合は高熱で加熱することになるので、アク抜きをせずに調理しても美味しくいただけて手間も少なく美味しく食べることができます。
アク抜きはしないにしても、蕗の薹は切ったそばから茶色く変色していきやすい植物なので、色合いを保つために揚げる直前まで切り口を水に浸しておくことをおすすめします。
有害物質の「フキノトキシン」は水溶性なので、アク抜きとして5分ほど茹でるか、水にさらしておくと溶けて抜けます。
水につけてアク抜きをすれば天ぷら以外でもいただけます。
天ぷら以外での美味しくいただくのであれば、茹でた蕗の薹に出汁醤油をたらして食べるおひたしが、蕗の薹の味を思い切り楽しむことができておすすめです。
おひたしにする場合は茹でる前に軽く水にさらしてアク抜きをしてからにしましょう。
特におすすめなのが「ふきのとう味噌」で、蕗の薹の食べ方としてはメジャーなものになります。
ふきのとう味噌はその名の通り、味噌に蕗の薹を混ぜ込んだものですが、足が早いと言われている蕗の薹でも日持ちさせることが出来るので、長く蕗の薹を楽しみたいという方にはぜひ挑戦してほしい料理のひとつです。
ふきのとう味噌の作り方はとてもシンプルです。
まず、混ぜる蕗の薹は水につけてアク抜きをしたあと、塩を加えた水で茹でて、茹で上がった蕗の薹は細かく刻んでから、味噌に加えてよく混ぜます。
最後にみりんを加えて味を整えたら、この味噌をよく炒めて完成です。
味噌を加えると蕗の薹の味わいが隠れてしまうような気がしてしまいますが、そんなことはなく、蕗の薹の苦味がよくきいた味噌に仕上がります。
食材につけて楽しめる他、ご飯にかけて食べても美味しい蕗の薹の定番料理です。
和料理以外には出番のなさそうな蕗の薹ですが、意外とそんなことはありません。
魚料理でも肉料理でもほどよい苦味で味を引き立ててくれるので、洋風の料理にも良く合うんです。
パスタに混ぜたり、炒めて肉料理の付け合わせとして添えても美味しく食べることができますよ。
まとめ
蕗の薹は野山に生える山菜なので、以外と身近な植物です。
山奥はもちろん、土手や路肩などにも生えていることがあるくらい、日本中どこでも見ることが出来る山菜です。
「蕗の薹」という植物というよりは、蕗の花の「蕾」を指すというのは意外でしたね。
成長してしまうと毒があったり、苦味が強すぎるなど食用に適さなくなってくるので、おすすめは春になってすぐくらいの、芽吹いたばかりの蕗の薹です。
天ぷらにもおひたしにもぴったりの味わい深い山菜である蕗の薹。
実は和風料理だけではなく洋風料理でも活躍してくれる優等生でもあります。
蕗の薹には「フキノトキシン」という有害物質が含まれているので、取り扱いには注意が必要です。
水に浸すか、下茹でをすることできちんとフキノトキシンは抜けてくれるので、アク抜きを忘れずに行い、安全に美味しくいただきましょう。