「朴葉飯」を知っている人はいるでしょうか。
日本全国で考えると、知っている人の方が少ないかも知れませんね。
朴葉飯は朴という木の葉で包んだおにぎりですが、私たちの知っているおにぎりとは少し違うので、実際に食べるときはびっくりすることでしょう。
大体朴の木と聞いて、すぐにピンとくる人もあまりいないでしょう。
一体朴葉飯は普通のおにぎりとどこが違うのか、どんなときに食べられてきたのか、気になりますね。
今回は朴葉飯について解説します。
朴葉飯について知ってみると、食べに出かけたくなるかも知れませんよ。
朴葉飯はおにぎり!どこが変わっているの?
朴葉飯は主に富山県の山間地域や福井県全域で食べられているおにぎりです。
この朴葉飯がちょっと変わっているのは、おにぎりだけどきな粉がまぶしてあり、甘いところです。
おにぎりにきな粉は不似合いだと思われるかも知れませんが、朴葉飯はもともと5月頃の田植えのときに、おやつとして食べられていたものです。
機械化されていなかった昔の田植えは重労働で、昼食の前に1度休憩を取って、おやつでエネルギー補給をする必要がありました。
またすべての田植えが終わったときには、お祝いとして朴葉飯が食べられたということです。
今のように甘い物が豊富ではなかった時代に、甘いきな粉のおにぎりは、農作業をする人々のエネルギー源として喜ばれました。
またきな粉が稲の花が咲いたときの花粉に似ているということで、稲が無事に花を咲かせ、実るようにという縁起を担いだともいわれています。
今でも富山や福井の人々に愛されている朴葉飯は、地元の家庭で作られるだけでなく、様々な場面で登場しています。
1986年の農林水産祭の25周年記念事業の一環として行われた特別展示「ふるさとおにぎりまつり」のために、日本全国から100種類以上のおにぎりが選ばれました。
このとき富山県と福井県の両方から、朴葉飯が選ばれました。
名実ともに朴葉飯はふるさとの味になったのです。
なぜ朴葉でおにぎりを包むの?朴ってどんな木?
朴の木は、モクレン科の落葉高木です。
高木の名の通り大きくなる木で、高さ30m、直径は1mにもなります。
初夏につける花もとても大きく、よい香りを放ち、高い木の中でひときわ目を惹きます。
朴の木は全国の山林で見られますが、どこででも葉を利用するわけではありません。
朴葉と聞くと朴葉味噌の方を思い出す人もいることでしょう。
朴葉は葉が大きく丈夫なので、昔から食器の代わりに使われていました。
葉の大きさは20cm以上(大きな物は40cmになることも)あるため、食器の代わりとしては十分な大きさです。
朴葉味噌は朴の葉の上に味噌を載せ、焼いて食べる岐阜県の飛騨地方の郷土料理です。
焼いても大丈夫ですから、丈夫さは折り紙付きといえます。
また朴葉には殺菌作用があるといわれており、寿司や餅を包むためにも使われました。
冷蔵庫がなかった時代に、寿司や餅を腐らせないように、朴葉で包んだことが現在まで伝わっているわけですから、殺菌作用もまた折り紙付きです。
現在では、朴葉には黄色ブドウ球菌(食中毒の原因菌といわれています)に
対する抗菌作用があるといわれています。
現在の私たちもおにぎりを持ち運ぶときには、何かに包みます。
食品用ラップフィルムに包むことが多いですが、食品用ラップフィルムでは中のおにぎりが蒸れてしまって、美味しさを損なうことがありますし、殺菌作用もありません。
食べ終わった後に食品用ラップフィルムを捨てれば、ゴミのポイ捨てになりますが、朴葉なら捨てても自然に帰るだけです。
中が蒸れずに殺菌作用もあり、そのまま捨てられる朴葉を見つけた昔の人の知恵は、素晴らしいものだったのです。
木材としての朴の木は細工がしやすく、水に強い上に手触りもよいことが特徴です。
そのため、まな板や包丁の柄に使われますが、中でも有名なのは下駄の歯です。
ある程度の年齢の人なら、朴歯下駄という名前を覚えているのではないでしょうか。
朴の木は意外にも私たちと親しい間柄だったのです。
意外に簡単!朴葉飯の作り方!
前日に朴葉を摘み取っておくことから、朴葉飯作りは始まります。
朴葉を十文字に重ねて、葉の重なりの部分に砂糖を混ぜたきな粉を敷きます。
きな粉の上に茶碗1杯分のご飯を載せ、上からもう1度砂糖入りのきな粉をかけます。
ご飯は手に塩を付けて握ってから置く人もいますが、茶碗から直接朴葉の上に置く人もいるようです。
ご飯を置いてきな粉をかけたら、そのまま朴葉を合わせて、止めれば朴葉飯の出来上がりです。
甘いきな粉がかかったご飯はおはぎのような味がしますが、そこに朴葉の香りが加わるので、やはりおはぎとは別物と思った方がよいでしょう。
朴葉の香りも朴葉飯の味なので、熱々のご飯を使って、しかも時間を置いた方が、香りが移って美味しくなります。
きれいな緑色の朴葉は熱が加わると変色してしまいますが、それがご飯に香りが移った証拠、つまり美味しくなった証拠だそうです。
近所に朴の木が見当たらないという人は、ネットショップで生の朴葉を購入することができます。
自然のものですから、1年中購入できるわけではありませんが、5月の朴葉飯の季節になったら、購入すれば自分でも朴葉飯が味わえます。
本当の朴葉飯を食べる方法は?
同じ朴葉を使ったメニューでも、朴葉味噌や朴葉焼きは飲食店で食べることができますが、朴葉飯はあくまでも家庭で作る素朴なメニューなので、飲食店で食べることは難しいようです。
富山市八尾町のNPO法人大長谷村作り協議会では、大長谷を知ってもらい、交流するために年間を通じて山菜祭りなどのイベントを行っています。
協議会ではお手伝いとして農援隊という名前のボランティアを募集していますが(年間費500円)、その人たちに近所のおばあちゃんたちの手作り朴葉飯が振る舞われたりしています。
もともとみなで田植えをした後に食べるものだった朴葉飯ですから、お手伝いの後に食べると、本当の美味しさがわかるのではないでしょうか。
福井県池田町のいけだ農村観光協会では、定期的に朴葉飯作り体験を行っています。
朴葉を取りに山に入るところからのスタートですから、本格的です。
しかも池田町のおばあちゃんたちと朴葉飯を作ることができますから、里帰りをした気分で朴葉飯を食べることができるでしょう。
名所や旧跡を巡る旅行もよいですが、朴葉飯を食べるために、自然の中で体を動かすということにも、また違ったよさがあります。
優しいおばあちゃんたちと甘い朴葉飯は、きっとよい思い出を作ってくれるはずです。
岐阜県にも朴葉飯作り体験ツアーがあるようですから、自分でも色々と探してみるとよいですね。
朴葉飯だけじゃない!朴葉を使ったメニューとは
朴葉には殺菌作用があり、寿司や餅を包むのにも使ったと先ほど紹介しました。
朴葉寿司も、岐阜県で畑や山で労働の合間に食べられていました。
朴葉寿司は今、家庭ではあまり作られなくなりましたが、飲食店で食べることもできますし、道の駅でも販売されています。
すし飯の上に、紅鮭、ふき、しいたけなどが載せられていますが、作る人によって具には変化があり、食べ続けても飽きることはありません。
朴葉寿司も朴葉の殺菌作用だけでなく、香りを楽しむものなので、普通のちらし寿司や押し寿司とは一味違うものです。
かつては朴葉飯も家庭で作るときは、きな粉のご飯だけでなく、五目ご飯やもち米のおこわなども包んで、変化を楽しんだといいますから
(京都には今も豆ごはんを包んだ朴葉飯があるそうです)、朴葉寿司も朴葉飯の仲間だといえるでしょう。
朴葉飯を楽しんだら、その次は朴葉寿司を楽しみに岐阜県に出かけてみたくなりますね。
人間は食べ物を持ち歩くために、笹や柿、そして朴葉など様々な植物の力を借りてきました。
現在のように科学的根拠のあるなしに頼らなくても、昔の人はちゃんと自然の恵みを活かしながら、
健康的に暮らしていたことを考えると、小さなことはどうでもよくなるかも知れませんね。
まとめ
今回は朴葉飯について解説しました。
朴葉飯は主に富山県や福井県の人々が田植えなどの労働のとき、エネルギーを補給するために食べていたおにぎりだったことがわかりました。
素朴な朴葉飯を食べるために、富山や福井の自然の中で体を動かしてみるのもおすすめですが、
自分の周りでも田植えのときに食べられていた昔ながらのおにぎりがきっとあるはずです。
それを探しに出かけてみるのも、楽しそうですね。
また富山や福井以外にも、岐阜や京都に朴葉飯は存在しますし、朴葉飯のほかにも朴葉を使ったメニューが存在します。
これらの隠れた朴葉飯や朴葉味噌、朴葉寿司、朴葉餅などを食べるのも、楽しい旅の目的になりますね。
緑の色が日々濃くなっていく初夏の日に、朴葉を使ったメニューはピッタリです。
ぜひ本当の朴葉の香りを確かめに、出かけてみてください。
楽しい旅行やお出かけが昔の人の知恵を引き継ぎ、伝えていくことになれば嬉しいですね。