「引越しそばって何のこと?」と聞かれたら、正確な答えをどれだけの人が答えられるでしょうか。
現代では引越しをすると新居でそばを食べたり、お手伝いに来てくれた人に感謝の意味を込めてそばをごちそうするという習慣が広まっています。
実はこの引越しそばは、もともとは他の意味を持っていたのです。
こちらでは、もしも引越しをする際に役立つ引越しそばの知識について、歴史や由来も含めてご紹介していきます。
引越しそばの由来は、金額の問題とシャレから!?
いつの頃からか、引越しをすると引越しそばを食べるという習慣が日本にできあがりました。
当たり前の様に引っ越しを終えると作り出すそば。
お祝いも兼ねて食べるとされていますが、一体なぜその様なことが始まったのでしょうか。
引越しそばの由来は江戸時代中期にさかのぼります。
引越しをすると、「向こう両三軒隣」に引越しそばを配るという暗黙のルールがあったのです。
向こう三軒隣とは、引っ越した自宅の両隣と向いにある三軒。
この5軒の家にあいさつを兼ねて、そばを配っていたのが引越しそばなのです。
何もそばでなくてもと、疑問に思った方も多いはず。
実はこの「引っ越しをしたら、あいさつまわりに土産を持参するスタイル」は、江戸時代中期より前にすでに始まっていたとか。
その時は小豆粥やお餅を配っていたのだといいます。
日本の食文化において小豆粥は欠かせない祝い食で、小正月と呼ばれる1月15日に小豆粥を食べる事で「邪気を払う」「家族の幸せを願う」などという意味を持っていたのです。
小豆の特殊な赤い色には邪気払いするという意味合いがあり、もちろん慶事にも使える材料ということなのでしょう。
現代の慶事にもお赤飯が出される理由はそこにあるのですね。
ただ当時、小豆や餅はとても高価なものだったので、引越しをする度に購入をすることが一般人にとって大変なことでした。
そこで手軽な値段で買い求めるられるそばを、引越しそばとして代用したという説が有力です。
また引越しそばのもう1つの由来として、引越しをしたことで「側に末永く」「そばの様に細く長いお付き合いをお願いします」という心情がシャレとしてかけられているという話も。
蕎麦と側の意味を上手に利用した、江戸っ子ならではの粋な計らいが生んだ習慣なのかもしれませんね。
江戸時代の引っ越しと現代の引っ越しの違いと意味
引越しという言葉を当たり前に使っていますが、そもそも引越しとはどういう意味なのでしょうか。
現在は運送業者が運んでくれる引越し。
皿などの繊細な食器も1枚ずつ梱包してくれ、とても安心して引っ越せますよね。
江戸時代の引越し事情は今とは違いました。
江戸時代には長屋を借りて住むことが一般的で、お金持ちで地位のある人がまれに大きな屋敷に住んでいるというくらい。
確かにこの屋敷の住人が住処を変える場合は、中にある高級家具も運ぶので大引越しです。
ただ民衆が借りている長屋はほぼレンタルで賄えました。
布団や生活に必要な家具などはセット価格でレンタルしていたので、身一つで長屋を転々とすることも可能だったのだとか。
例えるなら現在のウィークリーマンションの様なものでしょうか。
つまり江戸時代に引越しをする場合長屋などの家をメインとしていたとしたら、確かに向こう三軒両隣には引っ越しそばを渡すのがいいのかもしれませんよね。
また引越しという言葉は、飛鳥時代にできたと言われています。
朝廷などの職務についている権力者は、出世や降格をするとその住まいから離れなければなりませんでした。
その事を「引き超え」といい、その言葉が長い年月をかけて「引越し」に変化したのではと考えられているとか。
しかも車などない時代なので時には山や川を越えて住居を移動したということもあり、「引いて超える」という意味が語源ではないかという説もあります。
それが江戸時代に「引越し」と変わり、現代にいたるとされているのかもしれません。
引越しそばと似た文化は外国にもある?
引越しそばは「そば」というくらいなので、もちろん日本の文化であることは推測ができますよね。
この「引越しの際にご近所にそばを配る」という習慣と似たものは、他の国にもあるのでしょうか?
実際引越しをした後にご近所に物を配るということ自体が、「気を使いすぎ」「理解できない」という声が多い中、やはりあいさつがてら物をあげるという文化を理解している国もありました。
その中でも英国は近所に越してくると、超してきた人ではなく、そこにいた隣人が「ウォーミングパーティー」と題した歓迎会をする習慣があるそう。
これは引越してきたばかりでまだ部屋の中に何もない寒々しい空間を、少しでも暖かみを感じさせるためという意味があるのだと言います。
またアメリカでは「ウェルカムバスケット」という、果物やスイーツなどを詰め込んだワゴンやバスケットを作り歓迎するという習慣もあるとか。
英国やアメリカでは日本の引越しそばとは全く逆で、引越した側がご近所さんにもてなしてもらえるというもの。
海外のオープンな空気がこのような発想を生むのかもしれませんね。
またそれに対し日本では、新しい場所に移り住んだ人が昔から住んでいた人にあいさつをするという「年功序列」的な思想が根付いているのでしょう。
これは会社などでも同じことですよね。
実は韓国でも日本と同じく小豆を使った餅をご近所に配るという風習があったという話も。
大陸の近さの問題もあるかもしれませんが古来から行き来していた国ということもあり、影響を受けたということも考えられるでしょう。
世界の引越し事情とは?
実は当たり前の様にしている引越しですが、日本が特別引越し国であることをご存じでしょうか?
日本をこえる引っ越し数を誇るのはアメリカであるとされているのですが、アメリカと日本は定職という考え方についても違うことがあげられます。
近年日本でも転職や派遣といった勤務形態が当たり前になっていますが、少し前までの日本では入社してから長期間勤務するという傾向がありました。
そのため転勤以外は同じ場所、もしくは住居の住み替えという意味での引越しをする人が多かったのだとか。
それに対しアメリカはいろいろなことに挑戦するという思考を持っていることで、引越しや転職をすることが当然のことのように考えられていたと言います。
アメリカの場合は引越し業者を利用することがあまりなく、ほとんどは身内や友人に頼むそう。
もしくは掲示板などでその日だけのお手伝いを募集し、手伝ってもらうこともあるといいます。
他の国でも日本の様に引越し業者が発展しているところも少なく、そのシステムに驚くという方もいるほどだと言います。
また驚くのは引越し業者だけではなく、引越し資金についても。
外国の方が敷金・礼金のシステムを初めて知った時は、どうしてそんな金額を払うのか?などといった声が上がっていました。
確かに日本の独自のシステムはとても整理されていてわかりやすい反面、経済的負担がかかわると思われることも当然かもしれませんね。
引越しの際に上げる品はそば以外に何がある?
江戸時代にそばを上げる風習ができ引越しそばと名付けられたましたが、最近では引越しのお祝いにみんなで食べるというものに変わってきました。
だからといってあいさつをしないわけではありませんよね。
そこでおそば以外に人気の引越しギフトについてご紹介していきましょう。
最近の人気はお菓子です。
このお菓子ですが、マンションや戸建てによりあげるものを変えるのもおすすめ。
例えば戸建ての場合はご近所さんにゴミだしやお祭りなどでお世話になることが多く、知らない町内のことも教えていただける強い存在です。
できるだけ箱詰めのもので、千円から2千円ほどのお菓子を持っていくと良いかもしれません。
またマンションの場合は管理費を支払いゴミなどもマンション側が対処してくれるので、ご近所にはプチプラ程度のお菓子を渡すという方も多いとか。
次に多いのが洗剤やタオルといった、あると便利な日用品です。
これならあいさつとしてもぴったりですし、好みなどもそこまで気にならずに渡せますよね。
最近は個人情報だということで、やたらにあいさつに行かないという方も増えています。
確かに女性の1人暮らしの方などはあいさつをした方が良いとはわかっていても、むやみにあいさつに行かない方が良いという場合もあり一概には言えません。
ケースバイケースで臨機応変に、引越しそばの代わりになるあいさつの品を差し上げるのが良いかもしれませんね。
まとめ
こちらでは引越しそばの歴史や由来をひもときながら、世界の引越し事情やプレゼント事情まで解説してきました。
義理人情に厚い日本人が、ご近所付き合いを円滑にさせるということで始めただろう引越しそば。
やはり新しい場所に引越した際には、あいさつは必要なものです。
ただし時代の変化とともに、必ずしもそれが良いことではないという流れが根付きつつあります。
その場所に上手に順応しつつ、礼儀をわきまえていくのが大切になっていくでしょう。