ユネスコの無形文化遺産に指定されている那智の田楽がある『那智の扇祭り』とはどんなお祭りなのでしょうか。お祭りで行われる舞(まい)が無形文化遺産になっているほか、火祭りとしても有名です。いつどこで行われているのか、『那智の扇祭り』の由来から、お祭りを見るポイントについてもご紹介します。
那智の扇祭りと世界遺産との関係
『那智の扇祭り』とは、和歌山県東牟婁郡(ひがしむろぐん)那智勝浦町(なちかつうらちょう)にある熊野那智大社の例大祭のことです。那智勝浦というと『紀伊山地の霊場と参詣道』として世界遺産に登録されている熊野三山と霊場とその参詣道である熊野参詣道いわゆる熊野古道がある場所として知られていますね。
まず、世界遺産に登録されている『紀伊山地の霊場と参詣道』についてみていきます。紀伊山地の霊場とは、高野山と熊野三山(くまのさんざん)のことです。そして熊野三山とは、熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)、熊野速玉大社(くまののはやたまたいしゃ)と熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)の3つの神社をいいます。この3つの神社は、和歌山県の南東部にそれぞれ20㎞~40㎞離れてあります。熊野川の中州にあって川を神格化した熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)、熊野川の河口の近くにあり水玉の勢いを示す熊野速玉大社(くまののはやたまたいしゃ)と大滝の聖水が持つ力を信仰する熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)のことで、それぞれまつっている主神は違っていますが、それぞれがまつっている神様をお互いにまつって『熊野三所権現』として信仰するようになりました。世界遺産としては熊野那智大社と関係が深い青岸渡寺(せいがんとじ)と補陀落山寺(ふだらくさんじ)も登録されています。
熊野三山は紀伊半島の南東部にあり、京の都から参詣するにも、日本の各地から参詣するにも遠かったので、参詣道も紀伊半島の西側を回る中辺路と大和路、紀伊半島の東側を回る伊勢路、高野山と熊野三山を結ぶ小辺路という3つの熊野参詣道(くまのさんけいみち)が開かれました。
那智の扇祭りとは?お祭りの起源は
『那智の扇祭り』は、日本三大火祭りの1つで『那智の火祭り』としても有名ですが、正式には『扇祭り』『扇会式法会(おおぎえしきほうえ)』という那智熊野大社の例大祭で、7月14日に行われています。
那智の扇祭りは、1960年に和歌山県の無形民俗文化財、2012年にユネスコの無形文化遺産として指定されています。またこの扇祭りの中で奉納される田楽舞(那智の田楽)は、1976年に国の重要無形民財に指定されています。命の源である水が豊富にあふれ落ちる那智大滝は古代から神としてあがめられていました。そして、はじめは滝のそばにあった熊野那智大社を1700年くらい前に滝が見渡せる位置に移したことで、1年に一度『夫須美神』が滝に里帰りする行事としてお祭りがおこなわれるようになったのです。
そして現在では、那智の扇祭りは、滝と水を生命力の源、火を活力の源と捉え、神霊の再生復活と五穀豊穣を祈るお祭りという意味になっています。
那智の扇祭りの主な内容と見どころ
那智の扇祭りは例大祭を行う7月14日がメインになりますが、この日を迎えるために7月1日から準備が始まります。主なものは次の3つです。
- 扇神輿(おおぎみこし)張(7月11日)
- 宵宮祭(7月13日)
- 例大祭(扇祭り、7月14日)
それぞれ順番に見ていきます。
扇神輿張とは、扇祭りで使う神輿を準備するものです。扇神輿全体の形は一般的な神輿とは形が大きく違っていて、幅1メートル高さ10メートルの細長い框(かまち)に絹の緞子を取り付けて、更にその上に飾りを取り付け全体で那智大滝の姿を現します。神輿の頂上に光を表す飾り、前には8個の鏡がつけれ、更に扇神輿の由来となる日の丸の開いた扇が30個、半開きの扇が2個取り付けますが、30は旧暦の1か月の日数、半開きの扇は月の上弦と下弦を表します。この扇神輿を12体作り、1体がひと月で、12体で1年を表すといわれています。
宵宮祭りとは、礼殿で大和舞、田楽舞、田植え舞が奉納されます。
例大祭とは、は、7月14日の朝10時から夕方の15時30分まで那智熊野大社の礼殿で開始され、途中那智の大滝の前に場所を移し最後にまた那智熊野大社の礼殿に戻ってきます。クライマックスは、重さ50kgを超える大松明が円陣を組んで扇神輿を清める『大松明による扇神輿の清め』が行われる大滝前です。順番に流れを見ていきましょう。
- 御本社大前の儀 12の神々にお供え物をして祈念する儀式
- 大和舞 子供による舞の奉納
- 那智の田楽(ユネスコ無形文化遺産) 笛1人、腰太鼓4人、編木4人、番外の舞人2人の11人編成で舞うもので当時の編成をそのままに伝える珍しいものです。
- 御田植式 笛と太鼓に合わせて田植え歌を歌いながら田を巡る
- 扇神輿渡御祭 扇神輿12体を本殿前に飾り降神の儀を行ってから神輿が発進する
- 伏拝扇立て神事 第1扇から第12扇まで開くように順番に立てて飾る
- 御火行事 12本の大松明に点火し、松明が円陣を組みながら扇神輿を清める一方で火消し役が火の粉を打ち消すように水をかけながら御滝本に向かう
- 御滝本大前扇の儀 飛滝神社で扇神輿に火の粉を振りかけようとする一方で打ち水をしながら火の粉を消して回り、その掛け声が一丸となって火祭りが最高潮に達する
- 田刈式 御本社の田植式に続く儀式で、鎌をもって田刈歌を歌いながら田を回る
- 那瀑舞 松明を持ったまま白装束で日の丸の扇子をもって御滝幸の歌う
- 扇神輿還御祭 滝での神事を終えて扇神輿が御本社に還る
見どころ
この那智の扇祭りは例年1万人程度の観光客が訪れるといわれています。お祭り全体を見るのか松明を使った豪快な火祭りといわれる部分のみを見るのかにより見る場所や時間が異なります。
全部を見る場合
熊野那智大社でお祭りが始まるのを待ちお祭りと一緒に移動する方法です。場所は、那智熊野大社から大滝までの往復です。お祭りの開始が10時ですが、場所を確保するには、特別席や招待席はないので早めの移動で、見える位置の確保が必要です。
火祭りを見る場合
例大祭の進行予定表によると、御火行事の開始は、14時ですが大変込み合う上、座席が指定できる席はありません。南紀勝浦温泉の宿泊施設の宿泊客を対象とした特別拝観席チケットが10人×10列で合計100席ありますが、全て立ち見で先着順に前列から席が決まります。前列を希望する場合はやはり午前中の早い時間に行く必要があります。遅くとも12時25分までにはいかないと特別拝観席に行くための通路が閉鎖されてしまい、席に行くことができなくなるので注意が必要です。
特別拝観席以外の場合は、滝の下が見やすいですが、狭いためここも場所の確保は難しいですね。また石段の両側にロープが張られている見学スペースがありますが通常は歩く場所ではないので、条件はあまりよくありません。また、石段の右側の下の方が見やすいですが、平らな場所ではありません。
観覧する場所については、どこから見ることができるかを事前に確認すると、当日困らないですね。いずれにしても待ち時間が長くなるので携帯の椅子などがあると便利です。
扇祭りへの交通アクセス
扇祭りを見る場合の交通手段についてみてみます。
車で行くと便利ですが、駐車場の台数が限られていること及び周辺道路の混雑も考えられるため、早めに移動した方がよさそうです。臨時駐車場もありますが、シャトルバスで送迎を行うため、こちらもゆとりをもって行ってください。この点からも遅くとも10時ぐらい、できればもっと早くに行った方がいいですね。早い方だと5時くらいから並んでいる人もいるようです。
車の場合
那智勝浦新宮道路那智勝浦ICから約15分
駐車場
那智山域の有料駐車場:約200台(例年10時30分には満車になります)
神社の駐車場:30台(神社の境内付近まで車で行くことができます)
臨時駐車場(大門坂駐車場)に駐車後、熊野交通の無料シャトルバスで移動します。
電車の場合
JR紀伊勝浦駅から熊野交通バス那智山行バスで約30分 那智山で下車 徒歩15分またはタクシー約20分(バスは1時間に1本~2本の運行のため、時刻表を確認する必要があります。)
JRきのくに線新宮行 特急オーシャンアロー号、スーパーくろしお号 京都から約3時間50分、新大阪から約3時間20分
JR紀伊本線 特急ワイドビュー南紀号 名古屋から約3時間
まとめ
- 那智の扇祭りは、『紀伊山地の霊場と参詣道』として世界遺産に登録されている那智熊野神社の例大祭でした。
- 那智熊野神社は、滝の生命力を祀り、1年に一度神が元の滝に還られるのが例大祭で、50kgを超える大松明を使うことから火と水の祭りとして有名です。
- 那智の扇祭りで使われる扇神輿は、滝をかたどった神輿が特徴です。
- 田楽舞は国の民俗文化財、ユネスコ無形文化財に指定されています。
平安時代から熊野詣として多くの方が参拝した熊野神社。無形文化財になっている大和舞、田楽舞、田植え舞などの舞と、迫力満点の松明と神輿を使った豪快な那智の扇祭りにぜひ一度行ってみてはいかがでしょうか。