日本で一番みなに飲まれている飲み物はなんでしょうか。年代によっても違うでしょうが、やはり日本茶を飲むと落ち着くとか、1日1回は日本茶を飲みたいと思っている人が今でも多いのではないでしょうか。
そんな日本茶が実は中国から伝わったことは、よく知られています。中国と日本のお茶は似ているところも、違うところもあって比べてみると中々面白いのです。
今回は中国茶でよくいわれている「雨煎茶」について解説します。日本茶を飲む私たちにもきっと役に立ちますよ。
「雨煎茶」の意味!穀雨と関係がある?
日本では茶摘みの時期といえば八十八夜が定番です。ある程度の年齢の人なら、「茶摘み」という文部省唱歌が懐かしく思い出されるかも知れませんね。
八十八夜は立春から数えて88日目の日にあたり、春から夏に移り変わる日でもありました。茶摘みだけではなく、種まきをするのにも最適な日だという理由から、農業をする人は、昔から八十八夜を大切にしていました。
八十八夜は毎年5月2日頃ですが、これは二十四節気では穀雨の最中にあたります。穀雨というのは今の暦では4月20日頃から、立夏の前日5月4日頃までを指します。その名前の通り、五穀豊穣をもたらす恵みの雨が降る季節といわれています。
中国の雨煎茶の雨は、穀雨を意味しています。中国の緑茶の産地・杭州市では、二十四節気を目安にしてお茶摘みをしています。収穫された時期によって、お茶の呼び方を変えています。
立春(2月4日頃)前に積んだ「春前茶」、
清明節(4月5日頃)前に摘んだ「明前茶」、
穀雨前に摘んだ「雨前茶」、
穀雨の後に摘んだ「雨後茶」と続きます。
雨煎茶というときには、もっぱら雨前茶を指しているようです。これはそのまま等級を意味していて、雨煎茶は日本の二番茶に近い中級品だということです。
杭州市で収穫されたお茶は龍井茶(ろんじんちゃ)という名前で、世界中に知られています。誰もが知っている中国の代表的な緑茶で、ほかの産地の緑茶は龍井茶のように茶摘みの時期によって呼び方を変えるということはしていません。それだけ龍井茶の品質が高く、茶農家の人々も自信を持っていることの表れだと思われます。
穀雨の前後なら、日本なら一番茶に匹敵する十分に早い時期の茶摘みですね。ちなみに日本で有数のお茶の産地・静岡県では、一番茶の収穫は4月25日から5月10日頃までです。
手頃な値段で健康効果も!「雨煎茶」のメリットとは
中国は烏龍茶に代表される中国茶を飲んでいるイメージがありますが、実は中国茶だけを飲んでいるわけではなく、緑茶も広く飲まれています。
緑茶も紅茶も烏龍茶も、茶葉はみな同じ茶の木の葉です。では、どうしてこんなに味や香り、色が違うのかというと、茶葉が発行しているか、いないかで違いが出ます。緑茶は茶葉を摘み取った後に、加熱処理を行うことで茶葉が発酵するのを防いでいます。緑茶以外のお茶は、発酵の程度によって、紅茶や烏龍茶などの違いが出てくるのです。
発酵に頼ることができない緑茶は、茶葉の成長の程度によって、味や成分が大きく違ってきます。そのため茶摘みのタイミングも細かく設定されているのです。雨煎茶は中級品ということで、何だか格が下がるような気がするかも知れませんが、そんなことはありません。
茶葉は太陽にあたる時間が増えることで、タンニンという成分が増えていきます。タンニンはポリフェノールの1種で、お茶の渋味の元になっていますが、最近では抗酸化作用や抗菌作用(インフルエンザ予防が有名です)などの健康効果が注目されています。
また昔はお茶を飲むと眠れなくなるといわれましたが、タンニンはカフェインと結びついて、その作用を弱めてくれますから、眠れなくなることを心配しなくてもよいのです。雨煎茶(日本の二番茶も)は、健康効果に優れている上、カフェインの心配が少ない優れたお茶だということができます。
健康効果だけでなく、タンニンを含んだお茶はお茶らしいしっかりとした味わいがあります。早くに茶摘みをした高級茶も、トロリとした甘味を感じて美味しいものですが、食事の後に飲んで気分をさっぱりさせるには、タンニンの多いお茶がピッタリです。
実際に中国でも雨前茶は味わいがしっかりしているし、雨後茶は手頃な価格なのでよいという意見が多くあるそうです。雨煎茶は庶民の味方、健康の味方だということができます。
時代の流れ?「雨煎茶」が消えそうな理由とは
雨煎茶は庶民の味方でしたが、最近杭州市ではお茶栽培の事情が変わってきました。それは早い時期に茶摘みができるように改良された龍井茶の登場です。在来種の茶摘みはどんなに早くても3月末頃までは始まりませんが、新しく登場した品種なら、それより1週間から10日は早く茶摘みを始めることができます。
結果、かつての雨煎茶と同じ品質のものが、明前茶という名前で登場することになりました。収穫の時期が早まりますから、名前が変わってしまうわけですが、このことで、少し高級品を味わっている気分になるのかも知れません。
最近の杭州市では、3月末でも30度近い気温になることがあります。在来種のお茶は気温25度を超えると、育ちすぎてしまい、高級品にはならないため、新しい品種に切り替える茶農家が出て来るのは、当然のことなのかも知れません。
中国ではお茶は収穫が早ければ宝だが、収穫が遅ければ草も同然、といわれているくらいなのです。これもある意味地球温暖化の影響なのかも知れません。
日本人もきっと好きになる「雨煎茶」!なくなるのは、もったいない!
お茶の収穫が早まったために、杭州市では雨煎茶はもはや死語に近いともいわれています。このままでは、雨煎茶という言葉が使われなくなってしまうかも知れません。せっかく杭州の人たちが、自分たちの作ったお茶に誇りを持って名付けた名前が消えてしまうのは、とても残念に感じられます。
雨煎茶の雨が、穀雨から来ていると知ると、恵みの雨を連想するためか、より美味しそうなお茶に感じられます。日本でもそう思っている人がいたのか、穀雨と名付けたお茶が販売されています。雨前、雨後のお茶は天の香りを放ち、地の味を持つと表現している人もいるのです。雨煎茶という呼び方をなくしてしまうのは、何とももったいない話です。
日本でも収穫が早いお茶は新茶や一番茶といって高い値段が付けられて、珍重されます。ただそれは年に一度のお楽しみで、本当にお茶が好きな人が毎日飲むのは、二番茶だという意見もたくさん聞かれます。この点は中国の人たちが雨煎茶を喜んでいたのと同じです。同じお茶を飲む者として何だか共通点を感じます。
雨煎茶というのは良い名前ですが、茶葉は湿気には弱いので、保管には注意してください。密閉できる容器に入れて、きちんと蓋をするようにしましょう。本当の雨の時期、梅雨を越すとそれだけで味が変わってしまうことがありますから、一度開封したお茶はなるべく早く飲みきってしまうのが一番です。また冷蔵庫に保管するのは、匂いや湿気でお茶が傷むもとになるので、止めたほうが無難です。
ストレス解消できる?穀雨の頃には、お茶の時間を大切に!
日本にいる私たちも雨煎茶に習って、穀雨の頃にはこれからできるお茶のことを考えてみましょう。新茶が出来上がって店頭に並ぶのは、穀雨よりもう少し後になるでしょうが、穀雨の頃の気候によって、どんなお茶が出来上がるのか予想するのも楽しいものです。
年度が変わり環境が変化したことの疲れが出るのがちょうど穀雨の頃です。なるべく心を安らかに保つためにも、緑茶を飲む機会を持つことを心がけましょう。
一休みするということでも、お茶の時間は重要ですが、緑茶を飲むとホッとするというのは決して気のせいではありません。緑茶の旨味成分・テアニンにはストレスの緩和や睡眠の質をよくする働きがあります。テアニンは不眠対策のサプリメントになっているほどです。ちょうどストレスが溜まる頃にお茶が収穫されるのは、とてもよくできたサイクルなのです。
日本では八十八夜にお茶を飲むと長生きできるともいわれています。日本と中国、場所は違っても穀雨の頃がお茶にとって大切な時期なのは変わりがないようです。
まとめ
今回は「雨煎茶」について解説しました。日本のお茶も美味しいですが、中国の代表的な緑茶・龍井茶もぜひ味わってみたいですね。
雨煎茶は日本の二番茶と同等のものですが、二番茶にはたくさんのメリットがあり、味も決して高級なものに引けを取らないことがわかりました。自信を持って雨煎茶(日本では二番茶)を飲み続けたいですね。
中国では雨煎茶という名前が危うくなっているようですが、日本人にも好まれそうな情緒あふれる名前ですから、何とか残っていって欲しいものです。