ひらひらと宙を舞う蝶を見ると、春になったのを感じて何だか嬉しくなってきますね。
蝶にも色々と種類がありますが、モンシロチョウは春から秋にかけて、いつでもどこでも見られる親しみやすい蝶ではないでしょうか。
その思いは昔の人も同じだったようで、「菜虫化蝶」という言葉がずっと使われてきました。
この言葉の読み方や意味を知れば、蝶を見るときの気持ちが今までとは違ってくるはずです。
使い方も紹介しますから、実生活の役に立ててみませんか?
今回は「菜虫化蝶」について解説します。
「菜虫化蝶」の読み方と意味!中国では蝶じゃなくて鷹?
「菜虫化蝶」は七十二候の9番目、啓蟄の末候に当り、現在の暦では3月15日から19日頃を指します。
読み方は「なむしちょうとなる」です。
菜虫は大根やカブなどのアブラナ科の野菜を食い荒らす青虫のことで、主にモンシロチョウの幼虫のことを意味しています。
何となく、蝶の幼虫を青虫とか芋虫と呼んでいる人も多いでしょうが、芋虫は最初、サトイモやサツマイモにつくスズメガの仲間の幼虫を意味していました。
それがいつしか青虫も一緒に芋虫と呼ばれるようになりました。
青虫は緑色の幼虫を指していますが、緑色以外の幼虫も含めて芋虫と呼ぶわけです。
ちなみに青虫も芋虫も体に毛が生えていません。
毛が生えているものは毛虫と呼ばれます。
菜虫化蝶の意味はもうわかりますね。
春になって暖かくなったので、菜虫が成虫の蝶になって飛び交っているという意味になります。
同じ時期の中国での七十二候は「鷹化為鳩」です。
これは鷹が鳩(カッコウとも)に変わってしまう、という意味ですが、荒々しい鷹もおとなしい鳩のように変わってしまうほどの春の穏やかな陽気を表す言葉です。
これも春ののどかさを感じさせてよいのですが、菜虫化蝶では冬の間は害虫として嫌われた菜虫が、春になって見事に蝶として羽ばたく姿が人生の希望まで感じさせてくれます。
蝶のことだと思っていたら、実は人間の成長を表していたのではないかと感じさせる奥深さが、菜虫化蝶にはあるのです。
今やありふれているモンシロチョウの隠された歴史!菜虫は本当にモンシロチョウだったのか?
モンシロチョウは奈良時代に大根が日本に入って来たとき、一緒に入って来たといわれています。
ですが長い間日本で白い蝶といえば、もともと日本にいたスジグロシロチョウの方が数の上でも優勢でした。
日本でモンシロチョウが一般的になったのは、明治になってキャベツが日本に入ってきてからのことです。
日本で最も古いモンシロチョウの絵は、1793年の円山応挙の写生帖に描かれたものです。
その頃はあまり見ることのできない珍しい種類の蝶として描かれたようです。
渋川春海が日本で初めての暦・貞享歴を編纂したのが1685年ですから、このときの菜虫はスジグロシロチョウの幼虫だったのかも知れません。
ちなみにモンシロチョウとスジグロシロチョウの違いは、見ればすぐにわかります。
スジグロシロチョウは白い羽に黒い筋が模様として付いているからです。
モンシロチョウがキャベツなどの畑の側にいることが多いのに対して、スジグロシロチョウは山寄りの地域にいることが多いのも違いの一つです。
今はありふれた蝶になっているモンシロチョウですが、そこにも色々な歴史が隠れていて蝶への興味が湧いてきますね。
蝶はなぜ神秘的な存在になったの?「菜虫化蝶」が使い続けられてきた理由!
日本だけでなく、世界各地の人たちが昔から蝶に惹きつけられています。
ただ美しいからというよりも、人は蝶に何か神秘的なものを感じているようです。
キリスト教では蝶は復活の象徴であり、ギリシャでは魂や不死の象徴です。
日本でもそれは同様で、お盆の黒い蝶には仏が乗っているとか、夜の蝶は仏の使いなどの言い伝えがあります。
蝶は神秘的なものという思いは、その美しさからも来ているでしょうが、蝶の成長の仕方にも影響されているようです。
幼虫と成虫のときとでは、蝶の姿はずいぶんと違います。
幼虫と成虫の合間には蛹(さなぎ)になっている時期がありますが、この蛹の中では、呼吸器官などいくつかの組織を残して、幼虫の体はドロドロに溶けます。
そして成虫としての体が新しく作られます。
これは一旦死んで生まれ変わるほどのすごいことです。
昔の人がその過程のすべてをわかっていたとは思えませんが、この成長の仕方が、神秘的な蝶の姿を作ってきたことは間違いありません。
人間は蝶を美しい昆虫として愛するとともに、そこに仏や人の魂までを見ていました。
もともと神秘的な蝶だったからこそ、七十二候に使われ、人々に親しまれるようになったのでしょう。
「菜虫化蝶」は人生の春も表す!その使い方とは
菜虫化蝶の時期には、卒業や入学でたくさんの若者が羽ばたいていきます。
冬の間それこそ菜虫のように報われない思いをした若者もいたことでしょう。
(菜虫は害虫だといわれますが、それは人間の都合で、菜虫には不本意なことだったでしょう)
もし子どもを育てている人なら、この時期はその成長を実感する時期かも知れません。
菜虫化蝶、この言葉を胸に抱いて子どもの姿を眺めれば、何かを感じ取れるはずです。
そしてできることなら、子どもが努力をしている冬の時期に菜虫化蝶を思い出して欲しいのです。
自分の子どもの努力が足りないと感じるとき、この言葉を思い出せば自然に穏やかな気持になれるはずです。
菜虫化蝶は春の季節を表す言葉ですが、誰の人生にもまた春があります。
誰でも蝶になって羽ばたく日がやってきます。
目先のことに囚われすぎていると羽ばたく瞬間を見逃してしまうかも知れません。
そんなことにならないように時折思い出すのが、菜虫化蝶のよい使い方でしょう。
菜虫の時期は畑の作物を食い荒らして、人に迷惑をかけても、成虫になった蝶は自由に羽ばたきながら、植物の受粉を助けます。
蛹の時期には動くこともできなくなりますが、それは何もしていないのではありません。
蝶になる準備が蛹の中で着々と進んでいます。
先程紹介したように、蛹の中では生まれ変わりといってもよいほどの大事業が行われているのです。
蛹が蝶になったときには、今度は蝶が受粉を助けることで作物ができるようになります。
蝶は周りを助けるようになるのです。
もし蝶などの昆虫類が一切居なくなってしまうと、世界は深刻な食糧難になるという説もあります。
菜虫は作物を食い荒らすから、とすべて退治してしまったら、私たちは作物もすべて失ってしまいかねません。
そんなことからも、子どもを育てている人は、ぜひ菜虫化蝶を度々思い出して、大切なものを失わないようにしましょう。
菜虫化蝶という言葉は、私たちに物事を1つの面から見ているだけではいけない、と教えてくれているのかも知れません。
今は菜虫でも、蝶になる可能性がないとは誰にもいえません。
気分良く新しい年度のスタートを切るために!「菜虫化蝶」のもう一つの使い方
寒い冬や暑い夏には、体調に気を配る人でも、春はよい季節になったからと油断をしてしまうのではないでしょうか。
でも、菜虫化蝶の時期には環境が大きく変化する人がたくさんいますし、朝晩と日中の気温差が大きくなりますから、どうしても体調を崩す人が出てきます。
人間は寒くなっても、暑くなっても体温を一定に保つために自分が意識しなくても、体が自動的に体温調節をしようとします。
そのとき働くのが自律神経ですが、気温差が大きくなると、自律神経の働きが追いつかなくなることがあります。
自律神経の働きが上手く行かなくなると様々な不調が出て、体調が崩れてしまいます。
暦で菜虫化蝶を見かけたら、前もって体調を崩さないように対策を講じましょう。
暖かな季節になり、春のおしゃれを楽しみたいところですが、ストールやマフラーを上手く使って首元を冷やさないような工夫をしてください。
突然寒くなったときに備えて、カイロなどを常備しておくのもよいですね。
ぬるめのお湯(38℃から40℃)での入浴は、副交感神経を優位にしてリラックスできるそうです。
ストレスが溜まっているなと感じたら、ぜひぬるめのお湯で入浴してください。
そのとき炭酸ガス入りの入浴剤を使うとより効果的です。
ほかにもハーブティーを飲むなど、自分でできる対応策は色々とありますから、自分にあったものを探すためにも色々と試してみましょう。
前もって対応策を講じておくことで、新しい年度のスタートを気分よく切ることができます。
これも菜虫化蝶のよい使い方といえるのではないでしょうか。
まとめ
今回は「菜虫化蝶」の読み方と意味、使い方について解説しました。
菜虫化蝶の時期は季節の変化とともに、環境も変化する人が多いので、十分に注意するようにしましょう。
そして誰もが、蝶になる可能性を秘めていることを忘れないために、菜虫化蝶という言葉を大切にしていきましょう。
この言葉は自分のためだけでなく、周りの人のために覚えておいて損はありません。
能力や能率で人を判断してしまうことが多い現代社会だから、菜虫化蝶を覚えておいて欲しいのです。
自分だけでなく、周りの人たちの可能性を大切にできれば、もっと生きやすい社会が作れるに違いありません。