毎年春になると、次々に花が咲くのを見るのが楽しみですね。
花見といえば桜が有名ですが、梅の花もまだ寒い時期に華やかな気持ちを味わうことができますね。
桃の花には、桜とも梅とも違う魅力があります。
お雛様に使われるだけあって、華やかさも十分ですし、昔の人も桃の花が大好きだったようです。
その証拠に七十二候に「桃始笑」とあります。
今回は桃始笑の読み方と意味、使い方、そして桃の花の魅力について解説します。
「桃始笑」の読み方と意味!桃には不思議な力があった?
「桃始笑」は啓蟄の次候、七十二候の8番目に当たり、3月10日頃を指します。
読み方は「ももはじめてさく」です。
この時期に桃の花が咲き始めることを意味した言葉です。
笑という字を咲くと読むのは、変だと思う人もいるかも知れませんが、もともと笑うには、花が咲くという意味があります。
果実が熟して割れ目ができることも笑うといいましたから、蕾が開くときにできる花びらの隙間を、人が笑うときに開く口元に見立てたのかも知れませんね。
桃は昔から中国では神様や仙人に力を与える不思議な木であるとされていました。
特に桃の果実は長寿を表す縁起のよい果物であるとされて、今でも祝いの席で出される饅頭は桃の形をしています。
日本でも桃には邪悪なものを祓う力があるとされているため、雛祭りには桃の花を飾りますし、桃から生まれた桃太郎が鬼を退治します。
改めて考える!桃ってどんな木?どんな花?
ところで梅と桃と桜の見分けはつきますか?
梅の花がまだ寒い時期から咲き始めるのは、知っている人が多いでしょう。
梅の種類にもよりますが、1月中から咲いていることもあります。
桜は昔、入学式のときに咲くものでしたが、今では卒業式の頃、3月下旬に咲くことが多いようです(もちろん地域差があります)。
桃はちょうど梅と桜の間の時期に咲きます。
まだまだ花が少ない時期ですから、桃が咲いているのはとても嬉しいですね。
花びらの形も違っています。
梅の花は丸い形ですが、桜は花びらの先が割れています。
桃は花びらの先が尖っています。
ただ下から見上げると、桜の花によく似ているように見えます。
ただ桃と桜には大きな違いがあります。
桃は花柄が短く、枝に貼り付くように咲いているのに対して、桜は花柄が長く、枝から首を垂れるように咲いています。
梅も花柄が短いのですが、花芽が一節に一個です。
桃は花芽が一節に2個なので、梅よりも花が多く、見た目が華やかです。
木の幹も梅と桃と桜では違っています。
梅はゴツゴツとひび割れた樹皮をしているのに対して、桜は縞模様があり、つややかで美しい樹皮をしています。
桜の樹皮はその美しさのため、茶筒やお盆などに細工されることもあります。
桃の幹はちょうど梅と桜の中間という感じです。
梅のようにひび割れているわけではありませんが、桜のように美しいわけでもありません。
本当に普通という感じです。
梅は花が小さく、控えめですし、桜は花の数は多くても色が薄く、遠くから見ると霞のように見えますが、桃は枝にびっしりと花がつき、色も白から濃いピンクまで様々なので、見ごたえは満点です。
桃の花がたくさん咲いている様子を見ると、桃源郷(理想郷、ユートピア)という言葉がピッタリ来るのを実感できます。
桃の名前の由来とは?「桃の花」と「桃の実」では季節が違う!
桃といえば、花よりも果実のほうが楽しみだという人もいるでしょう。
桃が咲く季節は春ですが、果実が収穫されるのはもっと後のことです。
(正確には花を鑑賞する花桃と、実を収穫する桃は別の種類です。花桃の実はたとえ収穫できても、食べるのには向かないそうです)
このため桃の花は春の季語ですが、桃の実は秋の季語になるそうです。
桃は身近な存在なので、手紙の挨拶文に使う機会があるかも知れませんが、季節を間違えないように、使い方には注意してください。
親しみやすくかわいい感じがする桃という名前ですが、由来となる説がいくつかあるそうです。
真実(まみ)が転じて桃になった説、実が赤いため燃実(もえみ)という名になり、それが桃に転じた説、
たくさんの実をつけるため、百(もも)という名が付いて桃になった説などがあります。
桃がたくさんの実をつけるのは、子孫繁栄を連想させたために縁起がよいとされました。
お雛様に飾る桃の花はただの飾りではないことがわかりましたね。
今まで飾っていなかった人は、ぜひ次の雛祭りには桃の花を飾ってみてください。
昔から長寿を表すといわれていた桃の果実は、栄養的にも優れていることがわかっています。
水溶性の食物繊維が含まれているのと同時に、整腸作用があるペクチンを含んでいるので便秘の解消に効果的です。
生の野菜や果物を食べると体が冷えるのではないかと気になることがありますが、桃にはビタミンBの一種であるナイアシンが含まれているため、体を温める効果があるといわれています。
冷えが気になる人には嬉しい効果ですが、食べ過ぎると体に熱がこもるため、注意してください。
血圧を正常にする働きのあるカリウムや、アンチエイジングに効果があるカテキン類も桃に含まれています。
ただの言い伝えだと思われていた桃は不老長寿の果実というのはあながち間違いではないかも知れません。
桃の種や蕾も、漢方薬に利用されています。
桃は本当に利用価値の高い植物であることがわかりますね。
丸ごと全部役に立つ!桃の凄さと日本人との関係!
花や実のほかにも桃にはまだ利用できるところがあります。
花の後に出て来る葉は、あせもなどの皮膚の炎症に効果があるそうです。
少し年配の人は、桃の葉風呂に入った思い出があるかも知れませんね。
ただし乾燥していない桃の葉には、青酸化合物が含まれているので扱うときには十分な注意が必要です。
桃の葉の成分が含まれたローションが市販されていますから、それを利用してもよいですね。
桃の木は木材としても利用されます。
割れにくく丈夫なのでお箸や髪の毛を梳かす櫛に加工されることが多いようです。
桃には魔除けとしての効果もあると信じられているため、いつも自分が使うものを桃の木に変えるとお守りがわりになりそうですね。
桃の樹皮を使って草木染もできます。
剪定するときに出た枝を使って染めることが多いようです。
桃なので、ピンクを想像していましたが、優しい黄色に染まるのが意外です。
1つの木で目立つのはどうしても花や果実ですが、こうして余すところなく利用していた昔の日本人の生活能力は
高かったのだな、と感心させられます。
「桃始笑」の使い方!幸せな人には花も笑いかけてくれる?
七十二候の本場は中国ですが、中国にも桃始笑と同じ意味の候があります。
中国では啓蟄の初候、七十二候の7番目は「桃始華」といいます。
桃始笑と同じ意味ですが、表現が違うのが興味深いですね。
桃の花が咲き始めるという意味を考えると、中国の桃始華の方がわかりやすいように思えますが、日本人があえて花が咲くことを笑うと表現したことに、私たちは注目するべきではないでしょうか。
寒く厳しい冬が終わり、春が訪れて美しい桃の花が咲いたとき、まるで桃の花が微笑みかけてくれるように感じた日本人はとてもみずみずしい感性を持っていたわけです。
大抵のことが時代の流れとともに古く、流行遅れになってしまいますが、この感性に今の日本人はとてもかなわないと、感じ入ってしまいます。
また日本人は花が咲くことを「花笑み(花咲みとも)」と表現することもありました。
昔の人たちがどんなに花に慰められたか、また春に花を見るのを楽しみにしていたのかがわかる、花への愛情があふれる言葉です。
暦で桃始笑を見かけたら、日本人が大切に育んできた感性について、考え直してみるとよいでしょう。
そして現代を生きている私たちが、どれほどのものを失ってしまったのかもじっくりと考えてみましょう。
それが現代の生活においての、桃始笑の正しい使い方でしょう。
ところで日本人の感性について考え直すことに、何の得があるのかと疑問を感じる人もいるでしょう。
これは自分の幸せのためなのです。
春、花が開いたときにそれを眺めることで、満ち足りることができれば人生は幸せです。
花が咲いたら花見をしないとつまらない、大勢の友人と騒がなくては寂しい、美味しいものを食べながらでないと花見もわびしい、などと思う人よりも、今年も桃が咲いた、それを見られたのが何よりの幸せ、と思っている人の方が幸せであることに間違いはないでしょう。
そんな人には、花もきっと笑いかけてくれるはずです。
まとめ
今回は「桃始笑」の読み方や意味、使い方について解説しました。
桃の果実の栄養や、他の花との見分け方についても説明しましたので、桃の花の季節にはぜひ役立ててください。
桃の花を雛祭りの飾りとしてしか見ないのは、とてももったいない話です。
散歩のときに注意してみていると、梅も桜も咲いていない時期に桃の花が目を楽しませてくれるのがわかります。
「桃始笑」の時期には、ぜひ桃の花も新たに見直してみてくださいね。