七十二候には「雀始巣」という候があります。
七十二候は季節の変化を表していますが、これは一体どの季節を表しているのでしょうか。
雀といえば私たちにとっては身近な鳥ですが、身近すぎるために反ってどの季節を表しているのかわかりにくいかも知れませんね。
この言葉をよく知ることが、身近な雀をもう一度見直すきっかけになるかも知れません。
身近な自然を観察する楽しさがあると、生活そのものが楽しくなって来ますよ。
今回は雀始巣の読み方と意味、使い方について解説します。
「雀始巣」の読み方と意味!昔から日本人は雀が大好き?
「雀始巣」は春分の初候で、七十二候の10番目、3月20日から24日頃を指します。
読み方は「すずめはじめてすくう」で、春暖かくなって雀が巣作りを始めるという意味があります。
雀は全長14から15cmで、決して大きな鳥ではないため、自分を守るために必ず人間の側で生活をします。
雀は人間の側にいれば大きな鳥や猫などから身を守れるということをわかっている、用心深くて利口な鳥なのです。
人間の側で暮らしていますが、雀は人間に気を許しているわけではなく、その巣は目立たず、人間が簡単には触れない場所に作られます。
雨戸の戸袋の中や屋根瓦の隙間など、思わぬところに巣を作られて驚いた経験がある人もいるのではないでしょうか。
人間にとって身近な存在なので、雀は俳句の季語になっています。
「雀の巣」や「雀の子」は春の季語ですが、秋の田んぼに群れる雀は「稲雀」という秋の季語になり、「寒雀」は冬の季語、「初雀」は新年の季語になります。
渡り鳥のようにいなくなる季節がないとはいえ、年間を通じて季語になっていることは、人間の雀への思いをよく表しています。
また見慣れない鳥を見付けたときに、雀と比べることで大きさの目安を付けることも昔から行われています。
例えば春に、家の周りで地面をちょこちょこ歩く鳥を見付けたとします。
雀よりも少し大きめで、尾が長く、体の色は白と黒のように観察をすれば、その鳥の名前を調べる目安になります(この例題の答えはハクセキレイです)。
このように使われることから、雀は「物差し鳥」ともいわれています。
雀と人間の関係!大切な稲を守ってくれる?
雀は雑食性なので、何でも食べます。
食べられるものが多いので、人間の側に暮らしていれば、食べるものに困らなかったのでしょう。
よく桜の花を引っ張って、落としている姿が目撃されて、いたずらをしていると思われていますが、あれは桜の花の蜜を食べているそうです。
雀のくちばしは太くて短いため、メジロやヒヨドリのように花にくちばしを入れることができません。
そこでやむなく花を落としているだけなのです。
理由を知ると、余計に雀がかわいく感じられてきますね。
雀は実った稲穂も食べますが、稲に付く害虫も食べてくれます。
だから雀はツバメやカルガモとともに、益鳥といわれています。
余りにも稲を食べる場合、駆除されることもありますが、駆除しすぎると結局米の収穫高も減ってしまうのだそうです。
雀に愛着を持って、俳句の季語にするだけでなく、実生活でも人間と雀は持ちつ持たれつの関係を保ってきたのですね。
ほかにも雀は意外なほど私たちの生活に入り込んでいます。
冬に雀が寒さ対策のために、羽の間に空気を入れて膨らんでいるのをご存知ですか?
丸く膨れて可愛らしい姿のため、「ふくら雀」という名前が付いています。
これに福良雀という字を当てると縁起物になります。
根付や人形、手ぬぐいに風呂敷など様々な品物になっていますから、ぜひ一度手にとってみてください。
また福良雀は和服のときの帯の結び方の名前にもなっていますし、女性の髪の結い方の名前にもなっています。
着物の模様にも福良雀がありますし、家紋に雀が入っている家もあります。
人間は簡単になつかない雀を、身の回りに置いておくために、キャラクター化したのかも知れませんね。
外に出るのが苦にならない?「雀始巣」の使い方と過ごし方!
雀始巣の時期に忘れてはいけないのが、お彼岸ではないでしょうか。
彼岸は春と秋の年に2回ありますが、秋の彼岸を済ませた後、次の年の春の彼岸までは少し時間が空いてしまいます。
正月に墓参りをする地域もあるようですが、大体の場合はわざわざ寒い時期にお参りをすることはないかも知れませんね。
夏のお盆のときのように墓に雑草がはびこって大変ということはないでしょうが、冬の間に枯れ葉などが吹き溜まっていることがあります。
ご無沙汰してしまったご先祖様のために、春らしくなって外に出るのが苦にならなくなるこの時期、墓掃除をするのもよいですね。
前もって掃除を済ませておけば、自分はもちろんですが、誰かが墓参りに来てくれたときも、きっと気持ちよいと思ってくれるでしょう。
ちなみに春の彼岸は、春分の日が中日です。
その前後3日間ずつの合計1週間が彼岸になります。
これは秋の彼岸も同様で、秋分の日が中日となります。
春の彼岸の墓掃除を行うときは、お盆のときのような熱中症対策や虫対策は必要ないですが、代わりに花粉症対策が必要になります(彼岸の墓掃除で花粉症を発症する人が意外にいるのです)。
マスクやメガネで自衛して、じっくり掃除に取り組みましょう。
暦で雀始巣を見付けたら、できればすぐにでも墓掃除に出かけましょう。
また日差しが明るくなって、冬の間は気付かなかった汚れが目につき出す季節でもありますから、雀始巣には普段よりも念入りに仏壇の掃除をするのもお勧めです。
特にお線香を立てる香炉の中をキレイにするとよいですよ。
何回も線香を立てていると、灰の中に線香の燃え残りが溜まってきます。
放って置くと線香が立てづらくなりますから、燃え残りを取り出して見た目がよくなるように均しておきましょう。
専用の「灰均し(はいならし)」という道具も販売されていますから、1つ買っておくと役に立ちます。
網付きの灰均しなら、燃え残りを取り出すのにも使えます。
雀だけではなく、人間にも色々な面があると教えてくれるのが「雀始巣」!
春の彼岸の準備をするための目安にするのも、雀始巣のよい使い方ですが、使い方はこれだけではありません。
暦で雀始巣を見付けたら、自分の周りの大切な人への思いを改めて考えてみましょう。
普通に生活していると、雀というのはありふれた鳥です。
そこにいて当然の鳥ですが、昔の人は雀の愛らしさに目を留め、害虫を食べてくれることに感謝をしました。
そして雀の姿を様々なものを通して身の回りに残して、愛用してきました。
更に雀の巣は人間の目に届きにくいところにあるのにも関わらず、それを七十二候の中にまで残したのです。
雀始巣は日本独自の七十二候で、中国では同じ時期の七十二候は「玄鳥至(燕が南からやって来るという意味)」です。
燕に比べると見付けにくいのが雀の巣ですが、雀の鳴き声が賑やかに感じられるときに、よく観察していると口に枯れ草をくわえた雀を見ることができます。
くちばしに何かをくわえた雀が屋根瓦の隙間などに、頻繁に出入りをしている場合は、そこに巣を作っている最中です。
風景の一部として眺めている雀と違って、巣を作っている雀は真剣に働き、子どもを育てて生きていることがわかります。
周りにいて当然の人だと思っていても、自分の知らない姿が必ずあります。
ただ自分が見ようとしていないだけです。
そんな姿を見るように教えてくれる言葉が雀始巣ではないでしょうか。
これもまた雀始巣のよい使い方に違いありません。
「雀始巣」が消えてしまうかも!雀の数が減っている?
何回も雀のことをありふれた鳥、と形容して来ましたが、実は雀の数は減っています。
1990年頃に比べて、2007年の雀の数は少なく見積もった場合でも半減しているそうです。
現在の家には雀が巣を作れるような隙間がほとんどないのが大きな理由ですが、ほかにも農家が減って、餌を獲得する機会が減っていることなども理由になっているようです。
今まで持ちつ持たれつでやって来た雀と人間ですが、雀がこれだけ数を減らしているということは、いずれ人間にもその影響が出るのではないでしょうか。
何も昔のように家に隙間を作れとはいいませんが、私たちは、雀が生きにくい世界は人間にも生きにくいのだ、ということをよく承知しておいた方がよいでしょう。
暦で雀始巣を見かけたら、すべての生き物が生きやすいのはどんな世界なのか、考えてみるのもよいですね。
まとめ
今回は「雀始巣」の読み方と意味、使い方について解説しました。
暖かな季節になりますから、墓掃除をするとともに雀を始め、身近な動物たちに思いを寄せてみてください。
いつも周りにいるのが当然と思っていた雀たちも、私たちに色々なことを教えてくれます。
ただ漫然と見ているだけではもったいないですよ。
「雀始巣」がきっかけとなって、きっと今までとは違う世界が見られることでしょう。
「雀始巣」、この言葉をこれからも大切にしていきたいですね。