古代の中国から伝わった七十二候。
時を経て日本人は独自の季節感を表現する言葉を添え、オリジナル性の高いものへと変化させていきました。
中でも農業を営んでいた日本人が心待ちにした、「春」を表現している十三候~十八候に注目してみましょう。
短い言葉の中に農作物への愛情や、四季の美しさを読み解くことができます。
そんな四季の楽しさをわかちあうべく、こちらでは十三候~十八候の読み方や意味などについてご紹介していきます。
十三候~十八候の読み方と表現法
日本の魅力は何といっても四季があること。
その時期に咲く花や収穫物、さらに風景や気温など、その季節だからこそ味わうことができるものがたくさんあります。
季節感を楽しむことができる日本には、昔より伝えられる七十二候というものがあることをご存知でしょうか。
文字の通り「時候」を表した言葉であり、言葉で表現しにくい季節の流れや美しさを繊細に伝えることができます。
そんな七十二候ですが、元々は古代中国で作られたもの。
それが日本に伝わり独自の季節感に合わせ内容もアレンジされてきました。
現代の形になったのは江戸時代だと言われており、当初伝わってきたものとは変更点も多いとされています。
表現の仕方にはそれぞれ季語の様なものが含まれているのですが、自然を表現したものが二十一候、鳥を表現したものが十七候、植物を表現したものが十七候、虫を表現したものが九候、動物が七候、そして魚が一候となっています。
おそらくこれらの言葉を巧みに使い表現した四季は、カレンダーの無い昔の人々にとって季節を肌で感じる大切なものであったに違いありません。
その様に昔の人々に必要とされてきた七十二候の中で、十三候から十八候までを調べていきましょう。
まずは読み方を簡単にご紹介していきます。
- 十三候は「玄鳥至」と書き、「つばめきたる」と読みます。
- 十四候は「鴻雁北」と書き、「こうがんかえる」と読みます。
- 十五候は「虹始見」と書き、「にじはじめてあらわる」と読みます。
- 十六候は「葭始生」と書き、「あしはじめてしょうず」と読みます。
- 十七候は「霜出出苗」と書き、「いもやみてなえいづる」と読みます。
- 十八候は「牡丹華」と書き、「ぼたんはなさく」と読みます。
このように漢字だけを見ると読み方は想像も出来ない様なものが多く、とても難しく映ります。
ですが季節を言葉だけで表現した古代の人の知恵が、いかに素晴らしいものがったかがわかりますね。
十三候~十八候はいつ頃のことをいう?
十三候~十八候が七十二候であることはご説明しました。
つまり一年の細かな季節のうつろいを表現するために、5日ごとにこまかく日にちを設定したのですね。
5日ごとなので、一か月に大体六候あることになります。
それを一年でかけると、ちょうど七十二候になるというわけです。
そこで先ほどご紹介した十三候~十八候の話になるのですが、その時候だけを言われて日にちが特定できる方はどれだけいるでしょうか。
こちらでは細かな日にちをご紹介していきます。
- 十三候は4月4日~9日までのこと
- 十四候は4月10日~14日までのこと
- 十五候は4月15日~4月19日までのこと
- 十六候は4月20日~4月24日までのこと
- 十七候は4月25日~4月29にちまでのこと
- 十八候は5月1日~5月5日までのこと(4月30~5月4日としているところもあります)
このように時候とは5日ごとに設定が変わっており、この日付に添って人々は季節を感じてきたことでしょう。
十三候~十五候の意味は?「空」に関係する言葉で春を表現
このように細かく季節感を表現する見事な技を、古代の日々とは披露してきました。
もちろんその時だけの事柄を表しているわけではなく、毎年訪れる決まり事の様なものを「季節のイメージ」として言葉にしていることがうかがえます。
つまり七十二候の名前には当然意味があり、名前が付いているということになりますね。それでは十三候~十五候についている名前の意味を解説していきましょう。
十三候「玄鳥至(つばめきたる)」について読み方からもわかる通り、玄鳥とは燕の別名のことを指しています。
燕は渡り鳥として知られ、寒い冬は南国に渡り暖かく過ごすことで有名ですね。
特に日本の冬は寒く厳しいので、フィリピンなどで越冬をするといいます。
そんな燕が再び日本に戻ってくるのが春。
ちょうど4月の4日頃であったとされているのです。
おそらく農業を中心に行っていた日本人にとって、燕は春の訪れを告げる大事な存在。
軒下などにわざと巣を作り、害虫などを駆除していたとも言われています。
農家の人々は「燕がそろそろ来たな」という様なことを、毎年のように口にしていたのでしょう。
十四候「鴻雁北(こうがんかえる)」について春の訪れに鳥を用いた表現が続きます。
十四候では春に再来した燕に対し、北の地・シベリアに戻っている冬の鳥「雁」が去っていく様子を表しています。
ここで疑問に思うのが「鴻」という字。
実は鴻も雁のことを指していることを覚えておきましょう。
鴻は大きめの雁のことを言い、雁は小さめの雁のことを言うのです。
綺麗な群れの形をして飛ぶ雁は、昔話などの挿絵にも良く出てくるので1度は見たことがあるのではないでしょうか。
日本では昔から雁という鳥に愛着を持っており、盆菓子の「落雁」などを見てもわかる様に「雁」という漢字が使われていることも多いのです。
また、寒さが少しずつ感じられる10月の四十九候には「鴻雁来」という時候もあるので、合わせて覚えておくのも良いでしょう。
十五候「虹始見(にじはじめてあらわる)」について漢字から見ても季節を表現する美しい言葉ですね。
それまでの冬の季節は乾燥も激しく、雨もそこまで降らない日が続きます。
ですが春になると不安定ながら大気中に水分も増え、光が屈折をすることで虹がかかることも。
雨の後に虹がかかるのが、この水分と光が大きく関係しているからなのですね。
虹がはじめて現れる日は、春の訪れという考え方からきたものなのかもしれません。
十六候~十八候の意味は?「大地」に関係する言葉で春を表現
十三候~十五候までは、鳥や虹など空に関係する言葉で季節を表現していましたね。
日本ならではの春の訪れを表現する場合、やはりきってもきれないのが大地に関係すること。
稲作をはじめ、農業で生計を立ててきた日本ならではの発想がここにあります。
それでは残りの十六候~十八候までの意味を解説していきましょう。
十六候「葭始生(あしはじめてしょうず)」について葭は植物であり、イネ科に属します。
育てるというよりは田園で勝手に広まっていき、段々と育っていくというイメージですね。
成長期は秋なので、春には水田などで綺麗なグリーンの葭を見かけ始める頃。
成長後はその耐久性のある特性をいかし、藁ぶき屋根などにしたりして日本人との生活に欠かせないものでした。
稲作業などをしていた人々は、葭を見かけると春を感じたのでしょう。
十七候「霜出出苗(いもやみてなえいづる)」について寒い冬が終わり春の訪れを待っているのは、今も昔も農家の人々。
彼らにとって大地の霜は大敵。
そんな霜もようやく溶けて、新しい作物を植える準備に入る事ができます。
ちょうど稲はこの頃、成長しはじめるので、出苗という表現をしているのですね。
十八候「牡丹華(ぼたんはなさく)」についてこの時期は美しいピンク色や白など、様々な色の牡丹の花が咲く時期。
美しい季節の彩を花を使い表現しています。
古代の日本では牡丹を愛でる貴族が多かったことが有名で、香りが良く、中国では高貴な花としても知られています。
七十二候とつながりの深い「俳句」
俳句と言うと、五・七・五などと、決められた語数を使い巧みに表現する言葉遊びの様な要素がありますよね。
有名な俳人だと松尾芭蕉があげられるでしょうか。
彼は江戸時代に俳句というものを完成させた人物であると言っても良いかもしれません。俳句にはルールがあり、中でも「季語」を1つ入れるという決まりがあることが有名です。
この俳句の形を「有季定形型」と言います。
もともと日本には貴族が和歌を楽しむ風習があり、季節感を表現する言葉を選ぶのが上手であったと言えるでしょう。
それもこれも四季がある日本だからこそではありますが、中国から七十二候が入ってきてから、より季語というものに拘わっていた可能性もありますね。
しかも七十二候がきちんと改定されなのも、実は江戸時代中期~後期と言われています。
俳句の出現と関りがあっても不思議ではありません。
現在でも俳句愛好家が多い日本では、季語を勉強するために七十二候の勉強もしている方が多いといいます。
おそらくそれだけ昔の人の言葉選びが繊細で、尊敬すべきところがあるということでしょう。
まとめ
こちらでは古代の中国から伝わった七十二候のうちの、十三候~十八候についてまとめてきました。
美しい言葉選びが得意な日本人が、風土にあった季節を見事に表現している事がわかります。
日にちや曜日の感覚が薄かった昔の人々が、季節や生活習慣だけで作り上げてきた時候には目を見張るものがありました。
せっかく日本に生まれ育ったのですから、四季の味わいを言葉でも楽しみたいところですね。