「黄鶯睍睆」という四字熟語に見覚えはありませんか?何だかとても難しい意味が隠されていそうですが、実はみなさんもご存知の、季節を表す言葉なんですよ。今回は黄鶯睍睆について、意味や使い方・関連事項などについて解説していきます。
ぜひこちらを読んでいただき、黄鶯睍睆の豆知識を増やしていってくださいね。
「黄鶯睍睆」の読み方や意味、使い方は?
「黄鶯睍睆」について、まず基本的な部分からみていきましょう。黄鶯睍睆と書いて、読み方は「こうおうけんかんす」です。漢字のみだと難しい印象ですが、日本語に直すと何だか早口言葉みたいで親しみが湧いてきませんか?他にも詠み方はありますが、そちらは追ってご説明しますね。
では次に、この黄鶯睍睆(こうおうけんかんす)の意味や使い方についてお話してまいります。
黄鶯睍睆の意味や使い方は?
この四字熟語はことわざなどではなく、季節を表す際に使われるものなんです。日本では丁度立春の頃にあたるのですが、黄鶯睍睆その時期を指しているんです。由来については後ほど詳しく説明いたしますが、元は中国で使われていた季節観で、古い漢詩にも記述が見られるようです。
意味は「ウグイスが鳴き始める頃だよ」ということで、昔からウグイスの登場と共に春の訪れを感じていたことがうかがえますね。熟語をバラしてみてみると、このような意味になっています。
・黄鶯:スズメ目コウライウグイス科の鳥。中国や朝鮮半島で見られます。日本でいうところの、ウグイスと似たポジションです。
・睍睆:美しい声であることを表す擬態語。
日本で黄鶯睍睆に言及されることは少ないですが、「そろそろ黄鶯睍睆だなあ」なんて言ってみると、知識人として一目置かれるかもしれませんよ。
別の言い方も…
先ほど「黄鶯睍睆=こうおうけんかんす」とお伝えしましたが、実は別の言い方をされることもあります。元が中国語ですから、日本語に直す際言いやすいものにしたり、分かりやすいように言い換えたりしたためなのでしょう。黄鶯睍睆は以下のようにも読まれますので、一緒に覚えておいてくださいね。
- こうおうけんかん
- うぐいすなく
黄鶯睍睆の由来はどこから?
黄鶯睍睆は一年の内の一区切りを表す言葉で、暦の一種「七十二候」の内の一つなんです。七十二候の起源は古代中国にさかのぼります。黄鶯睍睆は現在でいうところの立春にあたる期間をさすのですが、七十二候ではどのような位置づけなのか、もう少し詳しくみておきましょう。
七十二候とは?
現在一年は四季で区分がされていますが、分かりやすくいうと、それをさらに細かくしたものが七十二候です。七十二候は古来中国にて考案された季節の捉え方なのですが、気候の変動などに伴い何度も改定されてきたという歴史があります。
日本でも古くから採用されていますが、他の暦と違い日本でも何度か改定されてきました。一年を細かく分けていますから、徐々にズレや違和感が出てくるのでしょう。
ちなみに黄鶯睍睆はこの中でも「春」に区分され、2月9日~13日頃に該当しています。
黄鶯睍睆ではない時もあった!?
日本に浸透してからも七十二候は度々改定されていて、実は黄鶯睍睆と制定されたのも江戸時代と、ごく最近のことなんですよ。例えば黄鶯睍睆はこんな風にも表されていました。
- 宣明暦(862~1684年) :蟄虫始振(ちっちゅうはじめてふるう)
- 貞享暦(1685~1753年):梅花乃芳(うめのはなかんばし)
- 宝暦暦(1754年~) :黄鳥睍睆 → 後に黄鶯睍睆と変化
宣明暦は七十二候が中国からやってきた時のもの。そこから日本でも何度か改定されていることが分かります。
「蟄虫始振」は冬にじっとしていた生き物たちが動き出す様子を、「梅花乃芳」は読んで字のごとく梅の花が開き始める様子を表しています。黄鶯睍睆となったのは最近のことですが、それ以前も同じ時期の呼び名は、それぞれ春先の季節の移ろいを感じさせるものだったのですね。
「ウグイスが黄色い」となっているのは何故?
黄鶯睍睆についての由来や時期をつかんだところで、何故漢字でこのように表現するのかについてみていきましょう。日本でも馴染みある「鶯(うぐいす)」や「黄」という文字が入っていますが、何か関係があるのでしょうか?
ウグイスは黄色い?
実は本来「黄鶯睍睆」は、制定当初「黄鳥睍睆」というように、鶯の部分は鳥という漢字で表していました。黄鳥とは高麗鶯のことで、日本のウグイスとは違い、中国や朝鮮半島で見られるウグイスは全身が黄色味を帯びているため、黄鳥とも呼ばれるそうです。
元を辿れば中国の暦ですから、命名時は中国式にしていたのかもしれません。しかし日本で黄鳥と書いてもぱっとどんな鳥なのか分かりませんから、後に鳥の部分を鶯に置き換えたというわけなんです。
この辺りは七十二候の改定後に変化していて、黄鶯睍睆となったのも江戸時代後半。しかしこの時代でも春の訪れに人々がウグイスを連想することは変わらなかったのですね。
ウグイスの鳴き声には種類がある?
黄鶯睍睆は「ウグイスが鳴き始めるよ」という意味があるとお伝えしましたが、ウグイスの鳴き声は「ホーホケキョ」だけだとお思いの方が多いのではないでしょうか。実はウグイスには何種類もの鳴き方があるんですよ。
黄鶯睍睆の時期にいち早くウグイスの声を耳にできるよう、こちらで鳴き声の種類についても確認しておきましょう。
●さえずり
こちらは一般的に連想される「ホーホケキョ」の鳴き声です。この鳴き声はオスのみで、メスへ求愛する際の鳴き方なんですよ。春先の繁殖期に聞ける声ですね。同じような鳴き方で縄張りを意識する際も鳴くようですが、この時は低めに「ホーホケキョ」と鳴くのだそうです。
●谷渡り鳴き
こちらもオスのみの鳴き方で、繁殖期に縄張りに敵が近づいた際「ピーヒョロロロピヒョピヒョ」というように大声を出して鳴きます。
●笹鳴き
雀の鳴き声のように可愛らしく、「チャッチャッ」と小さく鳴く声のこと。主に冬の時期に聞けるようです。
●地鳴き
一年中聞けるウグイスの鳴き声。「ヂュンヂュン」というように鳴きます。笹鳴きと似ていますが、やや地鳴きの方が大きく、濁音が混ざったように聞こえますよ。
ウグイスにも「前線」が!?
ウグイスの鳴き声が春の訪れを知らせるものということはお分かりいただけましたね。春で連想するものといえば他に桜がありますが、ニュースでも見かけるとおり、桜は毎年「桜前線」を観測していることはご存知かと思います。実は黄鶯睍睆で表されるウグイスにも「前線」があると知っていましたか?
●ウグイスの初鳴き
桜と同じように、毎年気象庁・気象台ではウグイスの初鳴きを観測しているんですよ。初鳴き、もしくは初音と呼ばれますが、これは「ウグイスの初鳴き前線」とよばれ、各地方の気象台にて調査されているそう。ウグイスには鳴き方の種類がたくさんあることをご紹介しましたが、春独特の「ホーホケキョ」が聞こえたタイミングで前線は計測されています。
桜前線と同じように、やはりウグイスたちも暖かくなってから活発に鳴き始めますから、南の地域ほど早く、北に行くほど初鳴きの観測は遅めになるようです。ザックリとウグイスの初鳴き前線の目安を記載しておきますね。
- ・九州地方~沖縄県:2月前半~3月はじめ頃
- ・四国~中国地方 :2月後半~3月はじめ頃
- ・関西地方 :2月前半~3月後半頃
- ・中部地方 :3月はじめ~3月前半頃
- ・関東地方 :2月後半~3月はじめ頃
- ・東北地方 :3月はじめ~5月はじめ頃
- ・北海道 :4月後半~5月はじめ頃
こうしてみると、黄鶯睍睆に「ホーホケキョ」と聞こえる地域は少なくみえますね。昔の暦ですし、現在よりも野山が多かった頃に制定されたものですから、多少のズレが生じているのかもしれません。
また、日本は狭いといっても南北にのびる島ですから、やはり北部ではウグイスも5月頃までゆっくりしている地域が多いようですね。
まとめ
黄鶯睍睆について、時期や由来、ウグイスに関する豆知識までお話してきました。七十二候の中で度々名前が変わってきた季節観ですが、ウグイスはやはり昔から春を感じさせる鳥であったのですね。
全国各地でウグイス前線も観測されていることもお分かりいただけたかと思います。黄鶯睍睆には耳を澄ませて、ぜひ「ホーホケキョ」という声を探してみてくださいね。